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13.二人は魔力を共有する

多分、作中で最大のお砂糖展開な話になります。(^^;)

苦手な方はご注意を……。

「――――っ!?」


 リュカスのあまりにも予想外な行動にロナリアの頭の中が真っ白になる。

 だが、ロナリアの目の前には瞳を閉じたまま、徐々に深く口付けしてくるリュカスの長い睫毛が視界を独占する。


「ひゃぁぁぁぁぁー!!」


 すると、目の前でその光景を見せられていたアリシアが悲鳴を上げた。

 その事でロナリアが、自分の腕の中にアリシアを抱えていた事を思い出す。

 僅か7歳で年頃の男女の濃厚な口付けしている状況を見せられた衝撃は、さぞ大きいだろう……。可哀想な事に気の毒なほど顔を真っ赤にしている。

 そして幼い自分は見てはいけないと思ったのか、懸命に両目を手で隠そうとしてはいるのだが……指の隙間からは、しっかり大きな瞳を覗かせていた。


「んー!! んー!! んーーー!!!!」


 だが、流石のロナリアもこんな状態を幼子の前で堂々と披露する事に羞恥心と背徳感を抱かずにはいられない。顔から火が出そうだ……。

 口を塞がれて声は出せないが、両手でリュカスの胸の辺りを突っぱねる様にして、懸命にその行為をやめるよう抗議する。

 しかしリュカスの方は、それを拒む様に更に口付けを深めてきた。

 それと同時にロナリアは、自分の中の魔力がごっそりと奪われる感覚を抱く。その事に気付いたロナリアは、一時的に抵抗するのをやめた。


 だが急に腕の中のアリシアが、真っ青な顔でロナリアのローブの袖をグイグイと引っ張りだす。その事に気付いたロナリアは、リュカスに唇を貪られる様な状態で、そっと目線だけをアリシアが指差す方向に向けた。

 すると、先程のアリシアの悲鳴でカオスドラゴンがこちらに気付いてしまったようで、禍々しい瞳でギロリと3人を睨んでいた。


「んー!! んー!! んー!! んーーーー!!!!!」


 これにはアリシアだけでなく、ロナリアも顔面蒼白となる。

 リュカスの胸の辺りを必死に拳で叩き、その事を伝えようとするが、リュカスは瞳をとじたまま、一向に口付けをやめてくれない。


「んーーーーーー!!!!」


 そうこうしている内にカオスドラゴンが地響きを立てながら、物凄い勢いでドスドスとこちらの方へと突進してくる。

 焦ったロナリアは、両手でリュカスの肩の辺りを押し、体を離して距離を取ろうとした。しかし、右手で首の後ろを固定されてしまっている所為か、リュカスの体はびくともしない。その事に更に焦ったロナリアが暴れ出す。

 すると、リュカスがゆっくりとカオスドラゴンに向かって左手をかざした。


 次の瞬間――――。

 凄まじい冷風が3人を中心に巻き起こり、ピシリと耳を刺すような甲高い大きな音と共にひんやりとした冷気が3人を包み込む。

 そして、そのひんやりとした冷気と共に澄んだ空気と静寂が訪れた。


「う、わぁっ……。大きなドラゴンなのに一瞬で凍っちゃった……」


 先程まで恐怖で青い顔をしていたアリシアが、その信じられない光景を目の当たりにし、茫然としながら呟く。

 すると、やっとリュカスがロナリアを解放するようにゆっくりと唇を離してくれた。同時に閉じられていた瞼がロナリアの目の前で長い睫毛と共にゆっくりと開き、澄んだ空のような水色の瞳がジッとロナリアを見つめてくる。


「リュ、リュカ……」

「ごめんね……ロナ」

「う、ううん。大丈夫! だって魔力を一気に補給する為だったんだよね!?」

「いや、この『ごめん』はその事に対しての謝罪じゃないんだ……」

「え?」

「申し訳ないのだけれど……もう一度キスさせて欲しいの『ごめん』」

「へぇあっ!?」


 そう言って軽く口を開きながら、また瞳を閉じてきたリュカスにロナリアが変な声を上げる。

 しかし、そのリュカスの要望は果たされる寸前で阻止された。


「はい! リュカ、そこまで~!」

「――っ!!」


 謎の声と共に頭頂部に衝撃をくらったリュカスが、ロナリアの目の前で痛みを訴えるような声を上げながら、勢いよく前方に項垂れた。

 その声がした方向を真っ赤な顔をしたロナリアが見上げる。

 すると、リュカスの頭頂部に勢いよく手刀を叩き込んだと思われる第三王子エクトルが、ニコニコしながら二人を見下ろしていた。


「エ、エクトル殿下!?」

「ごめんね、ロナリア嬢。ちょっとリュカは、君が行方不明になった事で動揺し過ぎて、今は暴走気味なんだ……。だから色々と許してあげてね?」

「ええと……その……」

「殿下!! 邪魔しないでください!!」

「するに決まっているだろう……。こんな純粋無垢なあどけない少女の目の前で、再度濃厚なラブシーンを繰り返そうとしている友人が目の前にいたら、それを止めてあげるのが友情だ」

「そんな友情は不要です……」

「うわぁ、リュカ。君この一カ月で相当ロナリア嬢不足を拗らせたね……」


 その呆れたようなエクトルの呟きに更にロナリアが真っ赤になる。

 その光景をアリシアが、ポカンとしながら眺めていた。


「王子様が……二人に増えた……」

「アリシア嬢、僕は確かに王子様だけど、こっちはただの暴走男だからね?」

「僕は暴走などしていません」

「真顔で言うのは、やめてくれないかな? 人目があるのに必要以上に婚約者に口付けを要求する行為は、立派な暴走行為だよ? それよりも君には、向こうにいる救助隊と魔獣研究所の研究員達にどうしてこのような状況が起こったのか、説明してきて欲しいのだけれど」

「ですが、ロナは足を痛めて動けな……」

「彼女の事は僕が責任を持って救護室に連れて行く。だから君は見習いとはいえ、魔法騎士としての仕事をしっかりやってくれないかな?」

「殿下がロナを運ばれるのですか……?」

「君に任せたら、すぐに送り狼になりそうで、そっちの方が危険だ」

「なりませんよ!!」

「いいから、君は早く仕事して? ライアン!」

「はーい。このバカ、回収しまーす」

「ロナ、あとでゆっくり話そうね!? だから今日はすぐに帰らないでね!?」

「う、うん……」


 未練がましそうに訴えるリュカスは、いつの間にか救助隊を引きつれてきたライアンに首根っこを掴まれながら、ズルズルと引きずられて行った。

 すると、エクトルが苦笑しながら小さく息を吐く。


「さてと。それじゃ、ロナリア嬢、少し失礼するよ?」


 そう行って座り込んでいるロナリアの腰を支えながら膝裏に手を差し入れたエクトルは、そのままロナリアを抱き上げる。


「で、殿下!! 何も殿下自らが運ばれなくても!!」

「うーん。でも僕以外の男性が運んでしまうとリュカが怒るから……。僕ならティアという最愛の女性がいる事をリュカは知っているから、変に嫉妬されないしね」

「で、ですが……」

「君は僕の大切な婚約者のお気に入りなのだから、そんなに気にしなくてもいいんだよ? えっと、アリシア嬢は一人で歩けるかな?」

「は、はい! 歩けます!」

「それじゃ、僕に付いてきて。二人共、他に怪我をしていないか、しっかり見て貰おうね?」

「はい!」


 エクトルに促され、アリシアが二人の後ろをチョコチョコと付いて来る。

 その様子を見たロナリアは、やっと緊張から解放された。

 すると、アリシアが二人の横にピッタリとくっ付いてきた。


「ねぇ、ロナリアお姉様。もしかしてさっきのカッコいいお兄様が、魔力がすぐ無くなっちゃうお姉様の婚約者の男の子?」

「うん。そうだよ」

「いいなぁー。あんな王子様みたいな素敵な婚約者~」


 そう言いながら、うっとりとした表情を浮かべるアリシアの様子にロナリアとエクトルが、同時に苦笑した。




 その後、馬車に乗せられ学園内の救護室に運ばれた二人は手当を受ける。

 ロナリアの右足は少し重めの捻挫ではあったが、幸いな事に骨には異常はなかった。対してアリシアの方は、ロナリアが掛けた微弱な防御効果魔法と、転がり落ちた際にロナリアが抱え込んだお陰で、ほぼ無傷だった。

 怪我も無いアリシアは、すぐさま家の方へ連絡がされ、すっ飛んできたアリシアの両親は、ロナリアに何度も何度もお礼を言いながら愛娘を引き取る。

 すると帰ろうとするアリシアが、再度ロナリアにお礼を言ってくる。


「ロナリアお姉様! 本当にありがとうございました! あの……またお話とかしに高等部の方へ遊びに行ってもいいですか……?」

「もちろん! あと私、お昼は食堂にいる事も多いから、いつでもおいで!」

「はい!」


 別れ際、頬を紅潮させたアリシアは母親に手を繋がれた状態で、こちらから姿が見えなくなるまで、ロナリアに一生懸命手を振りながら帰っていった。

 すると、入れ違いに盛大な足音を響かせたリュカスが、救護室に入ってくる。


「ロナ! 良かったぁ……。まだ帰っていなかった……」

「待っていて欲しいと言っていたのは、リュカでしょ?」

「そうだけど……。足を怪我していたから、殿下が早々に家に帰したんじゃないかと思って……」

「酷いなー。流石の僕でもそこまで意地悪はしないよ?」

「殿下だからこそ、そのようにご対応される可能性を懸念しました」

「君……もう少し僕の事を信用してもいいと思うよ?」


 息を切らしながら救護室に入って来たリュカスは、寝台の上で両足を伸ばして座っているロナリアの右足を見やる。

 そこにはしっかり目に巻かれた包帯が目に入って来た。


「ロナ……足の怪我は、かなり酷いの?」

「ううん。骨には異状がないから大丈夫。でも最低でも二週間は安静にしなさいって」

「そっか……。なら、しばらく移動する際は、僕が補佐するね?」

「い、いいよー。その場合、クラスメイトの令嬢達が助けてくれると思うし」

「まだ僕と一緒にいる事は、気まずく感じちゃう?」

「そ、それは……」


 迷子の子犬のような寂し気な表情を浮かべながら、確認してくるリュカスにロナリアが罪悪感に苛まれる。

 しかし先程のリュカスとのやり取りを思い出してしまったロナリアは、急に顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。そんなロナリアに追い打ちを掛けるようにリュカスが、下から顔を覗き込む。

 その様子を珍しく無表情で傍観していたエクトルが、大きく咳払いをした。


「はい! そういう甘ったるいやりとりは二人きりの時にして貰えるかな? それよりもリュカ、君は今回の事態を魔獣研究所の方へ報告したんだよね? まだ明確な事は判明していないとは思うけれど、彼らは今回のような事態になった原因について、何か言ってなかったかい?」


 するとリュカスが急に表情を曇らせる。


「その……今回の件での僕の報告で、上級クラスの魔獣達の不可解な行動の原因が判明したそうです……」


 そう言って、何故かリュカスは、チラリとロナリアの方へと視線を送る。

 その反応にロナリアが、キョトンとした。


「何でも上級魔獣が結界を無理矢理こじ開けて侵入しようとするのは、その……ロナの魔力性質に誘われてしまっている可能性が非常に高いと……」


 その瞬間、室内が見事に静まり返った。

 だが、その静寂はロナリアによって壊される。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!!」


 気まずそうに告げてきたリュカスのその報告内容を聞いたロナリアは、思わず救護室全体に響き渡る程の叫び声を上げてしまった。

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