1話
モリーンは自分が冒険者に向いているとは全然思っていない。
まずは運動が苦手だ。
体力や腕力は強制的に鍛え上げられたものの、運動神経というのがよろしくない。
反応がにぶいというか、判断が遅いというか、戦士系の人がよく言う『体が勝手に危機を回避した』みたいなことが、生まれてこのかた全然ないのだ。
そう、危機判断能力の低さもまた、致命的だと思っている。
危険がわからない。引き際の判断が苦手だ。
通常の冒険者は経験による皮膚感覚や生来誰しもが持つ恐怖心によって危険の察知をするらしいのだが、モリーンは『とあること』があってから、たいていの危険を危険と認識できない。
たぶん恐怖を感じる心を壊されてしまっている。だから気づけば危地にいることが最近多く、そういう時に危ない目に遭うのは、自分ではなく、連れだった仲間たちなのだ。
思い詰めるとすさまじい行動力を発揮するあたりもよくないところだ。
本当に、普段はびくびくおどおどしているくせに、なにか目的を見つけるとどこまでも突っ走るところがある。
かつて、それですさまじい場所にたどりついたこともあった。
その場所は今でこそ、いい思い出が多くなった大事な場所となったのだけれど、あれは運がよかった。あるいは悪すぎて振り切れた。その場所の主にいわく『なるほど、つまり、アンダーフローしたんですね』ということだった。よくわからない。
その他様々な理由で、自分は冒険者にまったく向いていないと思う。
モリーンは自分の欠点を考え始めると止まらなくなるタイプだった。己の足りないところはいくらでも思いつく。
代わりに長所をたずねられると固まるタイプだった。己の足りているところは全然思いつかない。
自分なんかが、というのが口癖らしい。
わたくしなんかが、わたくしごときが、と気づけば口にしているそうだ。
それは大切な友人たちからの忠告でわかったことだ。
彼女らはモリーンのいいところをたくさん挙げてくれた。
けれどそれらの言葉は自分なんかにはもったいないものに思えた。
気休めのおためごかしとは思わない。彼女たちは本気で、こんな自分なんかに長所がたくさんあるのだと、そう思ってくれている。
そのことが恐れ多い。
彼女たちを信じているのに、どれだけ美点を挙げられても全然納得できない自分の精神性は本当にどうしようもないダメなところだと思う。
気づけばモリーンも十九歳で、世間では同年代がとっくに結婚していたり、あるいは後輩を鍛えたりする立場になっている。
モリーンも冒険者のならいに従うなら、そろそろ後輩の一人も見つけて、鍛え始めなければならない。
結婚は想像もつかない。
男性恐怖も女性恐怖もないが、人類恐怖があった。
自分から交友関係を広げるのが全然できなくて、会話相手はとある宿屋で同じ苦労をわかちあった仲間だったり、あるいは『弟』や『妹』だったりしか、いない。
信じたものしか、信じられない。
新しく誰かを信じることができない。
それがここ最近、モリーンを悩ませ続ける問題だった。