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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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155 氷竜



 早朝。


 女子の四人で眠っている部屋にアルード様が来た。


「おはようございます」

「おはよう」


 アルード様が全員に浄化魔法をかけてくれた。


「女性にとって入浴できないのはつらいだろう。これで我慢してほしい」


 アルード様なりに気遣ってくれた。


「大丈夫です。実を言うとアヤナが昨夜浄化魔法をかけてくれました」

「そうか」


 アルード様が微笑んだ。


「ルクレシア、兄上に同行する者には白魔導士がいる。ローブの色が白いだけにわかりやすい。何かあればその者が治療する」

「凍傷のことですね」


 氷竜はブレスを吐く。


 防御魔法があってもその威力はすさまじく、凍傷になってしまう。


 最悪の場合は即死。重症必至なので、治癒できないと命にかかわる。


「空中戦になることを予想しているため、風使いが多い。倒しにくいように見えるかもしれないが、連携で氷竜を倒す作戦だ。絶対に前に行くな。兄上の指示に従え。下手に火魔法を撃つと狙われる。ルクレシアは機動力がないだけに狙われない方がいい。いざという時に備えて魔力をとっておけ」

「わかりました」

「一緒に行けないのが残念だが、町を守る役目も重要だ」

「そうですね」

「ネイサンのことは何があっても気にするな。ゼイスレードは覚悟ができている」


 とても嫌な感じがした。


「ネイサンも戦わせるのですか?」

「兄上次第だが、火魔法を使えるからな。風はそれ以上に使える。機動力があるだけに活用しようと思うだろう」


 ゲームの条件的にはネイサンが氷竜を倒せる気がする。


 でも、現実は成人したばかりの学生でもある。


 心配だった。


「一番良くないのはルクレシアが誰かをかばうことだ。ルクレシアは最も弱い。かばわれるほうだ。わかったな?」

「はい」

「アヤナ、エリザベート、マルゴット、食事を済ませたら私の部屋に来い。ベルサスたちと合流してから階下に行く」

「はい!」

「わかりました!」

「そうします!」

「私がいなくても、私の魔法がルクレシアを守る」


 防御魔法がかかった。


「防御力が強い代わり、ダメージを受けると効果時間が減る。気をつけろ」

「はい」


 アルード様が部屋を出て行った。


「ルクレシアのために来たって感じ」


 アヤナがニヤニヤした。


「でしょうね」

「見え見えよ!」


 エリザベートとマルゴットが同意。


「私たちは大丈夫。ルクレシアは自分の身を守りなさいよ」

「わかっているわ」

「昨夜私が言ったことも忘れないでよ?」

「……覚えているわ」


 私はそう答えるしかなかった。





 私とネイサンは王太子殿下に同行して氷竜がいる場所に向かった。


「報告通り小型ですね」


 氷竜と言っても個体差がある。


 今回発見されたのは小型なので弱いほう。現時点では一頭だけだった。


 なので、冬ではあるけれど討伐はしやすい。


「開始しなさい」

「はっ!」


 魔導士たちが飛んでいく。


 私はヴァリウス様の側で待機。ネイサンも同じ。


「魔物との戦闘方法は多種多様です。勉強になるでしょう」

「はい」


 氷竜は地上にいたため、まずは火魔法で攻撃。


 当然、飛ぶ。


 でも、風使いが多くいるので、逃げ道を塞ぐように風魔法を行使する。


 狭い範囲内に氷竜を閉じ込めることで、逃がすことなくダメージを蓄積させ、安全に倒すという方法だった。


「昔は大変でした。今より魔法が少なかったからです」


 ヴァリウス様が話しかけて来た。


「竜は魔法が効きにくい。決死の覚悟で武器を持ち、突撃する人々が大勢いたのです」


 まさに命がけ。


「尊い犠牲のおかげで、人々は竜を倒しました。それは魔物に対する勝利であり、生存競争に対する勝利でもありました」

「はい」

「陣形が崩れています。サンダー、指示を出しながら塞いできなさい」

「はっ」


 ヴァリウス様の側で控えていたアレクサンダー様が向かった。


 でも、アレクサンダー様が合流する前に陣形のほころびから氷竜が抜け出してしまった。


「全く……追いますよ」


 すぐに全員で氷竜を追う。


 氷竜は疲れているはずだというのに、逃げるのが早かった。


 何度も雷が当たるけれど、効いていないように見える。


「冬季はダメですね。雷が完全に滑ってしまいます。気にしていません」


 竜は固い鱗を持っていて、その鱗には魔法耐性がある。


 魔法を防ぐ盾をびっしりとつけているようなものなので、魔法だけでは倒しにくい。


 氷竜は属性が氷。寒いほど防御力が上がる。


 雷魔法は鱗の表面を滑りやすく、分厚い皮膚や脂肪のせいもあって深部までダメージが届かない。


 火魔法で焼くことによって鱗や体全体にダメージを与えるのが有効そうだった。


「陣形を建て直せていません」


 何とか追いついたけれど、最初の時よりもバランスが悪い。


「ルクレシア、上級の火魔法を空中範囲で出せますね?」

「頑張ります」

「一回だけです。ネイサンは上級魔法が発動したあと、炎が消えるのを待ってから攻撃です。氷竜の首の後ろを炎の魔剣で刺し、魔力を奪いなさい。振り落とされないように。近づけない時やうまく刺せない時は無理せず離れなさい」

「はい!」


 私とネイサンの連携攻撃が指示された。


 呪文を唱え始める。


 焦ってはいけない。範囲は広いけれど、魔導士たちが風魔法で逃げ道を塞いでくれている。


 その魔導士たちを範囲に入れないほうが大事。


「燃え尽きろ!」


 空中に赤い線が浮かび上がり、その中が一気に燃え上がった。


 氷竜が炎に包まれる。


 ネイサンは動かない。一緒に燃え尽きたら困るので、炎が収まるのをちゃんと待っていた。


 炎が消えた瞬間、ネイサンが氷竜に急速接近、炎の魔剣を突き立てた。


「あの場所は背中です。首の後ろだというのに……」


 ネイサンは下に向けて刺したけれど、横に向けて刺せということだったらしい。


 氷竜の咆哮がとどろく。


 すぐに魔導士たちは距離を取った。


 氷竜の口元が光り出したために。


「ブレスです」


 ヴァリウス様が私の手を引いた。


「こちらに向かなければいいのですが」


 でも、向いた。


 直線的に氷のブレスが発動。


 緑色の文様がある円形のものが空中に浮かび上がる。


 風の防御盾。


 でも、ブレスは防御盾まで届かなった。


「意外と射程はなさそうです。小型だからかもしれません」

「なるほど」

「至近距離では相当な威力です。防ぐ自信がない者は逃げ遅れないようにしないといけません」


 氷竜が暴れている。


 たぶん、ネイサンが剣を突き刺したままなので、魔力をどんどん奪っているはず。


「暴れ方が変わりました。魔力切れで墜落するかもしれませんね」


 思わず下を見てしまった。


 森林地帯。町から離れているので、ここであれば大丈夫。


 でも、他の魔導士たちが距離を取ったせいで逃げ道ができてしまい、氷竜が逃げた。


「またですか」


 ネイサンがいないので、ヴァリウス様が私を片手で抱きかかえて飛行した。


 氷竜は山をぐるりと回り込み、高度を下げていく。


 平地の森林地帯に白い山が見えた。


 氷竜の悲鳴のような声がとどろいた瞬間、白い山が動く。


「そんな……」


 山ではなかった。雪を全身にかぶった氷竜だった。


「もう一頭いますね」


 ヴァリウス様は私を離した。


「サンダー、一時退却です。ルクレシアの面倒を見なさい」


 私を置いてヴァリウス様はあっという間に加速して行ってしまった。


 アレクサンダー様が雷魔法を宙に向かって何度も撃つ。


 魔導士たちが氷竜から離れ始めた。


 でも、ネイサンが残っている。背中から離れない。


「ネイサンが離れません!」

「剣が抜けないのかもしれない」


 剣を深く刺し過ぎたせいで。


「戻って来る魔導士たちに面倒を見てもらえ!」


 アレクサンダー様も氷竜のほうへ向かった。


「そんな……」


 私の頭の中に浮かんだのは昨夜のアヤナ。


 ――ゲームでは主人公がいないと犠牲者が出るわ。だから、部隊を分けるかどうかの選択をする時、全員一緒を選ばないといけないのよ。


 氷竜の攻撃を防ぐためには主人公がいなくてはいけない。


 アヤナは町にいる。なので、一緒にいるアルード様たちが死ぬことはない。


 でも、ヴァリウス様が率いる氷竜の討伐軍にはアヤナがいない。


 攻略対象者であるヴァリウス様、アレクサンダー様、ネイサンは死ぬ可能性がある。


 ゲームでは同行しないけれど、現実では同行するルクレシアもキャラの一人。


 主人公にとって邪魔なライバルなので死ぬ可能性がある。


 そのほうがアルード様と主人公のアヤナをくっつける強制補正をかけやすい。


 ――私たちが討伐軍について意見を出すことはできないわ。だから、絶対に無理しないこと。自分の命を最優先にするのよ!


 わかる。


 だけど……何もしないなんてできない!


 私は氷竜に向かって飛行した。


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