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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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154 北部の町



 討伐軍の拠点は北部にある要塞だった。


 先行部隊が氷竜を監視しているけれど、天気が悪い。


 雪が降っている状態では氷竜に有利過ぎるため、天候が回復するまで討伐は延期になった。


「寒いわ……ルクレシア、温めて!」


 アヤナが抱きついてきた。


「光の防御魔法があれば平気でしょう?」

「気持ちの問題よ!」

「寒い場所にいると温かさが恋しくなるのは人間の感覚として普通だ」

「土の防御魔法は寒さにも大丈夫なの?」

「平気よ。技能次第だけど」

「風や氷は?」

「平気です」

「問題ない」


 現在は廊下で待機中。


 ヴァリウス様とアルード様が部屋で話し合っているので。


 ドアが開いた。


「大広間へ移動する」


 先頭集団はヴァリウス様と護衛の魔導士が四人、アルード様の護衛は魔法騎士が二人と魔導士が二人。


 そのあとに私たちがぞろぞろとついていく。


 そのあとから役職者や魔導士がついてくる。


 これは私たちが一時的に王族付きになったから。


 でも、本当に偉いわけではない。王族付きの魔導士や騎士の所作等を間近で学ぶためだった。


 大広間で討伐軍に対する通達が行われた。


 明日の天候は回復する予定なので、朝に準備開始。最も気温が高くなる昼前後に氷竜を討伐する作戦が説明された。


「アルードは町を守りなさい」


 氷竜は山のほうにいるので、そっちで倒す。


 でも、翼があるので飛んで逃げる可能性がある。


 最も近い場所にある町のほうへ行ってしまう可能性があるため、アルード様が率いる部隊が町を守る。


 婚約者候補については私とネイサンの二人がヴァリウス様に同行して山のほうへ行き、アヤナたちはアルード様と町に行くことが伝えられた。


「私はこれから町へ行く。婚約者候補と護衛は一緒に来るように」


 アルード様は町長に会い、山間部で討伐すること、万が一に備えて防衛部隊が町に駐留することを伝えに行くことになった。


「思ったよりも大きな町ね」


 私、アヤナ、ネイサン、ベルサス様、カートライト様は町の様子を見に行った、


 エリザベート、マルゴット、イアンとレアンは別の方角。


 手分けして情報収集、あとでアルード様に報告する。


「人が全然いないわ」


 雪が降っているけれど、そのせいだけではない。


 山のほうに氷竜がいるため、人々は屋内に籠っているのだと思った。


「お店も閉まっているわね」

「命を守るための行動として正しい」

「だが、情報を聞けそうな人がいないのもある」

「酒場、商店街、市場が情報収集に向いています」

「三択なら酒場だな」


 ネイサンの意見。


「未成年でも入れる?」


 アヤナは未成年。


「言わなければ関係ない」

「そもそもこの時間に開いているの? 夜に営業するものでしょう?」

「魔物が出現した時は緊急時だ。町の男たちが集まりやすいのは町長の家か酒場だ」


 ネイサンは魔物討伐に慣れている。その言葉には説得力があった。


「行ってみましょう」

「酒場ってどこ?」


 まずは酒場らしい店を探すところからだった。





 しばらく行くと、男性が建物に入っていった。


「あそこだ!」

「酒場だ!」

「看板があります」


 入ってみると男性たちがいっぱいいた。


 お酒も飲んでいる人もいるけれど、楽しんでいる様子は全くない。


 大注目されてしまった。


「突然すまない」


 ネイサンがカウンターにいる男性に話しかけた。


「我々は昨日王都から来た。現在、北の要塞にいる。氷竜関連の情報収集を命じられた。すでに報告されていることも多数あるが、町の現状を教えてもらえないだろうか?」


 落ち着いた口調と騎士の制服のせいで、ネイサンは本物の騎士らしく見えた。


「制服を着ているが、随分若いな?」

「情報収集ってことは一番下の階級か?」

「王子付きだ。アルード王子殿下が町長と話されている間に、町の住人たちの声を聞くよう言われた。ちなみに俺の家名はゼイスレードだ。魔物討伐に詳しい者は必ず知っている」

「ゼイスレード!」

「英雄の家系だ!」

「おお!」

「心強い」


 ネイサンはあっという間に男性たちの心を掴んだ。


「氷竜は山にいる」

「遠目に見ると小さいが、実際はでかいはずだ」

「本当に小さければ遠目で見えないからな」

「まだこっちには来ていないが、何度も目撃されている」

「天候が悪い時、咆哮が聞こえた」

「空耳だという者もいるが、氷竜だと思っている者が多い」

「放置したら町に来るのは時間の問題だ」

「狙われないようにできるだけ屋内に籠っている」

「町全体が死んだように静まり返っている」

「情報を交換するため、男性たちは昼食時間に合わせて住居に近い酒場に集まっている」

「ここの町は大きいが、魔力が豊富な者はほとんどいない」

「昔ながらの町だ。大きな魔法施設もない」

「スキー場があるが、関連施設は山のほうだ」

「町のほうに来なければいいが」


 次々と男性たちが情報をくれた。


「この町の警備隊がどうしているかも知りたい」


 カートライト様が加わった。


「彼は騎士団長の息子だ。グリューワルド伯爵家の者だけに信頼でき、腕も立つ。ぜひ警備隊のことも教えてほしい」

「若くても強そうだ!」

「騎士団長の息子なら信頼できる!」

「警備隊は氷竜の監視に協力している。氷竜が来た場合は魔法で合図してくれる」

「天気が悪いとうまく伝わりにくいかもしれないが」

「町の住民はできるだけ屋内に籠って戸締りしている。とにかく氷竜対策が最優先だ」

「良くも悪くも観光客は一人もいない。緊急危険地域に指定されたせいだ」

「店の多くも閉まっている。商売にならないからだ」

「早く討伐してほしい!」

「春まで待てと言われたらつらい!」

「ここは観光業で多くの者が収入を得ている。去年もさんざんだった。今年も同じようになると生活が苦しいどころじゃない!」

「王太子殿下は一刻も早く氷竜を討伐したいとお考えです」


 ベルサス様が会話に入った。


「冬の氷竜は倒しにくい。ですが、王太子殿下は討伐軍を率いて来ました。北部の平和を取り戻すためです。この町は最も氷竜に近いため、アルード王子殿下が守りに来ます。不安だとは思いますが、今は信じてください」

「わかっている」

「そうだな」

「もちろん、信じている」


 町の人々は力強く頷いた。


 さすがだわ……。


 ネイサンもカートライト様もベルサス様もわかっている。


 魔物討伐についても、不安な人々のことも。


 私も力になりたい。役に立ちたい。人々を安心させるために何かしたい。


 そんな気持ちでいっぱいになった。


「ここにいる人で体調不良の人はいませんか?」


 アヤナが尋ねた。


「私は光魔法を使えます。病状や怪我の種類によりますが、治せるかもしれません」

「少しだけ風邪をひいている。治せるか?」

「余裕です」


 アヤナが回復魔法をかけた。


「助かった! 感謝する!」

「俺も鼻水が!」

「せきが!」

「実は昨日まで熱が!」


 次々と魔法希望者が殺到した。


 アヤナも大人気。


 私だけ何もできない……。


「嬢ちゃんは光魔法を使えないのか?」


 言われると思った。


「できません。私は火魔法なので」

「火魔法じゃなあ」

「氷竜を倒してくれ」

「ここでは使わなくていい。火事になったら大変だ」


 ゲラゲラと笑い出す人々。


 笑顔は元気の素。冗談で不安を減らせるならいい。


 でも……ちょっと悔しい!


「これでワインを買えるだけ買います。ビンでください」


 私は金貨を出した。


 魔法武器と魔法具だけと言われたけれど、一応はお金も持って来た。


「金貨だ!」

「金持ちか!」

「土産にする気か?」


 カウンターにいる人がワインのビンを十本出した。


「これぐらいだな」

「この酒は安い! 適性価じゃない!」


 ネイサンが怒った。


「観光地価格だ」

「王都から来る金持ちと現地にいる者では価格が違う。普通のことだ」

「十本でもいいです」


 私はワインのビンを両手に一本ずつ持った。


「ちょっとどいて。危ないから」


 私はワインのビンを握り締める。


 すぐにポンッという音と共にコルクが飛んだ。


「私は上級魔法が使えるのよ? 氷竜なんかに負けないわ! 景気づけにホットワインを奢ってあげるわよ!」

「ビンごと温めたのか! 俺にもできる!」


 ネイサンもワインのビンを持つと温める。


 中にある空気が膨張してコルクが飛んだ。


「店主がワインをケチったせいで十本しかない! 早い者勝ちだ!」

「嬢ちゃんが奢ってくれるのか?」

「ホットワインなら歓迎だ!」

「店主、もっと出せ!」

「そうだ、十本じゃ少ない!」

「金貨だろうが!」


 男性たちはコロッと態度を変え、私の味方になった。


 カウンターにいる店主も味方になった。


 たくさんのワインのビンとコップを出してくれる。


 全員でホットワインを飲むためだった。


「この町にいる人たちを安心させるために氷竜を倒すわよ!」

「わかった!」

「当然だ!」

「もちろんです!」

「やってやるわ!」


 全員で乾杯。


 暗かった店内の雰囲気は明るく力強くなった。



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