1/9
1
ある日のこと、
俺は、死んだ。
死んでしまった。
理由は簡単。
自傷衝動に駆られて反射的に動いた左手が、運悪く太腿の大動脈をざっくりと手にしていたカッターで切り裂いたらしい。
つい先日、切れ味が悪くなっていたので取り替えたばかりだった。
この俺はそれを覚えていたのか忘れていたのか、いつもなら手加減しまくりで薄皮一枚切れないのに、今回に限っては理性よりも心が勝ってしまったらしい。
ここで問題が一つ。
それは自分が、あの後死んだのだと気づけたことだ。
硬い土の道。果物や魚、揚げ物の匂いに、人々が行き交いザリザリと歩くたびになる足音。肉屋の前で世間話に夢中な主婦たちに、金物を渋い顔で吟味している親父さん。
俺の傍を楽しそうに走り抜ける子供たち。忙しない喧騒から顔を上げれば、空は高く青かった。