「前から読んでも後から読んでも『キス、スキ』……でチュ~」ってネズミ族の子が言うニャ
ミーア「キスされるスキにゃんて見せないニャ」
ここは、異世界ウェステニラ。獣人の森の中。
地球から転移してきた人間の少年サブロー(16歳)と、生まれも育ちもウェステニラな猫族の少女ミーア(14歳)。2人が、お喋りをしています。ミーアの容姿は2足歩行のリアル猫……少女の背の高さはサブローの胸くらい。でも種族の垣根を超えて、サブローとミーアはとっても仲良しです。
ちなみにミーアのパパの名前は、ダガル。ダガルさんは村一番の狩人。
猫族が崇める神様の名前は、猫神様……全くもって、そのまんまの神名ですね~。
♢
「ねぇ、ミーア。ちょっと質問しても良いかな?」
「良いニャよ~」
「獣人の森に、ネズミ族の方々は住んでいるの?」
「もちろんニャン」
「そうなんだ。当然、猫族とネズミ族は仲が悪いんだろうね」
「あんまり仲良しじゃ無いニャ」
「ネズミ族は猫族を怖がって……」
「にゅ? 違うニャン。どちらかと言うと、猫族のほうがネズミ族を怖がって、苦手にしてるのニャ」
「え! どういうこと? 猫族がネズミ族を追いかけまわして、時には捕まえたりもしてるんじゃないの?」
「猫族は、そんにゃ相手に迷惑を掛けるようにゃマネはしないのニャ。無体にゃマネをしてくるニョは、ネズミ族のほうにゃん」
「無体なマネ……」
「ネズミ族は猫族に出会うや、チューしようとしてくるのニャ。まったく、ネズミ族は〝困ったさん〟にゃ……」
「は? チュ……チュー? 〝チュー〟って、キス……口づけのことだよね?」
「そ……そうニャン。ネズミ族は猫族以外の部族……犬族やブタ族や牛族に会った際も、一目見るにゃり、猛烈な勢いでチューをしようとするニョ。にゃので、獣人の森に住む皆、どにょ部族も、獅子族でさえも、ネズミ族を見掛けたら大急ぎで逃げ出してしまうのニャ」
「ネズミを見るなり、逃げ出すライオン……獅子たる威厳の欠片もないね。けど、どうしてネズミ族はそんなハレンチ……もとい、非常識な行為をするんだろう?」
「良く分からないニャン。にゃんでも、〝部族としての習性〟〝やむにやまれぬ衝動〟らしいニャ」
「習性……」
「〝修正できない習性〟とのことニャ」
「衝動……」
「〝唱道すべき衝動〟とのことニャ」
「そんなもん、唱道されても…………そのセリフ、ネズミ族の獣人が口にしたんだよね?」
「そうニャ。アタシ、同い歳のネズミ族の男にょ子に尋ねてみたことがあるニョにゃ。〝にゃんで、ネズミ族はそんにゃにチューしたがるニョ?〟って」
「お、お、おおおお男の子? ミーア、大丈夫だったの? キスを迫られたんじゃ――」
「平気ニャン。ネズミ族の〝習性〟〝衝動〟は、相手が同性の時しか発動しない決まりなのニャ」
「同性……」
「女にょ子は、女にょ子相手。男にょ子は、男にょ子相手」
「…………」
「異性相手にチューしようとするネズミ族は滅多にいニャいけど、もし居たら、〝チュー者違反〟として、ネズミ族の長老が直々に罰を与えるそうニャ」
「駐車違反は、ダメだよね。〝道の迷惑〟になる」
「ニャン。〝未知の迷惑〟にゃ」
「……どんな罰が与えられるのかな?」
「チューの罰として、誅・伐されるらしいニャン。衆人注目の中で、地面に接吻1ヒモク(1時間)の刑……嘆きの罰キッス……通称《嘆キッス》をしなければならニャいんだとか」
「〝投げキッス〟じゃ無くて〝嘆キッス〟とは…………それは、ばつが悪いね」
「チュー罰の後には、チューの現実についての個別指導にょ教育が行われるんだって」
「チューの現実を、個別教育するのか……ネズミ族は、なんで、そうまでしてチューにこだわるんだ……?」
「ニャン。ネズミ族の男にょ子が言うには……」
「うん」
「『ネズミ族は〝マウス〟だから、ついつい〝マウス・ツー・マウス〟をしてしまうんでチュー』って。ニャン」
「…………」
「『すき間好きのネズミ族だから、キス魔になってしまうんでチュー』って。ニャン」
「…………」
「『〝チュウチュウ〟が口ぐせのネズミ族だから、お口の癖としてチュウしてしまうんでチュー』って。ニャン」
「…………」
「…………」
「ええっと……とは言え、いくらネズミ族でも同性相手にキスするのは抵抗があるんじゃないの? 特に男同士は……」
「アタシとお話をしたネズミ族の男にょ子も、習性には逆らえないニャいけど、本心ではイヤにゃんだそうにゃ」
「やっぱり」
「『同性相手にチューなんて、どーせーっチューねん!』って喚いてたニャ」
「何故に、エセ関西弁……」
「『夢中でブチュ~ってしちゃう苦衷を察して欲しいでチュ~』って泣いてたニャ」
「…………」
「…………ニャン。それでも、チューに懸ける魂、〝チュー魂〟こそがネズミ族の誇りにゃんだって」
「ネズミ族はそれで良いのかもしれないけど、他の部族にとっては……」
「不チュウ意一瞬、チューされて、後悔一生……ニャン」
「獣人の森では、ネズミ族のチューを避けようと、どの部族も必死なんだね」
「夏はとりわけ、危険な季節なのにゃ。水の摂取を怠ったネズミ族が熱チュウ症にニャって、熱烈にチューを求めてくるニョ」
「熱中症予防に、水分補給は欠かせないよね」
「冬も危険な季節なのニャ。雪が降ると、団体のネズミ族が寒さに震えニャがら『せめて、チューを!』と叫びつつセッチュー行軍をしてくるニョ」
「雪中行軍……率いるのは、やっぱり中隊長――チュウ隊長なのかな……」
「秋も危険な季節なのにゃ。中秋の名月を眺めにゃがら、ネズミ族が『中秋の名月……チュー秋の名月……月……月見ー! Kiss Meー!』と主張してくるニョ」
「風情も何も無いね。それじゃ四季の中で他の部族が安心できるのは、春だけか……」
「…………」
「…………」
「春も危険ニャ」
「なんで!?」
「だって、春はチューリップの季節にゃん」
「チューリップ……」
「春になるとネズミ族は『チューリップが咲いたでチュ~。チューリップ~、チュ~リップ~、唇にチュ~』と歌いニャがら――」
「いや、ミーア。もうそれ以上は、話さなくても良いよ」
「……………」
「結局のところ、ネズミ族は一年中、チューをしたがるんだね」
「そうニャ」
「いやはや……これがホントの〝年チュウ行事〟! なんちゃって。ハハハハ!」
「ハハハ!」
「…………」
「ハハ」
「…………」
「ハ」
「…………」
「ハ~」
「ニャ~…………そう言えば、パパにチューしようとしたネズミ族のオジサンも居たニャン」
「ダガルさんに……なんて剛毅な。〝尋常の者〟じゃないな」
「ネズミ族にしては身体が大きなオジサンだったニャン。パパに『キミと僕。2人が手を組めば、ウェステニラ制覇も夢じゃないでチュ!』とか述べてたニャ」
「語り口は可愛らしいのに……大口を叩いたもんだね。〝巨体のネズミ族〟が〝大言壮語〟したのか」
「もちろん、パパは拒否したニャン。チューも、世界制覇も」
「チューと世界征服が同レベル扱い……ま、まぁ、僕だって男とキスするくらいなら、世界征服に乗り出したほうがマシだけど」
「ニャン」
「……しかし……ミーアの話を聞く限り、ネズミ族と付き合っていくのは本当に大変そうだね」
「そうでも無いニャ。最近、猫神様が、ネズミ族のチューに対抗できる薬を猫族へ下されたニョ」
「おお、凄い! さすが、猫神様」
「そにょお薬を口に含んで噛んでいれば、ネズミ族はチューしてこないのニャ。ネズミ族の〝チューをしたくなる衝動〟を抑える薬、チューを封印できるお薬ニャン」
「どんな名前の薬なの?」
「〝チュー・印・噛む〟」
「……お後が宜しいようで」
「宜しくないニャ」
※ミーアのイラストは、あっきコタロウ様よりの頂き物です。ありがとうございます!
サブローやミーアが使用している言語(ウェステニラの人間語)の体系……その秘密は、コメディー時空によって守られています。なのでツッコミは無しで……(嘆願)。
※本編の『異世界で僕は美少女に出会えない!?』も宜しくお願いいたします。