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02 悪役令嬢になりたくない



 私が出会った主人公の名前はアヤナ・スピネール。


 生母はスピネール男爵の妹で、両親は事故死。


 魔法の才能があることから伯父であるスピネール男爵に引き取られ、養女になったとのことだった。


 苦労していそう……。


 スピネール男爵家は没落寸前と言われるほどの貧乏な貴族。


 アヤナは魔法の才能があることから特待生として入学することができたけれど、無事卒業して立派な魔法使いになり、スピネール男爵家を建て直さなくてはならない。


 でも、他にも方法がある。


 それは魔法学院で裕福な男性と出会い、結婚すること。


 そうすれば、必ずしも立派な魔法使いになる必要はないし、結婚相手の力でスピネール男爵家を建て直すこともできる。将来も安泰。


 となると、攻略対象の相手との関係を良くすること、恋人や結婚相手に選ばれることに全力を尽くすはず。


 私はこの世界がゲームアプリと同じだと知っている。


 でも、アヤナにとっては違う……かもしれない?


 突然私がルクレシアになったことを考えると、別の誰かが突然主人公になった可能性もある。


 もしかすると、転生者の名前が主人公の名前になってアヤナとか……?


 考えれば考えると、仮定が仮定を呼んでわからなくなる。


 ともかく。


 裕福な公爵家の令嬢である私と貧乏な男爵家の養女であるアヤナの接点はこれまで一切ない。


 魔法学院に入学して出会ったばかり。


 アヤナにとって私はゲームの設定通り悪役令嬢になっているはず。


 そこで私はクラスメイトであることを活用し、アヤナと仲良くなろうと思った。


「何の本を読んでいるの?」

「勉強中です」


 アヤナは私を睨んだ。


「身分が違うので、話しかけないでくれませんか? 私のような者がルクレシア様と話していると、他の人に悪く言われてしまいます」

「私から話しかけたのに悪く言われてしまうの?」

「それが貴族です。ふさわしい身分や家柄の者とだけ付き合うのが常識です」


 そうなのね。


 一般人だった私に貴族の常識がわかるわけもない。


 それがわかるアヤナには知識がある。つまり、賢い。


 特級クラスなだけに魔法の才能はあるはずだけど、それ以外についてもよくわかっていそうだった。


「魔法学院に入学したけれど、何かとわからないこともあるでしょう? だから、友人を作っていろいろな知識を増やしたいの。友人にならない?」

「お断りします。私では不相応です。ルクレシア様はご自身の身分に合った方々をご友人にされてください」


 手強い感じがひしひしとする。


 でも、このまま引き下がるわけにはいかない。


 悪役令嬢の立場にならないようにするためには、アヤナと仲良くなる必要があると思うので。


「でも、私は」

「無礼ではなくて?」


 クラスメイトが口を挟んできた。


「わざわざルクレシア様が話しかけてくださったのに」

「そうよ。しかも、ご友人にしてくれるとおっしゃられているのよ?」

「光栄だと言うべきでしょう?」


 次々と集まって来たクラスメイトがアヤナを囲む。


「魔法学院内では身分差を考慮しなくていいとはいえ、それは建前だとわかっているの?」

「男爵家の養女だそうね。元々は平民だと聞いたわ」

「魔法の才能があるから入学できたのでしょうけれど、魔法以外にも学ぶべきじゃない?」


 とげがある口調ばかり。


 どう見てもアヤナを集団で攻撃しているようにしか思えない。


 客観的にみると、私とその取り巻きがアヤナをいじめているように見えてしまいそうだった。


 私のことも悪役令嬢らしく見えてしまうというか……まさか、ゲームの設定通り私を悪役令嬢の立場にするような補正があるの?


 そんな状況の中、ドアが開いた。


 男女別の授業のせいでいなかった男子生徒が戻って来た。


「何があった?」

「騒がしい」

「説明しろ」


 アルード様、ベルサス様、カーライト様が言った。


 またこの流れかと思っている間に女子が状況を説明。


 それを聞いた男子が同調。


 アヤナが悪い、無礼だという状況になった。


「ルクレシアはどう思う?」


 アルード様が尋ねて来た。


「魔法学院内では身分差を考慮しなくてもいいというルールがあります。彼女は自分の意見を率直に言っただけですので、無礼とは思いませんでした。でも、友人になれなくて残念です」


 私は正直に答えた。


「魔法学院に入学したら、身分に関係なく友人を作りたいと思っていました。そうすることによって見識が広がると考えていたのです。ですが、友人になるかどうかを私が強制することはできません。彼女の意見を尊重したいと思います。いつか友人になれたらと思うので、気が変わったら教えてね?」


 私はにっこりとアヤナに微笑みかけた。


「ということだ。アヤナ、ルクレシアの友人になれ。これは王子としての命令だ」


 アルード様が驚くべき発言をした。


「魔法学院は魔法を学ぶだけの場所ではない。同世代の者と親交を深め、自らを成長させる機会を持つためにある。身分差を考慮しなくてもいいというのはそのためだ」


 王族は王族と付き合うべきとなると、アルード様は友人を作れない。


 貴族や平民の友人を作ることで見識を深め、自らを成長させる機会にする。


 そして、国民を束ねる立派な王族になりたいと思っていることが伝えられた。


「ルクレシアとアヤナでは身分差がある。だからこそ、友人になることで互いに学び合えることが見つかるだろう。王子の命令であれば仕方がないと思えるはずだ。試しに交流してみろ」

「わかりました」


 アヤナは席を立った。


「ルクレシア様、お声をかけていただきありがとうございました。身分差があるので遠慮しなければならないと思っていましたが、大変光栄です。これからは友人としてよろしくお願いいたします」


 アヤナは完璧な淑女の礼を披露した。


 それは貧乏な男爵家の養女であっても、礼儀作法についてはしっかりと学んでいることをアピールするには十分だった。


「身分差があるために遠慮するというのはわかる。だが、魔法学院で学べる貴重な機会を活用してほしい。皆も同じだ。ルクレシアが言ったように、身分に関係なく友人を作り見識を広げてほしい」


 アルード様の言葉に感動したクラスメイトたちが拍手をする。


 たちまち不穏な空気が消えてしまった。


 さすが王子だと思うしかない。


 休み時間が終わり、次の授業が始まった。


 私はアヤナが気になってちらちらと見てしまうけれど、アヤナは真っすぐ前を向いているか、難しい顔で教科書やノートを見ているだけ。


 私のことは眼中にないって感じね……。


 魔法学院での生活は始まったばかり。


 コランダム公爵家の長女として勉強を頑張りながら、アヤナと仲良くなることにも頑張ろうと思った。


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