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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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133 大舞踏会



 アルード様の成人を祝う大舞踏会が開かれた。


 ディアマスの各地で祝うためのイベントが開催されていて、王都中がきらびやかに飾り付けられていた。


 当然のことだけど、成人すれば結婚できる。


 アルード様の結婚相手について本格的に検討されるのは間違いない。


 でも、婚約者候補は四人。


 何かしらの発表があるかもしれないと期待する人々が多かった。


「緊張するわ」


 婚約者候補の一人であるアヤナは絶対に出席するよう言われていた。


 私と両親も。


 コランダム公爵家はどんなことがあろうが弟以外の全員が参加するようにと招待状に書いてあった。


「何も聞いていないからこそ、不安だわ」


 アヤナが婚約者候補になったのは国王陛下の独断だったので、事前にアヤナやスピネール男爵家に何の通達もなかった。


 今回も同じように婚約についての発表が一方的にあるかもしれない。


「お姉様!」


 嬉しそうな表情を浮かべてメルルがやって来た。


「私のお姉様に何か用?」


 アヤナが私の前に立ち塞がった。


「ごきげんよう、赤の他人のスピネール男爵令嬢」


 メルルが微笑む。


「私はモルファント伯爵令嬢。そのことをわかっているのかしら?」


 身分でマウントを取りに行くのは社交界の常識。


「ごきげんよう。モルファント伯爵令嬢」


 私がにっこり微笑んで挨拶した。


「アヤナのことは気にしないで。緊張しているのよ」

「そうでしたか。アルード王子殿下の婚約者候補なので仕方がありません」

「わかってくれて嬉しいわ。ところで、一人なの?」

「挨拶回りは済みました。ネイサンがお姉様を探していました」

「そう。あとで会ったら挨拶しておくわ」

「お姉様が挨拶回りをされるなら取り巻きとして同行したいのですが?」


 メルルはいつの間にか私の取り巻きになったらしい。


「挨拶回りはしないの。元婚約者候補だって思われるだけでしょう?」

「私と一緒だと余計に比較されるだけよ」


 アヤナが補足した。


「そうですね。念のために言っておきますが、ここは魔法学院ではありません。アヤナの身分はかなり低いので、私のことはモルファント伯爵令嬢と言ってください。今夜は身分や礼儀作法に厳しい方々も多くいるので、最大限に注意すべきです。お姉様は公爵令嬢なので大丈夫です。メルルとお呼びください」

「礼儀作法に厳しい人が多いなら、ルクレシアをお姉様と呼ぶのは問題じゃない? 血族ではないし、兄の婚約者でもないわ。モルファントとの縁談があるって勘違いされたら大変よ?」


 アヤナが指摘した。


「では、ルクレシア様とお呼びします」

「いたわね!」


 エリザベートとマルゴットが来た。


「なかなか見つからないから焦ったわ」

「婚約者候補は最前列にいなさいって」


 アヤナはため息をついた。


「目立ちたくないのに」

「そろそろ移動しておいたほうがいいわ。人が多いから直前で移動するのはつらいわよ」

「そうね」

「皆で一緒に行きましょう」


 固まって前へ移動。


 有力貴族ばかりがいる場所だけに気を遣うけれど、仕方がない。


「ルクレシア!」


 男性で一番先に声をかけてくれたのはネイサンだった。


「探した。無事ついて良かった」

「渋滞がすごくて時間がかかったのよ」

「そうだと思った。そういう時は飛行魔法を使えばいい。早く着く」

「不審者扱いされないの?」

「検問で下に降りて身分証を提示すればいい」

「それで通過できるの?」

「大丈夫だ。俺はいつもそうしている。馬車は面倒だ」


 ネイサンの武勇伝というか、変な話は親しくなるほど多くなる一方。


「モルファントだから許されるだけじゃない?」


 アヤナが呆れながら言う。


「俺はゼイスレードだ」

「そうだったわ。風の話題だとついモルファントって思ってしまうのよね」

「そもそも正装のドレスで空を飛ぶのはどうかと思うけれど?」

「本当に緊急の時だけよ!」

「ルクレシア」


 ベルサス様、カーライト様、イアン、レアンも来た。


「挨拶回りをしていないよね?」

「あとでする?」

「しないわ。挨拶回りは両親だけってことになっているの。私とアヤナは目立たないようにしたかったのだけど、最前列にいないといけないみたいね」

「アヤナは婚約者候補だ。当然だろう」

「挨拶があって、拍手して、ダンスが始まって、壁の花になればいいのよね?」


 アヤナが聞いた。


「大まかにはそんな感じだ」

「婚約者候補だからアルード様以外の人とは踊れないよ」

「それは知っているわ。だから壁の花になると思ったわけ。でも、嫌なものを見つけてしまったわ」


 アヤナの視線は王族席に向けられていた。


「気づいたみたいだね」


 王家は国王、王妃、王太子、第二王子の四人しかいない。


 でも、用意されている椅子の数が多い。


「向こうが王太子殿下とアルード様の席で、こっちが候補者用?」


 国王と王妃の席が中央にあり、右側に二席、左側に五席ある。


「候補者は四人なのに、どうして五席あるのか謎だわ。また増えるの?」

「違うわよ。椅子の種類が違うでしょうに」


 エリザベートが注意した。


「背もたれがある椅子がメイン席、腰掛椅子にはお付きの者が座るのよ」


 背もたれがある椅子が正式な座席なので、腰掛椅子は一時的な座席。


 座る者の身分や立場がそれでわかる。


「右側は王太子殿下の椅子、左側がアルード様の椅子よ」

「左側の腰掛椅子が四つだから、婚約者候補はそこに座ることになりそうね」

「たぶんね」

「でも、座る場所がわからないわ」

「何も言われなければ身分とその序列順。私が一番上、二番がマルゴット、レベッカ、アヤナの順番よ。アルード様に近いほど序列が上になるから後列の手前ね」

「目立つ席なんて嫌だわ」

「目立ちたい人は喜ぶのだけど、アヤナは別よね」

「王太子殿下の隣の腰掛椅子には誰が座るの?」

「それがわからなくて気になっている人ばかりよ。予想があれこれ飛び交っているわ」


 王太子殿下には婚約者も婚約者候補もいない。


 座る女性はいないはずなのに、腰掛椅子が置いてある。


「誰かが選ばれるのかもしれないわね」

「アルード様の成人の祝いなのに?」

「正式な発表があるわけではないわ。座らせることで示すってこともできるから」

「なるほど」

「でも、側近用かもしれないわ。女性じゃないかもってこと」

「その可能性のほうが高そう」


 同じような話題をする人が大勢いた。


 そして、ついに大舞踏会が始まった。


「ついにアルードが成人した! これほど喜ばしいことはない。ディアマスは光を尊ぶ国だ。アルード自身がディアマスを照らす光となり、国民に愛と幸せを与える存在になるだろう!」


 大拍手が沸き起こった。


「私は十八歳になった。これまで導いてくれた父上、愛してくれた母上、支えてくれた兄上に心から感謝したい。王族は成人すると強い権限を与えられるが、それはディアマスを守るためにある。王子として強く正しくあるよう努めたい。皆の力を合わせて、ディアマスをより強く美しく輝かせたい!」


 アルード様のお言葉に感動する人々が続出。


 拍手だけでなく、笑顔に混じって涙もまた流された。


「アルードの成人を心から祝います。音楽を!」


 王太子であるヴァリウス様がそう言うと、音楽が演奏され始めた。


 ダンスが始まるため、誰もが左右に寄って中央部分を空けなくてはいけない。


 コランダム公爵家は第二王子派。アヤナがアルード様の婚約者候補なので、アルード様の席がある左側のほうに寄る。


「アルード王子殿下の婚約者候補の方々はこちらへ」


 侍従の案内によってエリザベート、マルゴット、レベッカ、アヤナが呼ばれた。


「頑張ってね」

「できるだけのことはするわ」


 不安そうなアヤナだけど、同行はできない。


 婚約者候補とそうでない者との差がある。


 私は両親と一緒に左側へ移動した。


 なんとなく視線を向けたのはヴァリウス様のほう。


 ヴァリウス様は自分の椅子に座っているけれど、その隣にある腰掛椅子には誰も座っていない。空席のままだった。


 ダンスが始まった。


 アルード様は踊らない。


 特別な揃いの衣装を着用したペアが何組もいて、アルード様の成人を祝う踊りを献上する演出だった。


 見事なダンスが披露される。


 拍手。


 そのあともダンスが続くだろうと思ったら、国王陛下が手を挙げた。


 それは発言があるということ。


「ヴァリウス、空席はよくない。婚約者候補を選べ。一人でいい」


 国王の言葉を聞き、やはりと思う人々が大勢いたに違いない。


 アルード様の婚約者候補が四人いるのに、王太子であるヴァリウス様の婚約者候補が一人もいないのはおかしい。


 そこで今夜選ぶように言うため、腰掛椅子を用意した。


「誰でもいいのですか? 極めて身分が低い者でも?」

「この会場にいる未婚の女性であれば構わない」

「そうですか。今夜の話し相手にできそうです」


 ここで拒否すれば、アルード様を祝う大舞踏会が不穏な空気に包まれる。


 ヴァリウス様はアルード様を心から愛しているからこそ断らない。


 所詮、婚約者候補。


 一人ぐらいはいいといって妥協するだろうと国王陛下は考え、その通りになった。


「では、ルクレシア・コランダムにします」


 一気に会場が騒然とした。


 私の心臓は止まりそうな気分。


 何かが起きるとは思っていた。


 でも、


 こんなことになるなんて、わかるわけがないでしょう!!!


 私はアルード様のほうを見るけれど、視線が合うことはなかった。



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