140 対人戦再び
中間テストが始まった。
期末テストと同じペアで、夏休み中に練習もできる。
武器の使用についてはペアで一緒に練習する必要はなく、魔法詠唱を邪魔するために活用すればいいだけ。
なので、二学期になって一週間したらテストというのはわからなくもない。
日程が発表されても、試合だけに全員が初日にテストを受けるわけでもない。
どうなるのかは運。
だから、受け入れるしかない。
「初戦、頑張って」
エリザベートが応援してくれた。
「今度はルクレシアとアルード様のペアが初戦なんて。どう考えても意図的ね」
マルゴットも今回の日程や対戦日の発表に驚いていた。
「応援するか悩むわ」
アヤナは微妙な表情。
「俺は応援する!」
ネイサンが言った。
「ルクレシアたちが勝ったら、午後に対戦することになるのよ?」
私たちが初戦で戦うのはベルサス様とカートライト様のペア。
その対戦で勝つと、午後は午前中に勝ったペアと対戦することになる。
アヤナとネイサンのペアが勝てば、アヤナとネイサンのペアが対戦相手だった。
「ルクレシアたちが負けたら、またベルサスとカートライトと対戦することになる」
「どっちも強敵だから嫌だわ……」
アヤナは深いため息をついた。
「とりあえず、できるだけ魔力を消耗しておいてよ。午後の対戦で弱くなるように」
「さすがアヤナ! 卑怯だね!」
「性格が出ているよね!」
「うるさい双子ね! テストに本気だってことよ!」
ギャーギャー言っているうちに時間が経過。
初戦のペアが準備に入ることになり、私とアルード様は円形の拠点へ向かった。
「ルクレシア、私の防御魔法があっても油断するな」
「わかっています」
「最悪の場合、結界をずっと使う」
私の成績を良くするためには攻撃魔法を使わせないといけない。
でも、私が狙われてしまうと攻撃できなくて負けてしまうかもしれない。
それだと勝敗的にも魔法活用的にもアピールすることができず、成績が悪くなる。
それなら攻撃でのアピールを捨て、アルード様の結界で勝ちだけは拾うという作戦だった。
「ベルサスとカーライトは強い。私も本気を出す」
「はい」
素早く防御や支援系の魔法をかけられる。
アルード様は剣、私は杖を持っていた。
なんとなく、勇者と魔導士のペアみたい。
「戦闘開始!」
拠点と私に別々の結界が張られた。
ベルサス様とカートライト様はそれを見て頷き合う。
「やはり結界から来ました」
「そうだな」
ベルサス様は細身の剣であるレイピア。
カートライト様は騎士剣。
二つの剣が魔法効果によって色が変わった。
それは魔法剣になった証拠。
「勝負だ!」
カートライト様が先攻役としてアルード様に向かった。
ベルサス様とカートライト様の拠点は期末テストと同じく厚い氷で守られている。
そして、私たちの拠点を守るアルード様の結界が氷で覆われていく。
冷やして結界の耐久力を奪う作戦も期末テストで披露されている。
たぶん、カートライト様がアルード様をなんとかひきつけ、その間にベルサス様が拠点を守る結界を破壊するつもり。
結界内にいる私については放置する作戦のようだった。
好都合だわ!
私は杖を見つめる。
アルード様が作ってくれた特注の杖には時計がついていて、試合経過時間がわかるようになっているのでとても便利だった。
「遠慮はしない」
アルード様はベルサス様たちの作戦について把握したため、対応に動いた。
まずは移動魔法で特攻してくるカートライト様の剣を受けたあと、打ち合いを始める。
カートライト様も幼少より騎士団長の父親から武術を習っているけれど、剣も槍も弓もというように複数種類の武器をこなせるように訓練された。
そのせいで剣術だけをひたすら訓練していたアルード様の剣術のほうが上。
打ち合いをするほどカートライト様は押されてしまい、一旦距離を取るために離れた。
そうなるのは予想済み。普通の剣術における定番だから。
でも、今は普通の剣術の試合とは違う。
アルード様はカートライト様を結界に閉じ込めた。
「しまった!」
自分と至近距離で戦っている相手を結界に閉じ込めるのは難しい。
でも、攻撃の間合いから逃れるために離れた位置であれば、結界を張りやすい。
武器同士の戦闘をしていたからこそ、武器での攻撃に注意が向く。
光魔法の攻撃魔法は種類が少ないので、使ってきたとしても平気と思い込みで油断する。
その瞬間こそ、アルード様が待っていたものだった。
「最悪です……」
カートライト様が結界に閉じ込められたのを見たベルサス様の表情が変化した。
これでカートライト様は内側から結界を壊すことに全力を注ぐしかない。
アルード様がベルサス様に向かって来るのはわかりきったことだった。
「私の結界を壊せると思うなよ?」
アルード様がベルサス様に攻撃を仕掛けた。
至近距離から離れれば、カートライト様の二の舞。
だからこそ、ベルサス様は離れない。
でも、剣術では勝てない。
その分、アルード様には余裕がある。
私の結界が消された。それは、出番ということ。
「拠点の氷を消せ!」
私は私とアルード様の拠点に張られた結界を覆った氷を溶かすため、範囲魔法を発動した。
ベルサス様が氷を消す。
私の魔法で逆に拠点を守結界を攻撃させるということ。
もちろん、それでもいい。
私もすぐに炎を消し、アルード様が結界を張り直す。
ベルサス様の氷がないので、張り直す時に侵食される心配がないので安心。
これで私たちの拠点防御は綺麗になった。
アルード様がベルサス様と戦っているうちに、私はベルサス様とカートライト様の拠点攻略に挑む。
当然、上級魔法を使う。
詠唱をしていると、ベルサス様の氷魔法が飛んできた。
でも、アルード様が光魔法をそれに当て、私に攻撃が届かないようにしてくれる。
アルード様が必ず私を守ってくれると信じて詠唱を続けたおかげで、上級魔法が発動した。
分厚い氷が解けていく。
でも、やっぱりベルサス様だった。
一度で全部消せない。
緻密な魔法は大雑把な魔法を凌げるという証明だった。
「もう一回か二回か」
溶けてはいるので、私の魔法は効いている。
また詠唱をするけれど、その間に拠点の氷が増え始めた。
ベルサス様が魔力を消費して治した上に増強している。
どんどん大きくなってしまう。
これでは私が上級魔法を撃つ頃には元通りになってしまいそうだった。
でも、撃つしかない。
「燃え尽きろ!」
二度目の上級魔法が発動。
氷が溶けていく。
でも、さっきよりも溶けていない。
ベルサス様はカートライト様の移動魔法を駆使して氷の魔法を使いつつ、アルード様から逃げていた。
それと同時に拠点の氷の修復もしている。
「やっぱり一位です……」
攻守ともに優れている。しかも、頭も最高に良い。
何をすればいいのかがわかっている。
でも、私とアルード様も負けられない。
私はベルサス様に火魔法で攻撃した。
初級魔法の連続撃ち。
これは一人でも練習できるので、必死に練習した。
私に攻撃されると思っていなかったベルサス様は驚くけれど、しっかりと対応してくる。
私の魔法を全部氷魔法で相殺した。
だけど、すでにベルサス様は相当な魔力を使っている。
「これでどう?」
中級の範囲魔法。
ベルサス様は逃げられない。
炎で焼かれる。
とはいえ、氷魔法があるのでダメージは完全に通らない。
だとしても、瞬間的な足止めはできる。
「ベルサス!」
アルード様が叫び、ベルサス様は思わず反応してアルード様を見てしまった。
それは注意がそれたということ。
ベルサス様を結界が包み込んだ。
「しまった……」
これでベルサス様も結界を壊さないと何もできない。
カートライト様がまだ結界から出られていないことを考えると、試合時間内にアルード様の結界を壊すのは難しい。
「拠点攻撃だ!」
「はい!」
対戦ペアはどちらも結界の中。
なので、私は拠点に容赦なく攻撃するだけ。
ベルサス様は結界内にいるので拠点の修復はできない。
上級魔法二発で拠点を守る氷は解けた。
そして、中級魔法で攻撃。拠点の色が変わった。
「そこまで!」
私とアルード様の勝利が決定した。
「やりました!」
「そうだな!」
ベルサス様とカートライト様は一番対戦したくないペアだった。
二人は強い。さまざまなアルード様対策を確実に実行してくる実力もある。
でも、勝てた。
ついに一学期の期末テストで全勝のペアに一敗をつけた。
「嬉しいです!」
「私も嬉しい」
喜んだペアが抱きしめ合うのは普通のこと。
でも。
「杖が邪魔だが」
杖ごと私を抱きしめるアルード様に私は笑うしかない。
「アルード様に贈られた特注の杖ですが?」
「こういう時は床に放り投げればいい」
「ダメです。物は大事にしないと」
「今のルクレシアらしい」
今の?
アルード様の言葉にドキッとした。
「昔とは違います」
「そうだな。何でも放り投げるのはよくない。今のほうがいい」
きっと昔のルクレシアは物を放り投げていたのだと思った。
「労わりたい」
アルード様の回復魔法で私は回復する。
体も心も。
「ありがとうございます。アルード様も魔力を消費しているのに」
「大丈夫だ。魔法剣の魔力消費は少ない」
「アルード様、負けました」
ベルサス様とカートライト様が来た。
「対戦できて良かったです。素晴らしい経験ができました」
「同じく。だが、結界内で悲しくもあった」
カートライト様は活躍できる場面が少なかった。
結界内で風魔法や魔法剣を行使していただけなので、ベルサス様ほどアピールできなかった。
「私に向かって来るとこうなる」
「そうですね」
「よくわかった」
「対戦は終わった。ベルサスもカーライトも大切な友人だ」
アルード様がベルサス様とカートライト様に回復魔法をかけた。
「持つべきものは友です」
「心から感謝します」
テストが終わってからも光魔法は活躍できる。
素敵な魔法だと思った。




