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DOS

 僕とみずほはなるべく母と一緒にいたくないので学校が終わると図書館で時間をつぶして夕食の時間に合わせて帰った。図書館は水も飲めるしタダで本が読める。みずほは歴史か数独の本、僕は推理小説とファッション誌が好きだ。


 決まったお小遣いなんてものは当然のようになかったので僕たちはいつか本当に駄目になった時のために母が気まぐれに寄越すお金を貯金をしていた。母には絶対内緒でジップロックに入れてからクッキーの缶に入れてプランターに埋めてある。でも、年に一度だけは金額を決めてそれを使った。


 毎年僕らの誕生日には僕が母に殺されそうになっているのでいつもその次の日にみずほと近所のショッピングモールでお互い千円までのプレゼントを選んで交換した。その後はモール内の喫茶店でチョコとバナナとプリンが乗った大きなパフェを半分こにして食べる。飲み物は勿論水でお会計は二人で千円。今年は僕からは腕時計、みずほからは透明のマニキュアと爪やすりを貰った。


 僕がそれを見て顔を顰めるとみずほは「爪、噛むでしょ、塗っておきなよ」と言った。僕が噛み癖があるのを彼女は気にしているらしい。僕はみずほが時計を持っていたらいつでも時間が確認できて便利だなというやっぱり自己中心的な理由でそれを選んだのでちょっとだけ心の中で反省した。


 普段はショッピングモールには来ない。欲しいものがあるのに買えないのは虚しいからだ。クッキーもたこ焼きも大判焼きもラーメンもお金があれば買えるけど、お金がなければ何ひとつ買えないのだ。それに、幸せそうな家族とか僕らと同い年くらいで楽しそうに遊んでる子たちを見ると別世界でとても苦しくなるのだ。


 あまりにも僕たちとは違いすぎて羨ましくなる。そういう風に思うことをみずほも僕も良しとはしなかったので図書館にばかり行った。夏は涼しいし冬は暖かい。それにとても静かだ。僕たちの安心できる場所は家じゃなくて図書館だった。


 母に恋人が出来ると一時的に平穏になる。何故なら家に帰って来なくなるからだ。祖母が食事を用意するので三食食べられるようになる。母がいるときに祖母が僕たちに何か与えようとすると母は祖母を殴る。親への感謝が減ると言っていたがそもそも母に感謝をした事がない。


 早く、大人になりたい。僕もみずほもそう思っている。大人になったら二人で一緒に住んで働いて好きなものを買いたい。母と縁を切って安心して眠りたい。誕生日までの日々を暗鬱な気持ちで迎えずに過ごしたい。


 母が死ねばと何度も空想した。でもここ数年の母は風邪も引かないくらい元気でむしろ僕らの方が先にお迎えがきそうだった。僕もみずほも薄い身体でとても冷え性だったので冬たくさん着込んで二人でくっついて震えながら眠った。


 自分の置かれている状況が異常だとわかっていてもそれを変えることが出来なかった。児童相談所や警察というものも知っているけれど僕らは踏み出せずにいた。もし、助けて貰えなかったら母は僕たちに酷いことをするだろう。とても口で言えないような酷いことをきっと笑いながら実行する。無慈悲な女神のように。僕らはいつでも気まぐれな彼女に翻弄されていた。

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