128 期末テストの日程
期末テストの対戦日程表が発表された。
誰と誰が対戦するかもわかった。
「最悪!」
アヤナは不機嫌全開だった。
「ベルサス様とカーライト様なんて!」
魔法学院側がこれまでの成績や中間テストの結果、内容を検討して対戦相手を決める。
その結果、アヤナとネイサンのペアはベルサス様とカーライト様のペアと対戦することになってしまった。
「さすがに初戦とは思わなかった……」
ネイサンは明らかに精神的なダメージを受けていた。
以前とは違って弱い部分を教室でも見せることができるのは、無理に強がるのをやめた証拠。
本当の自分を出せるようになってきている。
それは弱い自分を受け入れる強さがある証拠。成長したと言える。
「意図的に初戦にされたと思います」
「盛り上げて生徒のやる気を引き出すためではないか?」
ベルサス様とカートライト様も意見を出す。
ジーヴル公爵領に行った四人は確実に仲が良くなった。
アヤナのところに全員が集まって話している。
ベルサス様は自分の席に座ったまま、後ろを向くだけだけど。
「ルクレシアと当たらなくてよかったです」
ベルサス様が私のほうを見た。
「ビビがルクレシアを応援しています。私が勝ったらビビが拗ねてしまいます」
ベルサス様らしい理由。
「兄のほうを応援するようビビに言えばいいじゃない?」
アヤナが当たり前のように言う。
「ダメです。ビビにとっての一番はルクレシアですから」
可愛い応援者がいるのは嬉しい。
「ビビが応援してくれるなら頑張らないと」
「大丈夫そうか?」
「戦ってみないことにはなんとも」
特級クラスの男子ペア。
魔物討伐の経験もあるので、ペアとしての強さは上位。
「女子は狙われるから注意よ」
エリザベートが助言してくれた。
「相手の弱点をつくのは当然のことだから」
「エリザベートも気をつけないと」
「わかっているわ。お兄様に散々言われているから」
アレクサンダー様は戦闘にうるさい。
あれこれ助言してそうだった。
「教えてもらっているの?」
「当然でしょう? でも、イアンのほうが大変よ」
「ハウゼン伯爵の容赦のなさは言葉では到底言えないよ」
イアンがげんなりしていた。
「ありがたくはあるけれど、レベルが高すぎてきつい!」
「お兄様は優秀だもの! 当然でしょう!」
「妹もきつい。二人揃ってスパルタ主義でさ」
「わかるわ!」
アヤナが遠慮なく大笑いをする。
私もアレクサンダー様やエリザベートに教えてもらったことがあるので、イアンの気持ちがわかる。
相当苦労していそうだと思った。
「レアンと変わりたい」
「僕も変わりたいけれど、イアンは別の意味で大変になるよ。ブランジュには強烈なまでに頑固な女性が二人いる。反属性だから余計に大変だよ」
レアンの表情も冴えない。
「双子はまだまだ疲れていそうね。モルファント公爵領も大変だったみたいだし」
「空中戦だったからね」
「イアンたちと一緒で良かったよ。肉食系の魔鳥だったから」
高級食材ではなく害悪の魔物討伐。
「ネイサンのこともわかった。上級クラスだったのは火魔法や座学のせいで、風魔法は実力者だって聞いた」
「モルファントの魔鳥狩りで鍛えていたって聞いた」
「モルファント公爵家主催の狩猟会がある。一族の者は強制参加だっただけだ」
ネイサンが答える。
「子どもの頃から囮役だった。捕食されないよう必死で逃げた」
「子どもにそんなことをさせているの?」
「俺だけだ。外孫だから厳しかった」
「そういう問題じゃないよね」
「でも、そういうのがモルファントっぽい」
モルファント公爵家は魔物討伐で有名。風の系譜だけに空中戦を得意としている。
領地にいる肉食系魔鳥を討伐するのが当然の義務なので、魔物に対する感覚が一般常識とは違う。
「魔物に食われる前に上級魔法を食らわせろと言われた」
「ネイサンは十歳で上級魔法使えたらしい」
「なのに火属性の勉強を強制させられているっていうのがおかしいよね」
「ゼイスレードらしい」
「魔物討伐で有名な貴族は家に対する誇りが高く、何かと常識が通用しません」
「わかる」
「わかるよ」
「だよね」
「そうだな」
私はちらりと左に視線を送った。
アルード様はネイサンの席に座り、クルセード様と話している。
結界を張っているので何も聞こえない。
隅っこは結界を張りやすいので、内緒話に向いていると思った。
「何を話しているのかしらね?」
「さあ?」
「とにかく、日程と対戦相手が発表されたので、作戦を考えないと」
「ベルサスに期待する」
「カーライトも考えてください。チーム戦の時も。アルード様はあてになりません」
「どうしてよ?」
アヤナが不思議そうな顔をした。
「王族だからです。活躍しても成績は関係ありません。できるだけ私とカーライトに活躍させようとするはずです」
「そういうことね。でも、二人はペアでも組んでいるわ。ジーヴル公爵領の魔物討伐でも大活躍だったし、大丈夫じゃない?」
「そう言って油断させようとしても無駄です」
「バレちゃった! ネイサン、どうする?」
「大丈夫だ。俺がなんとかする」
「ネイサンは本当に頼りになるわ! かっこいい!」
「見え透いた嘘はつくな。信頼がなくなる」
「信頼しているから冗談を言えるのよ!」
アヤナとネイサンはペアを組んだせいで一緒に練習する時間も増え、どう見ても仲が良い。
お似合いのカップルだという噂もあるらしいけれど、本人たちはそういう関係ではないと否定している。
チャイムが鳴った。
休み時間は終わり。
全員が席に戻っていく。
アルード様が結界を解かないので、ネイサンは仕方がないといった様子でアルード様の席に座った。
「教えたほうがいいか?」
「クルセード様は休み時間が終わったことをわかっているから、アルード様の話が終わったら言うと思うけれど」
「そうだな。だが、担任が来てしまうと席を変わりづらい」
「大丈夫よ。王族に席をどけなんて言えないっていうのは誰でもわかっているから」
「そうだな」
「むしろ、王族の席に堂々と座っているほうが問題かもね」
ネイサンはハッとした。
「そうか! ここは王族の席だ!」
「遅いわよ!」
慌てて立ち上がるネイサンを見て、アヤナが笑い出す。
「座る前に気づきなさいよ!」
「クラスメイトの席に座るのは普通だろう?」
「王子様ってこと、意識していないのね」
「していないわけがない! 俺の後ろと横は王族だ。うっかり座っただけだ!」
「正直、あの席によく行こうと思ったわよね?」
「……平民にはきつい」
「そうね」
「俺は騎士を目指している。王族の側にいることができるのは栄誉だ」
「なるほどね。王族の側にいる騎士としてあそこに陣取っているわけね」
「否定はしないでおく」
「でも、クルセード様はハイランドの王子よ。イアン様の席が良かったんじゃない?」
「そこも狙っていた。だが、一番狙っていた席はアヤナに取られた」
「早いもの勝ちよ! 移動魔法を使えばよかったわね?」
「移動力で優っても交渉の早さで負けていた」
「そうね。空いたわよ」
結界が解かれ、アルード様が立ち上がった。
「話が長くなってしまった」
「大丈夫です。お気にされず」
ネイサンは軽く頭を下げると自分の席に座った。
「ネイサン、アルードと俺に対する態度が違わないか?」
「自国の王子と他国出身のクラスメイトの差だ」
「度胸があるどころではないな。頭が悪い」
「騎士は王族に仕える。だが、仕える相手を間違えたら地獄ではないか?」
「そうだな」
「クラスメイトとして聞く。自国の王子と他国の王子、騎士として仕えるならどっちだ?」
「他国の王子のほうが面白い。だが、常識的には自国の王子だ」
「理解に感謝する」
「めっちゃため口よね。あんなことを言えるネイサンもすごいけれど、そんなネイサンを余裕で笑うクルセード様の器がでかすぎ! 尊敬するしかないわ!」
アヤナが普通に本音を話してくる。
結界を張っていないのに。
心配性の私としては気になることだった。




