137 水の大伯爵
担任が教室に来た。
「二学期に特級クラスになった諸君は魔法戦闘における実力者だ。その能力をぜひとも伸ばし、二学期も活躍してほしい。さて、特別な転入生を紹介する。ハイランド王国から来たサーファル大伯爵だ。クルセード王子の部下として特級クラスに配置された。本人から挨拶がある」
「アイン・サーファルです。クルセード殿下のためにハイランドから来ました。以上です」
簡潔明瞭。
「アインは俺の隣がいい」
クルセード様が言った。
「では、そのように。これから席替えをする!」
席替えが行われた。
対戦用のペアで組んでいる者がいる場合、横に並んで座るよう言われた。
クルセード様は中央の一番後列になった。
教室全体を見渡せる広い場所がいいとのこと。
その左がアイン様。右がアルード様。前はネイサンにしろと言ったので、ペアを組んでいる私とアヤナの席も決まった。
アルード様の前の席は剣の話題がしやすいようにカートライト様になったので、私の前がベルサス様。
私の右にエリザベート、その前にマルゴット。
ペアを組んでいる双子も前後になり、話しやすいといって喜んでいた。
「では、二学期用の資料を配布する」
まずは中間テストについて。
一学期と違って魔法だけではなくなり、武器使用の対人戦になる。
次は期末テストについて。
三人でチームを組んで、チーム戦をする。
現在組んでいるペアを継続する必要はなく、より自分の能力を活かせる相手を見つけて組んでいい。
最後の資料は学祭。
三年生は出し物の代わりに全員が三人でチームを組み、対人魔法戦の予選に参加する。
これは期末テストのための準備になる。
一緒に組んで良さそうであれば、そのチームで期末テストを受けれいい。あまり良くなかった場合は別の相手と組み直せばいいということだった。
「ペア戦、チーム作りと予選準備が同時に進行していく。基本的にほぼそのための自習時間がほとんどになる。他のクラスの者と組む場合もあるため、自習時間は教室を移動しても問題ない。訓練施設も使用できる。自宅で練習したいペアやチームは申請書を出せ。出欠を取ったあとで自宅練習に切り替えられ、早退扱いにならない」
説明が終わると、担任が教室を出ていく。
今日はこのあと全部が自習。ペアやチームのことを考える時間にしてほしいということだった。
「ルクレシア、チームのほうは決めているの?」
エリザベートに聞かれた。
「アヤナとネイサンと組むわ。変更なしならね」
「ないわよ!」
「ない!」
少し離れた席のアヤナとネイサンがすぐに答え、席を立って移動してきた。
「ずっと前から決めていたのよ! 変更なし!」
「でも、女性が二人なのは不利になるわ。わかっている?」
「俺が頑張ればいい」
ネイサンが答えた。
「一学期の対人戦で自信がついた。もっと頑張れば実力を伸ばせると思う」
「そうよ! アルード様に鍛えてもらうわ!」
「そう。わかったわ」
「エリザベートこそどうするのよ?」
「イアンとレアンと組むことになっているわ」
すでにエリザベートもチーム戦で組む相手を決めていた。
「マルゴットは? それでいいの?」
「大丈夫よ」
マルゴットが微笑む。
「土と水はすぐにいらないってなるのよ。そういうものなの」
「そんなことないよ」
レアンが反論した。
「チームになると風使いがいる可能性が高くなる。土使いがいると邪魔をしやすくなるし、マルゴットの防御は固いよ」
「そうね」
「マルゴットもすでに組む相手が決まっていることを言ったほうがいい。皆が心配する」
「ということで、私もすでに誘われているから大丈夫よ。レアンとはペアを組んでいるからすでに話していたのよ」
「そうなのね」
「でも、中間テストが先だわ。学祭もあるけれど、わざと負けて手の内を隠すこともできるしね」
「そうね」
学祭は準備用に使えるとはいえ、どのように活用するかどうかは生徒次第。
「自宅で練習できるなんてすごいわ。自宅に魔法の練習施設がある人用ってこと?」
アヤナが資料を見て聞いた。
「そうよ。魔法戦用の練習施設でないとダメよ? 自分の部屋で作戦会議というのはダメだから」
「さすがにそれではね」
「コランダムの練習塔って申請できるの?」
「お父様とお母様に聞かないと。大丈夫な気がするけれど、塔だから横幅がないわ」
「そうなのよね。だから、王宮の訓練場を使えるのは嬉しいかも!」
「王都で魔法の練習場を確保するのは難しいわよね」
エリザベートがため息をついた。
「ハウゼンも狭いわよね」
「地下にも広い訓練場があるわ。でも、暗いし地下だから嫌なの」
雷の反属性は土。なので、地下は嫌い。
「うちでいいよ」
「そうだよ。広いよ」
「でも、お兄様に練習を見てもらえないわ」
「こっちの兄さんが見てくれるって」
「もっと成績を上げろってうるさいから」
「まあ、両方ですればいいわよね」
「マルゴットは地下の施設で練習できそうよね」
「そうよ。練習場で困ることはないわ」
マルゴットが自慢げに胸を張った。
「ブランジュと言えばお金よ! ものすごい練習場があるわ!」
「だと思った」
「練習場目当てでマルゴットを誘ったとか」
「そうかも?」
「うるさいわね!」
笑いが起きる。
なんだかんだいって、全員がクラスメイトとして仲良くできているのが嬉しい。
「サーファル大伯爵はどうされるのですか?」
アヤナが尋ねた。
「先生が部下って言っていたので気になりました。生徒ではないのでしょうか?」
「生徒として転入しましたが、勉強するつもりは一切ありません。クルセード殿下の側にいるだけです。テストは受けません」
「判定無効になる。普通は退学勧告が出るが、学生として来ているわけではないからな。生徒としての在籍抹消で問題ない。俺も結局そうなる」
一時的に生徒のようにできるだけで、実際は生徒ではない。
書類上において生徒としての登録も入学等の記録も全部抹消されるとのこと。
「では、卒業式で一緒できないのでしょうか?」
「出席する場合は来賓席だろう。それまでいるかどうかわからないが」
留学は一年となっているけれど、事情によってはハイランドに帰ることもわかった。
「学生らしいことをしてみたくもある。学祭のチーム戦に出てもいいかもしれない」
クルセード様の一言で教室の空気が一変した。
「アイン、俺と出ろ。アルードもいいだろう?」
「私はベルサスとカートライトと組む。無理だ」
「ヴァリウスに聞いてみるか」
「絶対に出ない。そもそも在学生でないと無理だと思うが?」
「他のクラスに配置した部下から選ぶか」
クルセード様のチームは物凄く強いに決まっている。
学祭の対人魔法戦は大いに盛り上がりそうだった。




