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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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121 最愛の弟

 アルードとヴァリウスの話です。



 王族が宿泊するのに相応しい最上級の部屋。


「どうしたのです?」


 ソファに座ったヴァリウスが戻って来たアルードに話しかけた。


 絶対に聞かれると思っていたアルードは、部屋で盛大なため息をついた。


「ルクレシアと喧嘩したのですか?」

「アヤナとネイサンはペアです。親しい証拠だけに、恋人関係になるよう応援するのはどうかと話しました。ですが、ルクレシアは嫌がりました」

「なぜです?」

「アヤナの気持ちを優先したいそうです。アヤナは良い成績にしたくてネイサンを誘っただけでした」

「ネイサンのほうは違うかもしれません」

「本人たちに任せるそうです」

「きっかけが必要かもしれません。作ってあげればいいではありませんか」

「誘導するようなことはしたくないそうです」

「そうですか」

「ルクレシアはアヤナを大切にしています。ネイサンのことも。友人だからこそ、余計なことはしたくないようです」

「そのようですね」

「私もルクレシアの友人です。結婚したくない婚約者候補が四人もいて困っています。だというのに、ルクレシアは減らすことに協力してくれません。理由はわかっています。私よりもアヤナやネイサンのほうが大事だからです」


 弟の心の中がどうなっているのかを兄は察した。


 美しく清らかな場所に黒々とした感情が生じている。


「私はアルードの味方です。ネイサンを片付けてあげましょうか?」

「片付ける? どういう意味ですか?」

「邪魔者は魔物のエサにします。魔物討伐に命を懸けるゼイスレードなので簡単ですよ」


 アルードはすぐに首を横に振った。


「絶対にやめてください! ルクレシアが悲しみます!」

「アルードが慰めてあげればいいではありませんか」

「卑怯です! 兄上にそんなことをしてほしくありません!」

「愛する弟のためならどんな願いでも叶えてあげたくなります。本心を言いなさい。本当はどうしたいのですか?」

「わかりません。今はただ……悔しくて。アヤナにもネイサンにも負けたくありません」

「そうでしょう。わかります」


 ヴァリウスはアルードの側に行くと慰めるように抱きしめた。


「人生には試練がつきものです。悔しいのであればもっと強くなりなさい。アヤナとネイサンはペアを組んでいます。どちらもアルードにとっては邪魔者。二人まとめて倒せばいいではありませんか。対戦で実力の差を見せつけてやりなさい。何かが変わるかもしれません」

「それについては考えました。ですが、ルクレシアの気持ちは変わりません。アヤナとネイサンに優しい言葉をかけ、心から励ますでしょう。友情が強くなるだけです」


 アルードの言葉はヴァリウスの予想と同じ。


 良くも悪くも。


「可能性を信じなさい。諦めることは未来を閉ざすことです。アルードの望みは必ず叶います」

「私の希望は消えかけています。父上のせいで!」


 間違いではない。


 そして、アルードがそう思うことは、ヴァリウスにとって極めて都合の良いことでもあった。


「そうですね。私とアルードの父親は愚かです。ディアマスを治める国王でありながら、その座にふさわしい器がありません。魔物のエサにしなくてもいずれ自滅するでしょう」

「私の味方は兄上しかいません」

「私がいれば大丈夫です。ずっと側にいます。アルードは最愛の弟、唯一の家族ですからね」


 幾度となく繰り返してきた言葉。


 それはアルードが生まれた時から変わらない。


 絶望を希望にするための魔法であり、誓いであり、呪いでもある。


「私が必ずアルードを守ります。アルードの希望もね」

「いつまでも守られるだけではいけません。私が兄上を守ります。そのために光魔法を鍛えています」

「まだ成人していません。甘えなさい。兄だからこそ、そうしてほしいのです」

「わかりました」

「ところで、魔法の絨毯はどうするのですか?」


 おとぎ話に出て来る魔法の絨毯を模した乗り物に乗り、空からケージャンの夜景を楽しめるように手配していた。


「ルクレシアを誘ったのですか?」

「誘えませんでした」

「私と一緒に夜間飛行を楽しみますか?」

「そんな気分ではありません」

「では、私があれを使います。いいですか?」

「兄上の好きにしてください。私は自分と向き合います。この苦しみを抑えなくてはいけません」

「本当にアルードは……素直ですね」


 愛が強く、深く、美しい。


 それゆえに苦しんでしまう。


 そんな弟をヴァリウスはどうしようもなく愛しいと感じた。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回はルクレシア視点のお話に戻ります。

 よろしくお願いいたします!

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