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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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144 予選会



 予選会が始まった。


「大丈夫! 私がついているから!」


 私の見た目は強気に見えるけれど、内心は違うことをアヤナは誰よりも知っていた。


「光魔法の使い手がさまざまな方法で活躍できることをアルード様のおかげで知ったわ。私もああなれるように頑張るから!」

「光の魔法剣を習うのか?」

「さすがにそれは無理! 魔法しか才能ないわ。普通に杖で殴るぐらいはできるわよ?」

「普通に殴れる相手ではない気がする」

「武器に不慣れな女性相手ならできるかも。ルクレシアも支援してくれるしね!」


 アヤナとネイサンが私に顔を向けた。


「俺もいる。アルード様ほどではないが、かなり練習した。任せろ!」


 ネイサンは本当に物凄く練習した。


 コランダムの魔法剣を貸す時、お父様に火の魔法剣を教わった。


 そのことを帰ってゼイスレード伯爵に話すと、もっと良いものがあると言われた。


 でも、コランダムの剣を見て驚き、これほどの剣を練習用にするなどといってゼイスレード侯爵に話した。


 その結果、ゼイスレード侯爵がとても良い剣を貸してくれた。


 もちろん、伯爵と祖父に火の魔法剣についても聞いて、自己鍛錬もしていた。


「予選会だけにお試しでもいいと思うのよ。勝てばいいだけだから」

「そうね」

「そうだな」

「相手次第だけど頑張りましょう」

「了解」

「絶対に勝つ!」


 三人で気合を入れた。





 予選会が始まった。


 私たちが対戦するのは魔物討伐の経験がある男性三人のチーム。


 上級クラスの人たちばかりだけど、チーム戦は個人の実力よりもチームワークが重要になる。油断はできない。


「ルクレシアを応援している」


 アルード様が微笑んだ。


「杖を変えたようだ。コランダムの杖か?」

「お父様が保管庫から出してくれました」


 私が持つのは赤い杖。


 激しく燃える炎のような意匠がついているもので、大きなガラス石がついている。


 本当はここに魔石をはめるのだけど、魔石の使用はできないのでガラス石がはめ込まれていた。


「ネイサンの剣も新しくなった」


 アルード様は見逃さなかった。


「火の魔法剣を使えるようになったのか?」

「そうです。祖父がゼイスレードで所有している剣を貸してくれました」

「なるほど」

「いいわよねー、お金持ちは!」


 アヤナは魔法学院から貸してもらっている杖。


 コランダムで後見はしているけれど、魔法武器はとても高い。


 対戦で壊したら弁償できないのがわかっているので、アヤナは魔法学院からの貸出品にした。


 持っているだけで使わないのであれば余計にそれでいい。


「行くわよ!」

「わかった!」

「では、頑張ってきます」

「注意しろ。予選会でも油断するな」

「はい」


 試合準備の時間になり、魔法をかけ始める。


 アヤナが防御魔法、ネイサンが移動魔法をかけてくれた。


「いるかどうかわからないが」

「ないよりましね」

「戦闘開始!」


 チーム戦が始まった。





 午前中が終わり、昼食時間になった。


「今年の予選会はレベルが高そう」


 アルード様、ベルサス様、カートライト様、エリザベート、イアン、レアンと合流してお昼を食べることになった。


「魔法剣を使う者が多い気がするわ」

「そうかもね」

「アルード様と同じ年齢だからです」

「王宮に就職できないなら、騎士団に就職しようと思うからだ」

「ネイサンのライバルがいっぱいってことね」

「普通のことだ」


 魔法を使える者であれば魔法使いを目指す。


 できることなら王宮に就職したい。でも、採用数がある。


 そこで武術や魔法剣も使えるようにしておき、騎士団を二番手の就職先に考える人が多い。


「ベルサス様は官僚を目指すのですか?」

「魔導士になってから考えます」

「まずは魔導士になることを目指すのね」


 アヤナは意外だと思ったらしい。


「てっきり宰相位を継ぐのかと」

「官僚の地位は世襲ではありません。国王次第でいくらでも変わります」

「そうなのね」

「若い時は魔導士や騎士になり、年齢が上がって魔力や体力が落ちたら別の道に進むこともできます」

「なるほど」

「ですが、魔物討伐をしたいかどうかでかなり違います」


 魔物討伐にずっとかかわりたいと、戦うための能力が必要。


 ゼイスレードやハウゼンのように魔物討伐で有名な貴族と親しくしておいたほうがいいと教えてくれた。


「光魔法の使い手って、魔物討伐系で就職できるのか知りませんか?」

「後衛ですか? それとも医療班ですか?」

「どちらでも。給与が高いほうがいいです」

「後衛のほうが高いですが、魔物討伐に行く者と同行するので危険です。医療班は安全なところで運ばれてくる負傷者を治療しますが、安全度が高い場所ほど給与が低くなります」

「なるほど」

「最初は医療班のほうがおすすめです。情報収集をしながら、魔物討伐に同行する者たちについて知ることができます。怪我人からも情報を収集できます」

「さすがベルサス様! 検討します」

「アヤナは婚約者候補だからな。普通のところは難しいかもしれない」


 カートライト様が言った。


「騎士団のほうに就職する手もある。手堅い」

「わかります。検討します」

「ちなみに給与は高くない。騎士と結婚したい女性が殺到するため、給与を高くしてまで募集する必要がない」

「えー! まあ、それも合わせて検討します」

「ネイサンが火の魔法剣まで覚えるなんて思わなかった」

「すごいよ」


 双子はネイサンが火の魔法剣を使えることに興味津々だった。


「風が使えるなら火も使えるかもしれないからな。挑戦してみた」

「独学?」

「コランダム公爵が少しだけ教えてくれた。あとは家に帰って父や祖父からも聞いた。発動させることができれば、風と大差ない。魔法剣は魔法剣だ」

「まあね」

「二種類なんてすごい」

「羨ましい」


 カートライト様とベルサス様も加わり、魔法剣の話題で盛り上がる。


 当然のことだけど、女性たちには関係ない。


「エリザベート、回復魔法をあとでかけてあげるわ。イアンとレアンにも」

「ありがとう。でも、アルード様がかけてくれたから平気」

「さすが……」

「マルゴットは大丈夫かしら?」


 姿が見えなかった。


「今日は予選がないから練習しているのよ。物凄く立派な練習場でね」

「そうでしょうね」


 アヤナはため息をついた。


「広い練習場がほしいわ」


 コランダムとゼイスレードの練習施設は塔。


 縦長なので、横の広さがない。


 後方に待機するアヤナとしては前方にいる味方に素早く魔法をかける練習をしたいため、横に広い練習場がいい。


「王宮の訓練場が良かったせいで、狭く感じるわ」

「配置や動作の確認なら外でできるわよ」


 魔法を使わなければ、庭園でもできる。


「防御魔法をかける練習だけなら外でいいかもね」

「午後も楽しみね」

「アルード様がどうするのか気になるわ」

「見ればわかる」


 アルード様はそう言うと私のほうを見た。


「応援してほしい」

「もちろんです」


 即答。


「一度だけでもいい。名前を呼んで応援してくれると嬉しい」


 一気に応援のハードルが高くなった。





「ルクレシアの応援は危険だわ」


 帰りの馬車の中でアヤナに言われた。


「アルード様がおかしくなっちゃうから」

「アヤナのせいよ」


 名前を呼んで応援するのは恥ずかしい。


 淑女は大声を出さないという礼儀作法もある。


 すると、アヤナが一緒にタイミングを合わせて一緒に応援をしてくれると言った。


 それを信じていたのに、せーののあとで応援したのは私だけ。


 一人で大声を出した私は恥ずかしさの極致。


 でも、アルード様はとても喜んでいた。


 戦闘開始になると、一人で相手の拠点に向けて突撃。


 対戦相手の三人の攻撃を全部盾魔法で受けながら、拠点防御を削って色を変えてしまった。


 ベルサス様とカートライト様は自分たちの拠点防御役をしていたというか、見ていただけ。加勢に行く必要がないので暇だった。


「あんな感じに戦うなんて思いも寄らないじゃない?」


 ベルサス様とカートライト様が戦って、アルード様は何もしないと予想していた人がほとんど。


 私もアルード様はあまり動かないだろうと思っていた。


 でも、逆だった。


 よくよく考えれば、これは学祭の予選なので成績は関係ない。


 何もしなくてもベルサス様とカートライト様の成績は下がらないし、活躍しても成績が上がらない。


 あくまでも期末テストに向けたお試しのようなものでいい。


 なので、アルード様が一人で全部やってしまってもいい。


 私に応援してもらったのが嬉しくてアルード様がいいところを見せたいと言ったら、ベルサス様が一人で無双して来てくださいと言い、カートライト様もそれがいいと賛同したとのこと。


「さすがに期末テストであれはないだろうけれど、学祭では普通にありってことがわかっちゃったせいで大変よ」


 その通り。学祭でアルード様が手加減することはないとわかってしまった。


 しかも、いきなり一人で三人を相手にして勝ってしまった。


 あの戦法を取られると、ほとんどのチームが打つ手なし。


 拠点の側にいるので、範囲魔法を使うと自分たちの拠点も巻き込んでしまう。


 強力な単体魔法を撃っても、魔法の盾で全部防がれてしまう。


「どうやって対処すればいいのよ……」


 アヤナは頭を抱えた。


「ルクレシア、どうする?」

「さすがに全部の予選会であれはないでしょうけれど、負けそうになったらわからないわね」


 勝たないと本戦に進めないので。


「アルード様を止めることができるのはクルセード様かルクレシアだけだと思うのよ」

「どうして私なのよ?」

「ルクレシアが拠点にいれば攻撃しないわよ」


 なんという戦法!


「だから、ルクレシアを拠点と一緒に結界に閉じ込めるのはどう?」

「私が攻撃できないわ」

「そうだけど」

「むしろ、アヤナかネイサンが三人に集中攻撃されてしまうわよ?」

「そうだったわ……」

「アルード様たちがどんな戦い方をするのかは見ておかないとね」

「そうね」


 私もアヤナも頷く。


 でも、予想外のことが待っていた。





 別の日。


 アルード様たちのチームは一人無双作戦だった。


 二回目の予選ではカートライト様が一人で無双した。


 三人相手に風魔法で同時連続攻撃を仕掛け、その間に拠点に接近。相手チームが戻れないよう風魔法と防御盾で邪魔しつつ、魔法剣で拠点防御を削って勝った。


 三回目の予選ではベルサス様が一人で無双した。


 やはり三人相手に氷魔法で同時連続攻撃を仕掛け、自分と拠点を包み込む氷の壁を作った。それを相手が攻撃している間、魔法剣で拠点防御を削って勝った。


 参考もなにも、あのチームの全員が一人で無双できるとわかっただけだった。


「俺も一人無双をしてみたい!」


 ネイサンが真似をしたがって大変。


 でも、予選会で負けたら困るのでなんとかなだめた。


「ルクレシアのおかげだ」


 アルード様に感謝された。


「応援してくれたおかげで力を出せた」


 それはわかる。


 触発されたカートライト様とベルサス様も一人無双をしたくなり、だったら順番に試そうとなったらしい。


「ルクレシアのおかげで三人とも一人無双ができた」

「感謝する! 自信が出た!」

「私からもお礼を。最初はこのような予選会になるとは思っていませんでした」


 普通に連携攻撃を試そうと言う話だったけれど、急遽無双作戦に変更した。


 とても楽しかったらしく、カートライト様とベルサス様からも感謝されてしまった。


「俺もしたかった」


 ネイサンは不満顔。


「絶対ダメ! 相手の攻撃への対処方法が万全じゃないでしょう?」

「魔法剣を覚えたばかりで威力が弱いでしょう? 拠点を削るのに時間がかかってしまうわ!」


 私とアヤナでなだめるしかない。


 でも、全部思い出になる。


もっともっと思い出を作りたかった。



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