14 次の回
翌日のランチタイム。
アルード様とそのグループもランチピクニックに参加したいと聞いた私のグループメンバーは喜びの声を上げた。
「光栄です!」
「本当に!」
「ルクレシア様のおかげです!」
「ルクレシア様の案の素晴らしさが認められた証拠です!」
「待って。発案者は私だけど、皆で協力して開催したでしょう? あのピクニックランチの成功は全員によるものよ! そして、アルード様の心を動かし、参加してみたいと思わせることができたなんて、本当に光栄だわ!」
「すごいことです!」
「そうですよね!」
「ぜひ、次回も成功させたいです!」
「頑張ります!」
かなりのやる気がみなぎった。
「それで早速だけど、一番の問題は開催日時と場所ね。定期的する可能性も考えて、開催曜日や場所を同じにしたほうがいいと思うの。そうすれば、告知しなくても自然と周囲にもわかるでしょう?」
「そうですね」
「覚えやすいです」
「良いと思います!」
賛成多数。
「ただ、場所についてはもう一度よく考えないといけないわ。中庭は広いからお弁当を食べる人がよく使っているでしょう?」
「そうですね」
「でも、ベンチの人が多いです」
「敷物の人はあまりいないですよね」
「そうなの。だから、私たちが敷物持参で中庭に行っても問題ないと思ったのよ。だけど、次回はアルード様のグループも一緒なのよ? 敷物にするとしいても、占領するような感じになってしまうと思うのよ」
アルード様もそのことは気にしており、参加する人数に制限をかけると言ってくれた。
こちらの事情も考えてのことなのでありがたい。
だけど、参加したくてもできない人がいるのは可哀そうであり、残念な点でもある。
この部分をなんとかできないか、良い案がないかを全員で考えてみたいことを話した。
「そうですね……できるだけ全員でということにしたいですよね」
「でも、芝生の上を占領してしまいますよね」
「余った部分があったとしても少ないわよね」
「できるだけ詰めて敷物を置いたり、座るとか」
「きつい感じになるかもしれませんね」
「それはそれで嬉しい部分もあるというか……」
「男子生徒と交流できるものね!」
「男子生徒とお話してみたいです!」
アルード様のグループと一緒にランチピクニックを楽しむこと自体は問題ない。
敷物や座る場所が詰め詰めの状態でも、むしろ歓迎の意見のほうが多かった。
でも、アルード様のグループが同じように思うかはわからない。
同じように女子生徒と交流する機会として楽しんでくれるならいいけれど、場所が狭いことに不満を感じるかもしれない。
中庭を占拠することを快く思わない可能性もある。
お弁当を持ってきたくない人もいるかもしいれない。
だからこそ、アルード様が先に参加人数を調整すると言ったのかもしれなかった。
「この件についてはベルサス様が担当なので話し合うことになっているの。だけど、こちらのグループとしてどうしたいか、どんな案が出ているかということはまとめておかないとね」
「そうですね」
「難しいです」
「もっと人数が少なければ……」
「中庭がもっと広ければいいのに」
「心配ですよね。当日、いきなり合流したいと言ってくる人もいるかもしれないし」
「確かに」
「もしかしたら、前よりも増えるかも?」
「また開催すると知ったら、自分も参加してみようと思う人がいそうよね」
「集まりすぎて座れなくなったら困るわ!」
「アルード様がいるのに、座れないなんてなったら大変!」
続々と出る意見は不安な点ばかり。
解決するための案が出てこない。
「ルクレシア様、どうしましょうか?」
全員の視線が私に集まる。
グループリーダーとして良い案を出したい。
でも、思いつかないからこそ、全員の意見を聞きたくて話をしている。
「私に案があります」
レベッカが発言した。
「場所を二カ所にするのはどうでしょうか?」
中庭だけにすると、さすがにスペースが足りないかもしれない。
そこで別の場所と合わせて二カ所で開催する。
そうすることで中庭に参加者が集中するのを防ぐという案をレベッカが説明した。
「さすがレベッカ様です!」
「そうしましょう!」
これで解決したかのうように思えるけれど、私もその方法については考えていた。
言わなかったのは、別の問題が起きることがわかっているから。
「その案は私も考えていたのよ。だけど、その場合は参加者を二つに分けないといけないわ。この機会に気になる男性と近づきたい、話してみたい、少しでも側で見てみたいと思う人もいるはずよ。でも、片方の場所だけ希望が集中すると困ってしまうわ」
アルード様のグループを二つに分けた場合、アルード様とベルサス様とカーライト様は必ず一緒になる。
女性に大人気の三人がいるほうの場所でランチを食べたい希望者が絶対に多くなる。
「全員の希望通りにしてあげたいけれど、無理だと不公平になってしまうでしょう?」
「くじ引きで決めるのはどうですか?」
レベッカが提案した。
「運次第です。何度も開催すれば、いずれ自分が希望する場所になるのでは?」
「そうですね!」
「何回も開催すればいいわよね!」
「ずっとハズレになることもないでしょうし」
「希望通りになってない人を、その次の回で優先するとか?」
「それもありね!」
「じゃあ、くじ引きで!」
レベッカの案に賛成する意見が次々と出た。
でも、私は賛成できない。
「私たちのグループだけならそれでいいわ。だけど、アルード様のグループが参加するのは次回だけ。その先についてはわからないのよ? 男子生徒が参加するのは一回だけかもしれない。それでもくじ引きでいいの?」
私が尋ねると、誰もが黙り込んでしまう。
一回だけのチャンスかもしれないとなると、くじ引きでいいとは言えない証拠。
くじ引きは公平のように思えるけれど、引く順番で当たりの確率が変わる。
くじ引きになったとしても、今度は誰からくじを引くかで悩むことになる。
「全員が集まれる場所があるならそこでいいと思いますが、中庭は無理だと思います。ですので、二カ所に分けるのが無難ではないかと。くじ引きも仕方がありません」
レベッカが言った。
堅実かつ無難な案ではある。
でも、他に何か方法があればと思ってしまう。
頭をフル回転させ、名案を思い付き、皆で楽しい時間を過ごしたい。
誰もが笑顔になれる幸せなひと時、魔法学校での素敵な思い出になるようなイベントにしたかった。
何か……何か思い出すのよ! この世界のことでも、そうでないことでもいいから!
次の瞬間、私は知り合いに見せられたスチールを思い出した。
「質問があるの。アンケートよ」
全員の視線が私に集まった。
「得意な魔法について聞くわ。風魔法が得意な人は?」
すぐに手が挙がった。
少ない。
「次は水魔法よ。得意な人は?」
まあまあいる。
「土魔法が得意な人?」
たくさん手が挙がった。
土魔法は魔法使いの中で最も得意な者が多いと言われているだけある。
「氷は?」
レベッカが手を挙げた。
特級クラスだけに個人能力に対する期待は大きいけれど、他には一人しかいない。
希少ということ。
「氷が少ないわね……」
「氷よりも水の人が多いから」
「氷を使うことがあまりないから」
「火を消すなら氷よりも水だし」
水魔法は汎用性が高い。
幼い頃から水魔法の練習を始める者が多く、そのまま得意になっていくからこそ、似通った属性である氷魔法の使い手が育ちにくいのではないかと感じた。
「ありがとう。私のほうでもう少し考えてみるわ」
「火、雷、光については聞かなくていいのですか?」
レベッカが質問してきた。
「とりあえずだから」
「もしかして、得意な属性で場所を分けるとか?」
「ああ、そういう手もありますね」
「反属性同士の者が同じ場所にならないようにするってことですね」
「火、雷、光で一カ所、風、水、土、氷でもう一カ所に集まるということですね」
「待って! 風と氷は反属性よ?」
「そうだけど、火がいるほうと一緒にするわけにはいかないわよ」
「火と氷より、風と氷のほうがましね」
「でも、土が多いわ。どう考えても、ルクレシア様が聞いた属性の人数のほうが多いわよ?」
「そっちが中庭ということじゃない?」
「じゃあ、他の三属性は別の場所?」
憶測から話が進んでいく。
「待って。ちょっとした質問であって、属性で分けるかどうかはわからないわ。アルード様のグループの事情も聞かないとだし、一旦ベルサス様と話し合ってみるわ」
私はレベッカに顔を向けた。
「話し合いがどうなるかわからないけれど、二カ所になる可能性もあるわ。そうなると、私だけで指示出しをするのは無理でしょう? だから、レベッカを私のグループのサブリーダーにするのはどうかしら?」
サブリーダーに推薦することで、レベッカへの信頼を示したい。
「私がサブリーダーですか?」
レベッカは驚いていた。
「ええ。レベッカはいつも冷静だし、任せても大丈夫だと思うの。私が不在の時、皆をまとめたり支えたりしてほしいのだけど、どうかしら? 無理にとは言わないけれど」
「ぜひやらせてください!」
「皆の意見も聞くわ。レベッカをサブリーダーとして認める場合は拍手をしてくれる?」
すぐに全員が拍手をした。
これでレベッカは私のグループのサブリーダーになった。
この決定は私だけで決めたものではない。グループの全員で決めたものになった。
「レベッカ、これからもよろしくね」
「はい! とても嬉しいです!」
レベッカへの期待と応援を込めて拍手をすると、メンバーたちも強い拍手で応じてくれた。
「ランチタイムの話し合いはここまでにしましょう。ランチを食べずに教室に戻るわけにはいかないわ」
「そうですね」
「大変、時間が!」
「急いで食べないと!」
「こういうのも、いつもと違っていいかもね?」
急いで食べることも楽しめる。
そんなメンバーと一緒にいられることを、私は幸せだと感じた。