13 ピクニックランチ
グループのメンバーの情報で、アルード様がマルゴットをよく昼食に誘っていることがわかった。
アヤナの言う通り。
でも、私はそれを気にすることはない。
それよりも、ピクニックランチを主催するための準備のほうが重要だった。
「実は食堂で昼食を取ってばかりいるのはどうかと思うの。景色がいつも同じでしょう?」
「そうですね」
「確かに」
食堂の席には限りがある。
各学年の大きいグループが席取りをかぶらないようにしているため、基本的にはいつも同じ場所で昼食を食べることになる。
「せっかく天気が良くても屋内だとその素晴らしさを感じられないわ。そこで、ピクニックランチを開催しようと思うの」
事前に弁当を持って来る日を決め、天気が良ければ外に敷物を敷いて食べる。
雨が降ったら屋内で食べる。
いくつかの候補場所を出し合い、雨天時に備えた部屋の使用許可を担任に打診することを説明した。
「さすがルクレシア様です!」
「素敵な案ですね!」
「楽しそうです!」
「ぜひ、参加したいです!」
全員が私の案を絶賛してくれた。
「一応言っておくけれど、全員参加でなくてもいいの。お弁当を用意するのは大変だわ。試しにしてみるだけだから、サンドウィッチと飲み物程度でいいと思っているの。しっかり昼食を取るなら食堂のほうがいいでしょうし、参加するかどうかは各自で決めてね。参加しないからといって今後に影響するなんてことはないから安心して!」
「わかりました。ですが、確かに景色もメニューも慣れてしまい、代り映えがしないと思っていました。ピクニックランチは名案だと思います」
レベッカも私の案に賛成してくれた。
アルード様の婚約者候補だけど、いつも私の味方をしてくれる。
正直、一番信頼できる友人かもしれない。
「準備を手伝います。どのようなことが必要なのか教えてください」
「ありがとう、レベッカ。助かるわ!」
「私も手伝います!」
「私も!」
「絶対参加しますから!」
グループの全員で開催する場所を考え、人数的に問題ないか、すでにその場所を使用している人たちに迷惑をかけないか、天気が悪い場合に利用できるかどうかを調べることになった。
私一人で全部するつもりだったことを、手分けしてくれるのはとてもありがたい。
私のグループが初めて手掛けるイベントということにもなった。
いよいよピクニックランチの当日になった。
天気は快晴。
中庭に敷物を敷き、それぞれが持ち寄ったサンドイッチを近くの人と交換して食べた。
水筒に入れてきたお茶の種類も違うため、興味があるのを分けてもらった。
「こういう具もあるのね」
私のサンドイッチは屋敷の料理長に任せているため、とても豪華なものだった。
でも、公爵令嬢であればそれが普通。
転生前の記憶もあるため、普通の具材についてもわかっているつもりだったけれど、この世界ならではの食材があることをあらためて気づかされた。
「勉強になるわ」
「平民にとっては普通の食材ですが、ルクレシア様は公爵令嬢ですからね」
「美味しくても安価な素材を使ったお料理は食べる機会がなさそうです」
「ルクレシア様が持って来たサンドイッチ、私が食べたサンドイッチの中で一番美味しかったです!」
「あまりの美味しさに涙が出そうになりました!」
「レベッカ様のサンドイッチもすごかったですよ?」
「一生に一度しか味わえないと思うと、残念でなりません!」
「最後の晩餐?」
「ランチでしょう?」
笑い声が溢れるように広がっていく。
学校にいるのにピクニックに来たかのような気分を味わうことができた。
偶然、同じ場所でお弁当を食べるつもりでいた人たちも合流。
私のグループではない人たちとも話をすることができ、とても楽しく過ごすことができた。
アヤナが参加してくれなかったことは残念だけど、ピクニックランチ自体は大成功。
また別の日に開催しようということになった。
「ルクレシア」
教室に戻ると、アルード様から声をかけられた。
クラスメイトなのでその姿は毎日見ているけれど、話しているかといえば話していない。
久しぶりのような気がした。
「ピクニックランチはどうだった?」
「とても楽しかったですわ!」
私は満面の笑みで答えた。
「ピクニック気分を味わえましたし、グループ以外の人も急遽合流しましたの。私の知らない食材で作られたサンドイッチもありましたし、いろいろなお茶も味わえました。会話も大いに盛り上がりましたわ。あまりに好評なので、また日を改めて開催するつもりです」
「そうか」
アルード様が頷く。
「いつ開催する?」
「まだ決めていません。早くても来週でしょうか。今回はお試しでしたが、好評なら何回かしてもいいと思うのです。でも、他の人に迷惑をかけたくもないので、毎週同じ曜日にするというのもありだと思いまして」
「詳しく決まったら教えてほしい。参加したい」
私も一緒にいた友人たちも驚いた。
「アルード様も参加を?」
「開催する話を聞いて気になっていた。だが、突然参加したいといっても私のグループは人数が多い。中庭を占領してしまうだろう? それやめた。だが、次回なら調整ができる。参加人数を限定するつもりだ。それでどうだ?」
「歓迎します。でも、参加したくてもできない人がいると申し訳ないです。ですので、できるだけ多くの人が参加できるように考えてみます」
「この件についての担当はベルサスだ。連絡事項や参加人数等の調整についてはベルサスと話せ」
「わかりました」
まさかこんなことになるとは。
アルード様のグループはとても多い。全員が参加したいとなると、かなりのスペースが必要になる。
中庭は広いけれど、いつもお弁当をそこで食べている人にとっては、気まぐれに中庭を使用する大グループがあると迷惑かもしれないというのはある。
今回の経験を次回に活かそうとは思っていたけれど、アルード様のグループが一緒となると、相当な工夫が必要になりそうだった。
「ベルサス様、ご都合のよろしい時に時間をいただけますか?」
私の知る限り、初めてベルサス様に話しかけた気がする。
「わかりました。来週となると多くの時間があるとは言えません。ルクレシアの都合に合わせます」
「ありがとうございます。明日のランチタイムにグループ内で話し合いますので、そのあとでベルサス様とお話できればと思います」
「わかりました」
会話はそこまで。
午後の授業が始まるため、席に戻った。
緊張した……。
ベルサス様はきつい感じがする男性で、目つきも鋭い。
切れ者というイメージがあるし、実際にそうなのだろうけれど、ちょっと怖い感じがする。
人によっては王族であるアルード様のほうが畏怖の対象かもしれないけれど、私にとってはベルサス様のほうが怖いというか、近寄りがたい。
ベルサス様はどんなキャラだった?
思いついたことは、宰相の息子で妹溺愛者ということだけだった。