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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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149 今だけの魔法



 夜になった。


 魔法学院のあちこちがライトアップされて綺麗だけど、やっぱり学祭の夜と言えばキャンプファイアー。


 串に刺したマシュマロも売っていた。


 そのまま食べてもいいし、キャンプファイアーの火であぶって食べてもいい。


「食べるか?」

「いいえ。もうたくさん食べたので」


 一年生のお店は夕方まで。


 夜は魔法学院が手配したお弁当を食堂で食べることができるけれど、全く食べる気になれなかった。


「では、キャンプファイアーに点火します!」


 用意されていた巨大な薪の山に点火。


 風魔法で煽るので、あっという間に巨大な炎になっていく。


「やっぱり魔法の炎とは違いますね」

「そうだな。本物の炎ならではの良さがある」

「座らないのですか?」


 キャンプファイアーを取り囲むようにたくさんのベンチが用意されていて、仲が良い生徒たちが集まって座っている。


 一年生が優先なので、前のほうの席はほぼ一年生。


 二年生や三年生も空いている場所に座っていい。


「今年はルクレシアを誘い、了承してくれるなら絶対に座らないと決めていた」

「どうしてですか?」

「座るとすぐに他の者が来る。囲まれてしまうだろう? 二人きりとは言えなくなってしまう」

「なるほど」


 私は納得する。


「それで後ろのほうにいるのですね」


 しかも、結界まで張って誰も寄せ付けないようにしている。


 秘密の話をするためだと思うかもしれないけれど、アルード様は私の手をつないで離さない。


 二人だけで過ごしたいというアピールなのはわかりやすかった。


「ルクレシアは優しい。私の婚約者候補からはずされ、プロポーズを断り、兄上の婚約者候補に選ばれても私を友人として大切にしてくれる。こうして二人でいてくれる」

「勘違いされますね」

「私の気持ちはわかりやすい。言葉にしなくても成人してからは隠していない」

「ビビには言いました」

「ビビはルクレシアのことが好きだ。だからこそ、私もルクレシアのことが好きだと答えた。嘘よりも真実を教えたかった」

「アルード様は優しいです。いつだってそうです。私と違って愛情深い方です」

「ルクレシアも愛情深いと思うが?」

「自分ではそう思っていません」

「そうなのか」

「でも、愛を感じたい時はあります。優しい気持ちになれます」

「私も同じだ。愛を感じたい時がある。優しい気持ちになりたい」

「今夜は二人で優しい気持ちを感じませんか?」


 私は聞いてみた。


「最後の学祭です。王子と公爵令嬢ですけれど、学生でもあります。今夜は学生としてのひと時を楽しみたいです」

「私もそう思っている。別の場所に行かないか?」

「いいですよ」


 アルード様は結界を消した。


 私を抱き上げ、移動魔法と浮遊魔法をかける。


「迷路にでも行くつもりですか?」

「別の場所だ」


 アルード様が空中を走り出した。





 到着したのは見張りの塔と呼ばれる場所。


 魔法学院の敷地内を見渡すためにあるので高い。


 そして、塔内にもその屋根にもたくさんの生徒がいた。


「満員だな」

「そうですね」


 塔に着地する場所がない。


 でも、空中に浮かんだままでいいなら関係ない。


「魔法植物園のほうに行ってみるか」


 魔法植物園の建物の上にも生徒たちがいたけれど、二人組ばかり。


「あっ」


 レベッカを見つけてしまった。ペアを組んでいる男子生徒といる。


「他の者のことは見るな。話しかけてもいけない」

「そうですね」


 全員が二人だけで過ごすために来ている。


 だから、知り合いがいても話しかけない。


 一緒にいる二人だけで過ごすというのが暗黙のルール。


「いくつか場所がある。順番に見て回ってもいいが、どうする?」

「ここでいいです」

「わかった」


 私とアルード様は屋根の上に座った。


「今年の花火はどうでしょうか」

「二年生と三年生次第だな」


 火属性の生徒たちが花火の魔法陣を作り、学祭の最後を飾ってくれる。


 去年は私も作ったけれど、今年は対人魔法戦の本戦参加者だったのでしていない。


 他の生徒たちが作った力作を観賞するほうだった。


「ここからだと小さいと思います」


 花火がよく見える場所は大人気。


 見張りの塔は高い場所から見られるのと、占有できる人数が少ないという希少性で特に人気だった。


「それでもここがいいような気がした」

「空いていますよね」

「あまり人に見られたくないと思う者もいるだろう?」

「そうですね」

「私は王子だ。常に注目を浴びる。それは嬉しいことだが、大切な女性と二人で静かに過ごしたい時もある」

「離宮でも花火を見ましたね」

「そうだな」

「今年は王家の招待自体がなかったですね」

「私の成人を祝う大舞踏会があったからだ」


 それまでアルード様は王太子殿下と魔物討伐に行っていた。


「アルード様は卒業されたあと、どうするのですか?」

「いくつかの選択肢がある」


 国王陛下や王妃様は魔法大学への進学を望んでいる。


 ヴァリウス様は好きにすればいいというだけだと言う。


「私は兄上と同じようにするのもいいと思っている」


 ヴァリウス様は魔法学院を卒業したあと魔法大学に進学した。


 でも、ほとんど大学に行かずにあちこち行っていた。


 魔物討伐をしたり、他国に行ったり。


 クルセード様ともその時に知り合ったことを教えてくれた。


「クルセードはとても強い。ディアマスにずっといたら、あのような者とは出会えない気がする」

「そうかもしれませんね」


 アルード様は私のほうに顔を向けた。


「ルクレシア、私と一緒に世界を見に行かないか?」

「素敵ですね」


 素直にそう思った。


「でも、難しいです。魔法の修行や魔物討伐に明け暮れるつもりはないですし、領地や弟のことも気になります」

「そうか」

「アルード様にとっては良い経験になると思います」

「私もそう思う。だが、不安ではある。光魔法しか使えない」


 アルード様だからこその悩みがあった。


「攻撃魔法が少ない。魔法剣でも攻撃できるが、数が多いと疲れる。強力な魔法を一回使うだけで掃討できるのが羨ましい」

「強力な範囲魔法を使える人と一緒に行けばいいのでは?」

「断られたばかりだ」

「ベルサス様とかカートライト様とか」

「ベルサスは魔法大学、カートライトは騎士団だ。今以上に励むだろう」


 アルード様の親友である二人はすでに進路を決めているようだった。


「イアンとレアンとか」

「進路で迷っているらしい」


 これまでは双子だけに同じ進路だった。


 でも、一生同じ選択ばかりはどうなのかと思い、あえて別々の道に進むことをも考えているとのことだった。


「そうですか」

「ルクレシアはどうするつもりだ?」


 私なりに調べた。


 この世界の女性のほとんどはできるだけ早く結婚相手を探して結婚する。そして、できるだけ早く子どもを作るために頑張りながら家や家族を守る。


 ディアマスは魔物が多い場所に建国された。


 魔物と戦いながら安心して暮らせる場所を確保したいという人々の気持ちが強い。


 だからこそ、魔物と戦おうと思う人々が多くいるし、自分たちの居場所を守ろうと思う気持ちが家を守ることや子どもを作ることにつながっている。


「一時的に家を出て、一人で暮らしてみるのもいいと思っています」


 アヤナは卒業したら就職する気でいる。


 コランダム公爵家に後見を頼んだのは、自分を利用価値のある駒としか思っていないスピネール男爵家から距離を取るため。


 成人してしまえば、自分で決める権利ができる。


 自立して、働いて、生きていく。


 そう決めているアヤナがかっこよくて、眩しくて、羨ましかった。


「正直に言うとアヤナの真似です。とても強い生き方だと思って」

「そうか。だが、ないものねだりかもしれない」

「そうですね。両親に反対されてしまいます。始まりました」


 花火が上がった。


 一発ずつ。ゆっくりと。


「願い事をするといい」


 学祭に上がる花火に願い事をすると叶うと言われている。


 よくあるおまじないみたいなもの。


 正直、花火に願い事を叶える力はないと思う。


 でも、自分が何を望んでいるのかを考えることはとても大事。


 それは自分と向き合うことであり、これからの人生をどうしたいかにつながることだから。


 どんなことがあっても可能性を信じられますように……。


 ヴァリウス様には不滅の魔法があると言ったけれど、私の心の中には不安がある。


 悩むこともつらいこともある。


 それでも、きっと、いつか、必ず。


 そう思えるのは、希望がある証拠。


 ずっと守りたい……私の希望を! 夢を! 素敵な未来にしたいから!


 私を応援してくれるように、夜空に花火の光が溢れていく。


 その数は増えるばかり。消えない。広がっていく。


 あまりの美しさに見惚れてしまうけれど、永遠には続かない。


 花火は一瞬で咲き誇る強さと同時に一瞬で消えてしまうはかなさもあった。


「ルクレシア」


 不意にアルード様が私の名前を呼んだ。


「愛している」


 知っている。


「私の気持ちは変わらない。ルクレシアが幸せになれるよう支えたい」


 誠実で一途なアルード様ならそうだろうと思った。


 だから。


「学祭の花火の最中にキスをした二人は幸せになれるそうです。どうしますか?」


 答えはすぐにわかった。


 私とアルード様の唇が重なる。


 キスは花火と同じ。


 今だけの特別な魔法だった。



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