125 ハウゼンVSゼイスレード
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短編「呪いのダイヤモンドをもらったら」を同時に投稿しました。
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王都に戻って来た。
中間テストの派遣先が違うため、場所によって滞在日数が違う。
使わなかった予備日は休み。
コランダム公爵邸でゆっくり体を休めることになった。
「どうだった?」
「うまくいったの?」
夕食時間は予想通り。
両親が詳しく聞いてきた。
「多くの魔物を倒しました。アルード様のおかげで簡単でした。良い評価もいただけそうです」
「そうか」
「安心したわ」
アヤナはまだ戻っていない。
三人だけなのは久しぶりだった。
両親は忙しいけれど、必ず夕食時間までには戻ってくるようにしている。
家族の時間。両親と話せる貴重な時間でもある。
あれこれ聞かれる前に、私のほうから率先して中間テストについて細かく説明した。
「そうか」
「安心したわ」
両親がにこやかにそう言った。
変だわ……。
さっきも同じように言っていた。
「お父様、お母様、何かあったのでしょうか?」
「何もない」
「何もないわ」
今日、二人は一緒に出掛けていた。
「聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
「なんだ?」
「何かしら?」
「アルード様の婚約者候補に選ばれたことですが、本当はどう思っていたのですか? 喜んでいましたか? 迷惑でしたか?」
お父様はすぐに人払いをした。
「急にどうした? ルクレシアこそ何かあったのか?」
「アルード様に何か言われたの?」
愛を告白されたなんて言いにくい。
私は別のことを言うことにした。
「アルード様ではない人からですが、縁談が来ているのかどうかを聞かれて困りました。何も知らないので、帰ったら聞いておこうと思いました」
「そうか」
「そろそろ聞いてくる者もいるでしょうね」
両親は顔を見合わせながら頷いた。
「そろそろ話そうとは思っていた。アルード様の婚約者候補からはずれただろう? 他の結婚相手を探すのはおかしくない。だが、それについては待つようにと王太子殿下から内密に言われていた」
想定内だけど、知らなかったふりをしておく。
「なぜ、王太子殿下が?」
「王家に対して不敬だと思われないためだ」
ルクレシアはアルード様と結婚したがっていた。
だというのに、婚約者候補からはずれてすぐに他の縁談が調うと、アルード様への気持ちは嘘だった、極めて不敬ということになる。
そうならないためには一年程度は様子を見る。
縁談が来ても、王太子殿下の許可が出るまで全ての縁談は受けられないと伝えるよう言われていたことがわかった。
「今だからこそ言えるが、ルクレシアが生まれた時には王太子殿下の婚約者候補にどうかと思っていた」
「えっ!」
それは想定外。
「私を王太子殿下と結婚させたかったのですか?」
「それが普通だ」
「娘を嫁がせるなら長男の王太子殿下、婿に迎えたいのであれば次男のアルード様を狙うのが常識よ」
「一般的にはそうですね」
「だが、あの事故のせいでアルード様の婚約者候補になってしまった」
王家の決定に反対するわけにはいかない。
私が喜んでいたので、それでいいとなった。
ところが、アルード様の婚約者候補が増えた。
王太子であるヴァリウス様の得意な魔法が光から水に変わり、王太子の婚約者候補だったエリザベートがアルード様の婚約者候補に変更された。
ヴァリウス様の得意な魔法が風になると、王太子の婚約者候補からはずれた姉の代わりにマルゴットがアルード様の婚約者候補になった。
どの家にも事情があるのはわかっている。
どうしようもない。王家の決定通り。黙って受け入れるしかなかった。
「ルクレシアにとってはつらいだろうが、アルード様の婚約者候補でなくなったのは不幸中の幸いだ。王家の事情に付き合わされずに済む。自由になれたと思ったのだが、王太子位殿下の許可が出るまでは縁談の話し合いができないために困っている」
「正式な縁談ではないけれど、それとなく話は出ているの。互いに様子を探り合っている感じね」
「ルクレシア、気になる相手がいるのであれば教えてほしい。それとなく縁談の話題が上がっている貴族であれば、まとめることができるかもしれない」
「一番良さそうなのはハウゼン侯爵家だったのだけど、ゼイスレード侯爵家からも話があったの。ネイサン・ゼイスレードはモルファント公爵の孫だから、モルファントからも勧められたわ。そのせいで口添えが始まってしまったわ」
「口添え?」
「通常は男性の家と女性の家で話し合う。だが、別の男性の家が名乗りを上げると、男性の家同士が競い始める」
親族の貴族から口添えしてもらうのが手始め。
ネイサンの母親の実家はモルファント公爵家であるため、モルファント公爵家がゼイスレード侯爵家との縁談を受けたほうがいいと口添えした。
それに怒ったハウゼン侯爵は妻の実家であるヴィエント侯爵家と母親の実家であるジュール公爵家に口添えを頼んだ。
ハウゼンもゼイスレードも魔物討伐で有名な貴族。
魔物と戦うことを当然と思っている家なので、対抗心も競争心も強い。
親族もライバルに負けないよう加勢する。
大ごとになるのは時間の問題なので、ヴァリウス様がハウゼン侯爵家とゼイスレード侯爵家の当主を呼び出し、コランダム公爵家との縁談で張り合うのを禁止した。
すると、モルファント公爵家がコランダム公爵家に縁談を申し込んだ。
孫のネイサンと私の縁談。ようするに、別の家から申し込むという抜け道を使った。
考えることは同じなので、ヴィエント侯爵家やジュース公爵家も同じように親族であるアレクサンダー様と私の縁談を申し込んだ。
それを知った王太子殿下が激怒。抜け道も一切禁止した。
「今日、王宮に王太子派の貴族が招集され、コランダム公爵家との縁談は自分の許可が出るまで禁止だと通達された。国王派、第二王子派、中立派、無派閥派に対しても同じだけに、そのことを内密の話として伝えるようにという通達もあった」
内密とは言っているが、貴族全員に通達が出たのと同じ。
公然の秘密になる。
「大変なことになっているのでは……?」
「実はそうだ。だが、王太子殿下が全てを預かる形にしてくれている」
「アルード様の成人が近いでしょう? 騒がしくなるのは許さないと言ったから、表向きは静かになるわよ」
「ルクレシアはどちらがいいと思う? ハウゼンとゼイスレードだ」
「ネイサンよね? 一緒に魔法の練習をしていたわ」
「アレクサンダーのほうが絶対にいい! いずれ当主夫人になれる! ネイサンには爵位がない!」
「ゼイスレードは英雄の家系なのよ? ルクレシアの支えがあればネイサンも英雄になれるわ! 功績で爵位をもらうことだってできるわよ!」
「アレクサンダーと結婚するだけで伯爵夫人だ! いずれは侯爵夫人になる! 王太子殿下の友人で王宮の魔導士。ルクレシアの支えがあれば公爵位に格上げされるかもしれない! 三属性使いの子どもが生まれる可能性もある!」
「さすがに盛りすぎよ! 可能性は低いわ!」
「ネイサンが英雄になるよりもずっと確率は高い! 当主夫人しか認めない!」
「ルクレシアはどちらがいいの?」
ヴァリウス様がアレクサンダー様とネイサンの選択を出した理由がわかった。
ハウゼン対ゼイスレードになっているからだと。
「縁談のことは考えたくありません。中間テストは終わりましたが、期末テストのほうが重要です。対人戦のほうがはるかに難しいです」
「今が一番大変な時であるのはわかっている」
「私たちも魔法学院の卒業者だもの。だけど、コランダムとしてはどう思っているのかを決めないと」
「ルクレシアが決められないなら、私たちで決める」
「ネイサンよ! ルクレシアがしっかりと手綱を握れるわ!」
「アレクサンダーだ! ルクレシアをしっかりと導いてくれる!」
両親もハウゼンとゼイスレードで対立していた。
「やめてください。夫婦なのに対立するなんて。縁談も結婚も卒業後に話し合うことにしてください。それが私の意見です。コランダムの意見ということにしてください」
「難しいかもしれないが、検討しておく」
「ルクレシアがどう思っているのかはわかったわ」
なんとか夕食時間を乗り切った。
勉強するといって自室に戻る。
「ダメだわ……」
両親には言えない。
アルード様からプロポーズされたと言えば、余計に状況が混迷するだけ。
でも、アルード様が私にプロポーズした本当の理由もわかった。
私と有力貴族との縁談があり、ヴァリアス様が王太子の力を使って止めている状態だから。
きっと自分との結婚を了承してもらい、他の縁談は全て断るということにしたかった。
「アヤナに相談するしかないわね」
そう思った私はハッとした。
「アヤナは私とアルード様をくっつけたい派だわ!」
アルード様とくっつくよう言うに決まっていた。
そうすれば、縁談のことは解決だと。
「やっぱり言えない……でも、どうすればいいの?」
私はまだ結婚相手を決めたくない。
なのに、周囲は私の結婚のことで話をしていて、できるだけ早く相手を決めたがっている。
このままだと勝手に結婚相手を決められてしまうかもしれない……。
ベッドで枕を抱え込んだまま悩むばかりで答えも名案も浮かばない。
いつの間にか寝てしまっただけだった。




