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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第四章

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113 火と水



 ネイサンから魔法練習の誘いがあった。


 私とアヤナがゼイスレード侯爵家に行くと、ネイサンと一緒に見知らぬ女性がいた。


「いとこのメルルだ。一緒に魔法の練習をしたいらしい」

「メルル・モルファントです。よろしくお願いします」

「よろしく」

「どうも」


 メルルはネイサンの母方の祖父であるモルファント公爵の孫娘。


 ネイサンの母親の弟であるモルファント伯爵の娘とのことだった。


「得意にしている魔法は水と風だ」


 モルファント公爵家は風の系譜。


 でも、メルルの母親は水の系譜で、その才能を受け継いでいる。


「火と水は反属性だわ。全員で魔法の練習をするの?」

「二対二でどうかと思っている」


 ネイサンは火魔法と風魔法でアヤナの結界をいかに早く壊すかに挑戦したい。


 その間、私とメルルで火と水の魔法の強さを競ってはどうかと言われた。


「三年生では対戦があるだろう? ルクレシアは自分の火魔法が水魔法でどうなるのかを知っておいたほうがいいと思った」


 メルルは水の力が強い。


 小さい頃からネイサンの火魔法を消すために水魔法を鍛えていたため、かなりの使い手ということだった。


「十五歳だが、実力者だと思う。魔法学院の新一年生として入学する予定だ」

「コランダム公爵令嬢は火属性の一位とか。私の水魔法がどこまで通用するか知りたいです」

「わかったわ」


 早速、二手に分かれて練習をすることにした。


「では、中級魔法を使ってください。私の水魔法で消せるかどうか試します」


 私は炎の壁を出した。


「これでいい?」

「はい」


 メルルが水魔法を唱える。


 巨大な波が発生したかと思うと炎の壁を飲み込んだ。


 残るのは空中に漂う魔力の残照のみ。


 つまり、あっさり負けた。


「普通に消せますね」


 メルルが平然とした口調で言った。


「壁は範囲が広いので緻密度が下がります。消しやすいです」

「そうね」


 魔法と魔法をぶつけた場合、威力が大きいほうが勝つというのが大前提。


 でも、威力以外の部分も関係する。


 魔法の緻密度もその一つ。


 大雑把な魔法は緻密な魔法に負ける。


「別の中級魔法を使ってくれませんか?」

「柱にしてみるわね」


 今度は中級魔法で炎の柱を出した。


 メルルが魔法を使うと巨大な滝のような水が発生。炎の柱をすぐに消してしまった。


「手加減は無用ですが?」

「していないわ」


 私は正直に答えた。


「中級魔法をあっさり消されるとは思わなかったわ」

「私の中級魔法のほうが強いようですね。在校生で最も強い火の使い手の中級魔法を消すことができるので、魔法学院では苦労しなくて済みそうです」


 メルルは余裕の笑みを浮かべた。


「ネイサンから風魔法を使えると聞きました。今は風魔法を積極的に練習されているとか?」

「そうなのよ。火魔法の成績は一位だから、風魔法の能力を鍛えたくて」

「複属性使いは便利です。ですが、火魔法の練習もしないと、どちらも中途半端になってしまうのでは?」

「それが悩みでもあるのよ。でも、火魔法を鍛えたところで一番の使い道は魔物討伐でしょう?」

「そうですね」

「魔物討伐はあまりしたくないのよ」

「なるほど。女性であれば普通の感覚です」


 わかってくれたと思った。


「ですが、コランダム公爵令嬢としては許されません。領民の命を守るために魔法で魔物を討伐するのが使命ではありませんか」


 正論でダメ出しされた。


「コランダム公爵家の領地は魔物が多く生息しています。率先して討伐しなければいけないはずです」

「それは違う」


 アヤナと練習していたネイサンが口を挟んできた。


「ルクレシアには弟がいる。いずれ公爵位を継ぐのは弟だ。弟が魔物を討伐すればいい」

「弟が成人するまで、コランダム公爵令嬢が魔物を討伐する役目を担うのでは?」

「それも違う。コランダム公爵がいる。人手が足りなければ公爵夫人も手伝うだろう。あの夫婦は結構強いらしいからな」

「では、コランダム公爵令嬢は留守番役として王都にいればいいだけなのですね」

「そうだ。魔物討伐よりもコランダム公爵家を守るのが重要な役目だろう」

「ということは、アルード様の婚約者候補ではなくなって良かったですね。結婚すれば王家の一員として国中の魔物討伐に行くことになるかもしれません。コランダム公爵家にいれば、留守番だけで済みます」


 驚いた。


 そんな風に考えたことは一度もなかった。


「メルル、話をするために集まっているわけじゃない。魔法の練習のためだろう?」

「そうですね。では、次は私が水魔法を使います。コランダム公爵令嬢の火魔法で消せるかどうか試してください」

「わかったわ」


 メルルが出したのは初級魔法で作った水球だった。


「どうぞ」


 メルルは年下だけど、私の中級魔法をあっさりと消してしまう実力がある。


 初級魔法でも強そうだと感じた。


 なので、上位になる中級の火魔法で攻撃した。


「消えましたね」

「そうね」

「では、これではどうですか?」


 あらわれたのは巨大な水の壁。


 水属性の中級魔法なので、私も中級魔法以上で攻撃しないと消えないはず。


 同じ場所に炎の壁や柱を出現させるか、またしても大きな火球で攻撃するか……。


 考えてみるけれど、重ならなかった部分が残ってしまいそうだった。


 ようするに、勝てない。


 メルルの魔法を消すには、より大きな範囲を対象にした強い火魔法を使うしかなかった。


「ルクレシア?」


 呪文を唱え始めると、すぐにネイサンが反応した。


「黙りなさいよ。集中できないでしょうに」


 アヤナが注意する声が聞こえた。


「そうだな。すまない」


 全部聞こえている。


 それは魔法だけに集中していない証拠ではあるけれど、それでも発動させることができる自信があった。


 悪役令嬢はすごいので!


「焼き尽くせ!」


 上級魔法が発動した。


 水の壁は巨大な炎によって焼かれるようにして消えた。


「……すでに上級魔法を使えるのですね」

「まだ練習中よ」

「なぜ、中級魔法で対応しなかったのですか?」

「緻密度が違うからよ」


 私の中級魔法をあっさり消したことを考えると、メルルの魔法は緻密度が高い。


 同じ階級の魔法勝負になると、緻密度で負けてしまう恐れがある。


 それなら、上位になる上級魔法にしたほうがいい。


 練習なので魔力消費は関係ない。失敗しても構わない。


 あっさり勝てるのであればそれでいいとした。


「自分で言うのもなんだけど、私の魔法は大雑把なのよ。緻密ではないと思うのよね」


 なんとなく魔法を使えてしまう。


 それは天性の才能がある証拠だけど、苦労して魔法を習得したわけではないのでどこをどう工夫すれば強くなるのかがよくわからなかった。


「いつ上級を使えるようになった?」


 ネイサンが尋ねてきた。


「試そうと思ったのは年末よ。アヤナの結界を簡単に壊せないのが悔しいから、上級魔法で楽に壊せないかと思って」

「一瞬で私の結界を壊すためにこっそり練習していたのね! 意地悪だわ!」

「アヤナと対戦した時に結界を壊せないと困るでしょう?」

「それはどういう意味だ? 二人で組まないのか?」


 ネイサンは驚いた。


「ルクレシアはアルード様と組む約束をしてしまったらしいのよ。ペアの時にはね」


 アヤナが苦々しい表情を浮かべた。


「ネイサン、私と組まない? 他の人からも誘われたけれど、私としては伸び盛りのネイサンと組みたいのよね。こうやって一緒に練習もしているし、作戦を立てるためにも話しやすい相手のほうがいいじゃない?」

「俺なんかでいいのか?」

「自己評価が低いわね! もっと自信を持ってよ! ルクレシアに負けないよう上級魔法を覚えて! 魔法剣でもいいわ!」


 魔法剣……。


 ネイサンの隠し能力に誘導していると思った。


「わかった。できそうなのを練習する。氷竜に通用するような攻撃ができるようになりたいからな」


 ぜひ、お願い!


 アヤナからゲームの情報を聞いたせいか、ネイサンならできると思える。


「じゃあ、ペアを組むのは了承ってことでよろしく」

「わかった」

「まだあるのよ。三人でチームを組む場合だけど、私、ルクレシア、ネイサンで組まない?」


 今度は三人で組む場合についての提案があった。


「ルクレシアはアルード様と組むだろう?」

「三人の場合、アルード様はベルサス様とカーライト様と組むから」

「ああ、そうか」

「だから、三人ペアの時は私とルクレシアとネイサンでいいでしょう? 光、火、風よ。ルクレシアは浮遊魔法が使えるし、ネイサンが三人分の支援する必要はないと思うのよね。ネイサンが機動力を生かした攻撃、ルクレシアは後方から攻撃、私は防御担当でどう?」

「とても良さそうだ」

「相手によっては私とネイサンの開幕火魔法で一気に勝負をつけてしまう作戦でもいいと思うわ」

「それはそれでオッケー! 私も魔力も楽だし」

「面白そうだ。三人でいろいろな作戦を考えよう」


 ということで、三人で組むことも決定した。


「羨ましいです」


 メルルが呟いた。


「私も対戦をしたいです」

「三年生になってからだな」

「それまでに水魔法と風魔法を磨きなさいよ」

「水属性と土属性の生徒は毎年多いわ。強くてもペアを組みにくいと聞いたわ」


 エリザベートとマルゴットが言っていた。


「あまりもの同士で組むと勝ち抜くのは難しいから、成績が悪くなりそうよね」

「火魔法の攻撃を水魔法で消すと、攻撃無効の判定で有利になるわ」

「判定勝ちは嫌です。圧倒的に勝ちたいです」

「実力がないくせに偉そうなことを言うな!」

「風魔法で相手を切り刻むほうが楽しそうですし」

「風魔法を鍛えてからほざけ!」

「では、交代してください。スピネール男爵令嬢の結界を切り刻む練習をしたいです」

「傷をつけるのも無理だな」

「それぐらいできます!」


 ペアを交代。


 というか、メルルの風魔法がアヤナの結界にどこまで通用するか、見学することにした。


 シュルルシュルルと滑るような風が生じるけれど、結界は無傷の状態だった。


「全然ダメじゃない? ネイサンの風魔法と比べたら幼児レベルね」


 アヤナが挑発的に言うと、メルルの表情がすぐに変わった。


「強度を調べただけです!」


 メルルは別の風魔法を使った。


 塔内に強風が吹き荒れるけれど、結界は無傷。


「竜巻はできないの? ネイサンはできるわよ」

「それは上級です! 私はまだ十五歳です!」

「年齢なんて関係なくない?」

「俺は十歳の時に竜巻を出せた」

「くっ!」


 高飛車なメルルを生意気だと感じたアヤナとネイサンがいじっている。


 気持ちはわからないでもない。


 でも、メルルは年下だし、何かと背伸びしたい年頃のような気もする。


 実力を伸ばすためにわざと挑発して悔しさをバネにしてもらう方法もあるけれど、冷静な助言でメルルの能力をうまく引き出すような方法でもいいと思った。


「メルル、アヤナの結界はどんな状況であっても人命を守れるように強化されているの。風が吹くだけで壊れたら人命を守れないでしょう?」

「そんなことは言われなくてもわかっています!」

「結界を壊したいなら攻撃を分散させないほうがいいわ。全体攻撃でもいいけれど、一点集中で強度の突破を目指してもいいのよ? ひびが入ると全体のバランスが崩れやすくなって強度が落ちるわ」

「ちょっと! そういうのは自分で気づけない時点でダメなのよ!」

「いいことを聞いた。俺も一点に集中にしよう」

「得意な水魔法で攻撃します!」


 今度は水鉄砲のような攻撃が始まった。


 でも、結界はびくともしない。


「ダメですね。これも効きません」

「威力が弱いようね。でも、方法としては悪くないわ。同じ場所に当てていないから、一点集中ではないわね」

「そうですね! もっと狙わないと!」

「連続で噴射できるならしたほうがいいわね。もっと細く絞ったほうが水の力が強くなるし、瞬発力も上がりそうだわ」

「わかりました!」

「水魔法を使えないくせに、有効そうな方法を教えるってどういうことよ?」

「ルクレシアは天性の才能と感覚を持っている。だから水魔法というよりは魔法について教えているだけのような気がする。俺もルクレシアの助言で伸びたからな」


 結局、メルルはアヤナの結界を壊すことができなかった。


 でも、私が教えた助言を活かしてもっと強くなると豪語した。


「ルクレシア様に感謝します。一緒に勉強できて良かったです」


 コランダム公爵令嬢呼びから名前呼びに変わった。


「俺も良かった。アヤナの結界を楽に壊せた」


 竜巻を出す上級魔法をドリルのように操って使い、一点集中で結界の強度を突破していた。


「ムカつくわー。上級魔法用の対策もしないといけないじゃないの!」


 とか言っているけれど、アヤナも結界の改善点が見つかって喜んでいるはず。


「一番練習できなかったのはルクレシアかもね?」

「そんなことはないわ。大雑把な魔法は緻密な魔法に負けるってことを実感したわ。メルル、ありがとう」

「ルクレシア様、これからはお姉様と呼んでもいいですか?」

「ダメだろ」

「ダメよ!」


 ネイサンとアヤナが即否定。


「ルクレシアの妹は私よ! 赤の他人のくせに!」

「アヤナ・スピネール、その名前は赤の他人である証拠です!」


 アヤナとメルルの対決が今後も続きそうな気がした。



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