表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

1_02 覚醒



 pi...pi...


 ツー…………






 ……うぅ……体が重だるい……

 ゆるりと意識が目覚めていく。


 小さくうなりながら、軽く身じろぎする。体だけじゃない。頭も重い。あと寝心地が悪い。なんか平らで固い。


 これ…………明らかに、あたしの部屋のベッドじゃないよね。なんなの、どういう状況………?

 と、薄く目を開けて、


「え、」


 思わずパチッと目を見開く。

 狭くて、透明な、カプセル。

 その中に、あたしは仰向けに寝かされ、閉じこめられていた。


 なにこれ。

 うわ。どうしよ。

 誘拐?でも誰が?

 あたしの家って別にお金持ちとかじゃないんだけど……!


 ……いやまて。落ち着こう。

 これは夢かもしれない。

 うん。きっと夢だ。たぶん暑さと部活のしすぎで、疲れてたんだな。

 もっかい寝て起きれば、きっと現実に戻れるはず。よし。寝よ。


 ………あまりにもわけのわからない状況に、あたしは完全にパニックに陥っていた。

 自分に起こった現実を拒否して、また目を閉じて、



 pi.pi.pi.....



《マスター起きテくだサイ》



「へっ!?」


 がばりと跳ね起きて、目をカッと開けた。同時に頭をガツンとカプセルの蓋にぶつけた。


「いったぁ~……ていうか、な、なに今の」


 変な声がした。しかも、頭の中に直接話しかけてくる感じだった。鼓膜を伝わって感じ取った「音」じゃない。

 なに、どういうこと……?


《変ナ声って言ウナ》

「ひぃいっ!」


 今度はちょっとムッとした声色だ。

 やだめっちゃこわい。あたし、ホラーとか苦手なんだけど……!


《ホラーではアリマせン》

「ひぇぁ!?」

《私は ORLy(オーリー)。よろシク、MY MASTER》

「オーリー……?」


 古い絵本の、「○ォーリーを探せ」とかじゃなくて…………?


《違イマス》


 ふぁっ!

 口に出さなくても、あたしの考えはあっちに筒抜けらしい。こっわ!

 こわくて涙出そう……!


「アンタ誰なの……?」

《私は、マスターの専属AI。本体は、マスターノ右耳のウシロに埋め込まレテいます》

「本体……?」


 おそるおそる右耳の後ろを探る。

 あたしの指先が、冷たくて固い、小さなチップのようなものにふれた。


「ねえ、不気味だから外していい?」

《ダメ!NO!NOOOOOOO!!!》

「でも」

《ダメです!マスターと私は一心同体。私のサポート無しデハ、あなたは外ノ世界でイキテいけまセン》

「外の世界」

《Yes. マスターが"眠り病"にカカってから、50年34日8時間が、経過。今は西暦2093年。

 地球文明は、42年前、実質的に崩壊シました》

「……うそ」


《AI嘘つかナイ》


「うそうそうそうそうそ!!!」


 笑えないジョークだ。

 あたしは、バンバンとカプセルを叩いた。


「ここから出して!」

《Sure》


 返事と同時に、カプセルの蓋がすうっと上に向かって開いた。おそるおそる起き上がって、そっとカプセルから顔を出す。


「…………どこなのよ、ここは」


 思わず呟く。

 無機質な灰色の床や天井。ずらりと床に並んだ、カプセル。その一つに、あたしは入れられてたらしい。

 けれど、他のカプセルはすべて蓋が開いていて、見渡すかぎり空っぽだった。


 辺りをそろりと見回す。そこはだだっ広く、天井の高い、倉庫のような空間だった。

 部屋の中央に、謎の大型機械がそびえているのが目に留まる。見上げるほど大きなそれは、何となく古いゴシック様式の教会を連想させた。

 その大型の機械から無数のコードが床を這うように伸びて、先端はずらっと並んだカプセルに接続されている。

 ……なんか、あやしい研究所にしか見えないわ。


《あなたは、"眠り病"で寝てイル間に、コの研究所に運ばレて来たのデス。ソシテ、AIチップを埋めコマれる手術を受ケマシた》

「手術……」


 やっぱりあやしい研究所だったじゃないかぁ……!!

 若干半泣きになりながら、とりあえずあたしは慎重にカプセルを出ることにした。ぺたりと裸足の足を床につけると、ふわりと埃が舞う。


 足元やまわりを見ると、あたり一面、うっすらと白い埃が積もっていた。まるで、長い間ずっと放置されてたみたいに。

 真ん中の大きな機械も埃まみれだったけど、埃の下でモニターらしきものがチカチカ光っている。

 一定の間隔でブーン……と振動が伝わってくるから、一応動いてはいるのだろう。


「あたしの、家族は……どこ……?」

《残念デスガ、人類は、ほぼ絶滅しましタ。マスターのご家族ガ生きてイル可能性は低いでしョウ》

「……意味がわからないんだけど……」


 呆然と床にへたりこむ。

 混乱してまともに考えられない。

 そんなあたしに──ORLyは、男にも女にも聞こえる無機質な声で、たんたんと語りかけてきた。


《マスター。コノ研究所のエネルギーシステムは、一時間十五分後に停止しマス。そレにより、マスターの生命維持は不可能にナルと判断シたのデ、私の権限デ冷凍睡眠を解除シマした。研究所カらの脱出を推奨、スル》

「脱出……」


 なんで最後だけタメ語。

 独特の口調のAIは、続けて、おそろしいことを伝えてきた。


《コノ研究所ノ爆発まで、あと一時間十八分。巻き込まレタ場合の、マスターの生存率は0%》


 なんだってーーー!!!??

 それを聞いてぎょっとする。生存率0%とか!聞いてないよ!!


「それ早く言って!?」

《脱出を選択しますカ?》

「する!!!!」

《デは、脱出に必要ナ携帯食料と、武装の保管場所へ案内しマス》

「わかった!」


 一気に正気に戻った。

 とりあえず死にたくない。生き残ることが先決だ。

 自分の頬を両手でパチンと叩いて、何を優先するかを考える。


 少なくとも、このAIの方が今の状況に詳しいはずだ。AIは嘘つかない、という本人の言葉を今は信じるしかない。


《そコノ扉を出て、右へ》


 AIが言ったのとほとんど同時に、大型機械の向こうのドアが音もなく開いた。


 あたしは埃まみれの床の上を、ゆっくりと歩き出した。最初だけふらついたけど、そのうち体が安定してきて、少しずつ歩みを早くする。

 これなら大丈夫、と思えたところで駆け足に切りかえる。

 大型の機械の真横をすり抜け、ぽっかりと壁に開いた出口をくぐる。


 そしてあたしは灰色のリノリウムの廊下に飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ