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 「人間、生物、武器、巻物なんでもござーあれー」


 路地を入ったそのまた奥、居酒屋の喧騒も遠ざかって綺麗なお姉さんやボーイさんが呼び込みをしているさらに奥。

 そこにはライトアップされた、サーカスのような、目が痛くなるくらい派手な縞模様の大きなテントがあった。

 入口には顔に白粉とこれまたド派手なメイクをした赤毛の女性が、ピエロのような服と帽子を着て、誰も通りもしない道で客の呼び込みを行っている。


 「とざい、とーざいー!」


 道中、道の端で酔い潰れて座っている浮浪者のような男の人や、丈の短いスパンコールのドレスを着た金髪の女性が顔面から倒れていたり、酒の空瓶や紙屑、捨てられたタバコなどがあちこちに散乱していたはずなのに、ここには建物以外なにもない。


 あまりの不気味さに鳥肌が立って、俺は身体を震わせた。


 「おや!オニーサン!なんでも揃ってるよ!見てみるかい!?」


 「ヒッ」


 思わず小さく悲鳴が出た。

 失礼になるのはわかっているのに、悲鳴が出たことに自分は一切違和感を感じなかった。

 

 「オニーサン今日はイイ日だよー!とてもすばらしいものが見れるよ!!」


 「す、すばらしいもの?」


 怖いのに、帰った方がいい気がするのに、入ったら引き返せないでそのままなんじゃないかって思うのに、あの道を引き返すのも怖くて、どうしたらいいかわからなくなった。


 「そだよ!!これってすばらしーよ!!さあ、入った入った」


 「え、うわ」


 有無を言わさず、ぐいぐい背中を押されてテントの中に押し込められる。結構力が強い。


 一瞬連れ去られるかもって、思った。





 


 入り口をくぐった先は真っ暗だ。


 「いらっしゃいませ」


 「いぎゃあ!!」


 と思ったら、目の前にシルクハットと燕尾服を着た少し小柄なおじいさんがお辞儀をしていた。鼻が大きくて尖っている。

 また悲鳴が出てしまった。何回悲鳴を上げれば気が済むんだ。


 「す、すいません」


 「あちらでございます。お客様。」


 「へ?」


 「あちらでございます。お客様。」


 言葉わかるのに言葉が通じない!


 促されて言われた方へ向くと、少し離れたところの右手側、20mくらい先にスポットライトで照らされたひと一人分くらいのスペースがある。

 あちらに行けということだろうか。

 一歩踏み出そうとした時に少し大きめの声で呼びかけられる。

 

 「どこへいくのです。お客様。」


 「あ、す、すいません」


 「お気をつけください。

  こちらは至る所に至るものがございます。」


 「至るもの?」


 「ご紹介致します」


 「え」


 ガオオオォォ


 いきなり咆哮が聞こえて驚きで肩が跳ねた。

 見ると、先ほどまでスポットライトがあったところに軽トラほどの真っ白なライオンがいた。

 スポットライトは大きくなっていて全身がきちんと照らしだされている。


 「でか」


 目を見開きすぎて目がシパシパしてきた。


 「ガオ、ガオガオガ」


 「ん?」


 「ガウガウ、ガフッ、ンガ」


 何かを喋っているらしいがさっぱりわからない。

 何かを真剣に喋っている。

 あれほどの体格のライオンがフガフガ一生懸命に喋っているのはちょっとかわいい。


 「次です」


 店員?さんの声が聞こえるとライオンが左手に歩いていった。

 スポットライトがまた小さくなる。


 次に右手から女性が歩いてきた。

 背中からは白く透けた羽が生えていて、瞳は真っ黒。白目の部分がない。


 「アタイは妖精よ、お兄さん」


 初めて意思疎通が図れそうな人?が来て少し興味を持つ。


 「妖精っていうものを初めて見たのね

  不思議だわ」


 「次です」


 彼女は帰り際こちらに笑みを浮かべながら微笑んだ。


 ふと思った。

 これはいったいいつまで続くのだろう。もしかして1人1人、一つ一つ紹介され続けるのだろうか。


 「あの」


 「はい」


 「これってどのくらい続きますか?」


 「これ、とは」


 「この、紹介です」


 「あなた様のお気が済むまでです」


 「あ、あの、じゃあ、予算以内で俺におすすめなのを見繕って紹介して頂けますか?」


 老人は宙を見て考えるそぶりをしたかと思うと、パンパンと手を叩いた。すると入り口が開いて、先ほど客引きをしていた女性が入ってきた。


 「おじーちゃん!どうしたの!」


 「今日は店仕舞いだ」


 「えー、またおじちゃんお客さんかえしちゃうの!?

  ワタシ呼び込みがんばってるよ!」


 「お客様はお帰りにならない」


 「商品するの?」


 「ご紹介をするのだ、お客様だ」


 「わかった!!店仕舞いしてくる!!」


 彼女はとても嬉しそうな笑顔で店の外に駆けていった。

 おじいさんがこちらを向く。


 「失礼致しました。


  私、この店の店主の店長でございます。

  ご要望承りました。あちらの椅子にお掛けください。」


 先ほどとは逆、左手側にスポットライトで照らされた重厚感のあるアンティーク調の椅子が置いてあった。

 少しビクビクしながら一歩を踏み出したが、今度は何も言われなかったのでまっすぐ歩き出した。

 椅子に腰を掛けると、程よく柔らかいがしっかりとした居心地の良い椅子だった。ここにきて初めてひと心地ついた気がする。

 おじいさんも影のところから椅子を引っ張り出してきて、そこに腰掛けた。


 「さて、ここへはどういった御用でございましたでしょうか?」


 「知り合いの人にここに行ってみろって言われて来てみたって感じです

  何が売ってるかは知りません」


 「お客様は今、何事かで困っておいででしょうか?」


 「ええ、困ってます

  今、右も左も分からなくて参ってます」


 「具体的にお聞きしても?」


 「あー、その、俺すごく遠い所からここにいきなりやってきて、これからどうするか何も決めてなくて、旅をするってことは決めてるんですけど」


 「冒険者ですか、ふむ」


 「と言っても、冒険者が何をするのか何ができるのか、まだなにも知らないんですけどね」


 思わず自虐的な笑みが溢れる。

 俺、本当にこの世界のこと何も知らないもんな。お金の勘定だって今は指輪一括払いだけど、小銭で払えるかって言われたら厳しいし。


 「お客様は読み書きは出来ておいでですか?」


 「あ、そういえば、はい」


  そういやなんでこの世界は文字も言葉も通じるんだ?

  今のところなにか不便があるわけでもなかったから、気にせずにいたけど。


 「ほう、ふむ」


 店長は顎に手を当てて考え込んでいる。


 「それでしたら当分の心配は、金銭面

  つまり、お仕事とそれに伴う稼ぎ、住居、食事面ですな」


 「はい」


 ほとんどじゃねーか。


 「稼ぎがあり、サバイバル技術に長けたもの

  旅先での調理、生活面で安定した環境を整えられるもの」


 「おじーちゃん!もどった!!」


 「ちょうどいい

  地下に潜るぞ」


 「下いくの!?めずらしーね!」


 「要り用なのだ」


 「はーい!!」


 先程から彼女はとても嬉しそうに満開の笑顔を浮かべている。

 ワクワクしてしょうがない子供のようだ。


 「オニーサン!いくよ!」


 またしても背中を押されるように影の方へ歩かされる。

 このまま行ったら躓くんじゃないかと思ったが、今までいた場所からは見えないように、階段の内側部分が紫のライトで照らされていた。



 おじいさんの先導で下に降りていく。

 階段も上の階と同様、清潔かと言われればそうでもないが不衛生と言うほどでもない感じで、きっとピエロのお姉さんが定期的に掃除しているのだろう姿が想像できた。


 下にたどり着くと木の扉があり、その傍ではアンティーク調のカンテラに紫の炎が煌々と燃えていた。

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