163 自由日
昼食時間になったので、一旦集合。
午後は天気が崩れそうなので戻ることになった。
馬車の中でお弁当を食べ、王城に着いてから報告会が始まった。
「俺が勝った」
クルセード様が真っ先に自分の成果を自慢した。
アルード様は逃げる時の魔力を残すため、積極的に討伐していなかったみたいだけど、言い訳だと言われていた。
「オルフェのほうはどうだった?」
「とても素晴らしい成果でした! 勇者と賢者が揃っていました」
一匹釣るだけだったのが三匹になってしまったけれど、冷静に対応。
手分けして時間稼ぎをしながら一匹ずつ倒した。
私が氷の使い手だけで氷竜を倒すことができる方法を思いつき、オルフェ様とベルサス様で実際に可能であることを確認したことも説明された。
「ノーザンに希望が宿りました。この方法で氷竜を討伐してみます」
「そうか。生息地は多くある。検証しながら成果を出せばいい」
「そうですね」
「でも、最初の釣り役がいないとかも?」
アヤナが余計なことを言った。
「喜んで魔物に向かっていくネイサンみたいな人が必要ね」
「喜んではいない」
「えー、嬉しそうだったわよね?」
「役割を与えられたからだ。役に立たないよりずっといい」
「氷竜では役立てなかったわ……護符は私の力ではないもの」
エリザベートはがっかりした。
「氷竜以外の魔物を倒せばいい」
「そうだよ。他の魔物だっているから」
「白剣虎と北方熊だ」
「地上系だよね」
「空中戦は大変だから地上系がいいよね」
「地上系は空中から攻撃すると安全で楽だ」
「罠でもいいですね。範囲で一気に仕留める方法も考えるとか」
和気あいあい。
遠足のような雰囲気だけど、魔物討伐。
「ルクレシア、お手柄だな」
隣に座っていたアルード様が微笑んだ。
「ノーザンの状況は決して楽観できるものではない。だが、オルフェが希望を感じてくれてよかった」
「そうですね。オルフェ様がノーザンの希望です。ディアマスにヴァリウス様とアルード様という希望があるように」
「私の希望はルクレシアだ」
アルード様が優しく微笑む。
「兄上に良い報告ができそうだ」
「まだこれからです。あと二種類の魔物がいますから」
「そうだな。早く片付けよう。日程には余裕がある。一緒にノーザンを見て回ろう」
「もしかして、視察ができるのですか?」
「観光でもいい。現地の状況把握は重要だ。問題ない」
「ノーザンの街並みを見たいです。お土産を買えたら嬉しいですけれど」
「何がいい? 考えているのか?」
「氷竜の鱗で作られたものがあるとか」
「持ち帰りやすいもので考えると、アクセサリーか小物だろう」
「アルード様が行きたいところはありますか?」
「夜になるが、一緒にオーロラを見に行きたい」
「天候次第ですよね」
「スキーやスケートを楽しむのも手軽でいい」
「滑るのは苦手です」
「大丈夫だ。私が楽しめるように工夫する」
「どう考えてもデートプランしか考えてない人がいるわよ?」
「ノーザンだからでしょうね。ディアマスでは身分的に個人で楽しむ機会は持ちにくいわ。仕方がないわよ」
アヤナとエリザベートの話を耳にしても、アルード様との話題は変わりそうもなかった。
翌日は猛吹雪。
ノーザン王国らしい天気だと聞いて、これが北方の国なのだと思った。
当然だけど、魔物討伐はできない。
休息日。自由行動になった。
「ルクレシア、一緒に外出しないか?」
アルード様に誘われた。
「猛吹雪ですが?」
「防御魔法があれば関係ない」
「寒くはないでしょうが、視界が全然なさそうですよね?」
「このような天気は珍しくない。店は普通に開いている」
「開店休業では?」
「そういう店もあるだろうが、モールは屋根付きだ。入ってしまえば店が並んである。実はモールの近くにある店に行きたい」
「どんなお店ですか?」
「カフェだ。若者に人気がある」
なぜかアルード様は恥ずかしそうな感じだった。
「私もそのような店に行ってみたい。ノーザンなら私のことを知る者は少ない。素性がわからないだろう?」
「そうですね」
「男性よりも女性のほうが行きたがるカフェらしい」
なるほど。それでアルード様だけでは行きにくいと。
「わかりました」
「良かった!」
私とアルード様は猛吹雪の中、外出することになった。
「はぐれないように」
アルード様は私と手をつないだ。
空中に巨大な防御盾を出し続け、雪除けに使っている。
左右と背後にも防御盾。安全確保のためではなく全部吹雪除け。
私たち以外の人は誰も歩いていないけれど、魔法の盾で周囲を固めまくった私たちは客観的に見たらものすごく目立つ状態ではないかと思った。
「滑りやすい。浮遊魔法を使うか?」
「大丈夫です。雪の上を歩く感覚はディアマスでは体験しにくいので貴重です」
「そうだな」
まずは屋根付きのモールへ来た。
ここに来るまでは人がいなかったのに、モールの中には結構人がいた。
こんな猛吹雪なのにお店を開けている人も、買い物をする人もたくましいとしか言いようがない。
さまざまなものが売られているようだと思いながら進んでいく。
「買いたいものがあれば遠慮なく言ってほしい」
「特にないです。今のところは」
「箱を買わないか?」
アルード様が聞いてきた。
「箱ですか?」
「こっちだ」
アルード様が連れて行ってくれたのはさまざまな箱を扱っているお店。
サイズや形はさまざまだけど、材料は同じものを使っている。
「固そうですね。つるつるしていて、磨かれている感じです」
「ノーザンで最も有名で人気のある土産だ」
「そうなのですか?」
「氷竜の鱗をつかった箱だ」
ノーザンらしい感じがした。
「魔法耐性に優れているため、魔法具の保管に使われている。小物入れとしても使える」
「そうですね」
「このサイズがいい」
アルード様は小さな箱を手に取った。
「二つ買う」
手作りのため、全く同じものはない。
でも、ほぼ同じものを二つ買うことにしたようだった。
「一つはルクレシアに贈る」
「自分で買います」
「いや、これは贈り物でなくてはならない」
アルード様は箱を見つめた。
「古の時代、氷竜の鱗は貴重品だった。このような箱は贅沢品で、最も大切なものをしまうために使われた。私にとって最も大切なものは何だと思う?」
私は箱を見つめた。
小さい。つまり、小さなものしか入らない。
「……サイズからいって王子の指輪とか?」
「愛だ」
アルード様らしい答え。
「この箱に私の愛を込めて贈る。ルクレシアと兄上に。きっと兄上は喜んでくれる。ルクレシアは気にしなくていい。小物入れとして使えばいいだろう」
「私も買います!」
小さな箱を六つ。
「誰に贈る気だ?」
「両親と弟とイグニスのおじい様。ヴァリウス様とアルード様にも。良い方の傾国の美女としては贈らないとですよね」
「そうだな」
私とアルード様は愛を入れる箱を買った。
「ここだ」
モールを出た私たちはアルード様が行きたがっていたカフェに着いた。
「どんなカフェなのか楽しみです」
お店に入る。
たくさんのソファが置いてあった。
というか、ソファ席しかない。
「注文はこちらでお願いします」
「飲み物は何にする?」
「カフェオレで」
「私もそれにする。毛布の色は何にする?」
「毛布の色?」
メニューを見た。
確かに選べる。
「毛布を売っているのですか?」
「有料で貸してくれる」
「なるほど。赤で」
ルクレシアらしい色にした。
「白で」
アルード様が選んだのもアルード様らしい色。
店内には私たちしか客がいないため、どの席でも選び放題。
好きな席でいいというので、猛吹雪の様子が見える窓際の席にした。
「先に座っていい」
私が座ると私の隣にアルード様が座る。
そして、赤い毛布を広げて私とアルード様の膝にかけた。
白い毛布は背中のほう。二人で一枚の毛布を使うスタイル。
「こうすれば、背中も足のほうも暖かい」
「そうですね」
一人一枚ずつ使うよりも利口な使い方だと思った。
「おまたせしました」
店員がマグカップに入ったマグカップを持ってきてくれた。
それを受け取る。
「熱いのでお気を付けください。お二人には負けますけれど」
絶対にカップルだと思われた気がする。
でも、ノーザンに私とアルード様を知っている人はほとんどいない。
町中にある小さなカフェなら余計に。
「ここは毛布カフェだ。恋人と一緒に毛布を使うカフェとして人気だ」
恥ずかしそうな表情をしながらアルード様が教えてくれた。
「怒らないでほしい」
「怒りませんけれど……恥ずかしいです」
「今日ならきっと空いていると思った。普段は平日でも大人気らしい」
そんな情報をどこから仕入れたのだろうと思いながら温かいカフェオレを飲む。
「外は猛吹雪なのに、ここは暖かいですね」
「そうだな」
ほっこりとする時間。
また一つ、アルード様との素敵な思い出ができた。




