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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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078 対面

「初めまして、私はグランシエル王国において宰相の位を賜っている、レギオンと言う。此度は王家より全権を預かってこの場に立っている。」


レギオン宰相に続き、ロッテが立ち上がる。


「カールレオン公爵家が娘、シャルロッテです。」


ロッテは変色を解除している。服装は、学院の制服を着用している状態だ。

名乗ったロッテは、スカートの両端を軽く持ち上げ、深々と頭を下げる。


「兄ちゃん、ロッテが変なポーズになっているぞ?パンツを見せようとしているのか?」

「違うよ、ナナ。あれはカーテシーって言ってね、王国貴族の伝統的な挨拶らしいよ。」

「今はあたしも貴族だぞ?あたしもパンツ見せないといけないのか?」

「見せちゃ駄目だよ。ロッテもパンツが見えないようにスカートを持ち上げてるんだよ。」

「あたし知ってるぞ。チラリズムとか言うやつだ。失敗すればパンチラになるんだ。今日のロッテは気合いが入っているな?」


ロッテは真っ赤になって頭を下げたままで震えていた。


各国の代表となるメンバーからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。



(交渉が終わったら親分はお説教です!!)


ロッテの脳内でナナの運命が決定されていた。



「護衛のオルガンだ。」

「同じく、護衛のセロです。」


オルガンはそのまま、セロは軽く会釈する。



「あたしは正義の付与術士にして七星爆裂拳の伝承者、ナナだ!!!」


長椅子の上で名乗りを上げたナナは、スカートの両端をぎゅっと握る。

ロッテの真似をしてカーテシーを決めるつもりのようだ。


ぺこりと頭を下げ、それと同時に両腕が無意識に持ち上がり、パンチラどころかパンモロの状態になっている。



「可愛い雪だるまね?」


魔女のコメントから背後のナナの状態を察したロッテは素早くナナのパンツを隠す。


「すみません、すみません。」


ロッテは誰に対してのものかよくわからない謝罪を連呼しながらナナのスカートを戻している。


「?」


状況が分かっていないナナはきょとんとしてそれを眺めていた。



「実に愉快なお嬢さんだね。」

「何でこの場所にあのような小娘が…。」


ヨーゼフ首長はナナの存在に疑問を抱いているようだ。


「ヨーゼフ首長、彼女は王国筆頭付与術士のナナさんです。幼いからと侮ってはなりません。」

「何!?あの小娘…、いや、彼女が!?」


ベアトリス陸将の言葉に驚愕するヨーゼフ首長。

ナナのことは知らなくとも、筆頭付与術士についての情報は入手していたようだ。


「ベアトリス陸将はさすがだね。よく調べている。陸将の言う通り、彼女は幼くとも比類なき魔力を誇り、希少付与術を行使する天才術士だよ。」


円卓についていた黒髪の男性はそう言って立ち上がる。

そして周囲を見渡し、自己紹介を始めた。



「お初にお目にかかる。サミュール連邦評議会において議長を務めさせてもらっている、ザミエル・ラスタバンだ。」


レギオン宰相とロッテの表情が硬くなる。

侵略してきた戦力の指揮官くらいであろうと予想していた連邦側の代表が、まさか連邦評議長本人が出張ってくるとは予想外だった。


ラスタバン議長は、多数の国家の連合体となる連邦の頂点に立つ人物である。

レギオン宰相もロッテも、その名前は耳にしていたが、本人との対面は初めてだ。


「まさか議長殿自らが来られるとは。お会いできて光栄だ。」


レギオン宰相はラスタバン議長の元へ移動し握手を求め、議長もまたそれに応じる。


「宰相殿、私はこの席で、此度の小競り合いに関してのことに留まらず、これからの三国の在り方について有意義な話ができたらと考えているんだよ。」

「それはこちらも望むところです。」


ラスタバン議長とレギオン宰相が席に戻るのを待って、続けて議長の背後、長椅子に座っていた二人が立ち上がる。


「連邦評議員の一人、ヨーゼフです。」

「連邦陸軍を預からせていただいております。ベアトリスです。陸将の位を拝命しております。」


中年の男性は評議員の一人。

そして黄金の鎧姿の女性は陸将の地位にある軍属の人間。


どうやらこの二人がラスタバン議長の補佐を務めるようだ。



サミュール連邦勢の紹介が終わり、同じく円卓につくもう一人が立ち上がる。


白銀帝国を代表する交渉役は、パールグレーの頭髪を後ろで纏めた女性。

そして長椅子には完全に黒づくめの人物が座っている。



「白銀帝国において外交戦略筆頭顧問という役職を務めております、バルディアと申します。」


バルディアは曲げた左腕を自身の前に持ってきた状態で頭を下げる。


「若輩の身ではありますが、帝国を統べるグラシアル皇室より全権を委任されております。どうぞお手柔らかに。」


そのまま背後の黒づくめの人物を指して、続けて紹介する。


「この者は私の護衛を務めるバール。会話はあまり得意ではありませんので私が紹介させていただきますね。」


バールと呼ばれた黒づくめの人物、その紹介に際し、セロとオルガンの表情にはこれ以上ない程の緊張がにじみ出ていた。


魔女に勝るとも劣らない。

二人はバールの強さをそれほどのものと感じ取っていた。



「おや?バルディア殿は一人で交渉に臨むのかね?」


着席するバルディアに、ラスタバン議長から質問が飛ぶ。

帝国勢は二人だけ。そして護衛のバールは会話が苦手。そうなればバルディアは交渉を補佐する者もなく、単身での交渉参加となる。


「ラスタバン議長殿にレギオン宰相殿。お二人に対して私のような小娘が互角に渡り合えるなどという自惚れは抱いておりませんよ。」

「フフフ…。バルディア殿、若輩、小娘などとおっしゃるが、貴女であればそれは自惚れではないと私は考えるよ。」


ラスタバン議長はバルディアという人物を知っており、そして高く評価しているようだった。


「過分な評価、恐れ入りますわ、ラスタバン議長殿。」



「失礼、議長殿とバルディア殿は面識があるのですかな?」


レギオン宰相の問いかけに対し、ラスタバン議長がそれに応じる。


「宰相殿、こちらのバルディア殿を経験の浅い女性外交官などと侮ってしまえば大変なことになりますよ?」

「あら?議長殿?私は正に経験の浅いただの女性外交官であると自負しておりますよ?」



「シャルロッテ嬢、貴女の父君である大公殿が計画した此度の王国侵略。その計画の実務を担当したのがバルディア殿だよ。」


レギオン宰相とロッテの顔が驚愕に彩られる。




「つまりこのバルディアさんはアルカンシエルのメンバーかもしくは密接に関わっている。てことになるかな?」


セロは通信を使い、小声で味方にだけ聞こえるように囁いた。

王国勢の皆は小さく頷き、ラスタバン議長は続けてバルディアの功績を語る。


「各地での陽動、破壊工作。お陰様で帝国、連邦ともに全戦力が無傷で健在だ。見事としか言いようのない成果だよ。」

「議長殿?お褒めにあずかり光栄なのですが、そんな私でもお二人を相手取るのはやっぱり不安なんですよ?」


バルディアはそう言って、鉢植えを一つ円卓の上に置いた。その鉢植えには土が盛られているだけだ。


「議長殿や宰相殿に上手に言いくるめられないように、私も交渉の助っ人を連れてきています。」



取り出した小瓶の中の透明の液体を鉢植えに零して、バルディアは言った。


「紹介しますね?」



バルディアが発言した途端に、鉢植えの土から芽が飛び出した。

それは凄まじい勢いで成長し、花をつける。

そして蕾のままでどんどんその大きさを増していき、1メートル程でその成長を止める。


小さい鉢植えに細い茎、それが巨大な蕾を保持している。

その花は、異様な物体であるとしか言いようがなかった。



「お!お花が咲きそうになっているぞ!?」


ナナの指摘した通り、ゆっくりとその花弁が開いていく。



「とおおおぉぉ~ぅっ!!!」


叫びと共に、花の中から小さい人影が飛び出した。

空中でくるくると回転して、円卓の上に着地する。


それは12~13歳くらいの子供だった。

しかし、頭髪や服装、アクセサリーからメイクに至るまで、ありとあらゆる部分が派手。


ナナとロッテはその姿をよく憶えていた。



「おまえは…、リンリン!!!」

「そうっ!さすらいの旅芸人、ワンダー・リンリンだよっ!バルディアの交渉を助ける為、只今参上っ!!」


ワンダー・リンリンはすかさず黒い布を大きな花に被せ、カウントする。


「ワン!ツー!スリー!!」



ぽんっ!


音と同時に、黒い布がふわりと円卓の上に落ちる。

ワンダー・リンリンがその布を取り去ると、そこにあったはずの大きな花は鉢植えごと消えてなくなっていた。


「すげ~!!あの大きなお花が消えちゃったぞ!?」


ナナはリンリンの手品芸にすっかり興奮してしまっている。



「リンリン、貴女の席はここよ?」


バルディアは、ワンダー・リンリンに自分の隣の席への着席を促す。


「了解だよっ!精一杯交渉をサポートするからねっ!」


ワンダー・リンリンは席に座り、バルディアに向けて満面の笑みを見せている。


そしていつの間にかワンダー・リンリンの傍にはナナの姿。


「リンリン、もっと手品やってくれ。」

「えぇ~?駄目だよ、ナナ。これから大事なお話があるんだよっ!?」


ナナはくいくいと派手な服を引っ張りながらそんなことを言っている。

物欲しそうにナナがおねだりをしている間、セロは眼前に起きた出来事を冷静に分析していた。



「ねぇ、みんな。今の手品、どんな魔術の恩恵があれば再現できると思う?」


その問いかけは、通信による内緒話だ。


「駄目だな。想像もつかない。というか一般に知られている魔術技能では不可能であると断言してもいいくらいだ。」


レギオン宰相の言葉にオルガンとロッテも同意する。



セロは生前のサーレントが語った組織の最高幹部が所有する希少付与術の中で、特に強力であるとされた二つについての話を思い出していた。

どちらもその内容は不明だが、その使用者については僅かだが情報がある。


一人は教皇。光の女神を信奉する教団の頂点、そして同時にアルカンシエルの盟主でもあるという人物。

そしてもう一人。幼いが天才と呼ばれる付与術士の少女。確かにサーレントはそう言っていた。



セロは不確定ながらも、その天才少女とワンダー・リンリンを結び付けていた。



「仕方ないなぁ~。これが最後だからねっ!」

「おおっ!リンリン、やってくれるのか!?すごいのを頼むぞ!!」


ナナの瞳の色が黄色に変化する。


「派手なのは駄目だよっ!あくまで、交渉を円滑に進める為の芸なんだからねっ!?」


ワンダー・リンリンは交渉の手助けとなる何かを行うようだ。


「ナナ、この場所ってどんな感じかなっ!?」


そして突然ナナに問いかける。


「暗いんだぞ?そんで、蒸し暑くてじめじめするんだ。」

「あらそう?私には何も感じないけれど。」


ナナは素直な感想を洩らし、魔女は何の痛痒も感じていないことを告げる。


「魔女殿程の高レベルの方はそうだろうね。しかし私のような虚弱な人間にはなかなかに堪えるよ。」


ラスタバン議長も実際は我慢していたらしい。


「言ってくれればよかったのに。でも大丈夫よ、場所の条件としては三国の領土外で他者の干渉を受けないところだから候補はまだあるわ。」

「それには及ばないよっ!ワンダー・リンリンの快適芸をご覧あれっ!!」


魔女は場所を変えようかと提案するが、ワンダー・リンリンはそれを制止して、椅子から飛び上がり円卓から少し離れた空間に着地する。

ナナはそれを追いかけ、ワンダー・リンリンの直前に陣取る。特等席だ。



「ワンダー・リンリン!そよ風ブレスっ!!」



ふぅ~~~~~~~っ!!!


ワンダー・リンリンは周辺に自らの吐息を吹き付ける。


やがて現在地である縦穴の上空、日光を遮る枝葉から葉音が生じる。

そして円卓を囲む者達をそよ風が撫でていく。



「これは…。」

「え…?風?」


周囲を壁に囲まれた深い縦穴の底。

地形的にあるはずのない風が吹いていた。


縦穴の上空から聞こえる葉音から、風は上空からの吹きおろしであることが分かる。

そこをただ通り過ぎるだけだったはずの風の通り道を無理矢理捻じ曲げたかのようだ。


ただ、方法は違っても、ここに風を吹かせるだけならばセロの風魔術にも同様のことが可能だ。

しかし、ワンダー・リンリンの快適魔術はまだ終わりではなかった。



「さぁ、赤毛のナナちゃんっ!お手を拝借っ!」

「むっ!?あたしの手がどうしたんだ!?」


ワンダー・リンリンはナナの手を握り、それを頭上に掲げる。


「ナナ、握り拳をつくってみて?」

「こうか?」


ナナは言われた通りに拳を握る。


「リンリン、これは生涯に悔いを残さなかった男が死ぬ時のポーズなんだぞ?あたしはまだ死にたくないぞ?」

「ポーズの意味とかはよくわからないけどっ!ナナは女の子なんだから大丈夫だよっ!」


「そうか!ならこれはただの天地を砕く剛拳ということだな!?」

「天地を砕くとかもさっぱり意味がわからないけどっ!みんなを快適にする優しい拳になるんだよっ!」


ワンダー・リンリンはナナの握り拳を優しく撫でる。


「ワン!ツー!スリー!!」


カウントの直後、ナナの握り拳が鈍い光を放っている。



「おおっ!?何だ!?あたしの手の中に何かあるぞ!?」

「さあ、ナナ。手を開けてみて?」


「待つんだ、リンリン!あたし必殺技の名前とか考えてないぞ!?ここは何か叫ぶべきじゃないのか!!?」


ナナの反応が予想外だったらしく、ワンダー・リンリンはかくんと体勢を崩す。


「それはナナの技じゃなくて私の快適芸なんだよっ!だから技名とかはいいのっ!」

「リンリンだってそよ風ブレスって叫んだんだからあたしも叫ぶんだ。」


そう言えばそうだった。確かに技名を叫んでいたワンダー・リンリンははっとした表情になっている。


「あたしの手から何か出て来たんだから半分はあたしの技なんだぞ?だからかっこよく叫ぶべきだ。」


「いいから手を開けなさ~~~いっ!!!」


ワンダー・リンリンは拳を掲げて無防備になっているナナの脇をくすぐる。


「フヒャ!!?」


奇声を上げたナナは思わず拳を開いていた。

ナナの手からキラキラと輝く粉塵のような物体が零れ、そよ風に舞い上げられる。


輝く粉塵は上空に滞空し、何もなかった頭上に突然星空が現れたかのようだ。


「何だ!?お昼なのにお星様がいっぱいになっているぞ!?」

「綺麗です…。」


ナナとロッテは幻想的な光景に心を奪われている。


「うん。素敵な演出だね。おや?それにこれは…?」


ラスタバン議長は何かに気付いたようだ。



「ナナ、この場所、今はどんな感じかなっ!?」


ワンダー・リンリンはナナに快適魔術を使用する前の問いかけを繰り返す。


「むん?」



いつの間にか外気温が下がり、周囲の湿度が快適な状態へと変化していた。


「なんか涼しくなってじめじめしなくなってるぞ?何でだ?」

「ふふんっ!どうだい?これがワンダー・リンリンの快適芸だよっ!!」




ナナは花畑を走り回り、掲げた手を握ったり放したりとせわしない。


「あたしの手から快適空間を作り出すキラキラが出て来たんだぞ!!これはあたしの新技に違いない!」

「違うっ!それは私の快適芸だよっ!?」


妙な勘違いをしたナナを正すべく、ワンダー・リンリンはナナを追いかける。


「よし!この技を七星快適拳と名付けてあたしの必殺技の一つにするぞ!!」

「よし!じゃないっ!私の快適芸を勝手にパクるなっ!!そして変な名前を付けるなっ!!」




騒ぎを放置して、魔女が立ち上がる。


「それじゃあ最後は私達ね。」


その背後に横になっていた灰色の牙狼も立ち上がり、魔女の隣へ。

そしてまずは灰色の牙狼が名乗りをあげた。


「アルカンシエル所属、牙狼族の戦士、フォボス・トヴァルである。」


最高幹部の一人であることは口にしない、短い名乗りだった。



「同じくアルカンシエル所属、森の魔女、エメラダ・グリンガルよ。よろしくね。」


フォボスの同様の短い名乗り。

だが、セロ達にとっては初めて耳にする魔女の名前だ。


セロはその名を脳裏に刻み付けた。



「せっかくだし、私も何か提供しないとね。」


パチン。


魔女が指を鳴らすと、円卓の周囲ににょきにょきと複数の樹木が生えてくる。


樹木は5メートル近くまで成長し、その頂点に近い位置に一つだけ果実を付ける。

その果実は淡い光を放ち、ワンダー・リンリンが手を付けなかった周囲の明るさが改善された。


「このくらいの光量であれば大丈夫よ。」


辺りを埋め尽くす花達を毒さない程度に調整された光源のようだ。



円卓の周りには花畑、頭上には星空。円卓上には資料の閲覧に十分な光量が確保された。

周囲の環境もワンダー・リンリンの謎の魔術によって調整され、過ごしやすい空間となっている。



「準備はこんな感じでいいかしら?」


魔女のその言葉を、堂々と否定する者がいた。


それは赤毛の少女、ナナ。

ナナは魔女の黒いローブをくいくいと引っ張り、その首を左右に振っている。


「マゾ、おまえは重要なことを一つ忘れているぞ?」

「あら?お嬢ちゃん、それは何かしら?と言いたいところだけど…。」


ナナの尻の下から樹木が生えてくる。


「むおっ!?なんだこのエロい木は!!?あたしの美ケツに魅了されたのか!!?」


樹木に尻から持ち上げられたナナは魔女と同じ目線の高さに移動していた。


「私は確かに名乗ったはずよ?その変な呼び方はやめてくれないかしら?私はマゾでもサドでもないわ。」


「?」


ナナはワンダー・リンリンと騒いでいたので魔女の名乗りを聞いていなかったのだ。



「私の名前はエメラダ。マゾではないわ。」


「メメララ?マゾというのは偽名だったのか!?」

「はぁ…、メメララでもなくてエメラダよ。まぁいいわ、それで、足りないものって何かしら?」


ナナは即答する。


「プリンだ。そうだな、ここは大森林の深淵部の魔女の庵だから…、深淵プリンとか、魔女プリンが必要だ。」


「はぁ?」


魔女はナナの突然の要望に声を上げていた。



「あっ、あの、すみません、エメラダさん。親分、いえ、ナナさんが言いたいのは、長丁場になるかもしれない交渉時に飲み物や軽食の供給をということで…。」


慌ててフォローを入れるロッテ。

緊張するロッテに対して、周囲の反応は好意的なものだった。



「そういえばそうね。私は紅茶でも頂きたいところだわ。」


バルディアが最初にその意見を肯定する。


「確かにそうだ。私も流石に飲まず食わずでは辛い。」


ラスタバン議長も同様だ。



「メメララは人形だから食べなくても平気なのか?」


ナナの魔眼による鑑定で、魔女のそれは鑑定を阻害されるでもなく樹木人形という物品として表示されている。


「あぁ、確かにそうね。自分自身がこの場にいないとはいえ、気が回らなくてごめんなさいね。」

「いない?メメララ人形はここにいるぞ?あたしにはちゃんと見えているんだぞ?」


ナナの身体を持ち上げていた樹木がするすると地中に戻り、ナナは地上に降ろされた。


「お嬢ちゃん、本物の私は人形ではなくて貴女と同じ、人間よ?この人形は遠方から操っているの。」

「つまり遠くにいる本物がメメララで人形の名前がマゾなのか?」


「メメララじゃなくてエメラダよ。それにマゾなんて呼ばないで。」

「ごめん、エメラダさん、ナナにはよく言って聞かせておくから…。」


このままだと魔女を怒らせてしまいそうだと判断したセロは会話に参入していた。


「お願いね、ボーヤ。」



そして魔女は交渉時の飲食についての対処を行う。


「こちらで用意することもできるけど面倒だわ。レギオン宰相殿?この交渉の発起人である王国側で用意してくれないかしら?」

「それは構わないが、配膳等を行う人員をこの場に追加しても構わないかね?」


エメラダはラスタバン議長とバルディアに視線を移す。



「むしろお願いしたいくらいです。」


バルディアはあっさりと了承した。



「騒がしくなるのは勘弁願いたいからね、交渉人の増員はなし、ということであればこちらも拒否する理由はないよ。」


ラスタバン議長も同じく了承の意を示す。



「シャル、段取りを頼めるか?」

「はい、小父様。」


ロッテはナナに協力してもらい、王城の会議室へと通じる転移枠を設置した。

飲食物の注文窓口だ。その向こうにはジルとエトワールが待機している。


魔女の庵側にも、配膳要員として王城の侍女が四名、議事録の作成要員として文官も二名。

計、六名が追加で配備された。


「ジル、あたしな、果実水とな、プリンが欲しいんだ。あとな、もう少ししたらお腹が減るからお肉も必要だぞ?」


ナナは早速注文を始めている。



「ほう。シャルロッテ嬢の魔術かい?素晴らしい恩恵を授かっているようだね?羨ましいよ。」


ラスタバン議長はロッテの枠を珍しそうに眺め、脇に待機している侍女に飲み物を注文する。


「私とヨーゼフ首長にはコーヒーを。ベアトリス陸将には果実水を頼むよ。」


「畏まりました。少々お待ち下さいませ。」


通信によって、参加者の詳細は知らされている。

面識はなくとも連邦評議会の議長がとのような立場にあるのかは理解しているようだ。


侍女達の対応にも緊張が見て取れた。



「これは素晴らしい魔術ですね。諜報や戦闘だけでなく、あらゆる業務に応用が利きそうです。」


バルディアもまた、ロッテの窓枠魔術を絶賛している。


「おっちゃんはな、この魔術をエロいことに使うんだ。あたしもこれがあると掛け算と割り算ができるようになるんだぞ?」

「そうなんですね。本当に幅広い用途のある恩恵です。王国は才能に乏しいと聞いておりましたがやはり例外と言うのは存在していますね。」


バルディアはナナの余計な発言にも真面目に対応する。

そしてロッテに捕獲されるナナを見送りながら飲み物を注文した。


「すみません。私とリンリンには紅茶をお願いできますか?」


「すぐにご用意いたします。」



最後に王国勢も飲み物を注文する。


レギオン宰相にはコーヒー。

オルガンは緑茶。

セロは果実水でロッテは紅茶を頼んだ。



やがて全員に飲み物が行き渡り、エメラダが停戦交渉の開始を宣言する。



「そろそろ始めましょうか。これからの大事なお話しをね。」

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