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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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122 夜間飛行



「起きなさい」


 ベッドで寝ていた私はヴァリウス様に起こされた。


「……何かあったのでしょうか?」


 次の瞬間、魔法がかかった。


 眠気が消える。


「こんな魔法が? 勉強で眠くなった時に使えますね!」

「ルクレシアらしいですね。一緒に来なさい」


 ヴァリウス様が差し出したのは魔導士用のローブ。


 私は寝間着の上にローブをかぶった。


「外です」


 ヴァリウス様が向かったのはバルコニーに通じるドアのほう。


「どこかに行くのでしょうか?」


 私はフードをかぶったけれど、それに気づいたヴァリウス様がフードを取った。


「無駄です」


 顔を隠す必要はないということ。


「魔法の絨毯に乗ります」


 バルコニーの側に絨毯が浮かんでいる。


 おとぎ話に出て来る魔法の絨毯を思い出した。


「これに……乗れるのですか?」


 と言いつつ、浮遊魔法と飛行魔法があれば可能な気がした。


「乗り心地が良いとは言えませんが、ケージャンの夜間飛行を楽しむための乗り物です」


 これからの予定がわかった。


「異国風の夜景を楽しめるのですね!」

「普通ならそうですが、私たちにとっては違います」

「どう違うのですか?」

「夜間飛行の訓練です」


 大納得。


「これは軽い素材でできています。ゆっくり乗りなさい」


 ヴァリウス様に手を貸してもらいながら、私は浮遊する絨毯の上に乗った。


「両膝をつきます。完全に座ってしまっても大丈夫です」

「はい!」


 私は興奮していた。


 まるでおとぎ話の中に入り込んだような気分。


「手綱に両手でつかまりなさい」


 絨毯の左端と右端を結ぶようにロープがある。


 ヴァリウス様も同じロープを掴んだ。


 このロープが馬の手綱のような感じで、絨毯を操作するのかもしれない。


「最初だけ支えます。出発しますよ?」

「はい!」


 ゆっくりと魔法の絨毯が前に進み始めた。


 もしかして、私は夢を見ているの……?


 おとぎ話のように空を飛んでいる。


 大勢の人々が眠っていないことをあらわすように建物の灯りが数えきれないほど見える。


 空も明るい。星の輝きが弱く見えてしまうほど月が輝いていた。


「怖くありませんか?」

「美しい景色に感動しています!」

「砂漠のほうに行きます」


 ヴァリウス様は進路を変更した。


「このような乗り物があるとは思いませんでした。絨毯に見えますが手綱がついていますし、座る場所の下には板があるようです」

「二枚の絨毯の間に強度を保つための板が入っています」


 とても単純な構造だけど、飛行用に使えるのは便利。


「ケージャンでは普及しているのでしょうか?」

「いいえ。普及しているのはラクダです。このような乗り物は観光客向けです。操縦者が前に座り、観光客が後ろに座ります。今夜は特別に乗り物だけを借りました」

「ヴァリウス様が魔法の絨毯を操縦できるとは思いませんでした」

「今の私はヴァリウスではありません。よく見なさい。魔導士用のローブです」


 それはもしかして……。


「ヴァン様とお呼びしてもいいのでしょうか?」

「名前を呼ぶ必要があるのであればそうですね。ディアマスの王太子がこのような場所にいるわけがありません。普段の私は王族付きの魔導士として行動しています。護衛をつけずに外出できるからです」

「なるほど」


 魔法の絨毯が砂漠の上で止まった。


「ここには私とルクレシアしかいません。秘密の話をするのに丁度良いでしょう」

「どのようなお話でしょうか?」

「夕食の時、アルードと何を話したのですか? とても仲が良さそうでした。中間テストで素晴らしい成果を出したのですから当然です。珍しい食事と踊りを楽しむはずだったというのに、途中から様子がおかしくなったように見えました。詳しく説明しなさい」


 聞かれそうな気はしていた。


「アヤナとネイサンは対戦のペアを組んでいます。ペアを組んだことがきっかけで恋人同士になる者もいるので、アルード様は二人にそのような関係になってほしいと思っています」

「ありがちですが、悪くありません。ルクレシアはどう思うのですか?」

「自然とそうなるならともかく、意図的に誘導することには反対です」

「なるほど」


 ヴァリウス様は頷いた。


「ルクレシアはあの二人の気持ちを大切にしたいのですね」

「そうです」

「では、別の質問です。ルクレシアはアヤナが好きな男性を知っていますか?」

「知りません」

「ネイサンが好きな女性を知っていますか?」

「知りません」

「本当に? 密かに想っている様子はないのですね?」

「全くないです。私から見ると気軽に話せる友人同士に見えます。アヤナは見た目と違って図々しい性格なので、互いに同性同士の友人のように接していると思います」


 ヴァリウス様は考え込む。


 そして。


「ルクレシアはアレクサンダー・ハウゼンを知っていますね?」

「知っています。エリザベートの兄です」

「アレクサンダー・ハウゼンとネイサン・ゼイスレード、どちらと結婚したいですか?」


 いきなりすぎる!!!


 どうしてこんな質問が出てきたのかが謎でしかない。


「恋人にしたいかでも構いません。どちらですか?」

「なぜ、二人の名前が出たのでしょうか?」

「好条件だからです。とりあえず、選びなさい」

「選べません」

「なぜです? どちらも好きではないからですか?」

「結婚相手としても恋人としても考えたことがない相手だからです。私はまだ学生です。魔法の勉強が優先だと思っています」

「今年中に十八歳になります。結婚できますよ? 良い相手は早めに確保しなくてはいけません。ルクレシアはアルードの婚約者候補ではなくなりました。別の相手を考えるようコランダム公爵夫妻に言われているのでは?」

「そういったことは言われていません。今は魔法や対戦のことで頭がいっぱいです。集中しないと良い成績が取れません。そういった話はしないでほしいと思っています」

「では、縁談については何も聞いていないのですね?」

「聞いていません」


 嫌な予感がした。


「まさか……私が知らないだけで縁談があるのでしょうか?」

「ルクレシアは教え子です。特別なチャンスを一度だけあげましょう。今ここで恋人にしたい男性か結婚したい男性の名前を言えば、私が力を貸します。自分の選んだ相手を恋人か結婚相手にできます。誰でもいいですよ。私が知らない者でも構いません。名前を言えばいいだけです。どうしますか?」


 どうしてこうなるの!!!


 ゲーム的補正かもしれないという答えは、全く役に立たなかった。


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