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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第五章

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143 父親の部屋



「どうした?」


 部屋に来た私を見てお父様は驚いていた。


「聞きたいことがあって。少しだけお時間をいただけませんか?」

「わかった」


 お父様は読んでいた書類を置いた。


「それで?」

「まずは王太子殿下とのことです。期待しないでください」

「なるほど」


 お父様が苦笑した。


「それを言うのは私だけでいいのか?」

「お母様は夢を見たがります。私が期待するなと言えば、そんなことはないと言うに決まっています」

「私も同じように言うかもしれない」

「お父様はコランダムの当主。夢を見るよりもコランダムを守ることを優先します」

「その通りだ」


 お父様は私をまっすぐな瞳で見つめた。


「何かあったのか?」

「二人だけの話として、お母様には秘密にしていただきたいことがあるのです」

「わかった。話せ」

「アルード様に結婚を申し込まれました」


 お父様は動じなかった。


「一学期の中間テストでハンドレット領の魔物討伐に行った時です」

「ずっと黙っていたのか」

「そうです」

「なぜだ?」

「断ったからです」


 国王陛下は私とアルード様の結婚に反対している。


 独断で婚約者候補からはずしたのがその証拠。


 アルード様は私が初恋で、大噴水でハンカチを渡す役目をさせたのは私と親しくなるきっかけがほしかったからだった。


 でも、不慮の事故が起きた。


 アルード様は私と結婚したがったけれど、国王陛下は子どもだからと言って婚約にも反対した。


 途中で気が変わるかもしれないということで、気持ちを伝えるのは成人まで許さない。もし告白したら私を婚約者候補からはずすと言っていた。


 アルード様はずっと私への気持ちを隠すしかなかった。でも、成人まで待てばいいだけだと思っていた。


 なのに、国王陛下は病気を理由に私を婚約者候補からはずした。


 アルード様は怒り、すでに婚約者候補からはずされてしまったために関係ないと思い、自分の気持ちを私に伝えたことを話した。


「国王陛下が反対している以上、私とアルード様は結婚できないと思いました。お父様に相談すべきだったと思うかもしれませんが、アルード様も国王陛下の許可をもらったわけではありません。自分の気持ちとして本当のことを伝えたかっただけです。正直に教えていただけたのは嬉しかったのですが、私はコランダムを守りたいです。国王陛下の怒りを買いたくないので、私の気持ちとして断りました」

「そうか」


 お父様は頷いた。


「英断だった。さすがコランダム公爵家の長女だ」

「王太子殿下はアルード様の気持ちを知っています。それでも私を婚約者候補にしたのは、縁談の騒ぎを抑えるためです。そして、アルード様を安心させるためだと思います。王太子殿下の婚約者候補にしておけば、貴族との縁談は全部消えます。私とアルード様が結ばれるのは難しくても、私が他の人と結婚する可能性がなくなります」

「そうだな」

「王太子殿下やアルード様がどのように考えているのかはわかりません。アルード様は友人関係でいいと言ってくれますが、成人してからは自分の気持ちを周囲に隠さないようになりました。私への好意を堂々と見せます。友人ですしペアを組んでいます。おかしくないですけれど、以前のアルード様との違いは明らかです。周囲も気づいていると思います」

「そうか」

「私は卒業まで結婚のことは考えたくない、勉強に集中したいことをお父様とお母様に伝えました。同じことをアルード様と王太子殿下にも伝えています」

「なるほど」

「アルード様に卒業するまで絶対に結婚するなと言われました。なんとなくですが、私が卒業まで結婚について考えないと言ったため、それまでの時間稼ぎを王太子殿下がされている気がします」

「その可能性はある」

「申し訳ありません。お父様にもお母様にも苦労をかけてばかりで不甲斐ないです」

「そんなことはない」


 お父様は微笑んだ。


「ルクレシアはよくやっている。王子の心を掴むほどの女性だ。誇っていい」

「でも」

「もちろん、それだけではダメだ。淑女としても誇れるようにならなくてはいけない。昔はわがままな部分もあったが、事故のこともあって厳しくできなかった。日常生活を送れるように回復しただけで十分だと思っていた」


 お父様とお母様は水に恐怖心を感じた私を見て、二度と普通の生活はできないことも覚悟した。


 でも、アルード様を想う気持ちで頑張り、普通の生活ができるまで回復した。


 それだけでもアルード様に一生の恩があると感じていたことを話してくれた。


「魔法学院に入ってからは勉強についても熱心になった。少しやればできるといって手を抜いていたのをやめた。そのおかげで浮遊魔法や風魔法も習得した。素晴らしいとしかいいようがない」

「魔法に興味を持ったからです」

「きっかけは何でもいい。良いことだ。魔法が趣味の者は大勢いる。役に立つ趣味ではないか」

「そうですね」

「魔物討伐についても心配していた。女性にはつらい。だが、しっかりと魔物討伐ができた。より成長したと感じた。対人戦まで頑張っている。父親として誇らしい。ルクレシアも誇っていい。自分に自信を持て。とても素晴らしい女性だ。才能も努力も最高レベルで頑張っていると」


 嬉しかった。


 だから、自然と私の瞳が潤んだ。


「とても嬉しいです。お父様の娘に生まれて良かったです」

「私も同じだ。ルクレシアのような娘がいて幸せだ」


 私は指で目元をぬぐった。


「お父様、私はどうすればいいでしょうか?」

「熟考しなければならないが、慎重さがいるのは変わらない。これまで通り魔法学院での勉強に集中すればいいだろう。チーム戦があるだろう? あれは大変だが楽しくもある。アヤナとネイサンと組むなら余計だ。良い思い出になる」


 魔法学院の生徒はペアやチームの思い出をたくさん作る。


 それは何年経っても色褪せない。


 仲間の意見を尊重し、全力を尽くすよう言われた。


「お父様は火の魔法剣を使うのでしょうか?」

「当たり前だ」


 やっぱり!


「では、火の魔法剣用の剣もお持ちですよね?」

「それがないと使えない」

「自分専用ですよね」

「当然だ」

「他の人でも使える魔法剣用の剣はありませんか?」


 お父様はまじまじと私を見つめた。


「ルクレシア、まさかと思うが魔法剣を使いたいのか?」

「ネイサンに使わせたいのです」


 ネイサンは幼い頃から剣術を習っていたけれど、風魔法が得意だったせいで魔法剣の必要性を感じていなかった。


 でも、騎士を目指すことを決め、魔法剣を独学で勉強しようと思ったけれどうまくいかなかった。


 アルード様に教えてもらったことで何がダメだったのかがわかり、今は必死で練習中。


 中間テストの対人戦を見ると、短期間で実力を伸ばしている。


 まだまだ才能がある。もっと引き出せることを話した。


「ネイサンであれば風だけでなく火の魔法剣も使えるようになります。でも、火の魔法剣用の剣を持っていません。短期間で作るのは難しいようなので、貸していただけるものがないか聞こうと思いました。練習用の剣でいいのです」

「練習用ならある。それならネイサンでも使えるが、弱いぞ?」

「一応、貸してくださいませんか? 火の魔法剣を使えるかどうかわかりません」


 お父様は考え込んだ。


「ゼイスレードのほうが良い剣を持っているだろう。ネイサンに聞いてみるように言ったらどうだ?」

「意地悪な兄がいるので言いにくいと思うのです。それでちょっとした策略を考えました」

「策略?」

「コランダムが練習用の火の魔法剣を貸します。ネイサンは火の魔法剣を習得できるよう練習中で、コランダムが練習用の剣を貸してくれたとゼイスレード伯爵に話すよう言っておきます。すると、ゼイスレード伯爵は対抗心を持ち、ゼイスレードのほうが良い剣があると言います。普通に貸してくれというよりも良い剣を貸してもらえます。魔物討伐を誇る貴族は対抗心が強いからです。いかがでしょうか?」


 お父様はにやりとした。


「さすが私の娘だ。素晴らしい。良い方の傾国の美女だけある」


 びっくりした。


「お父様もご存じなのですか?」

「当たり前だ。社交界でもその話は有名だ」

「王太子殿下だけに話したつもりでした。どうしてわかってしまったのでしょうか?」

「普通は魔法で話している内容がわからないようにする。だが、あの夜の王太子殿下はお前と親しくしているのを見せつけるためか、遮音にしていなかった。そのせいだ」

「遮音にしていなかったのですか?」


 てっきり魔法で遮音にしていると思っていた。


 何もしていないなら、魔法で聞き耳を立てている者に全部聞かれてしまう。


「不滅の魔法も知られているぞ?」


 恥ずかしすぎる!


「全部筒抜けだったなんて……」

「不滅の魔法までだ。そのあとは王太子殿下が遮音にした。もう十分だと判断したのか、お前を気に入ったために会話を聞かれたくないと思ったのだろう」

「そうですか……」

「ここだけの話だ。王太子殿下は本当に喜んでいたように見えた。アルード様がお前と結婚したいと思っているのであれば、本物の傾国の美女になってしまうかもしれない。それは不味い。気をつけるように」

「もちろんです! 傾国の美女になる気はありません!」

「人々に良い影響を与える美しい女性という意味ならいいかもしれない」


 私は苦笑するしかない。


「では、行くか」


 お父様は書類を引き出しにしまうと、立ち上がった。


「どこに?」

「保管庫だ。ゼイスレードを悔しがらせる魔法剣を探しに行こう。ネイサンも連れて来い。相性もあるからな」

「ありがとうございます!」

「父親として当然だ」


 お父様は私のところまで来ると腕を差し出した。


「エスコートする」

「いいのですか?」

「今のうちだ。いずれはルクレシアの夫になる者に奪われてしまう役目だ」

「そうですね」

「ところで、杖はいらないのか? チーム戦で使うなら保管庫から持っていけばいい」

「そうですね!」


 さすがお父様。名案だと思った。


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