グリム童話は夢を見せない(6)
=10月31日(水)=
峻
『昨日眠れた?』
千景
(猫が泣いているスタンプ)
『全然。
なんで赤ちゃん、夜に泣くのかな。
授乳もうまくいかないよー』
峻
『ミルクもあるし、心配するなよ』
千景
『できれば母乳で育てたいもん!』
峻
『なんで? 僕だってミルクあげたい!』
千景
『母乳だと添い寝であげられるからラクって友達が』
峻
『ミルクだと僕が半分担当できるからラクだよ。哺乳瓶も買っちゃったし』
千景
(猫が腕組みして考え込むスタンプ)
『また話しあいますか』
峻
『考えといて。寝てないなら、親にはお見舞い行くなって言っておく』
千景は、ふふっ、と笑ってラインを打ち返した。
『大丈夫。来てくれてる時はりおちゃん見ててもらえるから、その間に寝てるの』
スタンプの代わりに、隣の小さなベッドに寝かされた、生まれたばかりの息子の写真を送る。
『りおちゃんが昼いつも寝てるから、申し訳ない感じ。少しは起きてくれればいいのになぁ』
ここまで打って送信した時、遠慮がちなノックの音と、「千景さん、いいですか?」 という声がした。
「どうぞ」
部屋の扉がそっと開き、遠慮がちに峻の両親が入ってくる。
「毎日、ごめんなさいね」
杖にすがり気味に歩く、光子。
自殺未遂を起こしてから1年半以上が経っているが、薬の過剰摂取の後遺症で、立っているとたまに脚から力が抜けてしまうのだ。
それでも、初孫は見に行きたいものらしい。
寝顔に目を細めている様子は、傍目には、気分変調症の治療がまだ続いている、とは思えないものだった。
「千景さんにもりおちゃんにも、感謝だね」 静樹が笑った。
「孫の効果はすごいよ」
ふと、光子が顔を曇らせる。
「千景さんのご両親にも、効き目があるといいのに……」
千景の両親と言葉を交わす機会は数少なかったが、光子はその心情を察し、気に病んでいたのだ。
…… 自分のせいで、千景と両親の仲にひびが入っているのではないか、と。……
しかし、そんな光子の懸念を、千景本人はさほど気にしていなかった。
「大丈夫ですよ」
今さら、両親と少しばかり距離ができたからといって、落ち込むようなことではない。
おそらくは、彼らもこの、信じられないような事実にどう向き合うべきか悩んで、まだ答えがでないのだろう。
……『あの事故』 の加害者が、峻の母親であることを告げられた時から。
婚約の挨拶に行った折に、事実を知った両親の態度は立派だった、と千景は思う。
――― 事故は過去のことだと言い、苦しんできた光子と家族への労りを伝え、謝罪はもうじゅうぶん、と断り、千景たちを祝福し、励ましてくれた。 ―――
それで、じゅうぶん。
その後、若干、疎遠になっても、仕方がないことなのだ。
なぜなら、被害者遺族の怒り、悲しみ、戸惑いは、年月が経つにつれ誰にも理解されなくなるものなのだから。
――― 何十年経っても悲しい、何十年経っても許せない…… それは、世間的に許可されにくい上に、自身をも追い詰めてしまうことなのだ。
だから彼らは、記憶に蓋をし、痛みを呼び起こすものには触れないようにして過ごしてきたのである。 ―――
その穏やかで前向きな意識に傷をつけると知っていても、千景は峻を選んだ。
…… 峻には、両親に話せないことを話せたから。強くはないけれど、逃げないから。
逃げて、千景をひとりにしたり、しない人だから。 ……
きっと千景の両親にも、いつかそれがわかる…… わかってほしい、とは願うが、いつになるかはわからない、とも思う。
「実は今日、家族皆で来てくれることになっていて」
「あら、じゃあ、もう帰らなきゃ」
千景の発言に峻の両親が慌て出した時、戸が再びノックされた。
「千景、いる?」 入ってきた千景の両親が、峻の両親を認めて、緊張を全身に走らせる。
会うのは、これが初めてだ。
――― これまでは、結婚には賛成しても、やはり両親どうしは顔を合わせにくい空気があった。
そのせいもあり、現代の風潮もありで、結納は省略。
結婚式は千景の地元でささやかに行われたが、峻の両親は、光子の治療を理由に出席しなかったのだ。 ―――
「こんにちは……」 「どうも、千景が、お世話になっております」 「いえ、こちらこそ」
ぎこちない挨拶が繰り広げられる中、千景の弟が赤子に近寄った。
ひとり、どこ吹く風、といった様子で、柔らかい頬をつつく。
「ちっちゃいなぁ! おーい、おじちゃんだよ、起きろー!」
「ちょっと、揺すぶらないでよ?」
「わかってるって」 と姉に答えながらも、ひたすらテンションの高い千景の弟。
「俺に似てるような?」
しつこく頬をつつかれ、赤子が目を覚まして泣き出す。
その声に、千景と峻の両親たちも気まずい会話を切り上げて集まってきた。
「こら、つつきすぎ」
千景が生まれたばかりの息子を抱き上げ、母に渡す。
受け取った千景の母の表情が、一瞬にして和やかになった。
…… 赤子のもつ力には、有無を言わせぬものがあるのだ。 ……
「かわいいわねぇ。目元は千景似じゃない?」
「口と鼻が峻さんでしょ」
「あら、峻よりハンサムよ」
思わず口を挟んだ光子は、千景の母に遠慮がちに抱っこを勧められ、首を横に振った。
「ごめんなさい、時々、手に力が入らないから……」
これもまた、薬の過剰摂取の後遺症だった。
「…………」 千景の両親が黙り込む。
光子のことは千景からある程度聞いていた。
事故以来、長い年月、苦しんできたことを。
…… 同情したいが、苦しんで当然だ、と、どうしても心の片隅で、思ってしまう。
なぜなら彼女は、加害者なのだから。
――― 彼女の運転する車のせいで、数時間前まで元気に笑い、軽口を叩いていた身内は、帰ってこない人になったのだ。 ―――
彼女を責めるのでなければ、誰を責められるというのだろう。
道に飛び出した千景か? それとも、あの日、千景の子守りを任せてしまった自分たちか? ……
「早く治してくださいね」 一瞬訪れた沈黙を、千景があっさりと破った。
「私が仕事復帰したら、お世話になるんですから」
「……そうね」 光子はうなずき、赤子の手に触れる。
小さい手が、震える指をきゅっと握る。
「あら」
指を引っ込めるのは簡単なはずなのに、できなかった。
…… この手をできる限り、ずっと、守ってやりたい。 ……
そう、思ってしまったから。
「まぁ、もう反応があるのね」 千景の母の声を聞きながら、孫の手を見つめる。
(ああ、そうだったんだ)
急に、理解できたことがあった。
…… これまで、どうしたら許されるのか、とそればかり考えてきたけれど ……
一生、嫌われたままでも、憎まれたままでもかまわなかったのだ。
それは自分の責任であり、犯してしまったことに対するツケであり、背負っていくしか、ないものである。
(大切なことは、もっと別にあったんだわ)
祈るのならば、我が身の贖罪でなく、峻と千景や、今ここに繋がった、小さく初々しい命の持ち主のために。
――― これ以上、この子たちに、寂しく悲しいことがないように。
できるならば、幸福な人生を歩めるように。 ―――
「あの事故は、本当に、申し訳ないことをした、と思っています……」
光子は千景の両親に身体を向け、ゆっくりと話し始めた。
たどたどしくても、物語のようにはうまくいかなくても。
できる限り、まっすぐに、その願いを伝えるために。
本編はこれにて終了。あとエピローグ1話追加で完結予定です。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
※3月5日 誤字訂正しました!報告してくださった方、ありがとうございます!
さて、最終は……もし作者が神戸を旅するならば。
3日で行けるかなー。ゆっくり回ると絶対無理ですね(爆)
=1日目=
1)まずは阪急沿線で行こう!
梅田 (JR大阪駅すぐ) から阪急神戸線、特急に乗ります!
阪急電車は滅多に乗らないけど何気に好き!
2)岡本 ⇒ 岡本梅林公園 2月下旬~3月上旬が見頃 (今年は早いかも)
3)御影 ⇒ 香雪美術館 (陶磁器が多かったイメージ)、 白鶴美術館 (行ったことありませんが良さそう)
4)六甲 ⇒ 六甲山牧場かオルゴールミュージアムへ (王子公園駅から王子動物園もいいな……)
5)三宮で宿泊!
=2日目=
1)三宮~神戸まで商店街ぶらぶら歩き!
高架下(トミーズのパン買う)、センター街、元町商店街
2)神戸から港の方へ出る。
① 遊覧船に乗る
② ポートタワーへ行く
③ 神戸海洋博物館・川崎ミュージアムへ行く
④ 子連れ/アンパンマン好きなら、アンパンマンミュージアムも良いかも?
3)宿泊はホテルオークラで!(←言うのはタダww)
=3日目=
1)JR神戸駅の地下街をちょっと歩いて、湊川神社へ!
2)高速神戸駅 (湊川神社前です)から山陽電車に乗る
3)月見山 ⇒ 須磨離宮公園 ⇒ 須磨海浜水族園 ⇒ JR須磨海浜公園駅 (JR線に乗る!)
4)舞子駅 ⇒ 明石海峡大橋でラスト~!
お疲れ様でした \(^o^)/




