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CINCO

 何度かみずほの撮影について行ったがストーカーからは何のアクションもなかった。事務所のビル内のスタジオも都内の他のスタジオも公園や街での撮影をしても何も起こらなかった。みずほももしかしたらただの迷惑メールと間違い電話が続いたのかな、と言っていた。


 そろそろ着いて来なくても良いよとみずほに言われた時、お役御免なんだなと思った。僕はこのままどうすれば良いんだろう。受験生なので受験勉強はしている。それでも隙間時間で勉強しているみずほに順位で勝てないしどんどん嫌な気持ちなってきた。僕は今の状況に不満を覚えていた。


 前は母に怯えて食事もままならなかったのに、みずほが稼いでくることによる金銭の余裕が逆に僕を追い込んでいった。あの場所には僕がいたのにと思うこともある。ずっとみずほのヒモみたいに生きていくことになったらどうしようと本気で考えた。


 本当は、本心では僕は可愛い格好をするのが好きだった。でも、背が伸びて母に買ってもらった服は入らなくなった。可愛い服はとにかく高い。それにもう僕が女の子の服を着ると女装だってわかるようになってしまった。


 脛にも腋にも毛が生えてそれを必死で剃ってもどんどん男の体になっていって濃い髭が生えるようになった。それを見て僕は気持ちが悪くなった。量販店で買ったオーバーサイズの服は全然ときめかないしその姿を見るたびに自分が男だと再認識させられるようで苦しかった。長い髪だけが可愛い頃の僕と変わらない唯一のものだった。


◇◇◇◇


 とうとうみずほが雑誌の表紙を飾ることになった。それに付随して深夜枠のテレビに短い映像が流れるらしい。母にバレたらどうしようという気持ちとこのままめちゃくちゃになってしまえば良いのにという気持ちがごちゃ混ぜだった。母という災厄が訪れればすべてが悪い方向にいくだろう。こんなことを望んではいけないのに、不幸を望むなんて愚かだ。


 みずほが雑誌の表紙に載っても母からは何のリアクションもなかった。コンビニで扱うほどメジャーな雑誌じゃないからか、みずほだと気付かなかったのかわからないけど僕たちはまた命拾いしたみたいだった。


 祖母はみずほが表紙の雑誌を嬉しそうに撫でた。最近は母もいないため祖母もだいぶ元気になってきた。やっぱりストレス要因がいないというのは人間をまともにするんだなと僕は思った。祖母の作った二食丼とほうれん草の味噌汁を二人で食べた。みずほは最近は平日も活動を始めた。学校にも届けを出して活動の許可を得た。成績は元々良いので出席ギリギリでやっていくみたいだった。祖母と二人の食卓はとても静かだった。九時近くに帰って来たみずほは二食丼には手を付けずに味噌汁だけ食べた。


「みずほ、二食丼食べないの?折角おばあちゃんが作ってくれたのに」

「体重管理してるの。わたしはこの身体が商売道具なんだからこんな遅くに炭水化物を取りたくないのよ」


 前はクッキーもマフィンもチョコレートも昼夜関係なく食べていたのに最近のみずほは夜と朝はスムージーとかヨーグルトとかそういうヘルシーなものしか摂らなくなっていた。彼女曰く太りやすいから節制しないといけないらしい。前は食事が足りなくてガリガリだったのに今は自主的にダイエットしてるのが馬鹿みたいだなと思った。


「ほずみは良いよね。いっぱい食べても上にしか成長しないんだもん。ずるいよ」

「みずほは太ったんじゃなくて前が棒みたいにガリガリだっただけじゃん」


「ほずみは今もガリガリじゃん。また背伸びたね、声も低くなったし、もう女の子の格好できないね?」

「別に、前がおかしかっただけだよ」


「え?ほずみはフリフリの服着るの好きでしょ?お母さんから新しい服を貰う時いつも嬉しそうだったよ。わたしはそれを見る度にずるいなって思ってた。ほずみは姫でわたしは喪中。でも今はわたしがお姫様だもんね」


 最近のみずほはイライラしてこうやって僕に当たるようになった。こういうことがある度にやっぱりみずほは母の子なんだなと妙に納得した。みずほの情緒不安定が早く落ち着くと良いなと僕は思った。


◇◇◇◇


 その日は珍しくみずほから電話がかかってきたので出ると今すぐに迎えに来てとのことで僕は不審に思いながら言われた場所に向かった。二十分くらいかかってしまったけどみずほは指定の場所にいた。みずほは僕を見つけると明らかにホッとした顔をした。


「どうしたの?なんかあった?」

「あのね、後ろを見ないでね。ストーカーがいるの。電話してるふりで何とかしのいだけど明らかに目がイっちゃってるの。警察沙汰にはしたくないから」


「オッケー。どうする?もうやめてって頼む?」

「そんなのでやめてくれたらこんなことになってないでしょ。ちゃんと持ってきた?」


「ああ、これ?言われたの全部持ってきたよ」

「今から変態と話し合うからわたしが合図したら動画を撮ってその後それ使ってね」


 了解と答えて僕はみずほから離れた。みずほはストーカーのほうをじっと見てから近くのカラオケ店に入って行った。

 

 僕は一旦逆方面に歩いてからUターンしてカラオケ店へと向かった。予想通りストーカーはみずほの後をつけて入店したようだった。


 カラオケなんてした事が無かったので受付でちょっと手間取ったけれど無事に部屋に入ることが出来た。僕は302号室、みずほからは205号室だとメッセージが来ていたので非常階段を使って下の階へ降りた。


 誰とも遭遇しなかったので近くの男子トイレに入ってみずほからの連絡を待った。

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