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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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161 氷竜討伐 



 朝になった。


 目が覚めた時にはアルード様がいなくて結界もなかったので、先に起きて部屋に戻ったみたい。


 朝食を食べたあと、早速氷竜の生息地へ向かうことになった。


「ここは小規模の生息地だが、それでも五十体以上いる」


 クルセード様の言葉を聞いた瞬間、ノーザン王国が氷竜だらけのような気がしてきた。


「氷竜の数が増えるにつれ生息地も増えた。当然、人間との接触も被害も増えている。ノーザン王国は討伐に力を入れているが、全く追いついていない。それは氷竜が強く、飛んで逃げることができ、増え続ける生息地を潰すことができないからだ。ついに国境を越えてディアマスまで氷竜が飛来するほどになってしまった」


 その通り。


「氷竜は寒冷地を好む。ディアマスの北部は冬こそ寒いが、夏はそれなりに暑い。夏に氷竜が来る可能性はほとんどないだろうが、冬になるたび来るのでは困る。ノーザン王国にいる氷竜を討伐して生息地を減らせば、ディアマスに飛来する氷竜はいなくなるはずだ」


 クルセード様が全員を順番に見回す。


「ノーザンのためではない。ディアマスのために氷竜を倒せ。この生息地を潰す」


 氷竜を倒すノルマではなく、小規模の生息地を潰すというノルマが課せられた。


 クルセード様らしいけれど、容赦がなさすぎる!


「作戦を説明する」


 アヤナをエサにして生息地から氷竜を一匹だけおびき寄せる。


 アヤナは結界で身を守る。


 氷竜はアヤナを食べようとするため、全員で倒す。


 ブレスが危険だけど、ベルサス様が氷竜の口を厚い氷で覆ってしまう。


 ブレスは冷気。氷を破壊することはできても溶かすことはできない。残っている氷への支配権を維持しておけば、魔力消費と引き換えに修復することでブレス対策を継続できる。


 ブレスの回数が多いほどベルサス様の負担が増えるため、他の者でできるだけ連携しながら効率的に倒すよう言われた。


「俺とアルードは別だ。魔法剣で何頭倒せるかを競う」


 アルード様にはより厳しいノルマが課せられた。


「そうしないと今日中にこの生息地を潰せないだろうからな」

「一日で潰す計画がおかしい」


 アルード様は不満顔。


「アルードが一緒だと氷竜討伐の難易度が格段に下がってしまう。それでは他の者のためにならず、テストとして実力を評価しにくくなってしまうからだ」

「氷竜は硬い。魔法剣で強引に切るには相当な魔力が必要だ。一匹ならともかく何十匹ともなるとつらい」

「ディアマスに飛竜が大量に飛来するかもしれない。対応できるようにもっと魔法剣を練習しろ。他の者のことについてはオルフェに任せる」


 オルフェ様が天使のような笑みを浮かべて手を振った。


「あくまでも学生だ。緊急時はオルフェのほうで氷竜を倒せ」

「わかっています。危険な状況になった場合は安全を確保して退却します」


 全員にブレス対策として身代わりのペンダントが配布された。


 一人三つ。三回までは通常のブレスを受けても平気だけど、強いブレスの場合は一度に全部が消えることもある。


 一回分だと思ってほしいとのことだった。


「ペンダントが効くのは魔法効果だけだ。物理的な効果、踏みつぶされた場合は効かない。防御魔法で耐えられなければ圧死だ。アヤナの結界が弱いと、結界ごと踏みつぶされるかもしれない」

「結構命懸け……」


 エサ役のアヤナはじっと身代わりのペンダントを見つめた。


「踏みつぶしにくいほど大きい結界にしないとダメそう。でも、それだと強度が下がっちゃうし……」

「あまりにも大きいと氷竜が飛び、全身で押しつぶそうとする。口に入らない程度のサイズにしろ」

「大きくても小さくてもダメってことね。丁度良いサイズがわかりにくいわ!」

「小さくても大丈夫です。口元を凍らせることができれば、アヤナも結界も食べることはできません」


 オルフェ様が優しく微笑みながら助言した。


「ベルサスが口元を凍らせることができない時は私が凍らせます。アヤナは安心して釣り役をしてください」

「は、はい! 頑張ります!」


 顔を真っ赤にして震えるアヤナが別人に見えた。





「キャ――――!」


 早速アヤナは失敗。


 手前にいる氷竜に攻撃魔法を当てるつもりが、動いてしまったせいでその奥にいる氷竜に当たってしまった。


 そのせいでアヤナに気づいた三匹の氷竜が来た。


 飛ぶほどの距離ではないので歩いて来るけれど、アヤナはあっという間に追いつかれそうだった。


 ここで何もしなければアヤナは終わり。


 でも、作戦通りに身を守るための結界を張った。


 氷竜がアヤナに到達する前に、一匹の氷竜の足元が凍り付いた。


 別の一匹はネイサン、残った一匹は私の火魔法で攻撃して左右に誘導した。


「ルクレシアの方を先に倒せ!」


 ネイサンには機動力がある。ディアマスで氷竜と対峙したこともあるので、距離をうまく保ちつつ、時間稼ぎをする。


 移動が遅い私をカートライト様が抱えて飛ぶことになった。


「ルクレシアの火魔法で攻撃だ! 雷は滑る!」

「わかっているわ!」


 エリザベスの雷魔法は鱗部分には全く効かない。


 他の部分であればいいけれど、分厚い皮膚や脂肪のせいでダメージを与えて弱らせることができない。


 なので、イアンとレアンが風魔法で妨害している間に、私が火魔法を撃って弱らせないといけない。


 そうすると私が狙われるので、カートライト様が私を連れて逃げる。


「逃げながら上級を撃てるか?」

「無理です!」


 早く逃げないとダメというのはわかるけれど、詠唱がうまくできない。失敗してしまう気がした。


「無詠唱の初級ならできます!」

「せめて中級だ!」

「ですよね」


 氷竜を対象にした単体魔法攻撃は当たりにくく弱い。範囲魔法にすれば確実に当たるけれど、イアンとレアンを巻き込んでしまう可能性が高くなる。


 上級の単体魔法攻撃を練習しておくべきだったわ……。


 困ったと思った時、エリザベートが護符を取り出した。


「イアン! 氷竜の足元の地面に張って!」

「了解!」


 護符を受け取ったイアンが素早く氷竜に近づき、その足元で護符を使った。


 その途端、氷竜の足元に魔法陣が展開。


 地面が崩落して氷竜が落ちた。


「レアン! 蓋よ!」

「わかっているよ!」


 風魔法で上に飛べないよう押さえつける作戦。


「ルクレシア! 攻撃よ!」

「上級の範囲から離れてね!」


 上級魔法を唱える。


 せっかくのチャンスを無駄にしたくない!


「燃え上がれ!」


 激しい炎の柱がそびえ立ち、氷竜が絶叫した。


 だけど、上級魔法を一回撃つだけでは倒せない。


 今は三匹をキープしている状態だけに、とにかくこの氷竜を倒したかった。


 なので、魔力の節約とか言っていられない。


 上級魔法を再度使う。落とし穴の中で仕留めてしまいたかった。


 弱点である腹部のほうからダメージを与えているので、結構効いている。


 連続して四回攻撃すると、氷竜を倒すことができた。


「一体仕留めたわ!」

「エリザベート、いいものを持って来たね?」

「マルゴットにいろいろ作ってもらったのよ。落とし穴の護符はまだあるわよ」


 マルゴットが使える強い魔法や便利な魔法の護符があった。


「同じ戦法でもう一体倒そう。ルクレシア、いける?」

「もう一体なら大丈夫だと思うわ」


 ネイサンが一人で相手をしている氷竜を倒すことにした。


 今度はレアンが護符を使って落とし穴を作った。


 落ちた氷竜を風使い四人の魔法で飛ばないように押さえつける。


「燃え上がれ!」


 上級の炎の柱を三回。


 さすがに疲れて息切れしていると、ネイサンが炎の魔剣を首に突き刺した。


 カートライト様、イアン、レアンも魔法剣を使って攻撃。翼の付け根付近を狙い、飛べなくする。


 魔法剣で攻撃しながら氷竜の魔力と生命力を奪う作戦で二体目を片付けた。


「あと一体……」


 足元が凍り付いてしまった氷竜はアヤナの結界を見ながら暴れているけれど、足を動かすことができない。


 完全に地面と足が氷で結合されてしまっている。口元にも氷。片翼も動いていないので、関節部分がきっと凍っている。


 氷竜だけに氷魔法による攻撃は効かないと思っていたけれど、動きや攻撃を封じることならできるのだとわかった。


「まだいます。私が氷で捕縛していますが、このままでは氷の修復によって魔力が減っていくだけです。できるだけ早く攻撃してほしいのですが?」


 オルフェ様が微笑みながら催促をしてきた。


「ルクレシアの魔力がつらそうね」

「つらいわ……」


 いきなり上級魔法を七回も使ってしまった。


 完全に休憩したいのが本音。


「ブレスと動きを封じているなら二体目と同じ方法でいいかも。ネイサン、首に剣を刺して来たら? 魔力を奪えば体力も減るわ」

「そうだな! 行って来る!」


 すぐに行ってしまった。さすがネイサン。


「カートライト様、イアン、レアンは動いている翼の付け根を魔法剣で攻撃して。尻尾の攻撃に気を付けてね」

「飛べなくしてくる」


 風使い三人が出発。


「私にできそうなことがないわ。雷魔法は効かないし、風魔法で邪魔をしてしまうのもダメだし」

「アヤナへの伝令を頼める? 結界を叩けばいいわ。ネイサンたちに身体強化の魔法をかけてほしいのよ。戦闘しやすくなるわ。私にも回復魔法を頂戴。エサ役はもう必要ないだろうから、こっちに戻って来ても平気だって伝えてくれない?」

「わかったわ!」


 エリザベートが空中を走っていく。


「的確な指示です。さすがルクレシアですね」


 オルフェ様が微笑んだ。


「やはり私の妻になるべきです。ルクレシアの才能を最高に活かせます」


 その言葉でわかってしまった。


 ノーザン王国は氷竜に悩まされているため、強力な火魔法の使い手がほしい。


 属性的に氷のオルフェ様と火の私の相性は最悪。


 でも、それは子どもが欲しければの話。


 子どもはいなくていい。王家のために強力な火魔法を使える能力者、王子妃として迎えるのにふさわしい身分を持っている女性ということであれば、コランダム公爵家の長女であるルクレシアは条件に当てはまる。


「他の女性を口説いてください。オルフェ様の魅力に負けてノーザンに来てくれます」

「努力はしています。ですが、王子妃に迎える女性となると、国王が認める女性でなくてはいけません」


 オルフェ様は私を見つめた。


「アルードの婚約者候補からはずれたというのに、ヴァリウスの婚約者候補になってしまうとは思いませんでした」

「私はディアマスのもの。ノーザンのものにはなりません」

「残酷な運命です」


 オルフェ様は悲しそうな表情になった。


「ルクレシアがディアマスにいることも、私を受け入れてくれないことも」


 アルード様が私の部屋に来て結界を張るぐらい警戒していた意味がよくわかった。


 堂々と口説いているというか、ノーザンに来て欲しいと勧誘している。


 ベルサス様がいるので全部聞かれているけれど、王子のオルフェ様は遠慮しない。


 たぶんだけど、配慮するのは王族だけだと感じた。


「ルクレシア、お待たせ!」


 アヤナが来て、回復魔法をかけてくれた。


「魔力は回復できないけれど」

「ありがとう。少し楽になったわ」

「あの……オルフェ様も回復魔法が必要でしょうか?」


 おずおずといった感じでアヤナが尋ねた。


 完全にはずがしがっている女性の姿。


「大丈夫です。アヤナは優しいですね。気持ちだけで十分です」

「はい!」


 アヤナが素直過ぎる……。


「じわじわと弱ってきた感じかしらね」

「そうね。ネイサンが火魔法を使っているし」


 飛べなくしたらしく、一回全員が離れて、範囲の火魔法を使っていた。


 そのあとは戻ってまたしても魔法剣で攻撃している。


 火魔法のせいで氷は溶けてしまったけれど、氷竜の口元は凍ったまま。


 ベルサス様が氷竜から視線をはずすことなく集中しているので、ブレス対策をしているのだと思った。


「剣が複数あっても仕方がないって思っていたけれど、うまく活用しているわね」


 ネイサンは炎の魔剣を氷竜の首に刺しっぱなしにして、手に持った熱風の剣で攻撃していた。


 熱で火傷のダメージを与える剣なので、氷竜に有効そう。


 カートライト様が氷竜の視線を引きつける役を担い、イアンとレアンはネイサンと同じ場所を風の魔法剣で狙っている。


 それぞれが自分の役割を果たし、連携で倒そうとしていることがよくわかった。


「ディアマスには勇ましい若者がいて羨ましいです」


 オルフェ様が必死に抵抗する氷竜と戦う男性陣たちを眩しそうに見つめた。


「氷竜の被害は増えるばかりだというのに、ノーザンの若者は戦いたがりません。魔法ばかりで魔法剣は使いません」

「氷の使い手が多いから、ですよね?」


 アヤナが恐る恐る尋ねた。


「そうです。氷の使い手は浮遊魔法、移動魔法、飛行魔法を使えません。氷魔法で動きを封じることはできますが、そのあとが問題です」


 決死の覚悟で氷竜に近づき、武器で攻撃しなくてはいけない。


 その役目を務めることを嫌がる者が圧倒的に多いらしい。


「ノーザンには徴兵制度があります。氷竜などの魔物を討伐するためですが、十分な討伐成果が出ないため、年々徴兵の期間が延びています。ノーザンはできるだけのことをしていますが、これ以上は難しいでしょう。いずれは領土放棄をするしかなさそうです」


 危険な魔物の生息地をノーザンの領土からはずす。


 そうすれば魔物に対する責任や義務が生じない。他国に移動した魔物は他国が倒せと言うだけで済む。


 ノーザンとしては負担が減るように思えるけれど、実際は違う。


 生息数と生息地を増やしている氷竜の被害は比較的安全だったノーザンの南方地域や近隣諸国にも広がってしまう。


 食い止めたくてはノーザンだけでの力ではどうにもならないというのが現状だということだった。


「ノーザンがいかに追い込まれているかを知ってください。クルセードとアルードが来てくれたのはまさに希望です。ですが、結果次第では絶望が訪れます。ディアマスとハイランドが何もしなければ、ノーザンに残された希望は消えるのを待つばかりなのです」


 オルフェ様は私の手を握った。


「ルクレシア、私は本気です。ノーザンの王子としても一人の男性としても、ルクレシアを心から望んでいます。結婚してくれませんか?」

「お断りします」


 きっぱり。


「ノーザンには希望があります。でも、オルフェ様は希望を信じていません」

「信じています。誰よりも強く」

「では、近すぎて見逃しています」

「そんなはずがありません」


 三体目の氷竜が倒れた。


「倒したわ!」

「やったわ!」


 アヤナとエリザベートが喜ぶ。


「見ましたか? 三体目は火魔法を多用していません。足止めすれば少しずつでもダメージを与えることができます」

「わかっています。ですが、氷竜に近づいてダメージを与えに行きたがる者がいないのです」

「次は私とオルフェ様だけで氷竜を倒しませんか? 一頭だけお試しです」

「わかりました。足止めをすればいいのですか?」

「そうです。オルフェ様だけで足、口、片翼を封じることができるのですよね?」

「できます。ノーザンの王子ですから」

「オルフェ様の実力を見せていただきます」


 私は不敵な笑みを浮かべた。


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