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2_04 再会



「……えええぇぇぇえっ!!???」


 一瞬の静寂。

 そのあと、モカ姉の絶叫が辺りに響き渡った。


「えっ、ちょっ、嘘でしょ!?待って、ヒロって……あたしの弟のヒロだよね!あんなにちんまかったのに、うっわぁ、すっかりおじいちゃんになっちゃって……!!」

「いや、ちんまくはなかったぞ」

「いやいやいや、クラスでも背の低い方だからって、毎日必死に牛乳飲んでたよね!

 あっでも言われてみれば面影あるかも!その眉毛の感じとか!

 そうだヒロって、首の後ろにほくろあったよね。たまーに一本毛が生えるから、抜いてあげてたやつ!あれ見せて!?」


 モカ姉……じいちゃんがほんとに弟かはともかく、そんな恥ずかしい過去を暴露していいのかな……

 それに、年齢がおかしくないか?


「……姉ちゃんって、年上の女の兄弟のことだよね?」


 さっぱり話についていけない。

 頭の上に疑問符を並べるぼくの横をすり抜け、モカ姉は真剣な顔つきでずいっとテントに入りこみ、座ってるじいちゃんの背後に回って、そのシワだらけのうなじを覗きこんだ。


「あーーー!同じ場所にある!あのほくろが!毛も一本生えてるーっ!!」

「そこは言わなくていいよ……」


 じいちゃんは顔をしかめて、しわくちゃの手で首の後ろを隠す。

 でも、呆然とじいちゃんの首筋を見つめる彼女に、その苦言は聞こえてはいなかった。


「じゃあ……ほんとに、ヒロなんだ」


 生きてて良かった、とモカ姉は呟いた。

 そして、見る見るうちに顔をくしゃくしゃにさせると、じいちゃんにぎゅうぅっと抱きついて「うわあああ」と小さな子どものように泣き出した。


「うわぁ、あたしっ、目が覚めたらいきなり世界が終わってて……だから家族に会えるなんて、全然思ってなかったの……!信じられない、ヒロが、生きてたぁああぁ…………っ!」

「うん、ねえちゃんも生きてて良かったよ……アキト、ねえちゃんを連れてきてくれて、ありがとな」


 ぼくに目配せして礼を言うと、じいちゃんはモカ姉の背中を優しくポンポンと叩く。

 そのシワだらけの目元には、ぼくが知る限り初めて、うっすらと涙が浮かんでいた。




 +++++




 それからぼくたちは焚き火を囲んで、じいちゃんの昔語りに耳を傾けていた。


 ──"機甲獣"襲来の日。モカ姉は"眠り病"にかかって意識を失い、その後しばらく病院に収容されたのだという。病院には、"眠り病"にかかった若者がほかに何人もいたらしい。

 ぼくは「病院」というものを知らないけれど、昔はあちこちに、そういう病気やケガを治すための施設があったそうだ。


「……しばらくして、ねえちゃんは軍の病院に移されたって父さんが言ってた。同じ時期に『民間人はシェルターに避難しろ』という命令があったから、オレたちはシェルターに移り住むことになったんだ。

 あの頃は、"機械獣"に対抗するために連合軍が発足して、やつらとの戦いも激しくなってた時期で……父さんも母さんも、ねえちゃんのことをすげえ気にかけてたけど、所在を知るどころではなくなってさ……」


 それから間もなく、モカ姉のいる施設とは音信不通になったという。

 じいちゃんはモカ姉に「本当に悪かった」と謝った。


「いいよ、だって五十年前なら、あんたまだ子どもだったじゃん。続き、教えて」


 促すモカ姉に、じいちゃんは軽く目を瞑ってから言葉を続ける。


「……連合軍は八年持ちこたえた。だが、最終決戦と位置づけた"大戦"で、惨敗を喫してしまったんだ」


 深いため息とともに、じいちゃんは言葉を吐き出す。


「オレたちの住んでたシェルターも、猛攻撃を受けて大穴が空いてさ。そこから大量に侵入した"機甲獣"から、オレを守るために、父さんと母さんは………」

「そっか…………」


 力なく肩を落とすじいちゃんの背中を、ぐすっと鼻をすすったモカ姉が優しく撫でる。


「でも……ヒロが生き残ってくれて、あたしはすごく嬉しいよ。ほんとに会えて良かった」


 慰めるように言うモカ姉と、涙をぬぐうじいちゃんは、祖父と孫くらい年が離れている。でも、二人のあいだに漂う空気は、不思議と姉弟のようだった。


 一通り両親のことを話したじいちゃんは、モカ姉に不思議そうに尋ねた。


「ところで、ねえちゃんはなんで年取ってないんだよ」

「んー、あたしもよくわかんない。軍の研究所でAIチップを埋め込まれた後、ずっと冷凍睡眠で眠らされてたからかなぁ」


 モカ姉は、軽く首をかしげて説明する。


「三日くらい前だけど、あたしのいた研究所が不具合か何かで爆発するってなって、あたしのサポートAIが起こしてくれたの。そんで研究所を脱出して、連合軍基地の跡地を目指してるとこ。

 使い勝手が良さそうなら、そこを拠点にする予定なんだ」


 その移動の途中、AIが"機甲獣"に襲われてるぼくを発見して助けてくれたらしい。


 モカ姉は「二人も一緒に行く?」と軽い調子で尋ねたあとで、


「あっ、やっぱいまのナシ。AIが先に安全とか確かめてから呼んだ方がいいって言ってる。……あたしもその方がいいと思うなぁ」

「安全?」

「うん。AIが言うには、ここからそう遠くないけど、あの辺りは敵がいっぱいいるんだって」


 首をかしげたぼくに言うと、モカ姉はニカッと笑った。


「なら、こうしよっか。基地の様子を確認して、あいつら全部ぶっ倒したら、二人を迎えに来るね!」

「待てよ、一人で大丈夫なのか?」

「だーいじょうぶ!あたし、こう見えてめちゃくちゃ強いの!」


 不安そうなじいちゃんに、モカ姉は腰に手を当ててふんぞり返った。


「じいちゃん、モカ姉はほんとにすごいよ。"ヘルハウンド"三頭を一撃で倒したんだ」

「三頭を一撃……?」


 じいちゃんが「信じられない」と目を丸くして驚いている。そりゃそうだ、この目で見たんじゃなきゃ、ぼくも信じなかったよ。




 ぼくたちはその日、夜遅くまで語り明かした。

 でもモカ姉は、話の途中でうつらうつらしたかと思うと、パタンとランプが切れたみたいに寝落ちしてしまった。


「相変わらず寝つきがいいんだなぁ」


 しみじみと苦笑したじいちゃんが、「オレたちも寝るか」とランプを消す。目を瞑ると、一気に疲れがおそってくる。

 そうしてぼくたちも静かに眠りに落ちた。



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