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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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131 膝枕



 私とアルード様は午前中の試合に勝ったので、午後は午前中に勝った他のペアと戦うことになった。


 その結果、イアンとエリザベートのペアになった。


「最悪な相手だよ」

「そうね」


 イアンとエリザベートは何度もため息をついていた。


 でも、それが心理的な作戦かもしれないので気にしない。


 やることはほぼ同じ。


 支援をしっかりかける。


「ルクレシア、次は少し変えよう」

「Bプランですか?」

「Cでもいいが」

「Bでいいです」

「わかった」

「気になるなあ」

「そうよね」


 イアンとエリザベートが睨んでいるけれど、気にしない。


「戦闘開始!」


 アルード様の結界がイアンとエリザベートを別々の結界で包もうとするけれど、イアンとエリザベートはすぐに攻撃魔法を放っていた。


 そのせいで結界が完成しなくて消えてしまう。


 結界は完成すると強いけれど、張っている途中については強度がない。


 さすがイアンとエリザベート。


 アレクサンダー様に鍛えてもらっているので、アルード様の結界が完成するのを邪魔することで対策してきた。


 だけど、私とアルード様もわかっている。


 なぜなら、ヴァリウス様とクルセード様から教えられているから。


「壊したと思ったのに!」

「嫌だわ……」


 アルード様の結界を邪魔して安心した二人だったけれど、私が新しく覚えた魔法の中にいた。


 燃える鳥籠と呼ばれる火魔法。


 火の結界のようなもので、見た目が炎でできている強大な鳥籠になっている。


 水魔法で壊すのが定番。防御力がある場合は体当たりで突破できなくもない。


 だけど、イアンとエリザベートは防御力を誇るペアではない。


 どちらかというと攻撃的なペアだからこそ困る。


 防御力がないと、燃えている柱に当たった瞬間に生身ダメージを身代わりで受けるペンダントが壊れてしまうかもしれない。


 その瞬間、負け。


「ダメ元で攻撃したほうがいいかしら?」

「手の内を見せるのはしゃくだよね」


 イアンとエリザベートは話し合っていて、燃える鳥籠を攻撃しない。


「試合時間もあるし、燃やすわよ? 反撃しなくていいの?」

「最終宣告が来た!」

「余裕ぶって嫌だわ!」

「ルクレシア、燃やしていい。遠慮するな」


 アルード様がそう言ったので、私は上級の火魔法を使った。


 イアンたちの拠点に炎の柱がそびえたち、拠点の床の色が変わる。


 おしまい。


「泣ける……」

「でも、新しい魔法を披露させたでしょう? 相手の手の内を暴くのだって大事よ」


 エリザベートがイアンを慰めた。


「そうだね。気持ちを切り替えよう」

「他の相手に勝てばいいのよ」


 二人を見ていると、ペアを組んだことをきっかけにして親しくなれる、仲間意識のようなものが生まれることを客観的に実感した。


「Bではなくなったな?」

「そうですね。Cでした」


 アルード様はイアンとエリザベートを個別の結界をかけて閉じ込めようとしたけれど、邪魔されてしまったので。


 でも、まとめて二人を燃える鳥籠に閉じ込めてしまえばいいだけ。


 二人が鳥籠に対応している間に、拠点攻撃をすればいいという戦法だった。


「イアンもエリザベートも結界を壊すのが速かった」

「そうですね。練習していたのだと思います」

「回復魔法はいるか?」

「いりません」

「皆が喜ぶが?」

「足の痛みを消すためにサービスしすぎです」

「ずっと立ち見だけに気になった」


 その次はベルサス様とカーライト様のペアと、レアンとマルゴットのチームだった。


「マルゴット、どんな相手でも落ち着いて。自分の力を出し切ることが大事だから」

「そうですね! 全力で頑張ればいいだけですから!」


 ベルサス様とカーライト様のチームはやっぱり強かった。


 でも、レアンとマルゴットもかなり頑張っていた。


 土は風の反属性。カートライト様の攻撃が効かない。


 それぞれの拠点を氷や土で守っていたのも、いかにも属性の違いを感じた。


 勝ったのはベルサス様とカートライト様だったけど、健闘したということでレアンとマルゴットを称賛する声が多かった。


 対戦では魔法だけでなく戦術や戦闘経験の差が出る。


 一番重要なのは勝敗ではなく、自分の魔法を活用してアピールすること。


 力を合わせて作戦を考え、実行すること。


 生徒たちの努力を、審判を務める先生たちや見学する生徒たちは必ず評価してくれると思った。





 たくさんのペアが自分の力を出し切るような試合をした。


 それを見るだけでも勉強になる。


 同じようにするのもいいし、工夫するのもいいし、参考にして対策するのもいい。


 対戦の奥深さは魔法の奥深さを示していた。


 魔法は無限の可能性を秘めているけれど、人間の知恵と工夫に結び付くことでどんなふうに使われるかについても無限の可能性を持っていることを学べた。


「これで今日のテストは終了だ。各自ゆっくり休むように」


 先生が終了宣言をした。


 空中に黄金色の輝きが現れ始めた。


 誰もがアルード様を見つめる。


 目を閉じながら両手を広げるアルード様からびっくりするほど大きな魔力が溢れていた。


 範囲魔法が発動する。


 午前中にかけた魔法とはあまりにも範囲が違う。


 期末テストのために来ていた全員に回復魔法がかかった。


「アルード様、ここにいる全員の代表として私にお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 私はそう言わずにはいられなかった。


「さすがに範囲が広かった。魔力が一気に減った」


 アルード様は疲れた顔で弱々しく微笑む。


「帰ってゆっくり休む」

「そうですね」

「担いでいってやろうか?」


 クルセード様がにやりとした。


「大丈夫だ。自分で歩ける」

「無理はしないでくださいね。私にできることがあれば言ってください」


 同じ魔法を使えるわけではないので、アルード様がどれほど疲れたのかがわからない。


 だけど、範囲がとても広い。多人数。しかも、回復魔法。


 相当な負担だと思った。


「一度使って見たかった。どのぐらい消耗するのかを調べるのに丁度良いと思った」

「そうですか」

「プリンが食べたい」


 アルード様がそんなことを言うのは相当弱っている証拠。


「王宮に帰ったら聞いてみるのはどうでしょうか?」

「そうだな」


 期末テストが終わるまでは、王宮住まい。


 私とアルード様は同じ馬車で帰る。


「ルクレシア、頼みがある」

「なんでしょうか?」

「やはりつらい。王宮まで休んでもいいだろうか?」


 会話をする元気もないほど疲れているということ。


「もちろんです」

「ありがとう」


 馬車の中。


 二人並んで座った後、アルード様は後ろに寄りかかりながら目を閉じた。


「膝枕をしましょうか?」


 なんとなく聞いてみた。


 アルード様は無言。


「寝てしまいましたか?」

「寝られない。膝枕という言葉のせいで」


 アルード様は目を開けると私を恨めしそうに見つめた。


「ルクレシアは意地悪だ。私の気持ちを知っているというのに」


 悪役令嬢なので、意地悪なのは仕様です。


「正確にはクッションの上ですけれど」


 私は引き出しを開けるとクッションを取り出し、膝の上に乗せた。


「ここに頭をどうぞ。王宮に着いたら起こします」

「本気で言っているのか?」

「クッションを用意したのは本気だからです。でも、アルード様の足は長いので横になるなら折り曲げないと。この馬車の幅では足を伸ばせません」

「それでもいい。人生で一度きりのチャンスかもしれない」


 アルード様は私の膝の上にあるクッションの上に頭を乗せた。


 足は座席の上で折り曲げる。


「足が長いので窮屈そうです」

「気にしない。最高に嬉しい」

「お疲れ様です」

「ルクレシアも。しばし休もう」


 アルード様はそう言って目を閉じた。


 王宮まで同じ馬車に乗って行ったことは何度もあるけれど、こんな風に言うのも過ごすのも初めて。


 この世界における膝枕って……どんな立場だったらしていいのかわからないけれど。


 私はアルード様とペアを組んでいるし、友人でもある。


 だから、疲れ切っているアルード様に優しくしてあげたかった。


 心から労わりたかった。


 皆に愛の魔法をかけたアルード様に、私も愛の魔法をかけてあげたかった。


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