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21 緊急の呼び出し



 アヤナに貸していた本が戻って来た。


 中には手紙が挟まっていて、週末にゾーイの館で会いたいと書かれていた。


 しっかりと住所が書いてあるだけでなく、助言まである。


 馬車は平民向けのデパートの有料駐車場に置く。


 平民向けの商品を見たい、グループメンバーへの贈り物などと適当に理由をつける。


 身バレを防ぐため、頭からかぶるもの、スカーフやショールがあるといい。デパートで購入するのもあり。


 できるだけ目立たないようにしてデパートの裏口から出ると、素早くゾーイの館に入れるといったことも書かれていて、親切だなと思った。


「来たわね」


 アヤナは洋館の前に立っていた。


 でも、身バレを防ぐためか、かぶりものをしている。


「防災頭巾?」


 小声で聞いてみた。


「身バレを防ぐ者が愛用する品に決まっているでしょう!」

「防災頭巾にしか見えなくて」

「これなら目の色以外はほとんど隠せるでしょう? 持っていると便利よ」

「どこで売っているの?」

「そこの平民デパート」

「帰りに買うわ」

「とりあえず中に」


 ドアを開けると玄関ホール。


 二階に上がる階段があった。


「簡単に案内するわ」


 占いをするのは二階。


 入って左側は占いの受付をする部屋で、その隣の部屋が待合室。


 右側は占いなどのさまざまな商品を売っている。


「待ち合わせ場所として使う場合、占いの受付はしないで待合室へ行くのよ」


 アヤナは私を待合室へ連れて行った。


 中にはドアがズラリと並んでいる。


「占いの受付をすると、番号札をもらえるの。整理券のようなものね。それを小部屋のドアノブにかけて待っていると、二階への案内人が来るわ」

「なるほど」

「ここは何もないから、誰もいないってこと」


 アヤナはドアの一つを開けた。


「ベンチシートだから二人座れるわ。防音魔法を使えば秘密の話もできるってわけ」

「なるほどね」


 こっそり占いをするために来ていると思わせ、実際は待合室の中にある小部屋で密談。


「座って」


 私が座ると、アヤナが魔法を使った。


「もしかして、防音魔法を使えるの?」

「結界。防音効果付きよ」


 さすが主人公。幼少から光魔法を使えるだけある。


「結界を張れるなんてすごいわ!」

「まだまだよ。小さい結界でないと無理。大きい結界を張るほど効果が弱まるし、魔力消費も増えてつらいのよ」

「魔力は有限だものね」

「だから、さっさと話すわ。もうすぐ期末テストでしょう?」

「そうね。もしかして、一緒に勉強するの?」

「そうじゃな……それよ!」


 アヤナは顔を輝かせた。


「コランダム公爵家で期末テストのための勉強会を開いてくれる? それに私と攻略対象者を呼んで!」

「え……」


 アヤナはともかく、攻略対象者というのは絶対に確認すべきポイント。


「どうして?」

「この世界はゲームアプリと同じでしょう?」

「そうね」

「ゲームでは、期末テストの点数に攻略対象者との関係が影響するのよ」


 初耳なんだけど!


「今の私たちにとって、この世界はゲームとは言えないわ。実際に生きている世界よ。でも、ゲームの設定やシナリオも生きている感じがするわ」

「そうね」

「期末テストにも何かしらゲームと同じような部分があるかもしれないでしょ?」

「否定はできないわね」

「簡単に言うと、ゲームでは攻略対象者との関係が良いほどテストの点数も高いの。悪いと点数が低くなるのよ」


 誰か一人と非常に親しくてもいいし、平均的に複数人との好感度を上げておくのでもいい。


 とにかく、嫌われたり避けられていないようにしておくと、期末テストの点数が上がるとのこと。


 わかりやすい。


 でも、


「困るわ!」


 どんなに勉強しても、ゲームの補正効果のようなもので点数が悪くなってしまう可能性があるなんてひどい。


「ルクレシアはまだましよ。アルード様と親しくしているじゃない。でも、私は全然。バッドエンドになったら困るわ! だから、ルクレシアを利用して印象を良くしておきたいのよ」

「私を利用する気満々ね」

「重要な情報を得られたでしょう? 無事卒業するために協力しようと言い出したのはそっちよ?」


 そうだけど。


「どうしてもっと早く言ってくれなかったの? ピクニックランチの時にアヤナと攻略対象者との関係を改善することだってできたのに」

「こっちもいろいろと忙しくて忘れていたのよ。で、ルクレシアはアルード様狙いよね?」

「違うわ。ただの婚約者候補よ」

「でも、いい感じになってきたって噂よ?」

「噂でしょう? 勝手に周囲が言っているだけだわ。それに、悪くなったら困るのは知っているでしょう? コランダム公爵家の行く末にかかわるのよ?」

「それはわかっているわ。あともう一つ。正直に答えて。好きな人ができたの?」

「いないわよ」

「本当に?」

「本当よ」

「絶対に絶対?」

「絶対よ! 好きな人はいないわ。魔法第一! 勉強優先! 目指せ卒業! 夢は魔導士よ!」

「そう。でも、魔導士と夢中で話をしていたそうね?」


 頭の中に思い浮かんだのは、ピクニックランチの予行練習の時のこと。


「誰から聞いたの?」

「レベッカ」


 レベッカは予行練習に来ていたので、私が魔導士と話しこんでいたのを知っている。


 そのせいでアルード様の機嫌が非常に悪く、取りなすのに大変だったことも。


「アヤナとレベッカは親しいの?」

「全然。でも、私もレベッカもルクレシアつながりのクラスメイトよ。ちょっとしたことを話す機会ぐらいはあるわよ」

「そうなのね」

「で、どうなの? その魔導士が好きなの?」

「恋愛系の感情はないわ。でも、優しくて親切な方だったわよ」

「顔は隠していたらしいわね。でも、私が知っているキャラかもしれないわ。どんな感じ?」

「どんなって言われても……」

「どんな話をしたの? 魔法のこと? 得意な魔法について知っている?」

「風が専門とか」

「ヒントになるわ! それから?」

「いろいろと助言してくれたわ。とても優しそうな口調で丁寧な感じだったわね」

「できるだけ詳しく説明して!」


 私は予行練習の時のことをできるだけ詳しく話した。


「私が得意なのは火魔法でしょう? 風が専門なのに、秘密の方法まで教えてくれるなんて思わなかったわ」

「もしかすると、火も使えるのかもしれないわね? 風が専門というのは嘘かもしれないわ」

「アヤナって疑い深いわよね。ところで、水の中で火を燃やすにはどうすればいいの?」

「わからないわよ。私が得意なのは光魔法。火魔法じゃないわ!」

「ゲームでそういうのはないの?」

「ないわ」


 残念。


「それよりも確実に優先しないといけないのは、攻略対象者とそれなりに仲良くなっておくことよ!」

「私はそれほど悪くはない気がするわ。ピクニックランチで協力し合ったしね。でも、アヤナは……控えめに言ってひどそうよね」

「だから、呼んだのよ!」


 アヤナは私に迫った。


「絶対に協力しなさい! クラスが離れたら会いにくくなるわ! 何かあって相談したくても無理になってしまうわよ?」

「主人公補正でなんとかならない?」

「期待はできないし、それに賭ける気もないわ!」


 ため息をつくしかない。


「わかったわ。勉強会を開けばいいのよね?」

「そうよ」

「でも、来てくれるかしら?」


 誘っても断られる可能性がある。


「それについては秘策があるわ」


 アヤナがにやりとした。


「秘策?」

「アルード様をプリンで釣るのよ。そうすれば、他のキャラも来るわ」


 まさかのプリン釣り。


「王子よ? プリンで釣れるわけがないわ!」

「新作のプリンを味わってほしいと言えばいいのよ。必ず来るわ!」

「新作を作らないとダメなの? 困るわ。私もパティシエもね」

「そうでしょうね。でも、秘策と言ったでしょう? 私が教えてあげるわ。ゲームに登場するプリンをね! これなら絶対に大丈夫!」


 そんなところでゲームの知識を活かすなんて。


 でも、私もスチールをピクニックランチに活かした。


「わかったわ。ゲームに登場するプリンを教えて」

「ルクレシアと私で話していた時にプリンの話題が出て、それで新作を思いついたことにするのよ。そうすれば少しは私の好感度も上がるかもしれないから」


 抜け目ない。


「他の情報はないの? 各キャラの好きな食べ物とか」

「あるわよ。知りたい?」

「教えてくれるなら用意するわ。私とアヤナで考えたことにすればいいでしょう? そうすれば、期末テスト対策は大丈夫な気がするわ」

「そうね。意外と楽勝じゃない!」


 アヤナは安心した表情になった。


 ずっと一人ぼっちだったので、私が知っている攻略対象者との関係が良いとは思えない。


 期末テストが近づいたことで思い出し、本当に困っていたのだと思った。


「でも、あくまでも可能性の話であって、確定ではないのよね?」

「そうね。さすがに攻略対象者との関係が良いだけで、特級クラスに残れるほどの点数が取れる保証はないわ」

「つまり、勉強はしないとダメってことよね?」

「そうね。私はあんまり心配していないけれど。中間テストも大丈夫だったし、ゲームの知識があるしね」


 私にはゲームの知識がない。


 期末テストに向けて猛勉強をしなければならない状況は変わらなかった。


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