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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第一章 

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33 本当の姿



「どうしてアルード様がここに……?」

「先に質問する。どこに行っていた? そんな恰好で出歩いていたのか?」


 入浴は先に済ませ、寝間着にガウンを羽織って集まることになっていた。


 ようするに、パジャマパーティー。


 部屋付きの侍女をずっと待たせないための配慮でもある。


「アヤナの部屋にいました。女性同士で話し合うことになって」

「二人だけか? それとも別の者もいたのか?」

「女子の全員です。一週間が過ぎたので、離宮の生活や勉強のことについて話すことになりました。アヤナが言い出したので、アヤナの部屋に集まることになりました」

「そうか」


 アルード様はため息をついた。


「部屋に来ても返事がないため、安全確認のために入った。どこにもいない。何かあったのかもしれないとなり、密かに探すことになった」


 部屋付きの侍女に確認したところ、入浴をして就寝したということだった。


 私が部屋にいないのはおかしい。


 周囲の状況も把握するため、他の侍女も呼び出され、情報を集めた。


 すると、アヤナの持ち物はコランダム公爵家が用意したのもあって、私が持ち物確認のためにアヤナの部屋に行くことがわかった。


 アヤナの部屋から強い魔力の気配がした。


 中の音は一切聞こえない。


 防音効果がある結界を張っているのではないかと推測。


 そうなると、光魔法が得意なアヤナが結界を張り、秘密の話をしている可能性がある。


 アヤナが寝る時に安全目的で結界を張っているだけかもしれない。


 すでに夜ということもあり、騒ぎにしたくもない。


 アルード様は私の部屋でアヤナの部屋から戻って来るのを待つことにした。


 でも、あくまでも可能性の話。


 離宮内の警備を強化、不審者がいないかどうかを確認させることで、私を探すことにしたことが説明された。


「申し訳ありません」


 愚痴話をするため、アヤナが防音のための結界を張っていた。


 そのせいで部屋の中の様子がわからず、余計な手間をかけることになってしまった。


「無事ならいい。だが、思っていた以上に待つことになった。アヤナやレベッカとは親しくしているようだが、エリザベートやマルゴットも一緒だったのか?」

「そうです」

「言い合いになるだけではないか?」

「大丈夫でした。王家の所有する離宮でみっともない姿をさらすわけにはいかないということで、各自が気を付けています。全員共通である離宮の生活と勉強がテーマだったのもあって、普通に話し合えました」

「誰がまとめた?」

「アヤナです」


 アヤナの印象を良くする機会だと思った。


「アヤナは財務的な事情を抱えていますが、逆境に負けないよう頑張っています。その強さが言動にあらわれていて、女性に対して言うのもなんですが、たくましいのです。男性であればとても評価されたと思います」

「そうかもしれない」


 アルード様がゆっくりと頷いた。


「とりあえず、そこに座れ」

「はい」


 私は空いている席に座った。


「ここへ来た理由を話す。時間割の変更があるからだ」


 なるほど。


「明日、朝食時に新しい時間割が渡される。男女別だ。ルクレシアから見ると……より大きな偏りがある」


 アルード様はポケットから折りたたまれた紙を差し出した。


「先に時間割を見せる」

「確認させていただきます」


 私は時間割が書かれた紙を受け取った。


「気を強く持て」


 ショックを受けそうだということ?


 かえって不安を感じてしまう。


 緊張しながら折りたたまれた紙を開けると、新しい時間割が書いてあった。


「これは……」

「ほとんどが水泳だ」


 夏らしい。


「ルクレシアは泳げない。参加できない」


 ルクレシアは泳げないということがわかった。


「火魔法が得意な者は水魔法が苦手だ。水が苦手でも嫌いでもおかしくない。泳げないのもおかしくない」


 得意な魔法の属性が、普段の思考や行動にも影響する。


 それが魔力持ちや魔法使いの常識。


「水泳の時間は一人になってしまうだろう。別の勉強ができるように手配する。専属の魔導士がついて教えてくれる」

「それを伝えるために、わざわざこちらに来てくださったのですね」

「朝、時間割を渡されてショックを受けるのは明らかだ。夜なら倒れても大丈夫だ。結局は静かに寝るだけでいい。時間が経てば回復する」


 早期対応が最善と判断されたらしい。


「大丈夫か? 気分が悪くないか? 私は光魔法が使える。回復魔法をかけるか?」

「大丈夫です。ショックでしたけれど、倒れるほどではありません」


 驚いたのは事実なので、ショックを受けたということにした。


 そのほうがきっとルクレシア・コランダムらしいと思うので。


「遠慮しなくていいが?」

「大丈夫です。お気遣いくださりありがとうございます」

「そうか」


 アルード様が立ち上がった。


 私もそれに合わせて立ち上がる。


「無理をするな。座っていていい」


 やけに心配すると思った。


「大丈夫です。これはマナーです。守らなくてはいけません」


 王族が席を立ったら、身分が下の者は全員が立つ。それが常識。マナーになる。


「マナーも大事だが、ルクレシアの体調も大事だ」


 アルード様は私の側に近づくと、回復魔法をかけてくれた。


「これできっとよく眠れる。大丈夫だ」

「ありがとうございます」


 優しい……。


 普段のアルード様からは厳しさや冷たさを感じることが多い。


 でも、それは王子だからこその威厳。


 自分に厳しいことが、他人に対しても同じようになっているのもある。


 本当は優しい。回復魔法のような温かい気持ちがある。


 私はアルード様の本当の姿を見ることができたような気がした。


「本来はこのような時間に女性の部屋に行くべきではない。ルクレシアを待っていたせいで遅くなってしまっただけだ」

「その通りです。何も知らずお待たせしてしまい、申し訳ありません」

「このような時間に私とルクレシアが二人だけで会っていたということがわかれば、何をしていたのかと勘繰られる。不名誉な事態にならないよう秘密だ。誰にも言うな。これは王子としての命令だ。わかったな?」

「はい。大丈夫です。わざわざご配慮いただいたのに、恩をあだで返すわけにはいきません。この件については内密かつ黙秘します」

「それでいい。時間割を返せ」


 私は時間割の紙を返した。


「どこで誰からもらったのかと思われるだけだからな」

「そうですね。証拠隠滅です」


 アルード様はじろりと私を見つめた。


「秘密は守らなければならない。人もまた証拠になる。注意するように」

「……はい」


 一瞬の間が空いたのは、脅しのように聞こえたから。


 考えすぎかもしれないけれど、それだけ強いメッセージ性を感じたとも言う。


「ベッドで休め」

「はい。おやすみなさいませ」


 アルード様は静かにドアを開けると部屋を出て行った。


 一気に力が抜けたような気になるが、嫌な汗をかいてしまったような感覚もある。


「びっくりしたわ……」


 まさか部屋の中にアルード様がいるとは微塵も思っていなかった。


「でも、良かったわ。先にわかって」


 全員が集まるような時に渡されていたら、驚いたとしても大きなショックを受けるような態度は取らなかった。


 ルクレシアは泳げない。それなのに私が水泳に参加すると言ってしまうと、極めておかしいことになる。


 魔法学院に入って変わったということ以上の変化。


 何があったのかと探られても、誤魔化すのが大変で困ってしまう。


「ずっと水泳……」


 暑い日が続いているので、水泳で涼むのは丁度良い。


 でも、私は参加できない。したらおかしい。


 ちょっと残念。


「でも、専属の魔導士がつくわ! それってすごく得よね?」


 魔法の勉強がはかどると思うと、嬉しくて仕方ない。


「明日からが楽しみだわ!」


 私は楽しい一週間になりそうだと思いながらベッドに向かう。


「良い夢がみれますように。おやすみなさい」


 なんともなしにそう言って、私は目を閉じた。


 安心したのと疲れたのもあって、すぐに睡魔が訪れる。


 かなりの時間が経ったあと、部屋のドアが開き、また閉まったことを知る由もなかった。


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