109 自分のできることで
私はアヤナに心から謝った。
「本当にごめんなさい! 私ももっと真剣に考えるわ。だから教えて!」
「何を?」
「氷竜を倒すのは誰なの?」
「あー、それはシナリオや各キャラの好感度、能力によって変わるのよ。最強なのはクルセード様ね」
職場の人が推しまくっていたハイランド王国の王子。
確かに最強だと言っていたのも、魔王系の見た目で強そうだったのも覚えている。
でも、氷竜を倒すことは聞いていなかった。
「ということは、クルセード様がディアマスに留学している時に氷竜があらわれて、倒してくれるってこと?」
「討伐に参加すればね」
ひっかかる言い方だった。
「討伐に参加すれば? しない場合もあるの?」
「主人公がお願いすると参加してくれるの。当然、好感度を上げておかないとダメね」
そういうことね!
「アヤナ、頑張って! 絶対にクルセード様を氷竜討伐に参加させて!」
「そう言われると思ったわ。でも、攻略がめちゃくちゃ難しくて好感度がなかなか上がらないのよ。失敗するとバッドエンドになる可能性があるから怖いのよね。そもそも留学してこないとどうにもできないわ」
魔法学院でどんな二年間を送るかでクルセード様が留学してくるかどうかが変わる。
留学してくれば攻略対象者になるけれど、留学してこなければ登場しないので攻略もできない。
「この世界はゲームと同じようで違う部分があるわ。普通に留学してくるかもね」
「それなら嬉しいけれど、絶対ではないでしょう? 他のキャラは氷竜を倒せないの?」
「ネイサンに期待するのもありだと思っているのよね」
「ネイサン? 何かあるの?」
「気づいていないと思うけれど、ネイサンも攻略対象者よ」
えーーーーーーーー!
「教えてくれればいいのに!」
「教えたらルクレシアはネイサンに近づかないようにするでしょう?」
余っている昼食を食べないか聞きに行った時、アヤナはネイサンだと気付いた。
出会いイベントが発生している。でも、私はネイサンに怒っている状態。
攻略対象者だと話したら興味ない、攻略しないとい言って距離を取るに決まっている。
属性別の授業で私とネイサンは一緒になるので、何も言わない方がいいとアヤナは判断した。
「火属性でペアになったとわかって、ゲーム補正だって思ったわ!」
「もしかして、ネイサンに火魔法を教えるように言ったのは氷竜のため?」
「実はそう。ネイサンには隠し能力があって、それを使えば氷竜を倒せるのよ」
隠し能力を使うためには三つの条件をクリアしなくてはいけない。
苦手な火魔法を鍛えて強くする。
レアアイテムの炎の魔剣を手に入れる。
レアカードの隠し能力・炎の魔法剣を手に入れる。
「ゲームとは違うから、レアアイテムとレアカードについてはどうすればいいのかわからないわ。でも、苦手な火魔法を練習して強くすることはできるでしょう?」
「そうね」
「ゲームでは能力のランクで判別できるのよ。この世界では魔法学院の成績やクラスで判別できると思うわ」
火魔法が苦手なネイサンは上級クラス。
なので、特級クラスになれば苦手な火魔法を強くしたことになるというのがアヤナの考え。
「氷竜が来るのは三年生の冬休み。それまで特級クラスにいれば、メキメキ実力が上がって隠し能力が使えるようになるかもしれないって期待しているのよ」
「なるほどね!」
「ネイサンの能力強化については私も協力するから。とにかく特級クラスを維持できるように火魔法を練習させること。三年生になったら、騎士を目指すなら魔法剣にも挑戦したらって言ってみようかなと思うのよ。それでどう?」
「わかったわ!」
この世界で手に入る氷竜の情報を集め、ゲームの情報を参考にしながら対策をしていくことになった。
「ルクレシアもネイサンと一緒に火魔法を練習しなさいよ。現在の実力で考えると、火魔法はルクレシアのほうが上でしょう? ネイサンの隠し能力に頼るよりも、ルクレシアが強い火魔法を習得できるように頑張ったほうがいいかもしれないわ」
「私の実力は学生レベルよ。王宮にいる魔導士と比べたら全然だわ」
「三年生になったら対魔物や対人の訓練もあるでしょう? そのためにも火魔法の実力を強化しないとダメよ」
「そうね」
「まあ、私とルクレシアが協力すれば大丈夫だから。本当のことを言うと、ルクレシアが火魔法で氷竜を倒してくれるのを一番期待しているのよね!」
「無理よ」
「ゲームのルクレシアには無理ね。でも、私の友人のルクレシアならできるわ。諦めたらダメ。可能性は絶対あるの。ヴァン様の弟子でしょう? 自分は最強だって思っている師匠みたいに、私こそ最強だって思いなさいよ!」
「ヴァン様に怒られてしまうわ」
「そうね。でも、本当に最強かなんてわからないわ。ようするに強い気持ちで全力を尽くすってことよ。犠牲者を出したくないでしょう?」
「そうね」
大切な人たちを守りたい。
もっともっと練習して強い火魔法を使うことができれば、氷竜を安全なところから一撃で倒せるかもしれない。
誰かに頼る方法は絶対ではない。
だったら、自分のできることで全力を尽くしてみようと思った。
三章はここまでになります。
ついに100話以上。ずっとお読みいただけていることに感謝を。
これからもよろしくお願いいたします!




