表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/179

114 三年生



 ついに三年生になった。


 魔法学院で過ごすのは残り一年だけ。


 アヤナ曰くこの一年が極めて重要になるとのことなので、気を引き締めようと思った。





 まずは入学式に全校生徒の代表一団として出席。


 一年生の代表を務めたのはメルルだった。


「ルクレシアお姉様!」


 入学式が終わると、メルルが駆け寄って来た。


「お会いできてうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします!」


 ゼイスレード侯爵家で会った時と印象が違う。


 可愛くて初々しい一年生という感じがした。


「赤の他人のくせに! お姉様だなんて図々しいわ!」

「そっちこそ赤の他人のくせに妹面をしないでください」


 アヤナとメルルの睨み合いが早速披露された。


 見た目可愛い系少女の本性が丸見えになったともいう。


「知り合いなのですか?」

「モルファントと付き合いがあるのか?」

「ないよね?」

「この子は水だよね?」


 ベルサス様、カーライト様、双子たちに聞かれた。


「ネイサンのいとこなのよ」


 春休みにネイサンの紹介で知り合ったことを皆に話した。


「アヤナと張り合うなんて、威勢がいいね」

「見た目を裏切る気の強さだね」


 双子に突っ込まれると、ネイサンが頷いた。


「筋金入りの生意気さだ。面倒だから注意したほうがいい」

「ここで話していると時間がなくなるのでは?」


 ベルサス様が冷静に指摘する。


「では、教室に行くので失礼します」


 メルルは移動魔法を自分にかけると走り去った。


「移動魔法が使えるのね……」


 羨ましい。


「大した効果じゃない。メルルは元々足が速いだけだ」

「魔法でも足のおかげでも、速く移動ができるならいい気はする」

「結果オーライではあるよね」

「そうだね」


 移動魔法を習得すべきか。それとも走り込みで足を鍛えるべきか。


 悩める私だった。





 始業式が終わり、特級クラスの教室に行った私は目を見張った。


「アルード様!」


 入学式や始業式にはいなかったので、てっきりまだ欠席だと思っていた。


「元気にしていたか?」


 柔らかく微笑むアルード様を見て、私は思わず瞳が潤みそうになってしまった。


「はい。アルード様が無事戻られて良かったです」

「氷竜はいなかった。北部の治安を回復させるために滞在期間を延ばしていただけだ」

「氷竜がいなくてなによりです。討伐することになったら大変に決まっていますから」

「ノーザンに追加情報がないか確認しているところだ」

「そうですか」

「ところで、聞いたか?」

「何についてでしょうか?」

「特別な転入生についてだ」

「聞いていません」


 もしかして……!


「特級クラスに転入してくる生徒がいるのでしょうか?」


 アヤナも期待するような表情を浮かべて割り込んできた。


「転入する必要を感じないが、ディアマスの教育現場を生徒として視察したいらしい。一年間だけ特別に魔法学院に通う者がいる」

「どのような方でしょうか?」

「担任が連れて来る。今頃、応接間でふんぞり返っているだろう」


 絶対あの人! 魔王系! お願い! 来て!


 そして、担任の先生が黒髪で赤い瞳の美青年を連れて教室に来た。


 来たわーーーーーーー!!!


 推しではないけれど、大興奮してしまう自分を必死に抑える。


「諸君、三年生への進級おめでとう。早速だが、特別な転入生を紹介する。学校内では身分を考慮しなくてもいいということになっているが、無礼な行為は許されない。礼儀作法を守るようにしっかりと紹介する。ハイランド王国のクルセード王子だ。すでに魔法大学を飛び級で卒業しているが、ディアマスの魔法教育の現場を生徒目線で知りたいということで一年間留学することになった。成績については王族のために非公表だ。王子からお言葉がある」

「クルセード・ハイランドだ。無礼は許さない。わきまえろ」


 いかにも魔王系の王子様。


 とにかく、留学は大歓迎!


「クルセード王子は火魔法を得意にしている。そこで同じ火魔法を得意にしているルクレシアに世話役を頼む」

「え……」


 どうやって話すきっかけを作ればいいのかと思っていたけれど、強制的にきっかけができた。


「お前がルクレシア・コランダムか」


 アルード様の婚約者候補だったので、他国にもそれなりに名前が知られていそう。


 でも、社交界における私の噂はよくないらしいので、不安もある。


「席は俺の隣にしろ。世話役が遠いのでは不便だ」

「わかりました。席替えをするぞ!」


 クルセード様は窓際の一番後ろの席で、その隣が私になった。


 あとはくじ引き。


 誰か近い席に来て!


 心の中で願ったけれど、平民の男子生徒に囲まれるような座席になってしまった。


 身分差があり過ぎる。どう考えても助けは来ない。授業中は。


「ルクレシア」


 早速クルセード様から名前を呼ばれた。


「何でしょうか?」

「お前は授業を受けなければならない程度の学力か?」

「そうです。私は普通の学生の一人でしかありません」


 魔法大学を飛び級で卒業したクルセード様とは違う。


 真面目に授業を受けないと良い成績は取れない。


「俺はディアマスの教育現場を生徒目線で視察できればいい。授業の内容については報告書を提出しろ」


 それは世話役の仕事ではないと思った。


「無理です。私は部下ではありません。世話役というのは学校生活に対する説明役のようなものであって、授業内容を報告する者ではありません。授業内容を知りたいのであれば、授業に出席してください」

「俺に逆らうのか?」

「ここはディアマス。しかも、魔法学院です。私は一人の生徒として魔法を学びに来ています。クルセード様のせいで成績が下がったら困ります。無理を突き通されたいのであれば、世話役を他の者に変えてください」

「アルード」


 クルセード様はアルード様を呼んだ。


「なんとかしろ」

「拒否する」


 アルード様は断固とした口調で答えた。


「ディアマスに留学するのも教育現場を視察するのも許可が出たのであればいい。だが、真面目に勉強している学生の邪魔をするな。ディアマスの王子として国民を守る。身勝手な命令をするのは許さない。ハイランドの王子であっても、ここではただの生徒だ。それが嫌なら退学しろ!」


 魔王系キャラのクルセード様に一歩も引くことなく堂々とふるまう姿はまさにディアマスの王子。 


 頼もしいことこの上ない。


「……成長したな?」


 クルセード様は驚いたようだった。


「ヴァリウスに見せたかった。話しておこう」

「必要ない。私から兄上にクルセードの暴言を伝えておく」

「暴言ではない」

「ただの生徒だというのに命令した。威張るな」

「アルードのほうが威張っている」

「違う。怒っているだけだ」

「アルードが?」


 クルセード様は心底驚いたようだった。


「なぜだ?」

「ルクレシアは私の大切な友人だ。世話役だからといって面倒な仕事を押し付けるな! クルセードは勉強する必要がない。授業の報告書も必要ない」

「それは違う。ディアマスの教育現場でどのようなことを教えているのか、具体的な資料がほしい」

「資料の作成は世話役のすることではない。自分で作成しろ。もしくは自分の部下にさせろ」

「特級クラスにいない。上級と中級と下級にいる」

「それはハイランドの手配不足だ。ディアマスには関係ない」

「仕方がない。追加できるか検討する」

「ルクレシア、何かあったら私に相談しろ。クルセードは平気で人を酷使する。だが、ここでは生徒の一人でしかない。遠慮なく断れ」

「ご配慮いただきありがとうございます。世話役については、無理のない範囲で務めさせていただきます」


 これで一区切り。


 授業が始まったけれど、教室内はどこか不穏な空気が漂っていた。


 そして、休憩時間。


 すぐにアルード様が私の前の席になった男子生徒のところへ来た。


「席を交換してほしい。理由はわかるはずだ」

「わかりました!」


 男子生徒は快諾。


 平民だけに王族に関係するトラブルに巻き込まれるのは嬉しくない。


 席を変わってくれたアルード様に心から感謝していそうだった。


「お願い! 私と席を交換してくれる?」


 アヤナも私の右隣の席の男子に交換を申し入れていた。


「喜んで!」


 危険地帯から脱出したと言わんばかりの笑顔で男子は快諾。


「アヤナ、そこは私の席よ!」


 エリザベートが来た。


「速い者勝ちよ。他の席にして」

「じゃあ」

「ここは私の席にします」


 ベルサス様がアルード様の右隣、アヤナの前の席を確保した。


 カーライト様、イアンとレアンもアルード様の前に壁を作るような配置で移動した。


「アヤナの右にするわ」


 エリザベートの前にマルゴット、その前にレベッカが席を確保した。


 みんなが心配して側に来てくれたのは嬉しい。


 でも、クルセード様の前になった平民の男子生徒の席と交換を申し出る人がいない。


 一番絡まれそうな位置だけに避けたいと思っているのは明らかだった。


 でも、ついに勇者が来た。


 正確には英雄の子孫だけど。


「席を換わる」

「ありがとうございます!!!」


 平民の男子生徒は救出された喜びを全身であらわしながらネイサンと席を変わった。


「俺の前の席に来るだけの度胸はあるようだ。名前を聞こう」

「ネイサン・ゼイスレードだ」

「ゼイスレードの者か」

「得意な魔法は風だ」

「火ではないのか」

「属性の授業は火にしているが、母親が風の系譜でその才能を受け継いでいる」

「複属性使いか」

「クラスメイトとして確認したい。属性別の授業は火属性にするのだろうか?」

「そうだ。それを考えて担任もルクレシアを世話役に選んだのだろう」

「ルクレシアは女性だ。男性と女性の違いは問題が起きる原因になる。そこで俺が世話役を務めたい。極めて高度な火魔法の使い手と話をしてみたかった。騎士を目指しているため、魔法剣や魔法武器についても語り合いたい。どうだろうか?」

「気骨がありそうだ。特別に許可してやろう。お前が英雄の家系にふさわしい者かどうかも見極めてやる」

「望むところだ」


 アルード様の株も上がったけれど、ネイサンの株も爆上がりした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ