145 学祭本戦
学祭の日になった。
予選会で敗退したチームは実行委員会のメンバーとして学校内の飾りつけや夜のキャンプファイアー等の担当になる。
でも、私たちのチームは勝ち抜いたので対人魔法戦に参加した。
これまでの学祭では面白い勝負になりそうなチームで戦い、勝ったチームの中から最も人気があったチームが最優秀チームになっていた。
だけど、今回は勝ち抜き戦。
優勝したチームが魔王チームと呼ばれるクルセード様たちと戦う。
私たちのチームは順調に勝ち上がり、決勝戦でアルード様たちのチームと戦った。
可能性を信じることは大切なこと。
それは私たちの夢、明るい未来に近づくための道になってくれる。
でも、常に勝利が得られるとは限らない。
三人で懸命に手を伸ばしたけれど、届かなかった。
私たちのチームは負けた。
「ごめんね」
アヤナは瞳を潤ませながら悔しがっていた。
「私のせいだわ。防御しかできないのに防御を突破されちゃったから」
「私のせいよ。あの三人を引き離せなかったわ」
「もっと強くなりたい……一人で無双ができるぐらいに」
全員が大反省。
だけど、各自ができることを全部した。
「頑張ってください!」
「魔王チームを倒して!」
「今度は全力で応援する!」
「できるだけのことはする」
「同じく」
「やれることはする」
それがアルード様たちの答え。
決勝戦が終わったあとは休憩時間。魔力を少しでも回復するためだけど、私たちが全力を尽くしたせいで結構減ってしまっている状態のはず。
クルセード様たちは初戦なので魔力がある。それだけでもかなり有利。
もしかして……勝てないどころかすぐに負けてしまいそう?
不安になってしまった。
「これよりスペシャルゲスト、魔王チームとの特別試合を行います!」
すでに在校生での優勝チームはアルード様たちのチームに決まっている。
対戦相手はハイランドの王子が率いるチーム。
生徒の全員がディアマスの学生代表ともいえるアルード様たちのチームを応援するに決まっていた。
「準備時間に入ります!」
予選会と違い、準備時間が少し長い。
試合前の打ち合わせ時間を取れるようにするためと、実力者だからこそ防御系や支援系の魔法の数が増えるので、かける手間が増えるせいだった。
「ベルサス様! 応援しています!」
「カートライト様! 頑張ってください!」
「アルード様、勝利を信じています!」
アルード様は応援してくれる人々に応えるように手を上げた。
会場中が大興奮。
耳が痛くなるほどの大歓声が起きた。
「本当に変わったわ。一年生の頃だったら絶対にあんなことしなかったわよね」
観客席から私とアヤナも見守っていた。
「やっぱり王子様よね。みんなに慕われているし、夢中にさせてしまう魅力があるわ」
以前は完璧な王子らしく常に冷静であるように振舞っていた。
でも、成人してからのアルード様の表情は柔らかくなり、笑顔を浮かべることが多くなった。
魔法学院におけるその影響力はすさまじい。
女子に人気があるどころではなく、男子からも絶大な信頼と支持を受けている。
王子だからというのはある。でも、皆が口を揃えて言うのは、ディアマスの光だからという答え。
アルード様の中にある愛が優しさや笑顔になって伝わり、皆を幸せにしている。
それは紛れもなく愛によって生まれる魔法のような効果だった。
「戦闘開始!」
ついに始まった。
「なんだ?」
足元に急激に広がっていくのは水。
そのせいで床面が全く見えなくなった。
アルード様が拠点に張った結界の部分だけが取り残されて見えている状態になった。
「向こうの拠点が見えないわ!」
確かに。
水は濁っている。そのせいで水の下が見えない。
でも、対戦をこなしてきた三年生であれば、大体の位置はわかる。
「あれだと火が効かない」
水で防御しているので、火魔法の効果が弱められてしまう
「でも、アルード様たちのほうで火を使う人はいないわよ? クルセード様は自分に不利なことをしていない?」
「アルード様たちはどうせ浮遊して移動する。床面から火を出す必要はないから関係ない。氷も効きにくい。床石よりも凍りにくい」
ベルサス様にとってもあまり嬉しくない状態になった。
「風も厳しいな」
「どうしてよ?」
「水には流動性があるからだ。攻撃を受け流すように弱めてしまう。深部までダメージが届かない。拠点の上にある水だけ弾き飛ばそうとしても、他の場所から水が流れ込んでしまう。床面にある水の全てを弾き飛ばすつもりでないといけない」
水使いは多くいるけれど、こんな戦法を取っている人は見たことがなかった。
「アルード様の結界が消えたら水が入り込む。拠点防衛失敗で負けるかもしれないな?」
「防御魔法を張っているかもしれないけれど、アルード様たちの拠点があるほうから水が一気に広がったものね」
「一度結界を張ると、中には魔法を張れないからな」
ただ水を張っただけ。
なのに、アルード様たちのチームが一気に不利になってしまったようだった。
「あの水……毒かも。だから濁っているんじゃない?」
「だとすれば、攻撃力があるということになる。拠点の色が変わりやすい」
「最悪じゃない! こんな方法があったなんて!」
水魔法がこんな形で役立つなんて思いも寄らなかった。
さすがクルセード様が率いる魔王チームとしかいいようがない。
「アルード様たちは動かないわね」
「ベルサスの魔力が動いている。仕掛けるタイミングを作る気だ」
「凍りつけ!」
ベルサス様が氷魔法を使った。
床の水が凍っていく。
範囲で上級魔法を使っていたため、詠唱が長かった。
「行くぞ!」
アルード様がクルセード様に向かっていき、カートライト様も続く。
クルセード様を守るようにアイン様とナハト様が立ち塞がった。
でも、すぐに二人は魔法を放つ。
二人を取り囲もうとした光の輪が弾き飛ばされた。
「弾いた!」
「拘束魔法を消したわ!」
アルード様の光魔法を別の魔法で邪魔した。
カートライト様の連続同時魔法攻撃が繰り出されるけれど、それも二人はかわした。
さらに魔法剣での攻撃。何段もの連続攻撃だというのに、全部対応されてしまっている。
「あれでダメなのか?」
「嘘でしょう!」
これまでのアルード様たちとは格段に違う速さと連携なのに、一撃も当たっていない。
それだけ相手は強く、しっかり対応できる実力があるということ。
ベルサス様が巨大な氷を作り上げ、クルセード様に落とした。
でも、クルセード様を守るように炎が吹き上がり、巨大な氷に巻き付くようにして砕いてしまった。
「あんな魔法があるなんて……」
「ハイレベルすぎる!」
「信じられないな……」
本物の魔王がいる。そんな雰囲気。
アルード様……頑張って!!!
応援したい気持ちがどんどん強くなり、私は祈るように手を合わせた。




