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2_02 救援

 


 "ヘルハウンド"に追われながら、無我夢中で走った。四角い光が見えて、その光の中に一直線に飛び込む。


 それは、モールの出口だった。

 陽光がまぶしい。一瞬目が灼かれた後で、太陽に焦がされた一面の廃虚が視界に映った。


 かつてこの辺りでは、"機甲獣"と人類の激戦が繰り広げられたという。その戦闘でほとんどの建物は木っ端微塵に壊され、何となくの形しか残っていない。

 その瓦礫に隠れるようにして、あのショッピングモールは奇跡的に残っていた。

 あそこだけはほとんど無傷で、店のアイテムも手つかずの良い穴場だったのに、"機甲獣"に鉢合わせるなんてほんっとついてない……!


 今の状況はかなりキツイけど、モールの外に出たら少しは助かる見込みがあった。瓦礫になった建物は、体の小さいぼくが身を隠すにはうってつけだからだ。

 もう少し先に行けば、あいつらが入れなさそうな細い隙間があったはず。そこまでたどり着けたら、何とか……


「うわわっ!」


 あまりに焦りすぎて、ぼくは足元に注意を払い忘れた。

 大きな瓦礫を乗り越え、ジャンプで着地した瞬間、思いきり滑って派手に転ぶ。

 そこは細かい砂状になった瓦礫の吹きだまりになっていて、見た目ではわからないほど厚く積もった砂に足を取られてしまったのだ。


「いって……」


 呟いて、ハッとした。

 やつらの足音がすぐそこまで迫っている。焦って立ち上がろうとしたけれど、右の足首にするどい痛みが走った。

 思わずうずくまる。足を挫いたらしい。これじゃあ逃げられない。…………今度こそ絶体絶命だ。


 深く絶望した、その時だった。



「うおおー!?子どもだ、生存者!ほんとにいたぁーっ!!」



 すぐ近くから、場違いなほど能天気な声が上がった。びくぅっと驚いて、おそるおそる声の方に目をやる。


 そこには、見知らぬ女の人がいた。

 明るい声の主は、瓦礫の向こうからひょっこり頭を出している。


「こんちはー」


 その女の人は「よいしょ」と言いながら瓦礫を乗り越え、ぼくのそばにスタッと飛び降りた。

 黒くて長い髪。たぶん若い。おぼろげに記憶に残るお母さんに少し似てる。

 あまりよその人と会ったことがないからわからないけど、ぼくとそんなに年も違わない気がした。


 驚いて口をパクパクさせ、彼女を見つめるぼくに、そのひとはにっこり笑った。安心させるようにニコニコしながらこっちに近づいてくると、ぼくの頭をぽんと優しく叩く。


「"機甲獣"に追われてるんでしょ?いま、おねーさんが助けてあげるね!」


 言うや否や、彼女の全身は、真っ黒な装甲のようなもので覆われていく。

 ぼくは"機甲獣"に追われていた恐怖も忘れて、ポカンと口を開けた。

 完全に理解をこえてる。


「じゃ、いこっか」


 「おねーさん」は、独り言のように小さく呟いた。それがまた、「ちょっと散歩にいこっか」というノリだった。

 現実感がなさすぎて、思考が追いつかない。


 同時に、ぼくの背後で不吉な金属音がした。

 ハッとして振り返る。案の定、ぼくをしつこく追いかけてきた"ヘルハウンド"が三頭、瓦礫の影から姿を見せた。


「……っ!」


 狙いを定めるように、やつらは身を低くした。

 攻撃体勢だ。顔からざーっと血の気が引く。


 その時、近くで、ヴン……と空気を振動させるような不思議な音が鳴った。

 音につられて横を見る。そしてぼくは目をむいた。

 真っ黒な金属をまとう「おねーさん」の手には、高出力光学エネルギーの、ネオンイエローに輝く巨大な鎌が握られていたからだ。


「おわぁ……すげえ」


 思わず呟く。

 すると「おねーさん」は唯一アーマーで覆われていない口元にニカッと笑みを浮かべ、「もっと誉めていいよー!」とのんきに言った。

 この危機的な場面で何言ってんだ……もしかして頭おかしいのかな。心配になったその時。

 様子をうかがっていた"機甲獣"が、ぼくたちに向かって一斉に飛びかかった。


 機械のかたちをした災厄に、思わず身を縮こませる。けれど、


「そいやっ!!」


 元気なかけ声とともに、大鎌が無造作に、ブンとなぎ払われた。


 ぼくは目を疑った。三頭の"機甲獣"の胴が、スパッと真っ二つに切断されていたからだ。

 もう一度いう。一度に、真っ二つ。三頭の"機甲獣"が、たった一瞬で、六つの鉄屑になっていた。

 なんて切れ味だ、あの大鎌。


 ガッシャン!と、けたたましい音を立てて、金属のバケモノが地面と激突する。


「すげえ………」


 モーターや歯車のキュルキュルという駆動音が、まるで断末魔の嘆きのように聞こえる。

 切断された機械の獣たちは、必死に足を掻いて、苦しんでいるようにも見えた。


「せぃっ!」


 かっこよくバケモノを両断した「おねーさん」は、再び気合の入った声とともに、"ヘルハウンド"の頭を順に大鎌で破壊していく。


 ザク。ザク。ザク。


「よーし動かなくなった!しゅーりょー」

「…………あの、おねえさんって何者なの?」

「夜見原モカ、元女子高生!」

「もと、じょしこうせい」


 聞いたことのない単語に首を捻っていると、命の恩人は、「あ、そうそう、"ヘルハウンド"の弱点は、頭なんだって。君も覚えとくといいよ!」と教えてくれた。

 それから「おねーさん」…………夜見原モカと名乗った女の人は、ひと仕事終えた、といいたげな。満足そうな笑みを浮かべた。


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