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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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132 けじめのキス



 期末テストが終わった。


 対戦のせいで相当な順位の入れ替わりがあった。


 だけど、一位はベルサス様が守った。


 ペアでは全勝。攻守で活躍している。


 一位にふさわしい実力があるのは誰もがわかっていた。


 二位はカートライト様。


 ベルサス様と組んでいるのでやはり全勝。やはり攻守で活躍している。


 拠点攻略や防御のメインはベルサス様が担っているけれど、カートライト様による支援があるからこその活躍でもあるので、カートライト様の評価が低かったらおかしい。


 三位はネイサンだった。


 アヤナとネイサンのペアは負けている。アヤナの光魔法は強いけれど、防御魔法や結界を張ることぐらいしかできない。


 その分、ネイサンの負担が大きい。それでも火と風の魔法を駆使して相手を蹴散らし、翻弄させた。


 座学や人付き合いは苦手でも、対戦と魔法陣については特級クラスにふさわしい実力者だということが魔法学院中に知れ渡った。


 四位はイアン。五位はレアン。


 戦闘行為になれていない女子生徒と組んだ男子生徒は自分が頑張らないといけないということで魔法を駆使する。


 イアンもレアンも実力があるし、エリザベートやマルゴットの良さを引き出して活用していた。


 私は六位。全勝で圧倒的な強さを見せつけたつもりだったけれど、順位を考えると評価はイマイチ。


 あっさり勝ってしまったので、使う魔法が少なかったのが原因かもしれない。


 アヤナは二十位。


 ネイサンと比べると圧倒的に低い。


 実力があるのはわかっているけれど、防御だけでは評価されにくい。


 対戦では攻撃評価が高くなりやすいので仕方がないことでもある。


 エリザベートが十二位、マルゴットが十五位。


 エリザベートは攻撃と支援を臨機応変にしていたこと、マルゴットは防御メインでありつつも攻撃を頑張っていたことが評価された。


 女子は対戦で上位に食い込めないのが当たり前。


 今年は二十位以内に四人も入ったので、すごいという評価だった。


「もっとルクレシアに攻撃させるようにすればよかった」


 アルード様は私の順位を気にしていた。


「気にされないでください。女子で一桁順位はすごいそうですよ?」

「全勝したというのに」

「魔法や対戦の内容でみられます。上級や中級を色々と使いましたが、そのせいで手数が少なかったのもあります。必死さがないので、評価しようという感じがしなかったのかもしれません」

「難しいな。心象評価だけに審査する者がどう感じるかで違ってしまう」

「そうですね」

「二学期に活かしたい」

「それが重要です」


 期末テストが終わったので、私はコランダム公爵家に戻っていた。


 でも、アルード様に話があると言われ、一緒の馬車で王宮に行った。


 ヴァリウス様とクルセード様の四人で成績報告会と反省会があったけれど、そのあとはアルード様の部屋に移動してお茶とお菓子をご馳走になっていた。


「夏休み中に私の成人を祝う大舞踏会がある」

「そうですね」

「必ず出席してほしい」

「そう言われそうな気がしました」

「友人としての出席だ」

「わかりました」

「恋人として出席してくれるなら大歓迎だが」

「国王陛下に睨まれてしまいます」

「私は独身で結婚も婚約もしていない。婚約者候補は父上が選んだ相手ばかりだ。恋人は自分の意志で選びたい。むしろ、恋人まで父上が決めるのはおかしい。私が父上のいいなりに見えてしまう」

「そのように考える人もいますね」

「アヤナは病気で欠席してもいい」

「冗談に聞こえません。もしかして、王子からの密命ですか?」

「私の気持ちというだけだ。だが、欠席すればコランダムが責任を問われるだろう」

「出席させますね」


 アルード様は私をじっと見つめた。


「何か?」

「今の時点における確認だ。結婚したい相手はいるか?」

「いません」

「恋人にしたい男性はいるか?」

「いません。卒業するまで私の気持ちは変わりません」

「そうか」


 アルード様はお茶のカップを取った。


 でも、飲まない。カップの中身を見つめるだけ。


「お茶に問題が?」


 アルード様はカップをソーサーに置いた。


「ルクレシアを信じてもいいか?」

「というと?」

「卒業するまで気持ちは変わらないと言った。勉強を優先するということだろう?」

「そうです」

「卒業したら、結婚について考えると言ったな?」

「言いました」

「約束してほしい。卒業するまで絶対に結婚しないと」

「私に約束させるよりは、両親に約束させたほうがいいかもしれません」

「ルクレシアと約束したい」

「わかりました。私の意志としては結婚しません」

「約束だ。それから、舞踏会のためにダンスの練習はしておくように。私もする。婚約者候補と踊ることになるだろう」

「四人もいます。大変ですね」

「全員と踊るかどうかはわからない」


 気になった。


「そうなのですか?」

「これ以上は言えない」

「そうですか」


 それなら聞けない。


「ルクレシアを愛している」


 アルード様の告白はいつも突然。


「どんなことが起きても、私の気持ちは変わらない。それだけは伝えておく」

「どんなことが起きるのか知っていそうですね」

「言えない」

「やっぱり」


 私は微笑んだ。


「そういうこともあります。でも、それでいいのです。そういうものというだけです」

「理解してくれて嬉しい」

「アルード様に伝えておきます」

「なんだ?」

「私とアルード様は友人同士ですよね?」

「そうだ」

「だから、アルード様を推します」


 それが精いっぱい。


「推してほしいと言っていたので。私にできるのはそこまでです」

「ありがとう」


 アルード様は微笑んだ。


「愛の魔法がかかった」

「深くも重くも考えないでくださいね? 友人というのは軽口を叩ける間柄でもあります」

「大丈夫だ。友愛の魔法だ」


 否定はしないでおく。


「ルクレシアにわがままを言いたい」

「アルード様がわがままを?」

「最後に……キスをしたい」


 最後?


 キスという言葉よりも、そっちのほうが気になった。


「成人する前にけじめをつけたい」


 アルード様は決めたのだと思った。


 言葉にはできない大きなことを。


「断っていい。わがままだ。ダメ元で言った」

「アルード様が私にわがままを言うなんてよほどのことです。なので、いいですよ」


 アルード様は驚くような視線を私に向けた。


「どこなら許してくれる?」


 場所は考えていなかったらしい。


「唇だと思っていました。別の場所がいいですか?」


 アルード様の顔が赤くなった。


 私のほうが大人だと思ったけれど、赤くなったまま黙り込むアルード様を見て恥ずかしくなってきてしまった。


 なので、五十歩百歩かもしれない。


「どうすればいいですか? ここに座ったまま待っていればいいですか?」

「帰る時でいい」

「わかりました」


 そのあとは対戦の話題に戻る。


 二学期は魔法と一緒に武器も使う対戦が中間テスト。


 期末テストは三人で組むチーム戦。


 学祭の対戦に三人チームで参加して、期末テストの前にメンバーと相性がいいかどうか調べるのが定番だということだった。


「学祭のこと、忘れていました」

「三年生は対戦ばかりで忙しいからな」

「一年生の時に焼肉屋をしたのがなつかしいです」

「そうだな」


 懐かしい話に花が咲く。


 魔法学院は普通の学校とは違う。


 だけど、アルード様と話していると、楽しい思い出がいっぱいあったと思った。


「あっという間です」

「そうだな。学生生活が残り少なく感じる」

「全力で学生生活を送ります。後悔しないように」

「ルクレシアらしい」


 そして、帰る時間になった。


「では、これで」

「ルクレシア、忘れていないか?」

「忘れていません」


 アルード様が側に来た。


「抱きしめてもいいか?」

「アルード様はいつも突然ですね」

「すまない。だが、そうしたい。断ってもいい」

「わかりました。推しなので大丈夫です。家族や友人で抱きしめ合うことだってありますから」


 アルード様が私を抱きしめた。


 大事なものを壊さないように。


 そんな優しさが感じられた。


「私の初恋は告白するまで十年以上かかってしまった」

「よく気持ちが変わらなかったですね?」

「片想いではなかったからだ」


 ズキンとした。胸が。


「いや、違う。何も伝えていなかった。両想いだと信じていただけだ。ルクレシアの本心がどうだったのかを知りたいが、私とは違う気持ちだったのかもしれない。本心は秘密でいい。愛を秘密にすることもあるだろう? それと同じだ」

「そうですね」

「だが、私からははっきりと伝えたい。ルクレシアを愛している。心からの想いだった」

「信じます」


 私は真っすぐにアルード様を見つめた。


「アルード様はそういったことを軽々しく女性に言う方ではありませんから」

「ルクレシアに出会えて良かった」

「私もアルード様に出会えて良かったです」

「何もかもが一生の宝物だ」


 私とアルード様の唇が重なる。


 不思議な気持ちだった。


 最後なのに寂しくない。


 嬉しかった。


 ずっと私のことを想っていてくれたアルード様の気持ちが。


 キスに込められた大きな愛を感じた。


 だから、幸せ。


「ありがとうございます」


 キスが終わったあと、私はお礼を伝えた。


「幸せな気分で帰ることができます」

「馬車で送る」

「いいえ。私にとってもけじめのキスですから。ここで失礼させていただきます」


 心を込めて一礼した。


 ドアを開けて部屋を出る。廊下を進む。馬車乗り場に行く。用意された馬車に乗る。扉が閉まる。馬車が動き出す。


 窓の景色は王宮から帰る時に見えるもの。


 アルード様からどんどん離れて行くということだった。


 寂しい……。


 幸せだった気分はどこかに消えてしまった。


 アルード様のかけてくれた愛の魔法が解けてしまった証拠だった。


「本当に素敵な人」


 一人だからこそ言える言葉がこぼれ落ちた。


「一緒にいて惹かれないわけがないわ……」


 でも、自分の気持ちだけでいいなんて言えない。


 私には守らなければいけないものがたくさんあると思ってしまうから。


「心から推します。だから……許してくださいね」


 今はつらくても、必ず乗り越えることができる。


 私の答えをアルード様が受け入れてくれたから。


「アルード様……」


 涙もこぼれ落ちた。どんどん溢れてくる。


 私はやっぱり火属性。水にはとても弱い。


 涙を止めることができなかった。


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