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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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147 勝敗以上のもの



 私に向かって容赦なく火魔法が飛んで来たけれど、全部盾魔法で防がれた。


 アルード様が守ってくれている!


 そのことが私の安心とやる気につながった。


 お返しとばかりにクルセード様に中級魔法を使う。


 余裕で避けられたけれど、少しでもアルード様の攻撃するための隙ができればいいと思っただけ。


 初級魔法も使うけれど、それはアイン様のほう。


 ベルサス様の消耗度はかなりなので、助けないといけない。


 援護するように火魔法をちょこちょこ撃ちながら、ネイサンのほうに向かう。


「来るな! 触手が厄介だ!」


 ネイサンに言われるけれど、私は奥のほうに移動したいだけ。


「頑張って!」


 ナハト様への挨拶代わりに中級魔法の炎の壁を出す。


 それによってナハト様の背後にあった黒いモヤモヤが消え、そこから出ていた黒い鞭も全部消えた。


「さすがルクレシアだ!」


 ネイサンが魔法剣で攻撃を仕掛ける。


 黒い鞭を生み出す元がなくなったので、ナハト様は短剣でネイサンの攻撃を受け、すぐに別の黒い触手を出そうとする。


 でも、すかさずネイサンの風魔法で邪魔された。


 私も移動しなら初級魔法の連続攻撃をすると、ナハト様は慌てて逃げる。


 ネイサンが追撃していくのに任せて私はどんどん移動した。


「このあたりのはず……」


 私が移動したのはクルセード様たちの拠点があるはずの上。


「危ないぞ!」


 アルード様の声より早く下から水の塊が浮き上がってくる。


 でも、大丈夫。


 私は炎の壁を床に敷くように出した。


 術者の技能があれば、魔法の位置を調整できる。


 通常は壁なので下から上に向けて発生させるけれど、足元に敷くように発生させれば、アイン様の水魔法を相殺できると思った。


 予想通り、下からの攻撃は厄介なだけで威力はない。


 だけど、このままでは勝てない。


「拠点攻撃をするつもりか?」


 クルセード様は余裕を浮かべたままアルード様の剣をあしらっている。


「当然!」


 水を張ったのはそれが防御魔法の代わりだから。


 なので、水をなくせば拠点を直接攻撃できる。


 クルセード様の火魔法が容赦なく飛んで来るけれど、アルード様が私のところに移動して来て全部防いでくれた。


「私が守る!」


 やっぱりアルード様は王子様って感じだわ!


 でも、余韻に浸っている暇はない。


 魔力を集めて集中するために杖を掲げた。


「風よ! 集まれ!」


 私が使うのは風魔法。


「おい! そこは火だろう!」


 クルセード様が呆れた。


 普通ならそうだけど、床に広がった水の全てを蒸発させるのは難しい。


 なので、別の方法を試す。


「吹き飛べ!」


 杖の先から凝縮した風が水面に向かって放たれた。


 単純に風で水を吹き飛ばす作戦。


 それは難しいことをネイサンは教えてくれたけれど、私には勝算がある。


 なぜなら、さっきから水の量が増えていないどころか、下から水魔法の攻撃があるほど水量が減っていく気がした。


 アイン様は魔力を相当消耗しているので、現在は水量を増やしたくない。


 見た目としては水が張っている状態でわかりにくいけれど、開始時よりも深さがなくなっている。


 それはつまるところ、拠点を守る防御が薄くなっているということ。


 前面を吹き飛ばすのは無理だけど、杖の先のだけであればできるかもしれない。


「ベルサス!」


 カートライト様の声が聞こえた。


 アヤナが結界を解いた証拠。


 たぶん、ベルサス様の支援に向かった。


「アヤナはこっち!」

「嘘でしょう!」


 アヤナが移動してくるけれど、遅い。


 しかも、火魔法の攻撃が大量に飛んで来るので風とか光とか氷とかの魔法が飛んで来て守っている。


 とにかくアヤナを守れと思った人が全員魔法を飛ばしたみたい。


「私にできるのは回復魔法だけよ!」

「空中に四角い結果を張って! 飛ばした水を受けるようにしてほしいのよ!」


 アヤナが来たことによって私の頭上からも火の雨が降って来た。


 それと同時に炎の竜が私とアヤナをぐるりと取り囲む。


「ひっ!」


 すぐに私とアヤナを結界が包んだ。


 それでクルセード様の魔法を防ぐ。


「ありがとう、アヤナ!」

「アルード様の結界よ」


 どんな状況になってもアルード様が守ってくれている。


 何とかして拠点攻略をしたい!


「アルード様の結界が消えたらさっき言ったようにして。範囲外に排水できるともっといいかも」

「斜めの屋根みたいな感じ? できるだけ水を少なくして床面を出したいのよね?」


 さすがアヤナ。私の狙いをすぐに理解してくれた。


「そういうこと。一部だけでも床面が出れば、拠点攻撃ができると思うのよ」

「わかったわ!」


 アルード様の結界が消える。


 すると、アヤナが次々と空中に四角い結界を張った。


 弾き飛ばした水を四角い結界の上にかかるせいで床に戻らず、水深がどんどん薄くなっていく。


「見えたわ!」


 水を飛ばしつづけた結果、床面が見えて来た。


 アイン様が水を増量できないようベルサス様とカーライト様が猛攻を仕掛けてくれている。


 これなら私の風で吹き飛ばせる!


「吹き飛べ!」


 最大出力で風を床に叩きつけた。


「攻撃して!」

「私がするの?」


 アヤナが言った瞬間、露出した床の部分に光の攻撃魔法が当たった。


 床の色が変わる。


「そこまで!」


 大歓声。


「とどめを奪われたわ……」


 最後に光魔法で攻撃したのはアルード様だった。


「アルード様! ありがとうございます!」


 アルード様が私の側に来た。


「勝った……」


 抱きしめられた。


 たぶん、魔王チームに勝利できるとは思っていなかった。


 でも、奇跡が起きた。


 アルード様は言葉にしきれないほど、この勝利のすごさを感じているに違いない。


「クルセード様は寛大な方です。加勢を認めてくださいました」

「最初から私たちの魔力が減っていたからだろう」

「きっと後悔していますね」

「これで良かったと思っている」

「めちゃくちゃ不機嫌だけど?」


 アヤナの言葉を聞いて、私はクルセード様のほうを見る。


 結界の中にいた。


「閉じ込めたのですね」

「ルクレシアの風魔法で床が完全に見えると思って注意がそれた。その瞬間を使って結界で閉じ込めた」


 クルセード様を覆った結界に大量の黒いものが付着した。


 それが結界の色を濁らせてひびを入れていく。


 どう考えても闇魔法。


 壊れかけた結界を内側から突き破るように炎が立ち上った。


 結界で封印した魔王が復活したような光景だった。


「名誉を守れたな?」


 クルセード様がにやりとした。


「経験を積めた。心から感謝する」

「そうだろう? 俺なりにどうすれば学生たちのためになるか考えた」


 一般的に多いと言われる水魔法の使い手だけど、対戦で活躍できることがほとんどない。


 でも、床一面に水を張ると言う方法は斬新だし盲点。


 攻撃魔法を下から使うのも意外だった。


 闇魔法の使い手と闇魔法にも驚いた。


 闇魔法の使い手も闇魔法も存在していることは知っているけれど、実際に会ったこともなければ見たこともない。


 自分の目で確認できたというだけでもかなりのこと。


 クルセード様たちはとても強いけれど、何人もの仲間たちが協力することで勝つことができた。


 力を合わせることの大切さも教えてくれた。


「アルードの結界をさっさと消すことはできた」


 試合が終わったあと、ナハト様の闇魔法でクルセード様を閉じ込めていた結界を壊した。


 あれを使えば、拠点防御用の魔法もすぐに消えただろうし、クルセード様も強力な範囲魔法を使っていなかった。


 手を抜いたという言い方はしたくないけれど、有効な方法をあえて使わなかったのは確か。


「だが、勝敗は重要ではない。有望な生徒たちに全力を尽くしてほしかった」

「クルセードがこのような催しに参加してくれただけで格別な配慮だ。嬉しい」

「そう思うのであればもっと笑え。学祭で重要なのは良い思い出を作ることだ。対戦以外でも良い思い出を作れ」

「わかった」


 アルード様は笑顔で答えると、私のほうを見た。


「ルクレシア、このあと一緒に一年生がやっている店を見に行かないか?」

「実はアヤナたちと」

「アルード様と二人で行きなさい! エリザベートたちもわかっているから」

「でも」

「対戦のペアを組んでくれたでしょう? お世話になったお礼をしないとね。アルード様、ルクレシアをお願いします!」

「わかった。ルクレシア、行こう」


 アルード様が私の手を取る。


「とりあえず移動する。本当に嫌ならそう言ってほしい。王子の力で強制するような思い出にはしたくない」

「そうではなくて……恥ずかしいです」


 全員に見られている場所で誘われたから。


「これから二人でデートしますって感じがしたというか」

「大丈夫だ」


 私に回復魔法がかかった。


「私が守る。ペアの時もチームの時もそれ以外でも」

「そうですね。アルード様はとても強いですから」


 素直にそう思うことができた。


 だから、一緒に行く。


 それはつまり、二人でデートをするということと同じだった。



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