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グリム童話は夢を見せない(3)

「……どなたか、なくなったの?」


 光子の問いに、千景は身を固くする。


 ――― お互いの親に挨拶をする時、峻と、事故のことは言わない、と決めた。


 峻の両親にとって千景は、2度と目の前に現れてほしくない子供だろう。

 逆に、千景の両親や祖母にとっては、峻の母親は、この世で最も会いたくない人物であるかもしれない。



 交通事故の被害者遺族と、加害者。

 お互いに会わないまま事後処理が進められる場合もあるが……

 千景の両親と、峻の両親は、どれほど、相手のことを覚えているものだろうか。


 言わずに、発覚せずに済むなら、それに超したことはない、と、2人は願わずにはいられなかったのだ。 ―――



 だが、自分のことを話そう、と千景は決めていた。


 それだけ、峻の母親の自殺未遂が、千景にはショックだったのだ。


 千景の両親も祖母も、千景自身も、叔父をさらっていった事故から普段は目を背けている。

 極力思い出さないように、後悔しないように、恨みの念に囚われないようにして、この20年間を生きてきたのだ。


 ……けれども、もしかしたら、峻の母親にとっては忘れることさえ、許されなかったのかもしれない。


(私が死なせたのは、『お兄ちゃん』 だけじゃなかった)


 峻の母親(加害者)にも、たとえようもない苦しみを背負わせていたのだ。



 一方で、千景はこうも感じていた。


 ――― 光子の気持ちに最も近いのは。もう良い、と言ってあげられるのは。

 もしかしたら、自分しかいないかもしれない、と。 ―――



 思いながら、なおも迷う。


 たとえ、事故の詳細を隠して伝えても、光子が勘づいてしまうかもしれない。

 ……目の前の人間が、あの事故の時の子供だと知れば、光子はまた、苦しむだろう。



(きっと、伝える方が正しいはずだ)


 思いながらも、なお迷う。


 千景は以前に、正しいと思うことをして 「人の気持ちがわからない」 と言われたことがあった。


 己の正義はしばしば、他者の正義とは違うのだ。


 間違えた時のことを考えると、たとえようもなく、こわい。


(叔父さん、王様、力を貸してください)


 心の中で、祈る。


 祈るうち、千景の頭の中の、笑えるカボチャパンツをはいた王様の姿は、峻に変わった。


 ……こんな時なのに、ますます笑えた。


 ふっ、と心が軽くなる。


(そうだ。もしダメだったら、峻さんに相談しよう)


 ――― 峻ならきっと、一緒に考えてくれるはずだ。―――





 千景は脇机に置いたノートを手に取り、 『パンプキン王子のお話』 とペンで書かれた表紙を峻の母親に見せた。


「小さい頃に、私をかばって事故で亡くなった叔父なんです。

 ずっと忘れていたんですが、思い出して、物凄く苦しかった時に、この夢を見て」


「……苦しかったの?」


「叔父を死なせたのが、私だったから。どうしても、自分を許せなかったんです」


 光子は、うなずいた。

 これまで、自分だけのものと思っていたその感覚が、他人の口から語られることに、驚いていた。


 しかし、その驚きは、次の千景の言葉でまた、苛立ちに変わる。


「だけど、叔父は 『俺はこの世界で幸せになっているから心配するな』 って言ってくれました。

『ちゃんと幸せになってるか?』 って、いつも気にかけてくれていて」


「そう」


 ……やはり、自分(加害者)とは違う。

 かばわれた子供はそれ以後も守られ、気にかけてもらえ、幸せになれるのだろう。

 けれども、自分(加害者)が許されることなど、永遠に無いのだ。


「夢、なんでしょう?」


 まだ口が動きにくくて良かった、と光子は考えた。

 不明瞭な発音でなかったら、きっと、刺々(とげとげ)しい台詞になっただろう。


「はい。もしかしたら、私の勝手な願いが見せているだけのものかもしれません。……けど」


「本当かも、とでも?」


「いえ」 千景が、かぶりを振る。


「でも、きっと叔父なら、そう思ってくれるだろうとも、思うんです」


「…………」


 なんて都合の良い妄想なのだろう。

 そう、光子は思った。


 事故のもとになった子供が、責任逃れのために考えそうなことだ。


 しかし千景は、一心に説明する。


「叔父は、自分をはねた人のことは全然恨んでなくて。

 ただ、私のことを心配してくれながら、亡くなったんだと思うんです。


 ……今でも、幸せになるように、祈ってくれていると、そう感じる時があって」


 たどたどしい説明に、光子はふと、もし息子だったら、と考えた。


 ――― もし飛び出した子供が息子だったら……


 ……絶対に、何を犠牲にしても助けようとするだろう。


 よしんば死んでしまったとしても、まず心配するのは、それが息子の人生に影を落とすことだろう。


 きっと、意識が消える瞬間まで、息子の幸せだけを、祈るに違いない。 ―――



 負けた。


 なんとなく、そう感じた。



「そうかも、しれないわね」


 うなずく光子の胸に、ふっと1つの希望が浮かぶ。


(恨まれて、いなかったのかも)


 それは、ほっとするような、それでいて泣きたいような、妙な感慨を伴っていた。



 ――― これまでは、申し訳ないと思うと同時に、なぜ私の前に飛び出したのか、と被害者を責めてしまう気持ちも、多分にあった。


 きっと恨まれているのだろう、と考え、ならばこっちだって、とばかりに被害者を責め、恨んでいた。

 そして、その分だけ、自分を憐れんでいたのだ。


 誰にも言えず、心の底に埋めるほかなかった恨みや怒り、自分への憐れみは、隠せば隠すほどに、より強く光子を支配していた。―――



 けれど、もし、恨まれていなかった、としたら。



「謝りたいわ」


 ぽつり、と光子は言った。


 がらがらと、積み上げてきた何かが崩れる感覚がする。


 2度と積み上げたいとは思わない、重苦しい壁。

 しかし、その壁が崩れた後の空白が、光子には怖かった。


 何かにしがみつかなければ、どうしていいか、わからない。


 そうして必死でつかまるものを探した時に、蘇ったのは、久しく忘れていた気持ちだった。


 謝りたい。


 ……命を、奪ってしまったことを。

 ずっと、逆に恨み、憤っていたことを。



「……どうしたら、いいのか、わからないけど」


「きっと、通じますよ」


 励ますように言う千景に、そんなことはない、と返すのは、なぜか(はばか)られた。



 亡くなった人は、戻ってはこない。

 死後の世界など、残された人の心を慰めるための夢物語に過ぎない。


 それでも、そうしたものにすがっても、人は生きようとするのだ。



 ―――千景(この娘)のように、過去にとらわれず、前を向いて歩くことを選んで。―――




「パンプキン王子って、どうして?」


 ふふっ、と千景が笑う。


「カボチャパンツをはいてて、パンプキンパイが好きなんです。今は王様だけど、昔は王子だったから」


「……続き、聞かせてもらえるかしら」


 いいですよ、と千景は椅子に座り、ノートを開く。


「――― 『誰にも布をわけてあげなかったのかい?』 王様は優しく尋ねました。

『だって、国王様に差し上げるものですもの』

『パパはね、困っている人にはわけた方がいいと思うよ、チイちゃん』


 チェチーリア王女は悲しくなりました。

 美しい布で作った立派なマント、きっと喜んでもらえると思ったのに…… ―――」


 優しい声で読まれる優しい物語を聞きながら、光子はいつの間にか、眠っていた。

さて、本日の神戸案内はパンです!

パンといえば京都 (消費量日本一らしい?) ですが、実は神戸もけっこうすごいんやで。


取りあえず目についたベーカリーに入ってみた場合。高確率で美味しいですよ!!


では、有名どころ行ってみましょう。


【三宮】 トミーズ

高架下のパン屋さん! ケンミンショーでも紹介されました。

人気はあんを巻き込んで作る 「あん食パン」 。

ここが発祥らしいですが、兵庫県下では割とちらほら見かけます。


【割とどこにでもある】


・ビゴの店

観光にきた方に分かりやすいのは、神戸国際会館店でしょうか。

パンだけじゃなく、ケーキも美味!

砂礫のオススメは、フルーツサンド(店によってはないかも) ですよ。


・ドンク

三宮あたりを観光してたら、たぶんどっかで見ると思います(←いいかげんw)

人気はクロワッサン。砂礫の夫のオススメはフランスパンですねー。

子供ウケの良さそうなキャラクターパンも、味は美味しいのです。


・いすずベーカリー

心配しないで。どれも美味しいので!

え……それだけ?

それだけww


神戸はパンフェアなんてイベントがあったりもするのですよー。そして学校給食のパンまで美味。

羨ましい限りです(←小学校の頃住んでたとこは不味かった)


それではー!

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i427620
【シンデレラ転生シリーズ】

i420054

i420053

©️バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[気になる点] 壁は瓦解しましたが、この空白をこれからどうやって埋めていくのか。 そして被害者家族とどう付き合っていくのか気になりますね。
[良い点] >昔は王子だったから 昔はみんな王子様や王女様の時代がありましたよね (*´▽`*)ノ [一言] >食パン うちの田舎の給食も激マズでしたww
[良い点] >まだ口が動きにくくて良かった、と光子は考えた。 >不明瞭な発音でなかったら、きっと、刺々しい台詞になっただろう。 このあたりで光子さんがすでにちいちゃんに対してなんの悪感情も持ってない…
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