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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第一章 

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17 予行練習(二)



 予行練習が終わると、再び舞踏の間に集合。


 予行練習に来てくれたことへのお礼と、ささやかなおもてなしとしてのお茶会が始まった。


 人数が多いので立食形式。


 さまざまな菓子が用意されたテーブルから好きなものを小皿に取る。飲み物は専用カウンターのところでもらうセルフサービスにした。


「よろしければ同行されている方もどうぞ」


 護衛への飲食物は無用とのことだったけれど、魔導士も護衛枠かどうかわからないので、一応は声をかけておいた。


 私が失敗した時に助けてもらったので、少しでもお返しができればと思ったのもある。


 剣を腰に装備している人たちは反応なし。


 でも、魔導士たちはお菓子があるテーブルのほうへ行った。


 小皿は取らないので、どんなお菓子があるのかを見ているだけかもしれない。


 やがて、一人の魔導士が飲み物の専用カウンターへ向かった。


 待機している使用人に何かを確認し、カップだけを取ってポットに入ったお茶を注いだ。


 私はさりげなく近寄り、ソーサーを差し出した。


「よろしければどうぞ」

「ありがとう」


 優しい口調。


 私にアドバイスをしてくれた魔導士だった。


「先ほどはご助言いただきありがとうございました。おかげで二度目の練習は大丈夫でしたし、本番も安全に実行できそうです」

「発案はコランダム公爵令嬢と聞いています。このような案をよく思いつきましたね?」


 ゲームのスチールのおかげとは言えない。


「魔法学院内には魔法植物園もあるので」


 通用するかはともかくとして、誤魔化してみる。


「そうですか。実はもう一つ思いついたことがあるのです」

「どのようなことでしょうか?」

「場所についてです。芝生は一つ間違えれば危険を伴います。土の場所にすれば、何もないので燃え広がりません」

「ああ、そうですね!」


 確かにその通りだと私も思った。


「では、根元の周囲だけを土にします。土魔法が得意な方に小さな畑でも作ってもらえばいいですよね?」


 クスリと笑われた。


「それではダメでしょうか?」

「いいえ。大丈夫だと思います。ただ、畑と言ったので……」

「畑ではおかしかったでしょうか?」

「公爵令嬢からそのような言葉が出るとは思いませんでした」


 納得。


「申し訳ありません」

「気にされないように。私のほうこそ魔導士の分際で笑ってしまいました。忘れてください」

「あの……少しだけ魔導士について質問させていただけないでしょうか?」


 魔導士と話すチャンスだと思った私は会話を終わらせたくなかった。


「私は正式な魔法使いになったあと、魔導士の資格も取得できるように勉強したいと思っています。魔導士になるにはどのようなことに力を入れて勉強すればいいのでしょうか?」

「コランダム公爵令嬢の得意な魔法は火ですか?」

「はい」

「他には?」


 他?


「もしかして、二属性が使えないとダメなのでしょうか?」

「いいえ。ただ、複属性の使い手は便利なので重宝されます。就職もしやすくなりますよ」

「なるほど」

「かなり上のほうを目指すのであれば、一属性をつきつめるべきです。専門性があると強みにできます」

「そうですね」

「とはいえ、本当に一属性しかない者は上に行くよりもずっと手前で弾かれてしまいます。弾かれない程度に、他の属性も使えるように練習することを勧めます」

「そうですか」


 私は火魔法が得意。だから、火の魔導士になりたいと考えていた。


 でも、火魔法が得意というだけでは、就職も上の方に行くのも難しい。


 そこで便利で重宝される複属性の使い手になるのもあり。


 就職してから自分の専門性を活かすような方向に進んだり、より上のほうを目指すのもいいということ。


「魔法のことばかり考えていて、複属性の使い手になることは考えていませんでした。ご助言を真摯に受け止め、熟考したいと思います」

「あくまでも個人的な意見です。他の者に聞けば、他の助言をするでしょう。どのような選択をするかは、結局のところ貴方自身です」

「そうですね」


 私はしっかりと頷いた。


「ちなみに、ご専門の属性は? 風か水か氷ですよね?」

「そうですね」

「どれですか?」

「風です」

「では、真っ先に対応してくださったわけですね」


 私が失敗した時、最も早く発動したのは風魔法だった。


「わかったのですか?」

「もちろんです。風、水、氷の順番ですよね」

「そうですか。貴方には才能がありそうです」

「順番がわかったからですか?」

「あの時に発動した魔法の順番は確かに風、水、氷の順番です。ですが、それは視認できない差でした。貴方がわかったのは感じたからです。鋭い感覚を持つことは、魔法において極めて重要ですから」

「そう言っていただけて嬉しいです!」


 魔導士に褒められた私は嬉しくなった。


「自分の失敗に焦りました。でも、風魔法のおかげで燃え広がらなくなりました。ただ、不思議でもあります。火が燃え広がらないように内側へ集めようとしたら、内側の火が強くなるのでは? でも、干渉はしていませんよね?」

「内側の火がどのような状態かわかったのですね?」

「当たり前です。私の火ですから」


 魔導士の雰囲気が変わった。


「……それはどういう意味ですか?」

「どういう意味?」

「わざと火を広げたのですか?」

「まさか! 勝手に芝生に火がついただけです!」

「ですが、私の火と言いました。自分がつけた火という意味ですか?」

「まあ、そうですね」

「まあ、というのは?」

「非常に細かく言うと、私がつけた火と、それによってついた火ですよね?」

「……そうですね」

「なので、内側の火は私の火です」

「発動した魔法の火の感覚が貴方に残っていたのですね?」

「そうです」

「素晴らしいです。貴方はもっと火を使いこなせるようになりますよ」


 フードの下で魔導士が微笑んだような気がした。


「魔法は行使者の支配下にあります。ですが、魔法によって引き起こされた事象についての支配権はありません。それはわかりますか?」

「わかります」


 私が魔法で起こした火については私の支配下にある。


 でも、魔法の火によってついた別の火――芝生を燃やした火についての支配権はない。


「魔法使いは魔法で火をつけることができます。能力を高めていくと、強く大きな火をつけることができます。より能力を高めていくと、火に対する支配を操れます」

「火のサイズ、強弱などを自在にコントロールできるということですよね?」


 意図的に魔法の威力を調整するということ。


「そうです。そして、更に能力を高めていくと、火の支配権を拡大できます」

「火の支配権を拡大? どういうことでしょうか?」

「通常は自分の魔法の火だけですが、その火でついた他の火への支配権を持つことができます。つまり、貴方が能力を非常に高めることができれば、事故で起きた全ての火を自分だけで鎮火させることができるのです」

「すごいです!」


 そんなことができるとは知らなかった。


「ぜひ、そうなりたいです!」

「そうでしょうね。ですが、とても難しいことになります。徐々に自分の能力を高めていくしかありません」

「そうですね」

「今は小さな火しか使えないかもしれませんが、自分の火に対する支配を操れるよう練習するといいかもしれません。ただし、火災には気をつけるように。コランダム公爵邸が焼失したら大変です」

「そうですね……ご助言を深く長く心に留めます」

「秘密の方法を教えましょう」


 魔導士は私に近づき、耳の側に顔を寄せた。


「水の中で火を燃やしなさい。それができれば、かなりのものですよ」


 水の中で火を燃やす?


 無理というよりも不可能。


 でも、これまで話した感じからすると、嘘や冗談とも思えない。


「そのようにするにはどうすればいいのですか?」

「秘密の方法ですので、これ以上は言えません。自分で考えてみるように」


 魔導士は私から離れて行った。


 もっと話を聞きたいけれど、さすがに無理。


 すでに結構話してしまった。


 もてなす側である以上、一人だけに構っているわけにはいかない。


 ああ、そういえば、アルード様に何もしていない……。


 アルード様のほうに視線を向けると、睨まれていた。


 そうですよね。王子優先ですよね。婚約者候補なので。


 私は不機嫌そうな王子の機嫌を取る方法を考えなくてはならない。


 機嫌が直る魔法があればいいのにと思った。


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