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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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169 卒業式



 ついに卒業式の日が来た。


 首席はベルサス様。女子生徒の首席は私だった。


 魔法学院長や来賓から挨拶があって、こんな感じだろうという卒業式が終了した。


 でも、泣く生徒はほとんどいない。笑顔ばかり。


 なぜなら、全員が卒業パーティーを楽しみにしているから。


 午前中の卒業式が終わるとパーティーで会いましょうと言って友人と別れ、自宅で昼食。午後に卒業パーティーへ行く。


 婚約者や恋人がいる場合、男性が女性を迎えに来て一緒に卒業パーティーに行く。


 卒業パーティーだけのペアを組んで行く人も、友人と行く人もいる。


 私とアヤナは王太子の婚約者候補と王子の婚約者候補なので、誰とも約束はできない。


 それがわかっているので、誰からも誘われない。


 普通に支度して卒業パーティーに行くつもりだった。


 ところが。


「お嬢様、お迎えの馬車が来ています」


 特注のドレスに着替えていると、召使いが知らせに来た。


「迎えの馬車? コランダムの馬車で行くのに?」

「奥様が対応していますが、準備ができたかどうか確認してくるようにと」

「もしかして、誰かがルクレシアを迎えに来たわけ?」

「王太子殿下です」

「えーーーーっ!」


 アヤナが叫んだ。


「まさか来ちゃうなんて!」

「一応、王太子の婚約者候補だから……」


 あくまでも候補であって婚約者ではないけれど、配慮してくれたのかもしれない。


「私も王子の婚約者候補なんだけど?」

「アルード王子殿下も来ています」

「嘘!」

「本当です。用意ができたら下にということですが……まだでしょうか?」

「急ぐわ!」

「もう少しだから!」

「では、そのようにお伝えします」


 召使いが部屋を出ていく。


「来るなんて思わなかったわ!」

「私も同じよ!」


 とにかく、用意をするしかない。


 ヴァリウス様が怒らないうちに!


 私とアヤナは急いで仕上げに入った。





「失礼いたします」


 応接間にいると聞いて挨拶に行ったら、予想よりも人数が多かった。


「迎えに来ましたよ」


 そう言ったのは白い礼服のヴァリウス様。


「私は保護者として来ただけですが」

「俺も保護者だ」


 黒い礼服のクルセード様がにやりとした。


「ルクレシア」


 白い礼服を着用したアルード様が近づいて来た。


「これを」


 赤いバラのミニブーケ。


 恋人やパートナーへの贈り物として用意するものだった。


「受け取ってほしい。私の気持ちだ。約束はしていないのはわかっているが、迎えに行きたかった」

「ありがとうございます」


 私は赤いバラのミニブーケを受け取った。


「でも、このようなものをいただけるなんて……ブートニアを用意していません」

「気にしなくていい。ちなみにアヤナのことも気にしなくていい。オルフェに頼んだ。ノーザンのために氷竜をできるだけ多く倒した対価だ」

「アヤナ、アルードの代わりにエスコートします。受け取ってくれますか?」


 水色の花のミニブーケが差し出された。


 アヤナは感動で泣きそうな顔になった。


「光栄です……」

「泣いてはいけません。卒業パーティーを楽しみましょう」

「はい!」


 アヤナはアルード様に顔を向けた。


「アルード王子殿下、ご配慮いただきありがとうございます」

「婚約者候補は複数いる。全員を迎えに行くわけにはいかないからだ」


 アルード様が優しく微笑んだ。


「そうですよね。婚約者候補の中から選ぶとしたら、一番選びやすい人にしますよね」


 アヤナは笑顔を浮かべた。


「もちろん、一番踊りやすい人です。安全な人でもあります」

「その通りだ。前例がある」


 成人祝いの大舞踏会と同じく私が選ばれたということ。


 完全に言い訳だけど、断るつもりは全くなかった。





 魔法学院の舞踏室に行くと、出入口付近によく知る顔ぶれが揃っていた。


「ルクレシア」


 真っ先に声をかけてきたのはネイサン。


「とても綺麗だ」

「ありがとう」

「友人として頼みたいことがある」


 ネイサンはリボンのついた赤いバラを一本差し出した。


「俺にはパートナーがいない。そのせいで踊ってほしいと言われても困る。だから、その」


 ネイサンはアルード様のほうを気にするように見た。


「受け取ってくれないか? 胸ポケットに入れてほしいだけだ。だから、ブーケは用意していない」


 胸に花をつけている男性はパートナーがいるという証拠。


 ようするにダンスを断る理由にしたい。


「アルード様、少しだけブーケを持っていただけませんか?」

「構わない」


 私はネイサンから赤いバラを受け取った。


「ネイサンにぴったりの赤い花ね。火属性だもの」

「赤い花といえばこれだ」

「そうよね」


 私はネイサンの胸ポケットに赤いバラを入れた。


 リボンも綺麗に見えるように整える。


「できたわ。素敵になったわよ」

「心から感謝する」


 ネイサンは手袋をした私の手を取ると、甲にキスするような仕草をした。


「さっさと交代しないと怒られそうだ」


 ネイサンが下がるとベルサス様がアイスブルーのリボンがついた白いバラのコサージュを差し出した。


「ビビが用意してくれました。つけてくれるのかと思ったら、ルクレシアに頼むよう言われました。お願いできませんか?」

「もちろんです」


 私はコサージュを受け取ると、ベルサス様の左胸につけた。


「ビビが喜ぶ姿になったと思います」

「ルクレシアの慈悲深さに感謝を」


 ベルサス様は私の手を取ると甲に口づけるような仕草をした。


「人気者は大変だ」


 カートライト様が笑った。


「イアンの番だよ!」


 レアンに背中を押され、イアンが前に来る。


「カートライトが持って来た」


 イアンが差し出したのは黄緑の花のコサージュ。


「譲ってくれた。つけてもらうのが思い出になるって」

「さすがカートライト様、騎士らしいです」


 私は黄緑の花のコサージュをイアンの左胸につけた。


「お礼を言わないとね?」

「まずはルクレシアに。ありがとう」


 イアンは私の手を取ると、甲にキスをする仕草をした。


「イアン、貸しだからな?」

「それは約束しない。でも、感謝している。思い出ができた」

「ルクレシア、もういいか?」

「お待たせして申し訳ありません」


 私はアルード様からバラのブーケを受け取った。


「最初に踊るのは私だ。そのためにブーケを持っていた」

「ヴァリウス様、よろしいでしょうか?」

「もちろんです。アルードを喜ばせてあげなさい。卒業するのはアルードとルクレシアです。二人が一緒に楽しむ様子を私は楽しみます」

「俺も保護者として楽しむ」


 クルセード様がいてくれるのが頼もしい。


 ヴァリウス様の不機嫌を予防してくれそうだと思った。





 卒業パーティーの始まりが宣言され、音楽が鳴り始めた。


「踊ろう」

「はい」


 私とアルード様はダンスフロアに移動して向き合った。


「ルクレシアとであれば安心して踊れる」

「私もアルード様とであれば安心できます」

「三回連続で踊りたい」

「それはダメです」

「やはりダメか」

「当然です。意味を教えたのはアルード様ですよ?」

「そうだった」


 ダンスが終わったので保護者のところへ戻る。


「上手でしたよ。初級魔法のように慣れていました」

「ありがとうございます」

「褒めていません。初級だと言ったではありませんか。卒業パーティーですよ? 楽しまなくてはいけません。だというのに、遠慮してどうするのです?」


 ダメ出しされてしまった。


「あれぐらいしなさい」


 ダンスフロアのほうを見ると、アヤナとオルフェ様が踊っていた。


 オルフェ様はただで目立つのに、アヤナを持ち上げてくるりと回っている。


 まるでアヤナに羽があるかのように軽やかな印象だった。


「魔法の練習ばかりだからです。もっとダンスの練習もしなさい」

「はい」

「もう二回踊ってきなさい。中級分と上級分です」


 ノルマ……。


「わかりました。行こう」

「はい」


 ヴァリウス様に言われたらそうするしかない。


 私とアルード様は二回ダンスを踊った。


 これで三回連続同じ相手と踊ったことになる。


 社交場のルールにおいて、私とアルード様は恋人同士だと宣言したことになった。


「頑張りましたね。ですが、まだですよ。今日は楽しまなければ」


 ヴァリウス様に連れられてダンスフロアに向かう。


 普通に踊るのかと思ったら、浮遊魔法をかけられた。


 全員、ダンスフロアで踊っているのに、私とヴァリウス様だけはっきりと浮遊しているので目立っている。


 それに加えてドレスがやけにふわふわしている。


 私よりも風に揺れるドレスがダンスをしているみたいだった。


「クルセードも踊りますか? 見ているだけではつまらないはず」

「ネイサン!」


 呼ばれたネイサンは浮遊魔法と移動魔法で駆け付けた。


「何か?」

「俺の代わりにルクレシアと踊れ。一回でいい」


 ネイサンは顔をしかめた。


「ダンスは苦手だ」

「大丈夫だ。ルクレシアがリードしてくれる」


 笑ってしまった。


 周囲にいた皆も同じ。


「行きましょう! 私がリードしてあげるわ!」


 私はネイサンの手を引いてダンスフロアに連れて行った。


「ステップに自信がないなら浮遊魔法をかけてもいいわよ?」

「平気だ」

「本当のことを言って。友人でしょう?」

「普通に踊れる。移動系は得意だ。遠慮していただけだ」


 私とネイサンはワルツを踊る。


 確かにネイサンは移動系が得意だった。


 普通以上、力強いダンスだった。


「かなり良かった!」


 クルセード様が喜んだ。


「さすが俺の代理だ!」

「ルクレシアのリードがあると思うと勇気が出た」

「そうですね。力強さを感じました。クルセードが喜ぶダンスでしたが、優雅さはありませんでした」

「優雅なダンスはヴァリウスが披露した。技巧的ではなかったが」

「ベルサス!」


 アルード様がベルサス様を呼んだ。


「技巧的なダンスを披露してほしい。ビビに自慢話ができるだろう?」

「ルクレシアは疲れていると思いますが?」


 魔法がかかった。


「回復魔法と身体強化魔法をかけた。平気だろう」

「ビビに自慢したいので、いいですか?」

「ビビのためならもちろんです」


 今度はベルサス様と踊ることになった。

 

 さすが魔法学院の首席。技巧的なダンスが何かをわかっていた。


 ベルサス様のイメージは冷たい感じがするけれど、ダンスは全然違う。


 上品。驚くほど技巧的なリードをしてくる。


 何の打ち合わせもしていないので、私は流れに任せるだけ。それだけで綺麗に踊れる。


 それはベルサス様のリードとタイミングが完璧だから。浮遊魔法がないのに軽やかでもある。


 正直、ここまで踊れるのかと思ってしまった。


「さすがベルサスですね。素晴らしいダンスでした。これ以上は難しいかもしれません」

「私とならもっと素晴らしいダンスが踊れます」

「ダメです」


 オルフェ様の提案をヴァリウス様が冷たく却下した。


「ルクレシアが何回踊ったと思っているのです?」

「六回です。あまりよい数字ではありません。もう一回踊ったほうがいいと思います」

「カートライト、ルクレシアと踊ってきなさい」

「はい。ルクレシア、私と踊ってくれるか?」

「喜んで」


 数字合わせということでもう一回。


 卒業パーティーはダンスパーティーだけど、踊り過ぎている気がした。


 ところが。


「現在、ダンス回数のトップはイーラ嬢の七回です!」


 私は第三位。同じ人とのダンスはカウントされないので、アルード様と踊った回数は一回として計算されていた。


「イアン! レアン!」


 ヴァリウス様に双子が呼ばれた。


「ルクレシアと踊りなさい」

「わかりました」

「仰せのままに」


 ノルマが増えた。


 イアンとレアンと踊ったので、私は七人と踊ったことになった。


 でも、イーラも他の男性と踊っている。すでに九人。


「私のルクレシアが一番です! 他の者が越えることは許しません! アレクサンダーも踊りなさい!」


 エリザベートをエスコートしていたアレクサンダー様に命令が出た。


「ルクレシアと踊るか? 箔がつくぞ?」


 クルセード様がアイン様たちにも聞いている。


「待つ時間が惜しいので私が踊ります」


 オルフェ様が速攻で私の手を取って歩き始めた。


「でも、アヤナが……」

「大丈夫! 女性で一番にならないとでしょう!」


 オルフェ様と踊り、アレクサンダー様と踊り、アイン様と踊り、ナハト様と踊り、クルセード様と踊って終わりになった。


 体力的にそれが限界。


「今夜、最も多くの男性と踊った女性はルクレシア様です!」

「さすがルクレシア様!」

「一位です!」

「女性の首席です!」

「最高です!」


 大拍手。


 どう考えてもヴァリウス様のためのご機嫌取り。


 だけど、王太子の婚約者候補としての名誉を守れたのは確か。


「これがもっとも正しい結果です。私とアルードに認められた女性はルクレシアだけです」


 ヴァリウス様が私の頭を優しく撫でてくれる。


 機嫌が直って何より……。


 ディアマスの平和には絶対にかかせないことだった。


 五章はここまで。

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