129 開幕戦
期末テストが始まった。
開幕第一戦はベルサス様とカートライト様のペア、アヤナとネイサンのペアだった。
当然のことだけど、魔法学院中が注目している一戦。
でも、見学できる人数が限られていて、これから対戦する人や特級クラスの人が優先だった。
「準備時間に入る!」
まずは自分や味方に防御や支援系の魔法をかける準備時間があり、その時間は攻撃魔法を使ってはいけない。
指定された円形の拠点内にいなければいけないという制限もつく。
アヤナが防御魔法をかけるけれど、ネイサンは自分で移動魔法や浮遊魔法をかけていた。
カートライト様は自分とベルサス様に移動魔法や浮遊魔法をかける。
ベルサス様は氷の防御魔法をカートライト様にかけた。
このあたりの内容は全員の想定内。
重要なのは準備時間が終わったあと。戦闘時間にどうするか。
「戦闘開始!」
その声が全て言い終わったのかわからないような状態で、アヤナは結界を張った。
円形の拠点を守る必要があるので、結界で守ってしまうという作戦。
アヤナの結界が壊れなければ、拠点に魔法攻撃をされて負けるのを防げる。
ネイサンは自分で支援系の魔法を使えるので、アヤナが支援することはほぼない。そこで足手纏いにならないよう自分も結界の中にいることにした。
ベルサス様とカートライト様はアヤナを攻撃できないので、弱点をつきにくくなる。
対戦時間は決められているので、その間にネイサンがベルサス様とカートライト様の攻撃をかわし、相手の拠点に魔法攻撃を仕掛けて勝利する作戦だと思った。
「予想通りだな」
ベルサス様とカーライト様のペアの拠点は巨大な氷で守られていた。
「試すか」
ネイサンが火魔法を使う。
火魔法と氷魔法は反属性。属性的には火魔法のほうが優位。
でも、拠点を守る氷は消えなかった。
ベルサス様の氷魔法がそれだけ強いということ。
「やっぱり無理か」
ベルサス様は氷が専門。入学してからずっと学年総合一位を保持しているほど頭も良い。
ネイサンの火魔法であっさり負けるような方法を選択するわけがなかった。
「だが、削ればいい!」
ネイサンは上級魔法を使った。
テスト用の施設内なので勝手に威力が下がるけれど、それでもかなりの威力がある。
竜巻をドリルのように使うことでアヤナの結界を壊せたので、同じ方法でベルサス様の氷を削ってしまう作戦だった。
「予想通りですね」
「行くか」
わざわざネイサンが上級魔法の詠唱を終わって竜巻を出したあと、ベルサス様とカーライト様が動いた。
上級魔法は魔力を消費するし、操作するなら余計に管理が大変になる。
わざと使わせてから攻撃したほうがネイサンを倒しやすいだろうと考えた。
ネイサンに対してはベルサス様が攻撃。
カーライト様は風魔法で竜巻の妨害をする。
二人でネイサンを攻撃するのではなく、それぞれが攻守に分かれることでアピールしていた。
試合会場である施設には特殊な魔法があって、強い魔法については施設が壊れないように弱体化される。
そのせいで上級魔法のように威力がある魔法ほど、威力を削がれて損をしてしまう。
施設内においては威力を削がれないギリギリの魔法が最も強い効果を出せるともいう。
「それも予想通りだ!」
ベルサス様の攻撃を余裕でかわしながら、ネイサンは火魔法でベルサス様を攻撃。
それと並行して竜巻を調整。
カーライト様の妨害に負けないように工夫している。
一人であれこれできてしまうネイサンはやっぱりすごい。
だけど、私はアヤナのチームが決定的なミスを犯していると思った。
それはアヤナが結界内にいること。
そのせいでネイサンの支援が全くできない。
足手纏いになるのは防げるけれど、成績を上げるための評価がつかない。
結界を解いて支援して、また結界を張ればいいけれど、拠点防御の結界も同時に切れてしまう。
その一瞬を狙われると困る。
「逃げ足が早いですね、さすがモルファント!」
「俺はゼイスレードだ!」
ネイサンが火の範囲魔法で攻撃。
ベルサス様は避けられない。
でも、燃えない。生身に受けるダメージを身代わりで受けるペンダントも壊れない。
それだけしっかりと氷の防御魔法で守られている証拠だった。
ネイサンの火魔法の実力はメキメキ上がっている。
その炎に負けないベルサス様の氷魔法は相当すごい。
「竜巻が戻って来る!」
ネイサンが起動修正して同じ場所を削ろうとしている。
それをカートライト様が風魔法で邪魔しようとするけれど、竜巻が何度も戻って来る。
カートライト様の魔法も強いけれど、中級のせいで進路や場所を変更させることしかできない。
上級魔法の竜巻自体を消せるだけの威力がない証拠で、それだけネイサンの能力がすごい証拠でもあった。
「邪魔だ!」
ネイサンは妨害行為を繰り返すカートライト様にも火魔法で攻撃し始めた。
ネイサンは竜巻を管理しつつ、ベルサス様の攻撃を避けつつ反撃、それでいて竜巻を食い止めようとしているカートライト様にも攻撃を続ける。
絶対にすごい! 英雄の子孫だって感じだわ!
ここまでネイサンができるとは思っていなかった。
そして、何よりもすごいのは、ネイサンのほうが攻撃で押していること。
空中を縦横無尽で移動して攻撃する姿はまさに風使い。
ネイサンの評価がぐんぐん上がっているのは間違いなかった。
そのせいか、ベルサス様がアヤナの結界を氷で包み込んだ。
「どうしてあんなことを? アヤナを寒くさせるとか?」
でも、結界内の温度はきっと変わらない。
「結界の耐久度を落とすためだ」
結界を壊す方法で一番多いのは攻撃魔法を当てること。
でも、それ以外の方法でも結界を壊せる。
それは結界の耐久度を下げ、消滅を狙う方法。
アヤナは強い結界を作ることに専念していたけれど、基本的に魔法攻撃に対する強さ。
それに目をつけたベルサス様はアヤナの結界を氷で包み込んで冷やした。
アヤナの結界自体が低温になる。温度に対する耐久度が低ければ、それで壊れてしまうということだった。
「ベルサスの氷は普通ではない。アヤナの結界が壊れるのは時間の問題だ」
アルード様の読みは当たった。
アヤナの結界が壊れた。
すぐにアヤナが結界を張り直そうとするけれど、結界を壊したベルサス様の氷が内側に侵食した。
拠点防御に失敗したということになりそうだったけれど。審判は何も言わない。
アヤナは侵食した氷を光の攻撃魔法で砕くとすぐに結界を張り直した。
「拠点防御に失敗したのでアヤナたちの負けでは?」
「いや。拠点防御に失敗すると床に色がつく。だが、色が変わっていない。おそらく、アヤナが床に防御魔法を張っていた」
結界が壊れても防御魔法があれば、拠点に攻撃を受けた判定にならない。
二重の対策をすることで完璧に拠点防御をする作戦だとわかった。
「最初に結界を張ったため、結界しかないと相手に思わせた。だが、内側にいたアヤナは防御魔法を床面にもかけていた。実は二重の防御だったというわけだ」
「地味ですけれど、効果ありです」
「そうだな」
拠点攻撃に失敗したので、ベルサス様とカートライト様は全力でネイサンを攻撃し始めた。
さすがのネイサンもつらそう。
竜巻の進路を修正できていない。上級魔法をずっと維持しているだけでもすごいけれど。
そして、時間切れ。
判定に持ち込まれ、ベルサス様とカートライト様のペアの勝利になった。
「攻撃を多くしたほうが判定では有利だ。最後にベルサスとカートライトで全力攻撃したのが良かった」
「判定狙いのために全力で攻撃して、優勢勝ちに持ち込んだわけですね」
「そうだ。拠点を奪えなくてもいい。対戦相手を攻撃しているだけでも評価は良くなる」
「負けちゃったわ……」
アヤナが走って来て、私に抱きついた。
「慰めて、お姉様!」
そんな軽口が言えるのであれば大丈夫。
「残念だったわね。アヤナもネイサンも。結界が壊れた時はドキッとしたわ」
「それは大丈夫。防御魔法で守っていたから。私は防御専念、ネイサンは攻撃専念って決めていたの。だって、ベルサス様とカートライト様よ? 中途半端なことをしていたら負けるわ」
「そうね」
「ネイサン」
クルセード様が呼んだ。
「上級魔法をあれだけ操作できるのはいいが、一度消して別の攻撃をしたほうが良かった。相手や拠点にダメージを与えられなくても、多種多様な攻撃をしたという評価を狙える」
「なるほど」
「上級魔法で一気に決めることができるならそれでもいい。詠唱が長いことや魔力の消耗を考え、序盤で使うのも妥当だろう。だが、それだけではアピールにならないぞ?」
さすがクルセード様と思えるような助言だった。
「わかった。次は気を付ける」
「アヤナ、結界に閉じこもるのはよくない。自分と拠点と別々にしたほうがいざという時ネイサンの支援をしやすい」
アルード様もアヤナに助言した。
「そうですね。どうしようか迷ったのですが、私のいる結界をガンガン攻撃されると心象が悪くなるし、ムカつくのであえて一つの結界でまとめました。拠点の結界が破られた時の張り直しをすぐにできます」
「そうか。ベルサスの氷で壊れると思ったか?」
「いいえ。直接魔法で攻撃するのではなく、魔法で冷やして壊すなんて想定外です。さすがベルサス様です。防御魔法がなければ、もっと早く負けていました」
「ベルサスはさすがだった。結界が壊れたあと、氷魔法を撃つのではなく、結界を壊した氷を操って拠点を奪おうとした。そのほうが相手にわかりにくく、早く攻撃できる」
「初戦でこの方法を使ってしまいました。アヤナたちのせいですね」
「隠しておきたくても無理だったな」
カートライト様が苦笑した。
「これが対戦のすごさだと思えるような試合でした。いきなり魔法学院最高の対戦だったかもしれません。たくさんの生徒が刺激を受けたと思います」
「ルクレシアも頑張れ。勝敗はつくが、重要なのは魔法をいかに活用しているかだ」
「そうですね。頑張ります!」
私はアルード様のほうに顔を向けた。
「アルード様、勝ちましょう!」
「もちろんだ」
アルード様は微笑んでいるけれど、なんとなく無理をしている気がする。
私にできるのは前に進んでいくことだけ。
二人で勝利を掴んで、本当の笑顔を浮かべようと思った。




