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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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148 強くなった証拠



「飲み物を買おう」

「そうですね」


 一年生はさまざまな飲食物を売っているけれど、必ず飲み物がある。


 種類も豊富。


「何がいい?」

「アルード様は?」

「フルーツ系がいい。対戦で疲れたのでさっぱりした感じがいい」


 アルード様はレモネード、私はマンゴージュースを選んだ。


「私が出す」


 奢ってくれた。


「マンゴージュースも気になる。一口くれないか?」

「一口なら……」

「私のも飲んでいい」


 レモネードを渡された。


 互いの飲み物を交換して飲むなんて……恋人みたい。


 友人でそういうことを普通にする人は大勢いる。


 でも、高位の貴族はしない。するのは恋人や婚約者とだけ。


 アルード様だってわかっているはずなのに……。


「美味しい」


 微笑むアルード様をちょっとだけ恨めしそうに睨んでしまう。


「気に入ったのであればそのままどうぞ」

「ルクレシアは飲まないのか?」

「アルード様、わかっていてやっていますよね?」

「もちろんだ。だが、気にしなくていい」


 魔法がかかった。


「浄化魔法をかけた。大丈夫だ」


 わかる。解決。


 私は考え過ぎていたのかもしれない。


「そうですね。これで解決です」


 私がカップを受け取ってマンゴージュースを飲むと、アルード様が照れたような表情になった。


 やっぱり浄化魔法は関係ないわ!


 同じストローを使ったかどうかが重要ということを学んだ。


「光魔法は役立つ魔法ですね。浄化魔法とか回復魔法とか。そういえば、アルード様は試合中に回復魔法を使っていなかったような気がします」


 ベルサス様もカーライト様もつらそうだった。


 アヤナが回復魔法をかけたのは、アルード様が回復魔法をかけていなかったからではないかと思った。


「忙しかった」

「クルセード様相手では当然です」


 クルセード様は強力な魔法を使える。


 できるだけ強力な魔法を使わせないようにするため、魔法剣による近接戦を仕掛けていた。


「毒対策もしていたからな」

「床面を覆っていた水ですか?」

「そうだ。できるだけ解毒して薄めていた。でなければ、あの水を使った攻撃が当たった時にベルサスやカーライトに解毒魔法をかけないといけなくなる。だが、アインが何度も毒素を強くするため、解毒魔法で魔力を削られた」


 気づかない部分で、アルード様とアイン様による攻防があった。


「どうして毒だとわかったのですか?」

「私の作った結界だからだ。修復できるように支配権を保持していたが、毒で浸食して壊そうとした」

「なるほど」


 それならアルード様が毒対策をしなければならない。


「大変でしたね」

「そうだな。だが、経験にも思い出にもなった」

「そうですね」

「学生として学祭を楽しめるのは最後だ。夜のキャンプファイアーは二人で行きたい。誘われてくれないか?」


 キャンプファイアーに恋人と二人で参加するのは定番中の定番。


「私は友人です。それでもですか?」

「友人を誘うこともペアを組んだ相手を誘うこともある。自由だ」

「そうですけれど」

「推してくれると言っただろう?」

「わかりました。でも、私に飲食物を奢らせてください」


 疲れたアルード様を労わりたくても私は光魔法を使えない。


 だから、美味しいものを食べさせようと思った。


「私が奢るほうだと思うのだが、逆にしたいということか?」

「そうです。回復魔法の代わりに回復用の飲食物を奢りたい気分なのです」


 アルード様が優しく微笑む。


「愛の魔法がかかった」

「アルード様を見習いたいだけです。行きましょう!」


 今度は私の番。


 アルード様の手を引いて、美味しいものを探しに向かった。





「ルクレシアには才能がある」


 アルード様と一緒に串焼きを食べているとそう言われた。


「一流の料理人になれそうだ」


 私たちが一年生の時はクラスで作ったものを販売していただけだった。


 でも、今年の一年生は工夫していて、客に作らせることもできるようになっていた。


 現在食べている串焼きもそれ。すでに焼いたものを買うこともできるけれど、自分で焼くこともできる。


 そのほうができたてにできるし、自分の好みに合わせて焼き加減も調整できる。


 失敗しても学祭なので良い思い出になるということで、どの店も自分で体験したがる生徒がいっぱいいた。


「火魔法は料理に使えるので」

「一年生だった時もルクレシアの焼いた肉を食べたが、とても美味しかった」


 アルード様は当番ではない時に客として私の焼いた肉を買って食べていた。


 味見として無料で食べていたアヤナとは違って。


「この肉もそうだ。パンケーキもふわふわで美味しかった」


 パンケーキ屋にも行って、自分で焼いた。


 トッピングも自分でできると言うので、アルード様がトッピングを担当。生クリームやフルーツで飾り付けてくれた。


「ハートでしたね」


 アルード様はチョコペンでハートマークをたくさん書いてくれた。


「女性が喜ぶマークだ。メッセージのほうが良かったか?」

「どちらでも。今度はアイスクリームを食べに行きませんか?」

「わかった」


 今年の学祭は対戦と食べ歩きでどんどん時間が過ぎていった。





 お腹がいっぱいになったあとはアヤナたちと合流。


 二年生がしている出し物を見に行った。


「アルード様は何でもできちゃうわ!」


 アヤナが感嘆していた。


「最速タイムを破れそうもないわね」


 毎年、迷路がある。


 一人で挑戦するか二人で挑戦するかを選ぶことができるけれど、二人で挑戦した時に最速タイムを出すと賞品がもらえる。


 まずは最初に一人で挑戦して道順を記憶。


 そのあと、二人で挑戦するのが定番。


 目指すのは最速タイム。アルード様は私をお姫様抱っこして移動魔法をかけると、迷路を最速タイムで脱出した。


 そのタイムが圧倒的に速くて、今年の学生における最速ペアになりそうだった。


「来た!」

「タイムは?」


 ネイサンも挑戦していた。


 アヤナとの噂がますます強くならないように、つまらなさそうにしているエリザベートを誘って挑戦していた。


「速いけれど、最速ではないわね」

「負けた」

「途中で道を間違えたのよ! ありえないわ!」

「スピードを出し過ぎて曲がり損ねた」

「もう一回やれば?」

「もう一回いいか?」

「アヤナは行かないの?」

「カートライト様と一緒に別のコースをやったから。最速だったわ!」

「どのコースよ?」

「風のコース」

「ネイサン、光のタイムはさすがに破りにくいわ。別のコースにしましょうよ。雷はどう?」

「そうするか」

「最速出したよ!」


 イアン、レアン、ベルサス様、ビビが戻って来た。


「氷のコースと土のコースで」

「ビビ、疲れていない?」


 アヤナがすぐに駆け寄った。


「いつでも回復魔法をかけるわよ?」

「大丈夫です!」


 ビビは信じられないほど元気そうに見え、何も言わなければ病気とは思えない見た目になっていた。


「イアンもレアンもとても速いです! 一番になりました!」


 ビビはイアンと組んで氷のコース、レアンとベルサス様が組んで土のコースで最速タイムを出した。


 男女のペアの場合、女性はお姫様抱っこが定番なのでビビでも参加できる。


「光のコースは記録リセットまで賞品を貰えないかも。アルード様が速すぎるから」

「ルクレシア、火のコースも挑戦しに行かないか? ルクレシアの属性だ」

「ビビと一緒にいたいです」


 ビビが来ているのは知らなかった。


「ようやく会えました。元気そうで良かったです」

「ルクレシアを心配させたくなくて、決勝戦は絶対に見せないと言われてしまいました。でも、本当は違います。お兄様を応援しないからです」


 全員の視線がベルサス様に向いた。


「ビビがいると魔法に集中できません。チームに迷惑をかけてしまいます」

「特別試合は見ました! とてもすごかったです!」


 体調を崩れたらすぐに帰るため、ビビは浮遊席のほうにいた。


「お兄様が頑張っているところと、ルクレシアが大活躍していたところを見ることができて良かったです!」

「ベルサス様のほうが活躍していましたよ?」

「ピンチが多かったです。光魔法に助けられていました」


 ビビはアルード様のほうを向いた。


「アルード王子殿下、お兄様を助けてくれてありがとうございました」

「ベルサスは大切な仲間だ。助けるのは当然だ」

「でも、ルクレシアを守るほうがすごかったです。たくさんの盾がありました。お兄様には盾を使っていません」


 全員が苦笑い。


「ベルサスは自分で防御できる。ルクレシアにはできないからだ」

「隠さなくていいのに。アルード様はルクレシアが好きですよね?」


 ビビが聞いてしまった。


「大好きだ。子どもの時からずっと。私の大切な女性だ」


 アルード様は優しく微笑みながら答えた。


「でも、婚約者候補からはずしました」

「父上が勝手にしただけだ。私の意志ではない」

「今のルクレシアは王太子殿下の婚約者候補です」

「婚約者ではない。関係ない」


 アルード様は私の手を取ると軽く口づけた。


「兄上も私の気持ちを知っている。ルクレシアを守ってくれるだろう」

「ルクレシアはすごいです。アルード王子殿下にも王太子殿下にも守られています。でも、一番大事なのはルクレシアの気持ちです。ルクレシアの気持ちを守ってくださいね」

「そうだな。ルクレシアの気持ちを大事にする」

「申し訳ありません」


 ベルサス様が口を挟んだ。


「妹は病気だったので世間知らずです。お許しください」

「気にするな。これほど元気になったのは喜ばしい。ベルサスの守りがあったからだろう。これからも大切に守ってやるといい」

「ありがとうございます。そろそろ妹は帰る時間なので、失礼させていただきます」

「えー! 来たばかりなのに!」

「短時間だけという約束でした」

「アイスクリームも食べていないのに!」

「シャーベットを食べました」

「アイスクリームがいいです!」

「では、最後にアイスクリームを食べて終わりです。失礼します」

「一緒に行くよ。浮遊魔法が切れたら大変だから」

「僕も」

「ルクレシア、またです!」

「またね!」


 ベルサス様とビビに双子が付き添って行ってしまった。


「ビビは強い。私も子どもの時に強くありたかった」


 アルード様が私を見つめる。


「過去に戻ることはできません。でも、戻る必要もありません。現在のアルード様は強いですから」

「そうだな。こんなこともできる」


 アルード様が私の手を取ってつないだ。


 昔のアルード様にはできなかったけれど、今のアルード様ならできること。


「こんな風に堂々とするのは強くなった証拠ですね」


 笑いながら伝えた。



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