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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第一章 

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37 泳げない理由


「知りたいでしょう?」

「絶対に知りたいわ!」

「じゃあ、教えてあげる」


 王宮で子どもたちのためのパーティーが開かれ、アルード様の学友になりそうな同じ年齢の上級貴族が招待された。


 ルクレシアはもちろん、エリザベート、マルゴット、レベッカも招待された。


 パーティーは庭園で開かれ、大噴水の側で行われた。


 途中、大噴水のヘリの部分を落ちることなく一周歩けるかというゲームが始まった。


 男女混合のチームがいくつも作られ、ルクレシアはアルード様のチームになった。


 大噴水のへりはそれほど幅があるわけではないため、全てのチームが一緒にスタートをするわけではなく、一チームごとに行われた。


 そして、アルード様のチームの順番になった。


 チームメイトの男子からハンカチを受け取ったルクレシアは大噴水のヘリを歩き出した。


 男子は大噴水のヘリに乗って遊んでいたので、走って一周をしている者が多かった。


 でも、初めて大噴水のヘリの上に立つ女子には無理。よろよろしながら歩くような感じだった。


 ルクレシアもよろよろしながら歩いていたが、かなり遅かった。


 もっと早く歩かないと勝てないという声と、頑張れという声援が飛び交った。


 次の走者であるアルード様はルクレシアが遅いことに苛つき、走れと叫んだ。


 王子に言われた以上走るしかない。ルクレシアは走った。


 だが、そのせいでつまずき、よろめいて大噴水に落ちた。


 大噴水は地面側に落ちればそれほどの段差ではない。一メートル以下だった。


 しかし、水が溜まっているほうはもっと深かった。


 大人であれば足がつくために立てる。でも、子どもには無理。


 近くにいた騎士によってルクレシアは救出されたが、溺れてしまったせいでぐったりとしていた。


 白魔導士がすぐに応急処置をしたおかげで助かったが、その事故によってルクレシアは水が怖くなってしまった。


 助け出された直後はコップの水を見ただけで動揺し、着替えるために行ったバスルームでパニックを起こし、浴槽には絶対に入らないと泣き叫ぶほどの状態だったらしい。


 やがて、時間をかけることでルクレシアは少しずつ落ち着きを取り戻し、回復した。


 水も飲める。入浴もできる。日常的には問題ない。


 でも、水がたっぷりとあるような場所は無理。


 恐怖を感じ、絶対に近づかない。遠くから眺めることしかできない。


 もちろん、水泳の練習ができるわけもなく、泳げないとのことだった。


「離宮に来た時、アルード様が西のことを指摘したでしょう? ルクレシアのためよ。湖があるわ。怖いに決まっているだろうから、近づくなってこと」

「なるほどね」


 アルード様が泳げないことについて気遣ってくれた理由もわかった。


 泳げないからでもあるけれど、事故のせいでもある。


 その事故はアルード様の掛け声で起きた。


 すでに回復している状態でも、心の底に残った水に対する恐怖心が完全に消えたわけではない。


 アルード様は今もまだ責任を感じているのかも……。


 だからこそ、私が安心できるように回復魔法をかけてくれたのかもしれないと思った。


「これはあくまでも過去のルクレシアの情報よ。今のルクレシアとは違う部分があるかもしれないわ。だけど、こういった過去があったことを考えた上での言動にしたほうがいいと思うわ」

「そうね。溺れたせいで水への恐怖が残っているというのはわかるわ」

「じゃあ、また何かわかったら教えるわ。部屋に来てほしい時は壁を叩いて。でも、あまり遅いと寝てしまうわ。水泳のせいで疲れているのよ」

「わかったわ」

「一応、夕食の雰囲気が悪くなったから取りなしに来たってことにしておいて。私の持ち物はコランダム公爵家が用意したわ。完全にルクレシアを怒らせるわけにはいかないでしょう?」

「そうね。それで説明がつくわ」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 アヤナはこっそりと自分の部屋に戻っていった。


 私は鍵をかけるとベッドに向かう。


「つらいわ……過去が」


 子どもの時に溺れた経験から水が怖くなったルクレシア。


 そのことを思うと励ましたくて仕方がない。


 でも、本人はいないというか、中身は私になっている。


 ルクレシア・コランダムの中身はどこにいってしまったのかしら……?


「考えても意味がないわ」


 私は毛布をかぶった。


 昼間は暑かったのに、夜は結構涼しい。


「きっと西に湖があるせいね」


 川や湖のような場所の近くは気温が下がり、涼しくなる。


 夏休みになるとアルード様が離宮に行くのは、魔法や水泳の練習をするためだけでなく、避暑のためでもありそうだと思った。


「今週はずっと魔法三昧ね。頑張らないと」


 離宮に滞在できる期間は限られている。


 その間に風魔法をできるだけ練習しておきたい。


 絶対に浮遊魔法を習得して見せるわ!


 風魔法が得意な者たちを見て、うらやましいと思ったことが何度もある。


 やる気は十分。


 不可能を可能にした偉大な魔導士が指導をしてくれるので非常に心強い。


 むしろ、習得できる予感しかないのよね!


 ルクレシアは悪役令嬢。ものすごい能力があるのだから。


 私は明日の授業に備え、ゆっくりと休むことにした。



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