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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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165 テストなキャンプ



 三学年全員で魔物討伐に行くのはソルダンレイクスという場所だった。


 自然が多く残る農業地域で、魔力がある人も魔法が使える人もほとんどいない。


 平和な場所だったはずなのに、近年魔物の目撃情報が増えている。


 地方の治安維持を担当する軍が通報を受けて魔物討伐をしているけれど、いつ出るかわからない魔物に対し、魔法が使えない人々の恐怖は相当なもの。


 そこで魔法学院の三学年が全員で行き、指定範囲内の場所にいる魔物を捜索して殲滅するということだった。


「資料を見るとわかるだろうが、目撃されている魔物は複数種類だ。一匹しかいないと考えるのは油断でしかない。人知れず大繁殖している可能性もある。発見次第倒していい。徘徊していそうな地域に他の個体や巣がないかも確認するように」


 ありがちなミスなのは、草食系の魔物であれば放置でいいという考え。


 でも、今回の魔物討伐では全ての魔物が対象。


 草食系の魔物が繁殖すると肉食系の魔物が移動して棲みついてしまう。


 それを防ぐためにも魔物は全て倒す。


 草食系魔物のエサになる魔法植物についても分布場所を地図に書いて報告する。


 原則的に魔物も魔法植物も焼却処分。


 火魔法の使い手がチームにいない場合は、近くにいるチームにいる火魔法の使い手に依頼するよう説明された。


「これまでは魔物が多く生息している場所に行き、遭遇する魔物と戦うような内容だった。強い魔物と戦闘した者もいるだろうが、魔物をあまり探さなくていいという意味では楽だった。今回は逆だ。魔物は強くない。だが、探すのが非常に難しい」


 魔物がいない地域に魔物が棲みつくようになれば、人々の生活が脅かされる。


 それを防ぐためには徹底的に魔物を探し出し、根絶する必要がある。


 根絶できなければ、だんだんと魔物が増え、その被害が増えていく。


 ディアマスの通常地域を守ることは人々が安心して生活できる場所や食料の確保につながる。


 ようするに人海戦術で魔物を探して殲滅するというのが期末テストだった。


「虫一匹も見逃すなよ?」


 虫系の魔物も対象なのね……。


 相当大変そうだと思った。





「すごい所に来ちゃったわねえ」


 自然だらけ。


 かなりの田舎で人家が極端に少ない場所とも言う。


「しかもキャンプだし!」


 宿泊施設に泊まるわけではなく、魔法学院から支給されたキャンプセットを使用して野営する。


「自給自足とか……ありえないわ!」


 食料はチームで手に入れる。


 魔物を倒したり、魔法植物を採取したりする。


 食料用であれば、通常動物や植物でも可能。


 でも、私有地における農作物や家畜についてはダメ。


 どうしても食料が見つからない場合は引率する先生たちがいる場所に行き、必要品などを分けてもらう。


 光魔法の使い手が一緒でないと治療行為がしにくいので病気や怪我に注意とも言われた。


「目撃ポイントや討伐ポイントを参考にして魔物を探すっていうのはわかるけれど、三年生全員の食料を賄うだけの魔物がいるとは思えないわ!」


 アヤナの愚痴が爆発中。


「魔物の気配は感じない?」

「全然。安全そう」

「テントを設置する場所は安全でないとね。そういう意味ではいいことだわ」

「こんなところじゃ、光魔法なんて全然役立たないわ!」


 アヤナは不満でいっぱいの表情を浮かべた。


「そんなことはないわよ。怪我や病気になっても大丈夫という安心感があるし、安全な飲み水を確保できたわ」


 自然が多い地域だけに川の水は澄んでいるので飲料水にできるということだったけれど、浄化魔法が使えるならそのほうがより安全になる。


「身体強化の魔法だって使えるわ。大きな石を集めて来てくれる?」

「何に使うの?」

「火を焚く場所がいるわ。かまどを作ってくれる?」

「めちゃくちゃキャンプ!」


 アヤナは川のほうに向かった。


 私はネイサンが切り落とした木を燃やしやすいように水分を奪って乾燥させる作業を続ける。


 一日目はどこにキャンプを張るか決め、生活基盤を整える準備をしなくてはいけない。


 魔物の多くは人里離れた場所にいる。


 討伐軍が野営をするのは普通だけに、その訓練にもなるとネイサンが教えてくれた。


「アヤナは?」


 ネイサンが来た。


 三学年全員の魔物討伐とはいえ、基本的には三人チームで行動。


 三人につきキャンプセットが一セット渡されるので。


「大きな石を持ってきてくれるわ」

「持てるのか?」

「身体強化の魔法があるでしょう?」

「適役だな」


 ネイサンが笑った。


「テントはできた」


 私は木の上を見上げた。


 安心して寝られるように木を伐って丸太を組み合わせた場所を作り、その上にテントを張った。


 ネイサンは風魔法が使えるし魔物討伐経験もあるので、野営の準備もできる。


 魔法陣が趣味のインドア派かと思っていたのに、それはゼイスレードでのネイサン。


 モルファントでは上級魔法を使いこなす風使いなので、子どもの頃から魔物討伐に行くのが当たり前のアウトドア派だった。


「ありがとう。これで安心して寝ることができそうだわ」

「天気が悪い時は結界を張ったほうが快適になる」

「アヤナの出番ね」

「俺も焚き木作りを手伝う」


 使わなかった葉や枝の部分を適当に切って、焚き火用にする。


「石を持って来たわ!」


 見た目はか弱い女性なのに、大きな石を何個もアヤナは持って来た。


「重くはないけれど、何個もまとめて持つのが難しくて……」

「丸くなるように並べて。足りなければもっと持ってきてくれる?」

「了解」

「寝る場所も水も火も確保できている。だが、食料が問題だ」

「そうね」

「傷む前に配布された食料を食べるか?」


 初日分の食料については配布されていた。


「冷凍保存できる能力者がいないし、それでいいと思うわ」

「食材や食事の臭いにつられて魔物が来ると嬉しい」

「探す手間が省けるわね」

「これでいい?」


 アヤナが石を追加した。


「いいんじゃないか?」

「この枝って適当に折っていいのよね?」

「問題ない」


 身体強化の魔法があるので、アヤナは太い枝もボキボキ折っていた。


「豪快な女性に見える」

「ふっ、実際に豪快よ!」


 アヤナがにやりとした。


「テントがどうなったのか見に行きたいわ。魔法を頂戴」


 ネイサンが浮遊魔法をかけた。


「荷物は全部上だ」

「了解!」


 アヤナがテントのほうに向かう。


「このチームは何気にいい。何でもできそうだ」

「そうね。でも、他のチームがどうしているのか気になるわ」

「そうだな。それぞれの魔法を活用しているとは思うが」

「ネイサン!」


 アヤナの叫び声が聞こえ、ネイサンが上を見上げた。


「鳥が飛んでいるわ! 食べられそうなやつか見て来て!」


 木の上に作ったあるテントの場所は見張り台にもなる。


「行って来る!」


 魔物かどうかの確認ではなく食料かどうかの確認なんて……。


 完全にサバイバル状態だと思った。





 夕方。


 アルード様、ベルサス様、カートライト様が来た。


「夕食を一緒にしたいのです。こちらは火魔法が得意な者がいないので」


 なるほど。


「火をつけるだけならできなくもない。だが、料理ができる者がいない」

「食材をうまく焼けないと無駄にしてしまう」


 全員の視線が私に向けられた。


「こっちは最強の料理人がいるから!」

「それを目当てに来た」


 だと思いました!


「ネイサンは?」

「食料を探しに行っているのよ」

「なるほど」

「いた!」

「やった!」

「良かったわ!」


 イアン、レアン、エリザベートも来た。


「夕食を一緒に食べない?」

「お土産あるよ!」

「魚を獲ったわ。雷魔法でね」


 感電させてあっという間に大量に取れたとのこと。


「でも、焼くのが問題で……」

「ルクレシアに頼めばいいと思って!」

「お願いだよ!」

「焼くだけならいいけれど、下準備が嫌だわ……」

「木の枝に刺してそのまま焼けばいいと思う」

「バーベキュー用の野菜が刺してある串があるよね? あれを先に焼いて、次に魚を刺して焼けばいいよ」

「そうそう。ネイサンが見える。戻って来た」


飛行魔法で戻ったネイサンが着地した。


「みんな来ていたのか」

「料理人がいないので」

「魚を焼きたくて」

「ルクレシアを確保できたのはやはり得だったな」


 ネイサンが袋を置いた。


「何かあったの?」

「鳥を追いかけていたら魔法栗の木があった」


 ネイサンが袋を開ける。


「わー、いっぱいだ!」

「焼いて食べるやつだ!」


 どう見ても栗だけど、ジャガイモと同じようなサイズ。


 食べ応えがありそうだった。


「周辺を探したが、魔法栗の木は二本だけだった」

「明日以降も食料を確保できるね!」

「石を持って来る。もう一つかまどを作って焼き栗にしよう」

「石を持って来るのはやるから、魚を見てくれないかな?」

「串に刺して焼けばいいわよね?」


 ネイサンは魚を確認した。


「これは魔物じゃない。通常の魚だ」

「食べても平気ってことだよね?」

「どうやって捕まえた?」

「雷魔法で感電させたわ」

「そうか。生では食べられない。火でしっかり焼く必要がある。先に浄化魔法をかけておけば腹を壊しにくい。骨よりも上側の半分だけを食べればいい。下はほぼ内臓だけに食べないで残す。それを使って罠を仕掛けることもできるだろう」

「良かった!」

「ネイサン、さすが!」

「罠を作ってみたい」

「石を持って来るね!」

「僕も行くよ」


 双子がかまど用の石を取りに向かった。


 アルード様が魚に浄化魔法をかけた。


 少し離れたところにベルサス様が氷の台を作ってくれる。


「ここにおいておけば傷みにくいでしょう」


 保冷所も確保。


「川へ行けば魚はいくらでも獲れるわ」

「魔法栗もまだある。見つけやすいように目印として周囲の木を伐採しておいた」

「魚と栗でなんとかなりそうかも?」

「明日になったらネイサンが見つけた木の周辺を捜索しようよ。他にも魔法植物があるかもしれなし、魔物がいるかもしれない」

「賛成!」


 その夜はかまどを囲んで全員で食事をした。


 私が担当した焼き物は大好評。


 料理人としての信用と評価は満点だった。


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