29 招待の理由
別室にはアルード様、ベルサス様、カーライト様、イアンとレアンがいた。
アルード様は友人たちも招待したらしい。
「空いているところに座れ。どこでもいい」
アルード様がそう言うと、入室した順に空いている席に座った。
「これから離宮でのスケジュールについて説明がある。よく聞け」
「では、私からご説明させていただきます」
優秀そうな男性が進行役のようだった。
「初めてお会いする方もいるので挨拶から。アルード王子殿下付きを務めるエーデンと申します。夏の期間、アルード王子殿下は王都ではできない勉強をするため、王家所有の離宮に行きます。男性のご友人の方々はご存じですが、魔法の練習をするためです」
王宮は王都の中心にある。
魔法の訓練をする施設や場所がいくつもあるが、強力な魔法を練習する場として向いているかと言えば、向いていない。
そこで、学校が休みになるのに合わせ、他の場所で魔法を練習する。
その一つが王家所有の離宮であることが説明された。
「招待者は全員魔法学院の生徒です。自宅等でも魔法の練習をされているかもしれませんが、この機会に離宮で魔法の練習を存分にされてください」
ようするに魔法の練習をするための招待。
「また、復習のための講義もあります。よろしければご参加ください。時間割及び場所についてはこちらの資料にあります」
全員に資料が配られた。
「資料を開いていただきたいのですが、時間割の中に参加条件を記載しています。一部、強制参加のものもありますので、必ずご確認ください」
強制参加!
アルード様の魔法の練習に付き合うようなものかもしれない。
「朝食は各自の部屋、昼食は食堂でアルード様と共に、夕食は招待者全員で取ることになります。私からは以上です。このあとは宿泊に使う部屋のほうにご案内します。何かあれば部屋付きの者にご相談ください」
説明が終わった。
とてもわかりやすい。
でも、そのせいで勉強のための合宿、サマースクールのようなものではないのかと感じてしまった。
「エーデン、まだあるだろう?」
アルード様が口を開いた。
「ありません」
「森についての説明がない。男子は知っているが、女子の招待者の中には知らない者もいるだろう」
エーデンが私たちをじろりと見つめた。
「離宮の南側には森が広がっています。庭園よりも先で距離もあります。普通に考えれば足を向けることはない場所ですが、魔物が棲みついているのでご注意ください」
魔物が棲みついている森があるなんて!
「他にも注意すべき場所があるだろう?」
「どこでしょうか?」
「西側だ」
「離宮の西側に湖があります。散歩するのは問題ありませんが、水の事故が起きやすい場所でもあります。ご注意ください。これでよろしいでしょうか?」
「魔物が出た場合は離宮が避難場所兼討伐拠点になる。庭園や湖といった外の場所にいた場合は必ず離宮に戻れ。無事かどうかを確認する。自分の部屋に戻るか、招待者の部屋のどこかにいればいい。使用人、騎士か魔導士が確認するだろう。以上だ」
「自信がある方はご自身で魔物を倒しても構いません。ですが、必ず魔物が出たことを報告してください。では、部屋にご案内します」
招待者は各自が使う部屋に案内された。
さすが王家の離宮と思えるような上品な部屋だけど、王宮のような豪華さはない。
寝室兼居間の一部屋だけで、隣がバスルーム。
部屋の一角に荷物箱が山積みになっていた。
「衣装タンスとチェストだけしかないのね……」
持って来た衣装を全てしまうことができない。必要に応じて出し入れすることになりそうだった。
部屋を検分していると、ドアがノックされた。
「ルクレシア、ちょっといい?」
アヤナだった。
「どうぞ」
声をかけるとドアが開き、アヤナが入って来た。
「一緒なのね……」
「何が?」
「部屋よ。広いけれど一部屋しかないでしょう? 衣装タンスとチェストしかないし、荷物を全部出してもしまえないわ」
「私もそう思っていたところよ」
「衣装は任せたじゃない? どれを優先して出しておけばいいの?」
「普段用を何着かタンスに入れればいいわ。あと、外出着と寝間着もね。下着類や小物はチェストに。どこに何があるのかわからなくならないように、とりあえずこの二カ所だけに持ち物を置くようにして。それ以外はカバンに入れておけばいいわ」
「化粧品とかもあるんだけど、それはバスルームでいいの?」
「そうよ。でも、掃除に来た人にチェックされるわよ。嫌ならチェストに。貴重品は必ず鍵がついた引き出しに必ず入れてね」
「貴重品なんてないわ。私自身の持ち物は一つもないから」
アヤナの荷物は全てコランダム公爵家で用意をした。
今来ている衣装や靴も全部コランダム公爵家で着替えたもので、スピネール男爵家から持って来たものは一つもない。
「宝飾品は貴重品よ」
「宝飾品もあるの?」
アヤナは驚いた。
「当たり前でしょう? 正装をしなければならない時のために持って来たわ。貸し出すだけだから、傷をつけないようにね」
「正装用のドレスもあるの?」
「あるわよ。開けないでね?」
「全部開けちゃったわ。それで困ってこっちに来たのよ」
荷物箱に何が入っているのかを全く知らないため、とにかく全部の箱を開けてみたらしい。
「もう開けたの? しかも全部?」
「そう」
「どうやって? 手伝ってもらったの?」
「普通に開けたわよ?」
「こうなってなかったの?」
私は部屋の一角に積み上げられている荷物箱を指さした。
「アヤナは浮遊魔法を使えるってこと?」
「ああ……ええとね。防御魔法をかけたのよ。箱に。それでちょっとずれたところに結界を張って、その膨張力で箱を落としたの。だから、開けたというよりも勝手に落ちて開いたと言ったほうが正しい箱もあるわね」
「落としたの?」
防御魔法と結界を使うことで、高く積み上げられた箱を下に落としたのはすごい。
でも、防御魔法をかけたのは箱だけ。中身にはかかっていない。
上から落ちた衝撃で箱が壊れていなくても、中身が無事という保証はなかった。
「化粧品はガラス瓶なのよ? 割れていたら大変だわ!」
「それは大丈夫。全部かどうかわからないけれど、床に落ちているだけだったわ」
箱から飛び出て床に落ちた時点で大丈夫とは言い難い。
「でも、中身がぐちゃって感じになってしまったのもあるわ。なんとかしてくれない?」
「公爵令嬢に頼むわけ? 部屋付きに頼めばいいでしょう?」
「いいたいことはわかるわ。でも、普段着ているようなドレスが一つもないのよ? どれが普段着なの? 外出着との違いがわからないわ!」
アヤナは私よりも知識がある。
でも、今回ばかりは私の知識の出番だった。