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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第一章 

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32 女子会



 一週間が過ぎた。


 最初に配布された時間割にあった全ての勉強が終了したとも言う。


 テストがあるわけではないので他人と競う必要はなく、講義や指導を担当する魔導士に細かいことまで何でも質問でき、魔法の練習に取り組めたのは幸運だと思った。


「全員、真面目よね」


 夕食のあと、アヤナの呼びかけで全員がアヤナの部屋に集まることになった。


 ずっと勉強ばかりで息が詰まるため、女子会で愚痴を言い合うという趣旨にエリザベート、マルゴット、レベッカが賛同した。


 魔法学院では嫌味を言うような相手なのに、愚痴を言い合う仲間にもなれるというのはちょっと不思議でもある。


「誰かサボらないかしらと思っていたけれど、誰もサボらないからつまらないわ!」

「アヤナがサボればいいでしょう?」

「そうよ。男爵令嬢だもの。勉強してどうするのよ?」


 エリザベートとマルゴットが早速アヤナに噛みついた。


「男爵令嬢だからこそ勉強しないとでしょう? 貧乏なのはわかっているわよね? 勉強して魔法使いになって就職しないとお先真っ暗なの!」


 愚痴を存分に言うため、このメンバーによる女子会においては呼び捨てや普通の言動でもいいという特別ルールになった。


「金持ちはいいわよね。働かなくても一生楽に生きているから」

「楽ではないわ」


 真っ先に反論したのはエリザベート。


「ハウゼン侯爵家の者としてふさわしくあれという厳格ルールで過ごさないといけないわ。スピネール男爵家にはないでしょう?」

「厳格なルールはあるわよ」

「どんな?」

「朝起きたら掃除と洗濯。使用人は伯父一家のために雇われているわ。私のためには何もしてくれないのよ」

「養女だから差をつけられているわけね?」

「通学だって歩きなのよ?」

「平民と同じね」

「歩いて通学できる距離に住んでいるのですか?」

「遠いわよ。通学だけで相当な時間がかかるわ!」


 話を聞けば聞くほどアヤナは苦労していると感じる。


「魔法学院に入学できてよかったわ。卒業できればちゃんとしたところに就職できるはずだから」

「魔法学院の学歴は最高でしょうね」

「魔法使いにとってこれ以上の学校はないわよ」

「無事卒業できるかが問題です」

「そうなのよ。だから、私は勉強するだけ。お金持ちの男性に見初められて一発逆転玉の腰は狙っていないの。正式な魔法使いになれば自分でお金を稼げるわ!」

「でも、お金持ちの男性に見初められれば、働かなくても贅沢な生活ができるのよ?」

「そうよ。そのほうが楽だわ」

「わかっていないわね」


 アヤナは遠慮なくダメ出しをした。


「エリザベートもマルゴットもお金持ちよね。だけど、自分で自由にお金を使えるの? 両親の顔色をうかがわないとじゃないの?」


 エリザベートもマルゴットも無言。


 すぐに反論しないのは、正解という証拠だった。


「お金持ちの男性と結婚しても同じ。親の支配から夫の支配を受ける立場に変わるだけ。離婚されたら無一文で放り出されるわよ? でも、正式な魔法使いだったら自分の力だけで生きていけるわ。それこそが安心であり、保証であり、自由なのよ!」


 アヤナは力強く宣言した。


「女性のほとんどが素敵な結婚相手を欲しがるのはわかっているわ。でも、自分の才能を大切にしないと。私はルクレシアの変化を正しい選択だと思っているわ。今は勉強だって大事。自分を守るために必要なことなのよ!」

「ありがとう」


 私はお礼を伝えた。


「アヤナからそんな風に言われるとは思わなかったわ」

「ここにいる全員に向けてのメッセージよ。自分自身の力を存分に引き出して輝くの! それができる女性なのよ!」


 アヤナ……。


 私は素直に感動した。


 力強いメッセージだったと思う。


 私と同じかどうかはわからないけれど、エリザベートもマルゴットも、レベッカも考え込んでいる。


 まだまだ人生は長い。つらいことや苦しいことがあっても負けないための力がほしい。


 魔法学院で勉強すること、卒業することの重要性をあらためて感じた。


「ということで、少なくとも離宮にいる間はそれなりに頑張ったほうがいいわ」


 アヤナは全員を見回した。


「来週は新しい時間割が配られるから」

「なんですって!」

「別の時間割りなの?」

「講義や練習内容が変わるのですか?」

「最初の一週間は各招待者の実力を測るためのもので、来週からは実力に合わせたものに変更されるみたい。カーライト様から聞いたわ」


 アヤナはカーライト様とダンスを踊った時に話して知ったらしい。


「アヤナはカーライト様のことが好きなの?」


 エリザベートが尋ねた。


「親切な方だとは思うわ。さすが女子に人気が高いだけあって誠実そうだし、面倒見も良さそうよね。でも、ダンスの時に話をしただけ。カーライト様に恋愛感情を持っているわけではないわ」

「本当に?」


 マルゴットも疑っていた。


「すぐに恋愛と結びつけないで。結婚できる年齢でもないでしょう?」


 婚約はできるけれど、結婚が確定するわけではない。


 本人の気持ちが変わったり、家の事情だったり、何かしらが原因で変わることもある。


 相手から突然別れると言われることだって……。


 嫌なことを思い出してしまった。


「エリザベートやマルゴットが恋愛に力を入れるのは好きにして。でも、私に同じように強制しないで。アルード様の婚約者候補なのに、他の男性が気になっているみたいって勘違いされるわよ?」

「私は婚約者候補なのよ? カーライト様は素晴らしい方だけど、それだけよ!」


 エリザベートは恋愛感情を否定した。


「マルゴットも本当は好きな人がいるんじゃない?」

「いるわけないでしょう? アルード様の婚約者候補なのに」

「本当に? レアン様と楽しそうに踊っていたわよね?」

「レアン様は良い人だと思うわよ。普通にね。でも、それだけ。そもそもレアン様は風魔法が得意なのよ? 私とは属性の相性が合わないわ」


 マルゴットが得意にしているのは土魔法。


 レアンが得意にしている風魔法は反属性になる。


 政略結婚としてはありえない組み合わせだった。


「属性を考えると、レベッカはベルサス様と相性がよさそうよね?」

「好条件なのはわかりますが、私以外にも当てはまる者がいます。光魔法が得意なアヤナ、土魔法が得意なマルゴット、雷魔法が得意なエリザベートも同じでは?」


 火魔法を得意とする私だけは、属性におけるベルサス様との相性がすこぶる悪い。


「私はアルード様の婚約者候補だもの」

「私だって婚約者候補だわ」


 エリザベートとマルゴットが揃うように言った。


「わかっているわ。でも、候補でしょう? 婚約者になれるのは一人なのよ? 自分がなれればいいけれど、なれなかったら別の人を探すしかないわ。ベルサス様にすればいいんじゃないのってこと」

「そんなこと……考えられないわ」

「そうよ。いくらなんでも失礼だわ」


 反対はするけれど、勢いはなかった。


 アルード様と婚約できるのも結婚できるのも一人だけ。


 自分が選ばれればいいが、そうでなかったらという不安がないわけがない。


 アヤナの言葉は将来への不安をぬぐうために、検討する余地を残していそうだった。


「あくまでもここだけの話だけど、アルード様以外の四人ともエリザベートは相性的にわるくはないわよね」


 エリザベートの得意な魔法の属性は雷。相手が土でなければいい。


「マルゴットは風がダメだから、カーライト様や双子はダメね」

「あくまでも属性だけの話だけど、ありえない組み合わせね」

「レベッカは氷だから……風って反属性よね?」

「そうです。一応ですが」

「となると、ベルサス様とアルード様の二人ね」

「アルード様は別よ!」

「そうよ! レベッカは婚約者候補ではないもの!」

「あくまでも属性の話よ。でも、レベッカが今後優秀だということになればわからないわ。上級貴族よね?」

「無理よ。家柄が悪いから」

「伯爵家の中にも上下があるわ。レベッカのところは下よね」

「中です」

「下よ! エリザベートはどう思う?」

「下ね」

「ほら。やっぱり下よ」

「ルクレシア様はどう思われますか?」


 レベッカは私に話を振った。


 味方をしてほしいというのはわかっている。でも、両親からもらった調書で見た限り、中から下というのが本音。


「何をもって上下を決めるかによるわ。序列だと中の下かしら。でも、それほど悪くはないと思うわよ。評判が悪い伯爵家と比べたら、全然上のほうよ」


 私なりにフォローしたつもり。


 レベッカは悪く言われずに済んだと感じたのか、ほっとしたような表情になった。


「ルクレシアは火だから、ベルサス様はダメね」


 属性の話に戻った。


「なのに、食事の時に話しかけているでしょう? 近づき難いのに偉いわ」

「ベルサス様とだけ話さないわけにはいかないわ」


 できるだけ平等に話しかけるよう心掛けている。


 好感度を平均的にすることで、誰かを突出させない作戦。


「アルード様の友人だし、宰相の息子なのよ?」

「でも、近づき難い雰囲気があるでしょう? 属性も冷たくて固いわけだし、見た目だって同じ、なんとなく怖そうというか」


 全員が同意。


「逆にカーライト様は騎士のイメージがあるせいか、属性に関係なく親しみを持って接することができる気がするわ。正義感がある方だし、女性には優しいし」

「そうね」

「わかるわ」

「だから人気です」


 またしても同意ばかり。


「双子は見分けるのが大変だわ。いたずら好きで、嘘をつく時があるでしょう? 僕がイアンだ、いや僕だよとか。わからなくなってしまうわ」

「困るわよね」

「全く同じに見えるもの」

「双子なので顔は同じです」


 全員でゲームの話をしているような気分。


 職場の人と話していた時のことを思い出した。


「アルード様は……まあ、王族だからさすがって感じ。私にとっては雲の上の人だけれど、上級貴族から見れば近いほうよね。正直、どんな方なの?」

「すごい人よ。王子らしい方だわ」


 エリザベートが即答した。


「そうね。いかにも王子らしい非の打ちどころがない方よ」


 マルゴットも負けずと答えた。


「優しそうには見えないんだけど?」

「厳しい方ではあるわね」

「自分にも他人にもね。甘くはないかも」

「なのに、婚約者候補でいいの?」

「立派な方だわ。責任感もあるし」

「幼少時からずっと光魔法を学ばれているわ。成績は非公開だけど、文武両道よ」

「ダンスはちょっとって感じだったけれど?」

「ルクレシアのせいよ!」

「そうよ!」

「私もそう思うわ。久しぶりに踊ったから緊張してしまって」

「まあ、そうね。私も実を言うと久しぶりで緊張したわ」

「私も。一応、練習はしてきたの。離宮で催しがあるかもしれないでしょう? だけど、やっぱり緊張してしまうわよね」

「魔導士と騎士があんなにいる状況で、緊張しないほうがおかしいです」


 アルード様が踊ったのは婚約者候補の三人。


 アヤナとレベッカとは踊らなかった。


 ノルマが三人だったからだと思うけれど。


「いいわよね。王子様と踊れるなんて。めかしこんでもお呼びではなかったわ!」

「男爵令嬢だもの」

「そうよ! 図々しいわ!」

「身分が違いすぎます」

「でも、歓迎会のアヤナはとても綺麗だったわ。ああいった感じでいれば、男性たちに人気がでそうなのに」


主人公らしく、男性にモテまくると思う。


「見た目だけならそうかもね。でも、本性は知られてしまっているから」

「魔法学院ではね。今更よ」

「遅いです」

「遠慮ないわね。でも、こんな風に話せて楽しいわ。ずっと話していたけれど、さすがに時間がね。明日もあるし、女子会はここまでよ。そろそろ寝ないと」


 女子会は終了。


 お開きになり、各自の部屋に戻ることになった。


 こっそりアヤナが廊下の様子を見る。


「誰もいないわ。三秒で戻って!」

「行くわよ!」

「早く!」

「では」

「おやすみなさい」


 アヤナの部屋から四人の女性が飛び出し、自分の部屋のドアを急いで開けた。


 ちょっとした競争のようで、秘密の集まりのようでもあって。


 私は自分の部屋に戻った後、思わずくすりと笑ってしまった。


「機嫌が良さそうだ」


 一瞬で凍り付いた。


 よく見れば、ソファに座っている人がいる。


「アルード様……」


 私は最高に動揺するしかなかった。


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