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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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166 恋話



 夕食が終わると、それぞれのテントに戻ることになったけれど、エリザベートとネイサンが交代した。


 女性だけでテントを使えるよう配慮してくれたので。


「こんな感じになるなんて……予想外だわ」

「アレクサンダー様から期末テストについて聞いていないの?」

「王太子殿下は野営をしていなかったって」

「アルード様はしているわよね?」

「本人が希望したからでしょうね。王族は先生たちと同じように宿泊施設を利用できるそうよ」

「そうなのね」

「でも、お兄様は一人で野営に挑戦したって」

「一人?」

「チームだから、もう一人いるわよね?」

「マルゴットの姉のイザベラ様だったわ。女性だから宿泊施設の床で寝たみたい。外よりはましってことで」

「へー」

「アレクサンダー様も床で寝なかったの?」

「野営訓練になるからって、あえて施設の側にテントを張って寝たのよ」

「真面目!」

「そうね」

「将来のためよ。苦労も経験になるって」


 やっぱりアレクサンダー様は苦労人……確定!


「エリザベート、イザベラ様ってヴァリウス様と仲良かったの? チームを組んでいたわけでしょう?」

「王太子殿下の婚約者候補だったからよ。イザベラ様は王太子殿下の婚約者になる気満々だったから」


 ヴァリウス様の得意な魔法が光から水になった時、ライバルだった火と雷の候補者がいなくなったためにイザベラ様はとても喜んだ。


 でも、婚約者候補ではなくなった者の中にエリザベートがいた。


 エリザベートが気落ちしているのを知っていたアレクサンダー様は、イザベラ様に心で思うのはともかく口にするなと怒った。


 それに対してイザベラ様はライバルがいなくなって喜ぶのは当然のことだと言って反論した。


 相当な大喧嘩になり、反属性のせいもあって極めて仲が悪くなってしまったとのことだった。


「王太子殿下がイザベラ様をチームに入れたのよ。嫌とは言えないじゃない?」

「そうね」

「大変そう」

「お兄様は王太子殿下の得意な魔法が水から風になったことに関わっているの。王太子殿下に風魔法を教えて欲しいと言われて教えていたのよ。練習にも付き合っていたわ。そのせいで婚約者候補でなくなったイザベラ様はお兄様を恨んでいるのよ。私をあざ笑ったことへの復讐のために王太子殿下に風魔法を一生懸命教えたと思っているわけ」


 なるほど。


「でも、お兄様が友人としても臣下としても王太子殿下に尽くすのは当然でしょう? 自分から風魔法を教えると言い出したわけではないわ。風魔法が一番得意になるのかどうかだって王太子殿下次第。お兄様を恨むなんておかしいわ!」

「そうね」

「逆恨みだろうけれど、悔しかったのでしょうね」

「強いチームではあったのよ。でも、チームワークは最悪だったって。お兄様ばっかり活躍して、防御担当のイザベラ様は活躍できないから」

「わかるわ」


 防御担当のアヤナがつぶやいた。


「防御担当は不利。評価されないわ」

「私とマルゴットの関係が悪かったのも、お兄様とイザベラ様の関係が影響しているわ。でも、イザベラ様はきつい性格でマルゴットに八つ当たりするみたい。だから、ものすごく仲が良い姉妹ということでもないのよ。まあ、なんだかんだいって入学した時よりもマルゴットとは仲良くなれたと思うわ」

「そうねえ」

「絶対に仲良くなっていると思うわよ」


 私は確信していた。


「護符を交換していたでしょう?」

「そうね」


 エリザベートが同意した。


「反属性でも友人みたいな感じになれたわ」

「私から見ると友人よ。どちらもね」

「ルクレシアは本当に変わってしまったわ。別人よ」


 ドキリとした。


「正直に言うと、変わってくれて良かったわ。だから、今があるのよ」

「そう言ってくれて嬉しいわ」

「アヤナもありがとう」

「何もしていないけれど」

「そんなことないわ。私とルクレシアとマルゴットを良い意味でつないでくれたと思っているわ。光属性の良いところはどの属性でも相性が良いことよ」

「確かにそうかも!」


 アヤナがにやりとした。


「マルゴットだけど、素敵な人を見つけたみたいよ」

「そうなの?」

「一緒に組んでいる人?」

「そうよ。チームメイトの二人。でも、婚約者候補だから言えないでしょうけれど」

「どちらも土使いよね」


 マルゴットは土属性の三人で組んでいた。


 全員で攻撃に負けない強固な防御作をして評価された。


 男性二人と一緒だけど気が合うし、マルゴットだけが女性なので大切にされていると聞いた。


「私も誰か見つけないと……でも、ダメなのよね。片想いばかりよ」

「誰?」

「言わないわ。好きって言っても憧れみたいなものなのよ。実際は無理だってわかっているから」

「ヴァリウス様でしょう?」

「初恋はね」


 エリザベートはあっさり白状した。


「でも、無理よ。婚約者候補ではないもの。とっくの昔に諦めたわ」

「私が婚約者候補に選ばれたのは国王陛下のせいだし、縁談騒ぎを収めるためだってことも明らかだわ」


 言い訳がましい。でも、言わずにはいられなかった。


「そのぐらいわかっているわよ。ルクレシアは本当に大変ね。もっと普通に生きられたらいいのに。普通の学校に通って普通に好きな人ができて、普通に恋愛して普通に結婚するの」

「普通尽くしじゃないの」


 アヤナが笑った。


「普通になりたいわ……無理だけれど」


 エリザベートはため息をついた。


「ないものねだりね」

「そうね。でも、憧れるのは自由よ。好きな人を想うのは自由だし、推せばいいじゃない?その人の幸せを願ってね」

「そうかもね。でも、難しいわ」


 エリザベートはまたしてもため息をついた。


「追いかけたいけれど、嫌われるだけかも……」

「ハイランドに行くってこと?」


 私の質問にエリザベートは沈黙した。


「何? ハイランドに留学するの? エリザベートが?」

「イアンよ」

「あー! そういうこと!」


 アヤナは理解した。


「新しい恋を見つけたのね! おめでとう!」

「ダメなのよ。イアンはハウゼンを嫌がっているの。それでハイランドに逃げるつもりよ」

「えー、属性の相性はいいのに!」

「そうなの。でも、仕方がないわ。風使いは逃げるのが上手だから」


 妙に納得。


「アルード様の婚約者候補のうちは身動きが取れないわ。王都にいるしかないし」

「やっぱりそうなの?」


 アヤナが尋ねる。


「婚約者候補は王都にいないとダメ?」

「当たり前でしょう? いつ呼び出されてもいいように、長期の旅行とか国外に行くには許可がいるわ。魔法学院の授業やテストであればいいけれど、個人でずっとどこかに行くのは無理よ」

「最悪」


 アヤナはノーザンに行きたがっている。


 でも、アルード様の婚約者候補である以上は無理だということ。


「ルクレシアが王太子殿下かアルード様と結婚すれば状況が変わるわ。それに期待しているの」

「私も同じよ」


 アヤナが言った。


「ルクレシアにはアルード様と結婚してほしいのよね。そうすれば、婚約者候補からはずれるから」

「アヤナはそうよね」

「ルクレシアはどうするの?」


 聞かれてしまった。


「このまま王太子殿下の婚約者に変更されるのを待って結婚するつもりなのか、アルード様と結婚できることを目指すのか、それとも別の人とか。ネイサンとなら結婚できるかもしれないわよ?」

「私もそんな気がするのよね」


 アヤナが同意した。


「ネイサンは強いし、ゼイスレードとモルファントがついているわ。ルクレシアと結婚してイグニス伯爵家を継ぐってことなら許可が出そう」

「私もそう思ったわ。でも、ルクレシアはオルフェ様にも求婚されているし、属性の相性でいったらクルセード様だっていいわけよね。他国に嫁いでしまえば王家の事情に巻き込まれなくなるわ」

「ルクレシアはその気なさそう。オルフェ様の求婚を完全に拒否していたわ!」

「普通はあんなにきっぱり言えないわ。相手は王族なのよ? 属性のせいにして言葉を濁すのに」

「そうよねえ。でも、きっぱりはっきり言っちゃうところがルクレシアらしいって思ったわ!」


 女子トークで盛り上がるアヤナとエリザベートがうらやましい。


「寝るわ。明日は魔物を探さないとだから」

「逃げたわね」

「選べる選択が多くて大変よね。傾国の美女は」


 出た。傾国の美女。


 あの話は失敗だったのかもしれない。


 ヴァリウス様以外にも知られてしまうなんて思わなかった。


「でも、一つだけ言わせて。イアンは選ばないで」


 エリザベートの本音。


「アヤナだってそうでしょう?」

「イアン? 全然! エリザベートを応援するわよ!」

「違うわよ。オルフェ様のこと」


 エリザベートもアヤナの気持ちに気がついていた。


「昔からオルフェ様はルクレシアを狙っているの。ノーザンは強い火魔法の使い手が欲しくて仕方がないから」

「やっぱりルクレシアがライバルなのね!」


何気に主人公VS悪役令嬢のフラグが立っていた。


「この機会にはっきりと言っておくわ! オルフェ様を選ばないで!」

「オルフェ様やイアンを選ぶ気はないわ。でも、好きな人と結ばれたいのであれば自分でなんとかしないと。他力本願では難しいわよ?」

「そうだけど」

「わかるけれど」

「おやすみなさい」


 私は目を閉じた。


 本当はそんなことを言える立場じゃないのよね……。


 好きな人がいても無理だと思っているのは私自身。


 卒業するまで結婚について考えないというのは、他力本願と同じようなものだった。


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