170 婚約者候補の本音
第六章もよろしくお願いいたします!
魔法学院を卒業した。
進学や就職の予定の人は試験を受けていたけれど、私は受けていない。
なぜなら、婚約者候補は進学も就職もできないとわかったから!
婚約者候補は婚約者になるかもしれない。それはつまり王族妃になるかもしれない。
いつでも婚約者に選ばれて結婚できるように待機、というのが国王陛下の考えだった。
就職して働くつもりだったアヤナががっかりしたのは言うまでもない。
お父様とお母様が後見人として面倒を見るといっても関係ない。
なぜなら、アヤナはノーザンに行きたい。
でも、それもできない。婚約者候補は王都にいるようにしないといけない。
勝手に出て行けばコランダム公爵家に迷惑がかかるのはわかりきっているので、しばらくは様子を見ることになった。
アヤナがそれで納得してくれたのは、オルフェ様がディアマスにいてノーザンにいなからだと思うけれど。
「何かあるのかしら?」
私とアヤナは王宮に呼び出された。
「さあね」
待合室にいたのはエリザベートとマルゴット。
「絶対に来ると思っていいたわ」
「二人共ね」
アヤナが結界を張った。
「何か知っているの?」
「国王陛下が婚約者候補からそろそろ婚約者を選ばないといけないってアルード様に言ったらしいわ」
「もちろん、自分の婚約者候補の中からね」
「アルード様は魔法大学に進学したから学生でしょう? 婚約者を選ぶのは大学を卒業してからでもいいって答えたのだけど、国王陛下は早く結婚させて子どもを作らせたいからダメだって」
「本当に国王陛下って自分勝手ね!」
「結界がなかったら投獄されるわよ」
「そうよ。結界があっても言ってはいけないわ」
「気をつけるわ」
「侍従が来たわよ」
アヤナが結界を消した。
「お部屋のほうにご案内いたします」
私を含めた四人が通された部屋にはヴァリウス様とアルード様、クルセード様、オルフェ様がいた。
アヤナの顔が一瞬で赤く変わる。
わかりやすい反応……。
「今日呼んだのは、父上からそろそろ婚約者を選ぶよう言われたからだ」
アルード様が発言した。
「自分の婚約者候補の中からということだった。だが、父上が勝手に選んだ候補者であって私が選んだ候補者ではない。そこでアヤナ、エリザベート、マルゴットの要望を聞きたい」
ここだけの個人的な話であり、家の都合も建前も関係ない。
本当にどうしたいのか、好きな者がいるのかを言えば、アルード様のほうで力を貸せるかもしれない。
自分で本当に好きな相手を選ぶ最初で最後のチャンスかもしれないことが説明された。
「アヤナ、どうする?」
「オルフェ様が好きです!」
顔を真っ赤にしながらアヤナが告白した。
「オルフェ様が私のことをなんとも思っていないのはわかっています。でも、オルフェ様の側にいて支えたいです! 一緒に氷竜を討伐します! それでオルフェ様が喜んでくださるならいいのです! ノーザンに行かせてください!」
「オルフェ、力になってくれないだろうか?」
「もちろんです」
オルフェ様が微笑んだ。
「氷竜討伐の協力者はいつでも歓迎です。ですが、アヤナはアルードの婚約者候補で光属性。ほしいと言ってもディアマス国王は頷きません。それはどうするのですか?」
「話してみる」
「説得できる自信が?」
「私は魔法大学に入った。しばらくは忙しい。短期間だけアヤナの魔法の向上や見識を広げるためにノーザンに行く許可をもらう。一カ月程度の予定なら許可をもらえる気がする」
「なるほど。とりあえず国外に出すつもりですね」
「そうだ。これでアヤナの希望が叶う。オルフェに認められるかどうかはアヤナの努力次第だ。私と同じ光属性だけに使えそうだろう?」
「アルードのようになってくれるのであれば、悪くはないかもしれません」
「頑張ります!」
アヤナのルートが変わった。オルフェ様のルートに入ったと私は思った。
「エリザベートはどうする?」
「気になる人がいます。もっと親しくなりたいのに逃げられました。追いかけて話し合いたいです。婚約者候補はできるだけ王都にいなくてはいけないのはわかっていますが、ハイランドに行きたいです」
エリザベートも勇気を出した。
「ハイランドであれば余裕だ。クルセード、エリザベートを連れていってくれないか?」
「気になる相手というのは誰だ? アレクサンダーのためにも変な男を追いかけさせるわけにはいかない」
「イアンです。一緒に風魔法を磨きたいですし、イアンの雷魔法の向上も支えたいです」
「わかった。ハイランドへ連れていく」
クルセード様が了承してくれた。
「ヴァリアス、いいだろう? 複属性使いとして鍛えるためだ」
「連れて行くのは構いません。ですが、イアンは嫌がっています。エリザベートが頑張るのはいいですが、私はイアンを優先します。エリザベートがイアン以上に優秀な人材になれば別ですが」
「わかりました。お言葉を心に留めます」
「マルゴット、どうしたい?」
マルゴットはうつむいた。
「お姉様が王太子殿下の婚約者候補の時は、私が婿養子を取るはずでした。土属性の相手の中から良さそうな者を選ぶと。でも、途中で変わってしまいました。アルード様と相思相愛になれないならつらいだけです。相思相愛になれる方と結婚したいです」
「相手はいるのか?」
「アルード様の婚約者候補からはずれた場合、この方がいいのではないかと思う相手はいます。でも、二人います。当主のおじい様と両親が許可したほうだと思っています」
「では、ブランジュ伯爵と両親と話し合え。相手が決まったらブランジュ伯爵から兄上に謁見を願い出るように。婚約者候補からの辞退の件と言えばいい。兄上がうまく取り計らってくれる。レベッカのようにはならない」
「はい。相談します」
「ルクレシア、どうしたい?」
「私も考えるのですか?」
驚いた。
アルード様の婚約者候補だけだと思っていた。
「このままだと兄上の婚約者候補のまま縛り付けられるだけだ。兄上と結婚はできない。なぜなら、兄上が誰よりも愛しているのは私だからだ。私が悲しむことはしない」
わかる。というか、そうだと思っていた。
「兄上の婚約者候補からはずすことはできる。兄上に頼むだけでいい。だが、そうなると縁談争いが起きる。それはダメだ。ルクレシアが結婚したい相手を決めなければ、他の者が前に進めない」
「縁談用の身上書を見返す時間が必要です」
「そうか」
「アルード様の身上書はないはず。送ってくださるなら見ます」
「送る。兄上、私の身上書を作りたい」
「私が素晴らしい身上書を作ってあげましょう」
呼び出しについては終わり。
アヤナはオルフェ様、エリザベートはクルセード様と話すことになり、マルゴットは両親と話すために帰ることになった。
「ルクレシアは私と一緒に散歩だ」
アヤナとオルフェ様の話し合いが終わるのを待つため、アルード様と一緒に庭園に行くことになった。




