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27 夏休み



 夏休みがやって来た。


 私とアヤナはコランダム公爵家の馬車で王家の所有する離宮に向かっていた。


「大事な話があるわ」


 真顔でアヤナがそう言ったため、私は緊張した。


「どんな話?」

「夏休みに起きるイベントについてよ」

「もしかして、離宮に誘われるというのはゲームのイベントと同じなの?」

「私が知っているのはあくまでもゲームの知識。同じことが実際に起きるかどうかはわからないし、細かい内容は違ってくると思うのよ。それについて話すから」

「わかったわ!」

「夏休みのイベントはいくつかあるのよ」


 基本的には攻略相手の好感度を上げるゲームなので、好感度が高い相手とのイベントが起きやすい。


 夏休みのイベントは一学期の間に一定の好感度を上げた相手から誘われるという形で発生するとのこと。


「主人公の私はアルード様を狙っていないわ。私の目から見れば、ルクレシアがアルード様を狙っている状態ね」

「私だって狙っていないわ!」

「わかっているわよ。だけど、ご機嫌取りはしているでしょう? ピクニックランチやプリンのおかげで、ルクレシアの好感度はかなり上がったはず。だから、期末テストよりも前に誘われたのよ」

「なるほど」

「私が誘われたのは、勉強会で好感度を上げたからだと思うのよね。まあ、離宮に行くことになったという部分を見ると、大まかにはシナリオ通りの進行ということになるわ」

「確かにね」

「でも、ゲームを知っている私から見ると、細かい部分は違うのよね。そのせいで先のことがわかりにくいのよ。でも、ルクレシアが情報を流してくれれば、わかることが増えるわ」

「私は情報収集係ってわけね」

「そして、私は情報分析係ってわけ。お互いの情報を活用して、これから起きることを乗り切れたらと思っているのよ。協力してくれるわよね?」

「もちろんよ!」

「じゃあ、離宮に誘われるイベントについて話すわ」


 王家の所有する離宮に誘われるイベントは、アルード様の好感度が平均以上だと発生する。


 デートに誘われたような感じ。


 アルード様と話したり、食事をしたり、散歩したりすることになり、その時の対応次第で好感度が上下する。


「これが普通の内容。簡単でしょう?」

「そうね」

「でも、別バージョンもあるのよ」


 一つのイベントに対し、内容が異なるバージョンがある。


 夏休みのイベントとしてアルード様から離宮に誘われても、その中で起きることが変わる。


 どのような選択をしたかで、そのあとに起きるイベントやその内容も変わっていく。


「どんな別バージョンがあるのか知りたいと思うけれど、私も全部は知らないわ」

「そうなのね」

「ただのデートなら楽勝よ。普通に過ごせばいいだけでしょう? でも、魔物に遭遇する内容もあるのよ」


 この世界に魔物がいることは知っている。


 授業でも習うので。


「主人公は光魔法が使えるから大丈夫。結界を張るだけだしね。でも、ルクレシアが得意なのは火魔法。攻撃して倒すしかないわ」

「怖いわ……魔物と戦うなんて」


 的に当てる練習はしているけれど、生き物に当てる練習はしていない。


 実際にうまくできるかどうかは不安だった。


「だから助言をしておくわ。一人で外に行くのは禁止。もし行くなら、アルード様と一緒にしなさい」


 アルード様は光魔法を使える。回復魔法が使えるため、死ぬわけがない。護衛もいる。


 一緒にいれば、私もついでに守ってもらえるというのがアヤナの考えだった。


「私は悪役令嬢なのよ? それでも守ってもらえるかしら?」

「現状においてアルード様の好感度が高いのはルクレシアだし、今はルクレシアが主人公の代わりになっているような感じがするのよね。だから、大丈夫。ただ、そのせいでゲームとは違う進行になるかもしれないわ」


 細かい部分の違いやそれがどのようになっていくかはアヤナにもわからない。


 変な補正がかかってしまう可能性もある。


 正確に予想するのは極めて難しい。


「互いに情報を教え合って協力することが大事だと思うのよ。私たちが力を合わせれば大丈夫。大まかにはゲーム通りの進行に近くなるはずよ。死ぬってことは絶対にないわ。わかったわね?」

「わかったわ」

「まあ、そういうバージョンもあるってだけ。アルード様のご機嫌取りをしておくだけのバージョンかもしれないわ。それなら楽勝でしょ?」

「プリンを持って来れば良かったわ……」


 私がつぶやくと、アヤナが爆笑した。


「プリン頼みだなんて笑えるわ!」

「それだけ切実ってことよ」


 一番簡単そうな普通のバージョンでありますように! 


 私は馬車の天井を見つめながら祈りを捧げた。


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